2021/01/10 のログ
■リシェラ > 此処に来る理由は只一つ。
永い眠りから目覚めてから、気が向いた時にこうして遠くから故郷を眺めに来るのだ。
人間が占領した時はこうして誰も居ない合間を見て。
魔族が占領した時は気兼ね無く眺める事が出来る。
既に自分がどんな立場に居たのか、其れを知る者は殆ど居ないのだろうから。
「……今宵も良い月夜だ。
此れで無意味な諍いも無ければ、誰とも肩を並べ、此の一時を楽しむ事も出来るのだろうな」
呟きと共に顔を上げて夜空を見上げる。
其の声から人影が少女で在る事が分かるだろう。
月明かりに照らされる其の顔は、今だフードの陰に掛かり確りと見る事は出来ないが。
ご案内:「タナール砦」にクレス・ローベルクさんが現れました。
■クレス・ローベルク > 屋上と屋内を繋ぐ木製のハッチを開けて、屋上に男が一人現れた。
この戦場に似つかわしくない、青い闘牛士服を着た男だ。
金色の飾り紐や刺繍が、夜の中で良く目立つ。
そんな男は、ハッチから立ち上がると、少女の姿を認めた様で。
「……見張りを初めて五秒で侵入者発見したんだけど」
と、何やらすごく迷惑そうな表情をして。
それから、そうするのが当然とばかりに、剣の柄に手をやる――とはいえ、その目には今の所は敵意はない。
敵意などなくとも、この場所で侵入者を見つけたならばそうするべきという、手順に沿った所作だ。
「やあ、君。ちょっとお話を聞かせてくれるかな?
見たところ、人じゃあないようだけど……君みたいな可愛い女の子とは、できれば戦いたくないからさ」
軟派な感じで声をかけてはくるが、しかしその目は隙なく彼女を観察している。
彼の実家の教育のお陰で、既に彼女が人外でないことは見抜いているが故に、油断はない。
むしろ、どちらかというと、
「(頼むから、此処でバトルとかやめてくれよ……!
魔族相手に命の補償無しで1on1とか、絶対やりたくないし!)」
と、嫌な汗を内心掻いているぐらいである。
■リシェラ > 「もう少し、此の緩やかな時を過ごして居たかったのだがな」
誰にとも無くそんな呟きを零したのは、屋内から此の屋上へと続くハッチが開き一人の男性が現れたからだ。
ゆっくりとした動作で、其の現れた男性の姿を確かめる様に振り向く。
其の動きに合わせフワリと身に纏うマントが僅かに靡く。
油断は出来ないだろう。
自分が侵入者として見るのは当然の事、其れは解る。
だが、理由は其れではない。
今の自分の姿はフードを被りマントで身体を覆っている、種族も性別も一見では判断出来無い筈なのだ。
其れなのに、自分を人でない上に性別さえ判断したのだから。
「其方は人間で在り乍、只見るだけで全てを理解出来るのか。
此れは困った、そんな風に構えられては予も油断為らぬ訳で在るのだが…」
敵意は感じられないが、イコール害を与えに来ないとは限らない。
こうした手前の中には、在るべき気配を感じさせない者も居るからだ。
故に、構えを取る事はしないが油断も出来ない。
目深に被られたフードの奥から、血の様な紅い輝きが男性を見据えている。
其れは、其の相手を如何判断し様かと確かめている様でも在って。
■クレス・ローベルク > 「そういうセンチなのは、自分とこの軍が此処を占領した時にやってくれないかなあ……」
がっくり肩を落とす男。
実際、彼の言葉は半分はカマかけである。
勿論、何となく"人外っぽさ"はあったし、マントで覆っているとはいえ、体の細さなどから女性っぽいとは思っていた。
そこに、タナール砦の不法侵入という状況証拠と併せれば、まずそうだろうと思っていたが、できれば外れていてほしかった。
しかし、実際に彼女が魔族である以上、弱みを見せる訳にもいかない。
「俺の家はまあ、そういうのを見つけるのを本業にしてるからね。
多少身体が隠れてても、警戒さえしてれば見つけることは出来るさ」
とせいぜいハッタリをかましつつ、こちらもどう反応しようかと判断に困っている。
見る限り、敵意はないのは幸いだが。
しかし、見る限りというのが絶対の保障にならないのも、重々理解している。
かといって、このままの緊張状態が続けば、なし崩し的に戦闘に入る可能性もある――自分と彼女が望まずとも、屋上に他の兵士が入ってくる可能性だってあるのだ。
「……しょうがない、か」
そう言うと、男は剣を引き抜き――その剣を砦の外に放り投げた。
回転しながら落ちていくそれは、当然ながら最早回収不可能だ。
男は、その上で手を広げる。敵意はない、と言ったジェスチャーで。
「――ま、最初に剣をチラつかせたのはこっちだしね。
敵意があっても、まあ逃げるぐらいなら何とかなるだろうし。
レディファースト的な譲歩って事で」
と、肩を竦める男。
勿論、気構えを解いた訳ではないが、しかしこちらが攻撃手段を失った以上、彼女に敵意がないならば問題はない。
此処までしなくても剣を置くだけで良かったかもしれないが――しかし、意表をついて相手を驚かせるというのも、交渉の方法だ。
「(驚いてくれれば、なし崩し的に交渉に入るって事も出来るしね。……あの剣、高かったんだけどなあ)」
■リシェラ > 「心は常に移ろうもの、其の時、其の瞬間、そうで在るとは限らない。
予にとっては、今がそうしたい時で在っただけ。
其れは何者にも縛られるものではないだろう。
其方とて、そう云う思いを抱く時は在る筈だ、違うかな?」
肩を落とし言葉を紡いだ男性にそう答えつつも。
両手を広げ、そうした問い掛けで切り返すのだ。
そして…
「そう不安がらなくて良い。
もう満足をした、其方さえ無駄に騒がなければ何事も起こらず終わる。
逆に其方が相応の対応をする為らば、予も其れに応じた対応をしなければ為らないだろう。
……如何するかね?」
と、そう言葉を締め括った処で、男性が動く。
剣を引き抜けば、其れを其の侭砦の外へと放り投げたのだ。
男性の次なる言葉が真に敵意の無い事を伝えるに十分な行動とも云えるかもしれない。
尤も、相手が本当は術者で在る可能性も在るだが、其処迄考え始めたら限が無いものだろう。
只、此方に驚いた様子が無いのだけは予想に反していたのかもしれないが。
「成る程、其方の考え、確信には到らないが理解した。
然し此処迄する必要は無かったのではないかな?
剣を鞘に収めた侭、床に置く事も出来ただろうに。
態々捨てる様な真似をするとは…」
敵意を向けなければ、此方も敵意は抱かない事は先に伝えた。
ユラリと右手を緩やかな動きで振るえば、カランッと乾いた音が足元から起こる。
其方へと視線を向けた為らば、足元の影に捨てた筈の剣が落ちているのが見えるだろう。
■クレス・ローベルク > 剣を手放した以上、こちらの主な武器は言葉である。
幸い、あちらの言葉は真だった様で、『武器を手放したな?死ね!』みたいな事にはなっていない。
相手の口振りは呆れてるのか、興味を持っているのかは解らないが、少なくとも敵意があるモノではない。
「例え本当に敵意がなくても、こっちの動きを勘違いされて"何か企んでる"と取られる事もあるからね……。
交渉のテーブルにつくのも大変なんだよ……っと?」
そこで、足元にからんと音が鳴り、そちらを見る。
剣が落ちている――男の剣だ。
拾ってみると、落ちた際の多少の刃こぼれはあるが、その他は問題なさそうで。
「これはご丁寧に。……わざわざ武器を返してくれる襲撃者ってのも居ないだろうし、取り敢えず信じても良さそうだな」
そう言うと、今度は剣を鞘に収める。
剣を地面に置いたりはしないが、その代わりに手近な壁によりかかる。
身体の力を抜いて腕を組んで、
「それにしても、幾らそうしたかったって言っても、まさかマジで気紛れで此処に来たって訳でも無いだろ。
ただ、景色のいい所に行きたいなら魔族の国にも塔ぐらいはあるだろうし……何か此処じゃないと駄目な理由とか、あるの?」
と聞いてみる。
お互いの敵意が無い事が確認できた以上、お互い見なかった事にするのが筋なのだろうが、一人で見張りをするのも退屈である。
魔族の見張りに魔族を付き合わせるのもどうかと思うが、ちょっと雑談に付き合って貰うことにした。
■リシェラ > 「理解はしている。
相手が解っている為らば、互いの立場も理解するもの。
人間と、人間で無い者が同じテーブルに付くのは容易で無いともな。
だからこそ、そうで在る事が理解出来れば、其の逆と為る事も然り。
そうだろう?」
目の前で語る男性の言葉と、捨てた剣を返した事での反応を確かめ。
今の処は互いに信じても良さそうである事への同意を頷き示す。
壁に身を預け寛ぐ姿、其れを見詰め乍。
次の言葉にフッと小さく笑うかの様に吐息を吐く。
「本当に其れだけだ。
予には、あの地に戻る資格は無い。
遥か遠き記憶へと思いを馳せ乍、彼の地をこうして眺めるのみ。
今の予に出来るのは、其の程度のものなのだ。
……其れを知る者は、既に居ないだろうがな」
其の態度から、今此処で起こった事は無かった事とするものだろう。
そう理解したからこそか、元々隠す様な事が不要なのか。
細かい事迄は伝えずとも、何か在るからこそ、と理解出来る程度の言葉でそう伝えて。
■クレス・ローベルク > 「人間と人間でもままある事だけどね。根本的には、信頼するのは難しいって事なんだろうけど。
とはいえ、"信頼できる魔族"が下手な人間より信頼できるのは確かだ」
彼女の言う言葉に、こちらも頷く。
彼女の言い回しは難しいが、要は"信頼するのが難しいからこそ、一度信頼できたならより強固な縁になる"みたいな事なのだろう。
男もそれなりに人脈はある方だが、魔族となると中々居ない。
そういう点では、貴重な出会いと言えた。
そして、彼女が暈した感じで言うのを聞けば、
「ふうん。良く解らないけれど……まあ、その辺りは触られたくないよね。
俺としちゃ、君みたいな子と知り合えただけで十分……あ、いや」
と、そこで気づいた様に、顔を上げる。
そういやそうだったわ、と割と深刻なことに気づいた様子で、
「考えてみれば、"知り合って"ないな。俺君の顔も名前も知らないし。
どうせこの後お互い別れるとは言え、流石に名前ぐらいは交換しない?」
と言って、彼女の前に立って、握手を求めるように手を差し伸べる。
「俺は、クレス・ローベルク。
ダイラスの剣闘士兼、冒険者だ」
■リシェラ > 「確かにそうで在る様だ。
此の身、此の地に委ねて其れを理解出来た。
信頼と云うものが如何に複雑で難儀なもので在るかがな」
今現在は此方側、人間の国に身を寄せている。
彼の言葉に又同意を示し乍も、そうである事を仄めかす言葉で返す。
と、何かを思い出した様に手を差し伸べ名乗りを挙げる男性。
少しばかりの間を置く様に思案をすれば。
両手を頭を覆うフードへと伸ばし、スルリと其れを取る。
流れる様な艶やかな金色の髪に、男性を見詰める血の様な紅い瞳、其れが彼にも見えるだろう。
そして、其の差し伸べられた手を握る。
「予の名はリシェラ。
永き時と共に在る、只の吸血鬼と呼ばれる存在だ。
冒険者のクレスか、覚えておこう。
為れば、又王都で会う機会も在ろう。
再び語らえる其の時を、楽しみにしていようか」
握っていた手を、言葉と共に離せば。
数歩下がりマントを左手に大きく翻す。
其のマントが戻った時、少女の姿は蝙蝠へと変化しており。
今だ月明かりに照らす夜空へと、飛び去って行くのであった。
■クレス・ローベルク > 「信頼って奴は難しいよねえ。
友達が敵に回ることもあれば、敵と友だちになることもある。
君とも、そうでありたいと願うよ」
その辺りは、ダイラスという混沌の街に住まう男だからこそ、思うこともある。
闘技場で魔族と戦ったりもするし、道端で人間と戦うこともある。
誰が敵で誰が味方か。誰を信頼するかは、そう簡単には決まらない。
「吸血鬼のリシェラちゃん、ね。
俺としては、剣闘士のクレスで覚えてもらいたいところだけど――まあ、覚えてもらえるだけで光栄だ。
また会おう。今度は、もうちょっと面倒くさくない時に会いたいもんだね」
軽く握って上下に振って。
そして、彼女がコウモリとなって飛び去るのも全く動じずに見送って。
「さーて、それじゃ見張り、がんばりますかあ」
と欠伸をかきながら、また壁によりかかるのだった。
ご案内:「タナール砦」からクレス・ローベルクさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からリシェラさんが去りました。