2016/02/03 のログ
リム > 目の前の相手が、応えながら瞼と手を意識して動かす。どうやら幸いにして問題はないようだ。

「な、ならよかった。
いい店だ、迷惑をかけてしまっては困るからな……な、何をしてる?!」

相手の腕が離れるどころか、逆に近づいてきたので顔色を変える。
もがき、抜け出そうと試みるが、やがて抵抗が弱まっていく。
そのまましっかりと腕を抱えられると、アーヴァインへ顔を向け、小声でささやく。

「し、知らないぞ?          ・・・・・・・
わたしは……わたしの名は、【ミリアム・マーザ・ドゥー】。
死を呼ぶ黒犬の名を冠する、ミレーの中でも冥府に片足を突っ込んでる一族の出身だ。死者を使役する力と引き換えに、生者に触れれば、意思とは関係なく体が精気をもとめる。忌々しいが制御は効かない。尊敬できる考えをもつ貴方を衰えさせたくはないから、手を放したのに」

非難するような口調。だが同時に、突き放されたくはないと訴えているようでもある。
衣類を介しているので、流石にあの冷気は反応しないようだ。
リムの腕が、いや、体全体が小刻みに震えている。じわ、と包帯がわずかに湿り気を帯びた。

「……欲を言えば、少しだけこうしていたい。
でも、今は駄目。貴方はまだ仕事中だろう。その気持ちだけで、十分だから。触れようとしてくれて、ありがとう」

アーヴァイン > 腕に触れると驚きの声が響いた。
幸い、各々宴に酔いしれているので二人に気付く客はいない。
抜けだそうとしても、今は敢えて解かずにそのままに。
勿論、その合間も弱ることはなく、大丈夫だろう?と言いたげな瞳が彼女を見つめる。

「…なるほど、それであの悪寒と冷たさがあったのか。しかし、ちゃんと知らなかったとすれば…いざリムを助けようとした時に俺も弱ってしまうぞ?」

納得しながらも、柔和な微笑みで冗談っぽく語っていく。
体の震えに気付くと、改めて彼女の顔を見つめた。
不安だろうか、それとも怯えか。
そんな印象を覚えつつも、反対の手を自身の胸元に添える。

「リムは、意味があってそれを手にしたものだと思うが…それに暗くなる必要はないと思う。それに…俺はリムにちゃんと触れたいと思った」

滅び星の煌き、消える星の様に一瞬だけ周りに赤い魔力の鱗粉のようなものが浮かぶ。
客に気付かれぬように力を抑え気味にすれば、光は消えて、代わりに瞳がルビーの様に赤く染まった。
大丈夫だからと一言添えて、改めて彼女の手に触れようとするだろう。
届けば彼の精気が吸っても増えていくのが伝わるだろうか?

「リムが安心するなら、幾らでも触れる。憶測だが…その力で人に触れるのを遠ざけたりしているのではと、心配になった。そんな怯えている同族がいるのに放置したら、ここの娘達に叱られてしまう」

それから丁度どこからか戻ってきた最年長のミレーの娘に手招きを。
カウンターと厨房を頼むと、二人を見やり何やら納得した様子で戻っていく。
これで自由だと、冗談ぽく彼女へ呟いてみせた。

リム > 「助けるなんて、そんな。
その考えだけでも、助かっているのに」

ふたたび彼の温かい手が触れると、びくりと肩を動かし、恐る恐る様子をうかがう。
生者のもつ精気が、渇いたのどを潤すように流れ込んでくる。それでいて、アーヴァインの生気に衰えが見られないことに驚愕した。
吸う傍から、どこからか溢れてくる?その源は一瞬だけ見えた、煌めく星のように赤い魔力が関係していると考えた。しかしそれ以上は分からない。かぶりを振って、思考の迷宮から抜け出す。
しばらくして、青白い肌がほのかに、ピンクに染まったように見えた。
それも次第に薄れていったが、彼女はすっかり落ち着いたようだ。

「貴方のようなひとと、同じ志をもてるなら、これほど嬉しいことはない。それが今の、私にとっての助け。
私も、臆することなく、力を振るおうと思う」

さっきとは違い、声も震えず、はっきりしている。
にもかかわらず、リムがもじもじしているのはまた別の理由だろう。

「それでなんだが、これからも、偶にでいいから、吸わせてもらえないだろうか。
変な話だけど、その、貴方の精気が、……心地よかったから」

アーヴァイン > 「一緒に仕事をする仲間なんだ、イザという時だってある」

周囲から取り込んだ魔力をそのまま体に押しとどめていけば、それは活力となって、体を循環する力となる。
超新星を起こす星が、自身の中央へ引き寄せる重力で滅びてしまう様に、大気中に漂う微量の魔力を取り込んでいた。
それこそ、ある意味無限ともいえよう力が流れ込むが、要らぬ争いの火種にならないよう、普段はずっと封じている。
こうして、誰かの為に使うときには、躊躇いなく開放できるように。
血色が良くなったように見える少女を見やれば、安堵の表情を浮かべる。

「嬉しい言葉だ、ありがとう…」

澄み切った宣言に微笑みで答えると、続く言葉。
しおらしい反応とともに語られる内容に、思わず頬が緩む。

「…そうか、それなら、お望みの時にいつでも声をかけてくれ。可愛らしい娘のお誘いは嬉しい、大歓迎だ」

予想外ではあったものの、それだけ頼られるのは嬉しく、微笑みも喜びに染まる。
内心、夜の誘い言葉のようにも聞こえたと思っていたが、そこまでは口にしなかった。
今度は一層恥じらってしまいそうだからだ。

リム > 「そういえば、そうかもしれない。
確かに少し、話すべきことを話さなかったのは軽率だった。反省してる」

くぅーんと犬がうなだれるように、あっさり認める。何せ大きな組織に所属するのはまだ経験がないのだ、まだ知らぬ同僚も多い、以心伝心で、とはいかないのが現実だろう。

「うん、そのときはお願い。
じゃ、もうちょっと休んだら、一旦ねぐらに戻って、荷物纏めてくる。最初は、何処に向かえばいいか、地図をもらえるとうれしい。
……あ、あと、他におススメのお酒を」

言葉には二重の意味があったのだが、そこまで飢えてはいないので、まだ軽い触れ合いでも大丈夫だろう。
グラスはすっかり空になっているが、まだまだ飲み足りなさそうだ。
メニューを眺め、酒の項目でううむ、ううむと唸っている──

アーヴァイン > 「そんなに気に病まなくていい、もう分かったんだ、問題ないさ」

先ほどの食事の時と言い、今といい、何処と無く犬っぽさを感じさせられる。
その血が混じっているのだろうなと思いつつ、気にしてないと笑みで語る。

「分かった。それじゃあ…麓にあった集落に行ってもらいたい。そこの奥にPMUの拠点がある、宿舎もあるから自由に使ってくれ。おすすめのか…それならいいのがある」

一度席を立つと、自室から地図を一つと組合員証を持ってくるのが見えるだろう。
先程話しに出たとおり、麓にある集落の辺りに印が入っていた。
組合員証を見せれば、そのまま入れるのと無くさないようにと言葉を添えて渡すと、再びカウンターへと移動し、おすすめの酒として果実酒をグラスに注いで彼女の元へ。
桃を主体とした果実酒に、柑橘系のすっきりとした後味の重なるそれは、大切な人から絶賛された一品。
自信いっぱいにそれを差し出していく。
今宵の邂逅は、もうしばらく続くのだろう。

ご案内:「酒場兼娼婦宿・Collar less」からリムさんが去りました。
ご案内:「酒場兼娼婦宿・Collar less」からアーヴァインさんが去りました。