2016/10/04 のログ
テイア > 「…食べてもあまり美味くはないと思うがな。…ふむ……。」

血も油も残っていない刀身を一瞥すると透明なそれを腰にさげた鞘へと戻していく。
軽く肩をすくめて返すと、続いて出た名に納得したような声が漏れる。
助けに入ったのも、人間の捕虜を探しているようなことを口走っていたからで、それは女がこの砦に忍び込んだ目的と共通するかもしれないと考えたからだ。

「そなたと同じ目的であればいいのだがな。私もオーギュストを探しに来た。そなたのように正面からは入ってこなかったが。」

黒い魔力…魔族に近しい闇の属性のそれに、完全には警戒を解かないまま自身の目的を告げる。
砦の魔族と派手にやりあっていたから、魔族側の者である可能性は低いとみるが、魔族も一枚岩ではない。
対魔族戦線を支える将ともなれば、――というよりも探し人の性質から、恨みはさぞ買っているだろうから捕らえられたとなれば、奪い合いになる事も考えられるが…。

ヴィクトール > 言葉通りに受け止めた返答に、可笑しそうにクツクツと笑うと、頭を振って否定する。

「…ちげぇよ、犯しちまうぜってこった」

まるでこれから犯すとでもいっているかのような口ぶりだが、それなら刃は収めないだろう。
それを冗談と取るか本気と取るかは彼女次第だが、同じく将軍を探しに来たと言われれば、ヒュゥっと口笛を鳴らしながら辺りを見渡す。
音に気づいてやってくるものもなく、どうやら一通りの常駐兵は叩き伏せたらしい。

「俺と同じか、兄貴が心配する必要ねぇじゃねぇか。……あぁ、俺はヴィクトールだ。九頭竜山脈の麓に集落があるだろ、そこにいるチェーンブレイカーってのの、遊撃部隊の隊長だ」

知ってるか? と言いたげに彼女を覗き込みつつにやりと笑う。
将軍を探しに来たとなれば、恐らく王国軍かその絡みの者だろうと考え、素性をすんなりと明かした。

テイア > 「食いつかれる前に噛み付いてやるさ。」

だから美味しい思いなんてできないぞ?と先ほどの言葉の意味を伝える。食っちまうとの言葉をそのまま受け取るほど、初心ではないと微かに笑い。
鳴らした口笛に、女も少し視線を動かして周囲に気を配るが動く気配はない。

「兄貴?なるほど、チェーンブレイカーの者か。遊撃部隊の隊長となれば、あの荒々しさも納得がいく。ドラゴンフィートには、いろいろと世話になっている。私は、王国聖騎士団所属、辺境守護部隊配属のテイアだ。…騎士団にも捜索隊の編成をさせているが、魔族領に連れ去られていた場合流石に手が出せないのでね、単身侵入を試みた次第だ。」

にやりと笑みを浮かべる顔をみて、素性を明かされると納得したような顔になる。
改めて己も素性を明かし、ここに侵入した理由を説明する。

ヴィクトール > 「おぉ、そいつは怖ぇや」

脅し言葉に怖いと宣うわりには笑みは消えない、そういう女ほど喘がせてやりたくなるところだが、組織とつながりがあると知れば、容易には手が出しづらくなり、少しだけ残念そうな笑みを見せた。

「あぁ、アーヴァインって組合長だよ。兄貴が万が一くたばられたら困るっていって、行かされたってわけだ。 テイアか、騎士団ってこたぁ、王国軍とはまた別か。あのおっさん顔広ぇな」

こんな美女にも気にかけてもらえて、いい御身分だと内心冗談交じりに毒づきながらも辺りを見渡す。
死体が重なったところへと歩いていくと、それを蹴り転がし、埋もれていた地下へのハッチを見つける。取っ手を掴み、上へ引っ張って開くと、地下へ通じる階段が見えるが…明らかな腐臭がこみ上げてくる。

「ヒデェ扱いだな……まぁ死んでねぇか確かめぇと行けねぇからな…。ぁ、アンタはここで待ってるか?」

恐らく地下の奥底で死体でも放置されているのだろう、鼻にかかる腐敗臭はかなり強く、奥では蝿の飛び回る音も聞こえる。
そんなところへこんな美女が入れるものやらと思えば、階段を下りかけたところで振り返り、確かめる。

テイア > 「去勢されたくなければ、手を出さない方がいいだろうな」

怖いと言いつつも笑みは消えず、おどける言葉に女も冗談めかして肩を竦める。

「…そなた、アーヴァインの弟か。あまり似ていないな。そうだな、国を守る点では目的は同じだが、組織としては少し系統が違うと言えるか。軍の中にも騎士団と名のつくものもあるだろうが…。まあ、個人的にも世話になったことがあるからな。」

以前行った作戦に第七師団に協力を仰ぎ、その活躍のおかげで成功を得ることができた。
その第七師団をまとめる彼を失うのは国としてもかなりの痛手といえる。
貴族などは、傍若無人な彼を疎んじる者も多いようだが魔族の驚異から国を守るためには必要な人材だ。
ドラゴンフィートの代表である男の弟と聞けば少々意外そうな声をあげて、まじまじと改めて男をみやる。柔和な物腰のアーヴァインとは対照的に、抜き身の刃のような男の雰囲気。似ていない、とはっきりと言葉に出して。
男が死体のそばへと歩き、それらをどけると地下へのハッチが見つかる。
隠形の術を使って忍び込み、砦内を探していたが見つからなかった地下への入り口。
がこん、とそれが開かれれば、明らかな腐臭が漂ってくる。

「…気遣いは無用だ。死んでいるなら死んでいるで確認し、遺骸を持ち帰ってやらねばならんからな」

濃い腐敗臭に表情も変えずに、男に続いて階段へと近づく。
戦場での死体の処理など若い時、騎士見習いの時には数多く行ってきた。ただ、ここまで密閉された空間というのは殆どなかったが。
階段を降りるにつれ、濃くなっていくその臭いにさすがに微かに眉根に皺が刻まれていく。

ヴィクトール > 「そういうこと言われると、余計に手ぇ出したくなるんだけどよ ―――ん、なんだ、兄貴の女か? あぁ、腹違いでよ、兄貴はミレー族について調べてた学者が母親で、俺は場末の娼婦やってたのが母親だ。兄貴は母似で、俺は親父似らしい」

兄の知り合いとなると余計に手を出しづらい、これは駄目だと思えば、残念そうに笑いながらも生い立ちを語る。
何処に言っても弟だと紹介されては場が凍りつき、弟だと名乗れば、兄が言うまで信じてもらえなかったりなど、いつものことで、彼女の視線に変わらぬ笑みを見せる。

「そうか? まぁ死んでたら…どうすっか、兄貴に説明しづれぇな」

見た目のわりには心身とも共、丈夫なのかもしれないと思えば、カツカツと階段を降りていく。
強まる腐臭と、蝿の飛び交う羽音が一層強くなり、最下層に降りると、4つの檻があった。
何処を覗いても大分日の経過した死骸しかなく、地面を流れる溶けた何かがニチャリと音を立てた。
白い虫が蠢くさまも多く、一般人が見たら卒倒しかねないような地獄絵図である。

「ひでぇな……まぁ、全部腐りきってっから、おっさんはここにいねぇな」

流石に腐った死体の間に潜ることはないだろうと思えば、ざっと見渡すも、他に気になるようなところはない、無駄骨かと小さくため息を零す。

テイア > 「子供か、そなたは。………何故そういう発想になる。なるほどな。ふむ、お父上はなかなかの男前だったようだな。」

やるなと言われるとやりたくなる、という子供的な思考の言葉に苦笑して、次いで放たれた言葉に暫しの沈黙のあと、ため息を零して。
以前、アーヴァインが聞かせてくれた父母の話を思い出しながら、もう一度まじまじとその顔を見つめるとなるほど、と頷いて。

「…死んでいたら、遺骸を持ち帰り丁重に葬り後任人事を決めなくてはならないな。」

どうするか、との言葉に冷静に死後の対応について言葉にする。それは冷たく聞こえるかもしれず。
人など、小さな石でも簡単に死んでしまう生き物だ。けれど――
ただ、あの男がそうそう簡単に死ぬとは思えずにいるのも事実で。
吐き気を催す腐敗臭と蠅の飛び回る不快な音、どの檻にもおおよそ人間らしさを失った物体が横たわっている。
溶けて流れ出るそれらは地面にこびりつきながら流れている。

「随分と放置されていたようだな。ああ、どうやらここにはいなさそうだ。」

こん、と檻の鉄棒を足先で蹴りその鉄の腐食具合を見る。
管理も殆どされていないような場所である。探し人の死体がなかったのは僥倖だろうと、どこかほっとしたような言葉を漏らして。

ヴィクトール > 「アンタみたいに美人だとなおさらな。 冗談だ、あのクソ真面目な兄貴が火遊びする質じゃねぇしな」

人は禁止されたことに異様に興味をもつというが、あまり歯止めを知らない男からすれば、余計に手を出したくなるもの。
まじまじとこちらを見つめる視線に、笑みを見せるものの、兄とは違ってどうにもニヤリとした、悪ガキのような、何か悪巧みしてそうな、そんな笑みになってしまう。

「そらそうだろうけどよ? 何かおっさんの女みたいな美女がいるんだろ、そいつが泣くのはみたくねぇって理由もあって行かせたみてぇでよ。まぁ……泣かれたら兄貴に任せりゃいいな」

自分が考えてもどうにもならないと、ない頭を絞ってそれなりな答えを弾き出す。
薄っすらと、こちらもあの男が早々に死ぬとは思えず、何かに噛み付いてでも生きてそうだとは思う。
完全に放置された牢屋のような場所は、彼女の言うとおり作の鉄棒が腐食しているのもあって、機能していない。
鼻の曲がりそうな匂いに顔を顰めつつも、ハッチの方を指差す。

「安心すんのはいいけどよ、外出ようぜ? 匂いがこびりついちまいそうだ」

顔には出さないが、彼女同様に死を確認できなかっただけ良かったと思うところはあった。
兄の考えている今後のことからすれば、死なれている方が楽なのかもしれないが、兄もそれは望まいだろうと思えば、小さく溜息を零した。
用が済めばさっさと出ようと促すと、階段を登っていく。

テイア > 「褒め言葉として受け取っておこう。…確かに、そういう質ではなさそうだな。そういった面ではそなたのほうが器用だと以前言っていた。」

悪びれる様子もなく言い切るのに、全くともう一度ため息を零す。
以前アーヴァインと話した時、言っていた弟というのは彼のことだったのか、と思い出しながら悪ガキのような笑みを見つめる。

「…彼も女性関係は広いらしいからな、どの女性のことかは分からないが、死ねば悲しむ者もいるだろうな。その者の為にも弔うことは必要だろう。」

思い浮かぶのは、幼い頃からしっている第七師団の副官を勤めている女性のことだが、どうなのだろう。
女性関係の噂は多い男だから、どの女性のことをさしているのかよくわからない。
とはいえ、様々な人々が彼のために動いている音が聞こえてくるからその者たちに見つけられるか、もしくは飄々と一人で戻ってくる気さえしてしまうのは、彼の人柄故だろう。

「そうだな。少しいるだけで服や髪にも臭いがしみついてしまうな。」

促され、階段を登っていく。動き出す前に、朽ちた遺体に頭を下げる。連れ帰ってやることができないことを詫びるように。
地上へと出れば、ハッチから漏れ出る腐臭はあるが地下よりも澄んだ空気に思わず大きく息を吸い込んで。

「さて、次は砦の外へと脱出しなければならないな」

ヴィクトール > 「ありがとよ。 組合長なんてやってんだからよ、少しぐらい遊べばいいのによぉ。 ははっ、兄貴からすりゃ他の男は大体そうだろうさ」

そうすれば少しぐらい肩の荷が下りて気楽になるというものなのにと思いながら、階段を登っていく。
彼女の言葉から、ある意味兄と同じ真面目なタイプだと分かると、可笑しそうに笑いながら外へと出た。

「他のが寄ってくる前に、さっきぶち開けた穴から逃げりゃいい。後は砦近くまでいきゃ、うちの仲間が迎えに来るから、それで帰れるぜ?」

彼女が外に出るのを確かめてから、ポケットから大きめのマッチ箱を取り出す。
柄が長いマッチに火を灯すと階段の下へと放り込んでいく。
中に溜まっていた腐敗によるガスに火が燃え移れば、釜を開けたかのように一瞬だけ炎が吹き出し、後は焼けていく嫌な匂いが溢れていた。

「火葬代わりだ、さていくか」

こっちだと手招きしながら進んでいくと、死骸の転がる帰り道を進む。
正面の門にぽっかりと空いた穴をくぐれば、懐から取り出した信号銃を取り出し、空へと撃ち放つ。
オレンジ色の光が空に上ると、同じ色の弾が遠くから打ち上げられるのが見えるだろう。
あっちだと指差しながら、悠然と歩いていき……迎えに来た仲間たちが、二人を送っていくだろう。

テイア > 「なかなか忙しそうにしているから、時間をとるのも難しいのかもしれないな。…女のほうから寄ってきそうな感じはするがな。」

忙しそうに飛び回っている彼の兄のことを思えば、人々のために自分のことは後回しになっているのだろうと苦笑を零して。
以前聞いた彼の抱えている思い、悩みがある以上は難しいのかもしれないなと呟いて。階段を上りながら、可笑しそうに笑われるのに少し首をかしげて。

「穴なんてあけて正面から怒鳴り込むとは…なんとまあ豪快なことだな。」

それではあれだけ、魔族側の兵が群がるわけだと少々呆れたように男をみやって。
取り出されたマッチに火がともされ、地下へと続く穴へと放り込まれる。
一気にガスに引火した炎が吹き出し髪を揺らす。
腐敗した肉が焼ける異臭に目が染みる。

「ああ、では世話になろう。」

手招きされて男のあとをついていく。
信号弾で合図を交わし、迎えに来たチェーンブレイカーに送られ帰路につく。

ご案内:「タナール砦にほど近い魔族の砦」からヴィクトールさんが去りました。
ご案内:「タナール砦にほど近い魔族の砦」からテイアさんが去りました。