2016/02/02 のログ
ご案内:「酒場兼娼婦宿・Collar less」にアーヴァインさんが現れました。
ご案内:「酒場兼娼婦宿・Collar less」にリムさんが現れました。
アーヴァイン > マスターのくせに最近顔を見なかったじゃないかと、常連客に文句を言われながら、今日は酒場の主を務めていた。
自分がいない間もしっかりと支えてくれたミレーの娘達にねぎらいの言葉と共に、お土産の品を幾つか渡して今に至る。
貧民地区という割には綺麗に整えられた酒場には、エプロン姿の少女達が給仕に行ったり来たりを繰り返す。
娼婦であり、ウェイトレスの彼女達は大体がミレー族の娘で、奴隷だったのを買い取った娘ばかりだ。
粗雑な雰囲気を感じる酒場の客達は、くだらない会話と共に酒と料理に舌鼓を打ち、無邪気にじゃれつくミレーの娘達をかわいがっていた。
やはりこの光景を見ると、とても心が安らぐ。
自然と優しい微笑みがこぼれ、グラスを磨く手が少し止まってしまう。
宿の外、門番のように直立不動の男二人も、いつになく賑やかなのを、ふっと小さく笑いながら仕事をこなす。
娼婦やらが歩きまわる夜の貧民地区、夜の楽しみに賑やかになる頃合いだった。

リム > 人ごみをすり抜けるようにして、するりと酒場に入ってくる、見慣れぬ服装の姿があった。
テーブルの一つ、比較的目立たない席に座り、近くを通ったウェイトレスに葡萄酒と、軽食を頼む。
耳や尻尾を隠そうともしない、可愛らしい後ろ姿を唖然と眺め、それから、若干の戸惑いを覚えつつ、包帯の奥から店内をざっと“視て”みた。
悪徳がはびこる貧民地区の中にあって、この建物だけが妙に明るい。
ミレー族にとってはまさに、大嵐の中の灯台、安全地帯とでもいうのだろうか。
(噂通りの店だな。娘たちの顔つきも険しくない。しかし、それにしても──)
疑問が、思わず口をついて出る。

「ミレーや、それを庇護する者には、世間の風は冷たい。れっきとした王国民ならば、目を背け生きていれば、もっと楽に居られただろうに。
なぜだ? ……なぜ、自分から厄介ごとに首を突っ込む、ここのあるじは」

その呟きは、カウンターにも聞こえるだろうか。

アーヴァイン > 門番の男達もミレーの娘にはストップを掛けることなく、そのまま中へと通した。
少なからず同族に乱暴するはずもないだろうという考えだからだろう。
新しい客の姿が見えると、みすぼらしい印象と共に、身を隠そうとする何かを感じさせられた。

「…いらっしゃいませ」

相変わらずに温和な笑みと共に挨拶をすると、ミレーの娘がオーダーを取り、彼の元へと足早に向かう。
ガサツな男が多いが、悪党と呼べる男達はいない。
ミレー族のセーフハウスのような酒場という印象は、間違っていないだろう。
酒と共にサンドイッチを拵えると、ウェイトレスに運ばせようとしたのだが、他の客にお呼ばれがかかる。

「行ってくれ、俺が運んでおく」

カウンターから抜けると、トレイに酒と食事を乗せて彼女の元へと運んでいく。
そうして聞こえた独り言に、思わずくすっと笑ってしまった。

「よく言われる。だが、その厄介事に首を突っ込まないと死んでしまう男も居るということだ」

苦笑いを浮かべながらも丁寧にサンドイッチの乗った皿をテーブルに置くと、ワイングラスをその隣へ。
コルクを抜いた葡萄酒をゆっくりと注ぐと、音を立てぬようにグラスの近くへと置いていく。

「ただ食事に来た…というようには見えないが、何か用があったかな?」

身を隠すような恰好は、彼からすると逃亡者のようにも見えた。
軽く首を傾けつつ、本日の来訪の理由を問いかける。

リム > くすくすと笑い声が聞こえ、それが自分の言葉がきっかけと分かると、びくりと身を震わせ、ばつが悪そうにそわそわとしだした。
まさか聞こえたとは思うまい、そしてよもや答えが返ってくるなど微塵にも考えたことはなかった。
それほど自然に漏れ出た言葉だったのだから。

「そ、そうか。すまない、聞こえてしまったようだな。少し奇妙に思っただけなんだ、気を悪くしないでくれ」

上ずった声で、どうにかこうにか、主人と思しき男に返事をした。思えば、人間とまともに会話するなど久しぶりの事である。
耳は出さないようにしているはずだが、慌てるあまり、どうも帽子が細かく上下している。
それを両手で抑えるように深くかぶり直すと、女はつーんとそっぽを向いてしまう。
だが、目の前に運ばれてきた食事の匂いに、哀しいかな、自然と鼻先が向いてしまうのだった。
とどめに、ぐぅ~っと大きな音がした。わが素晴らしき胃腸どのは、なかなか流れてこない夕食に機嫌を悪くしておいでのようだ。

「……いい匂いだな。まともな食事など、数日ぶりで」

グラスに注がれる音に耳をそばだて、サンドイッチに鼻をひくつかせ、スンスンと心地よさそうに言うその姿は、どうしたことか、どことなく犬っぽい。
やがてハッと我に返り、男を見上げると、サンドイッチに若干気をとられながら、ぽつりぽつりと話し出す。

「別に。ただ、噂に聞いたのだ。ミレー族にも分け隔てなく接する、傭兵組織があるというのを。
たしか、PMU…といったかな。すこし、興味があった。我々ミレーの魔力や様々な適性に目をつけ、ただ利用してるだけかとも思ってたんだけど」

アーヴァイン > 思った通りの返答をしただけだったのだが、彼女の反応は悪さをした子供のようで、一層笑みが深まる。

「大丈夫だ、機にしていない。奇妙に思われるのはいつものことでね?」

笑みのままに緩く頭を振って答えた。
視野に留まった帽子の僅かな動き、なんだろうかと目をやるとほんの少しだけ上下しているように見える。
抑えこみ、そっぽを向かれると困った様に笑いつつも配膳していく。

「ここらでは一番の自信がある、気にせず楽しんでくれ」

胃の音に犬を思わせる素振り、その手の血が交じるミレーらしい動きに見えた。
どうぞと食事を勧めれば、立ち去ろうとしたところで彼女の視線に足を止める。

「あぁ、PMUか。ここはそこの発端となった酒場なんだ。酒場の儲けだけではミレー族を助けきれない。安住の地も多く必要だし、いつかは胸を張って生きれる地位も必要になる」

そんな事を語りながら、男は向かいの席の椅子を引いて、腰を下ろした。
冒険者のような装いの胸元には、壊れた首輪と、連なって千切れた鎖のような紋様が入っているのが見えるだろう。

「俺はアーヴァイン、そこのPMUのリーダーで、この酒場の店主だ」

よろしくと微笑みながら、すんなりと正体を明かした。

リム > たしかに、サンドイッチの切り口から瑞々しい緑や赤が見える。はさまれた肉も香ばしくて美味しそうだ。
さっそく手でつかもうとしたが、急に手を止め、胸の前で両手を組んで俯く。
自らの祭神、河岸の女神──この王国では少々異端かもしれないが──に短く、食前の祈りをささげてから、
女は細い指先でパンにかぶりつき、味わうようにゆっくりと咀嚼しはじめた。
ちょうど対面に男が座ったおかげで、ぱくつくその視線が胸元の紋章に留まる。壊れた首輪に、ちぎれた鎖のマーク。
それらが指し示す意味を考え、ごくんと口の中のものを飲みこむと、深く息を吸い込んだ。

「アーヴァイン……ああ、貴方が。名前は遠く街道沿いまで聞こえている。
それじゃ、本当に…… 本気で、ミレー族を助けるつもりなのだな」

震える声で、その名を繰り返す。

「もし──」

許されるならば自分も加えてほしい、などと言いかけて、口ごもってしまう。
仮にも初対面だ、いきなりそう言われても困るのではないだろうか。迷った末、しかしそれでも思いを口にした。

「──もし、迷惑でなければ。
私も加えていただけないだろうか、貴方方のPMUに。
野晒の亡骸を弔う、流れの巫術師をやっていた。短いが墓守りの経験もある。
これらが役にたつかわからないが、この戦乱の世の中、同胞たちのために、やれることをやりたい。
どうか──」

そう言って、深く頭を下げた。

アーヴァイン > 早速食べようとした手が留まってしまう。
何か体に合わないものが入っていただろうかと、少々心配になりながら様子をうかがうも、お祈りを忘れていたらしい。
安堵しつつも、サンドイッチを食べ始めた彼女を見つつ腰を下ろす。
わざわざ農業をするミレー族から仕入れて、彼らの収入源にしつつも、新鮮な素材を手に入れて作った料理だ。
サンドイッチだけでも、同じ値段のものとはだいぶ違うだろう。
傍らに置かれた葡萄酒もそうだ、山奥にひっそりと隠れてたミレー族の安全な収入源にしつつも、上質の品を提供している。

「…何だかそう言われると気恥ずかしいな。 勿論だ、九頭竜山脈の麓は行ったことがあるか? あそこにミレー族が自由にできる集落も作ってある。王国の人間も手を出せない、安全地帯だ」

そんな噂になっていたとまでは知る由もなかったが、こうして耳にすると少々照れくさそうに視線を逸らした。
もし――と続いた言葉に、視線を戻しながら、彼女の言葉に耳を傾ける。
何も言わず、全てを聞き終えると、下げられた頭。
その視野へ滑りこませるように手を差し出す。

「迷惑だなんて何一つ無い、加わってくれることを歓迎する。俺は君たちの為に、PMUを立ち上げたんだ」

握手を求める手を伸ばしながら、満面の笑みで彼女を歓迎した。
恰好を見るに、ここまで来るのですらいろんな苦労があったのだろうと思えば、一層断るなんて答えはない。

「君の名前を教えてくれるか? 今日、新しく仲間になったんだ。ちゃんと名前で呼びたい」

ずっと君呼びでは締りがないと、笑みのままに彼女の名を問うた。

リム > 「うん、ここに来る途中で寄ってみた。思いのほかにぎわっていたから面食らった覚えがある。
でも、貴方に会って、理解した。あそこは数少ない安息地だろうと」

グラスを眺め、ゆっくりと傾けて鼻いっぱいに芳香をかぐと、少しずつ舌先で味わう。

「そうだ、名乗るのを忘れていた。
リム。そう呼んでほしい。フルネームは不吉を呼ぶから、言わないことにしてる」

笑顔のアーヴィンがすっと差し出した手に、ちょっと面食らう。
が、それが親愛のサインだとわかるとぎこちなく手を伸ばし、握り返そうとする。
しっかり握手を交わせば、そこで初めて、柔らかな笑みがこぼれるだろうか。だがリムの指先は生者のそれとは思えないほど冷たく、さらに彼女の後ろから昏い冷気が漂い始め、アーヴァインの腕から熱を奪おうと広がりかけたのを感じると、たちまち青い顔で慌てふためき、さっと手を引っ込めた。
同時に、不穏な気配も幻のように掻き消える。

「す、すまない、他者とじかに触れると少々不都合なので。
その、……疲れはないか?」

おどおどと、遠慮がちに聞く。触れ合わないよう気をつけていたのだが、うっかりしてしまった。影響がないといいのだが。

アーヴァイン > 「ちょうどあそこなら山越えの前か後に立ち寄れるからな、仕事も流通も多い」

利便性や立地条件、そんなところも考えてのことと答えていく。
彼女の名を耳にしながらその掌を握ると、解れた笑みに心の中が満たされる心地だ。
こうした瞬間に、自分が続けてきたことの意義を感じれると。
だが、その意識を遮るように掌に違和感を感じた。
冷たい、冷え性というものより、まるで命がないかのように冷えている。
訝しげに思うのと同時に腕に広がる冷気、そして寒さに似た気配。
少しだけ顔に驚きが浮かぶと、少女の手が離れていった。
心配する声を耳にし、何度か瞬きしてから掌を握り、開いてと繰り返す。

「…特に異常はなさそうだ。今のは…何か体質的なものか?」

僅かに体力を奪われたような疲労感を感じたが、それも強いものではなかった。
青ざめた表情が見えたのもあり、自身のことより彼女のほうが心配になっていく。
直に触れなければということであれば…と、改めて手を伸ばし、代わりに服の袖の上からその腕を緩やかに包もうとする。

「ここなら…問題無いだろう?」

触れることが怖くなってしまったら、それこそ彼女が不幸だと思う。
だから、怖がりもしなければ、不気味に思うことないと、行動で示そうとしていく。