2019/05/01 のログ
ゼロ > 瞬間移動、などという技などはなく、そういった魔法を使えるような魔力を持たない。
 少年は、己の魔力を全て身体強化に使われており、魔法を使うことができないから、だ。
 なので、基本的に移動はその両の足であり、強化された足は全身鎧を身にまとった上で、人並み以上の……否人外スレスレの敏捷を見せる。
 
 とはいえ、フルプレートアーマーを身に纏った少年が大きく動けばその音は激しく、隠密には向かないのもまた真である。
 フードの存在がなにものであれ、気がつかない筈もない。
 それで逃げぬというのであれば、それなりに実力があるのか。
 もしくは自殺志願者と言える。

 魔族に自殺志願者など聞いたことも、ないが。

 そして、振り向いたそこにあったのは、フードをかぶった侭の存在。
 体格的には子供、といっていいだろう存在で。

 しかし、近づいて判るがやはり。

「ここは、タナール砦、魔族と戦うための最前線だ。
 そこに魔族がいれば、何事もなかった、などと言えるのは、人に対する裏切りでしかない。」

 小さな声、幼い少女のそれから紡がれる朗々とした声色。
 敵意のあるなし等、少年にとっては埒外。

 ここは、最前線で、少年は対魔族の第七師団。
 一切の感情持たずに、踏み込み、彼女の首筋を狙って叩き切るために作り上げられた右手の短刀で、右から左へ振り抜く動きでの斬撃。

リシェラ > 考えてみればおかしな話だ。
彼の尖塔からの移動手段は誰にでも出来る手法では無い。
其れこそ彼も又人間では無いのでは、と疑われそうな程の。

だが其れを考えている余裕を彼は与えてくれない。
向けてくる言葉は強い意志を持った其れ。
続け様に取る行動は容赦の無い斬撃だった。

今は月映ゆる夜の刻、彼以上に少女の血は力を与えていた。
避け様と半歩下がるも、其れで避け切れは出来ずに首筋へと一筋の線を生む。

「人間は此処を通り魔族の国へと向かう。
魔族も又、此処を通り人間の国へと向かう。
互いに害を成そうとする者達為れば、其方の判断は正しきもので在ろう。
然しそうでない者達を同じ計りに掛けて考えるのは、果たして正しいものなのだろうか?
其方は其れを如何考える?」

其れでも少女の手が動く事は無く、彼に向けるのは言葉であった。
彼がどれだけの敵意を向け様とも、此方が同じくした意思を持ってしまったら泥沼である事を深く理解しているからだ。

ゼロ > あどけない声、小さな体、しかしそれは――――見た目がそうだというだけ。
 魔族ゆえの身体能力は、少年の一閃を見切るのだ。
 その半歩で首に微かな傷を残すのは余裕の表れと取ってみていいだろう。

「正しい、正しくないで言えば、正しくはないのだろう。
 しかし、それを決めるのは兵士ではない。
 兵士は、上からの命令で動く人形でなければならない。

 そして、上の命令はこの場所の防衛、魔族の退治だ

 そういう問答は、将軍にするといい。
 貴様が、無害だと、誰にでもわかる証明ができるのであれば。

 一番簡単なのは、ここで命を落として証明するのではないか?」

 言の葉に対しての返答は刃。
 軍人は、命令に縛られる存在である、そして。
 この少年は狂犬である、狂ったように命令に従う犬だ。
 仮の話であるが、彼女に憐憫の情を持ったとしよう、助けたいと思ったとしよう。
 思っただけで、そのまま殺しにかかるのだ。

 おそらく、第七師団全員探しても、少年のように狂っているのは、いないだろう。

 踏み込みは加速し、次は腹部に突きを繰り出す。
 少年のナイフの形状は斬撃に特化し突きには向かない形だが、その速度と膂力で、強引に貫く心算。

リシェラ > 彼は自分の回避行動に対し余裕の在るものと考えていた。
然し実の処は余裕等と云うものは無かった。
反応し切れず半歩下がるのが手一杯だった為、薄皮一枚届いてしまっていたのだ。
其れでも言葉を向けられたのは、彼には自分を殺める事が出来ないとの確証が在るから。
まだ彼は自分が吸血鬼とは気付いていない。
此の侭逃げの一手を打ち、彼から逃れる事は十分に可能だろう。

だが少女は其れを良しとは出来ない。
フードに手を掛けて外せば、流れる様な艶やかな金色の髪に血の様な真紅の瞳が相手に見えるか。
其れは、彼に自身の正体の予想を立てられる可能性を理解している上の行動。
続く言葉は、其れを依り確かとするものだろう。

「予には、まだ知り得る事の望みが在る。
其れを知り得る迄は滅ぼされる訳にはいかないのだ。
数え切れぬ永い年月を掛けて、予は全てを捨ててでも其の為に存在し続けて来た。
其方とて、其れに近いものが在るのではないのか?
其方が望むもので在れ、其方が守るもので在れ。

其方の手に掛かる事で証明出来る為らば、敢えて其れを受け入れよう。
滅ぼされはしないが、伴う痛みで其方が此の一時でも納得出来る為らば……っ!」

彼の答えが刃で在ろうと、少女の答えは言葉と変わらない。
但し、少女は次に自分に襲い掛かる刃を避けはしなかった。
彼の手には肉を貫く柔らかな感触が伝わる筈だ。
刃に貫かれた腹部の痛みに少女は小さく呻くも、其れが死に繋がる事は無い。
表情を苦痛に僅かに歪め乍も、向けられた視線は其の侭に。
漆黒の布地が貫かれた場所を中心に、依り深い黒へと濁る。

ゼロ > 「…………っ。」

 彼女はフードを外す。
 そのフードの下にあるのは金色の髪の毛……それじたいは、この国に多くある髪の色なので驚くに値しない。
 それよりも、血のように紅い瞳、その魔力のパターンから、吸血鬼だということがわかる。
 それで、少年は悟るのだ。

 ――――足りない、と。

 第七の師団は様々な魔族と戦う者である。
 そのために様々な装備や、術を研究するのである。
 少年の場合は、術は使えないので基本的に魔法の武器に頼るしかない。
 エンチャント魔法は、少年の体に、武器に狂ったようにかけられているから効果がない。
 そして、吸血鬼に対して一番有用なのは、少年が扱えるもので言うのであれば。
 杭である、心臓に杭を突き立てるのが、吸血鬼に対しての最適解。

 しかし、杭の代わりになる鉄の槍は、今は砦の兵舎の中であった。
 慢心ではなく、修繕している最中なのだった。
 聖水も持ってはいるが、かなりの上位個体と見受けられる、効果があるだろうが、足りないのだ。

「っち………。」

 淡々と作業のような攻撃のなか、初めて見せる少年の感情的な感情。
 それは、悔しさであった。
 手数が足りずに、目の前の魔族を殺しきれないという悔しさ。
 何をどう取り繕うとも、倒せなければ意味がないのだ。
 ぐじゅり、と肉を切り裂く感触を感じながら、少年は奥まで突き刺して動きを止める。
 彼女の端正な顔、そのすぐ近くにあるのは、無謀の仮面に包まれた少年の顔。
 その仮面が、少年の拒絶の意思を表しているようにも、見えるだろう。

「貴様が、何を求めているのかは興味がない。」

 少年は、彼女の問い掛けに対する答えを、明確には持ち合わせてない。
 彼女の望みが、少年にはよくわからない。
 そして、会話は続ければ続けるほど情が沸くものだからこそ、打ち切る。
 強引にナイフをひねり、引き抜く。
 それでも、彼女が死ぬことは―――ないのだ。
 吸血鬼のことを滅するならば、聖なる魔法、武器、そういったものが必要で、今の少年にはないものだから。

 そして、観察する。
 彼女のダメージの修復の速度を、今の攻撃で、どれだけの消耗を引き起こすのかを。

リシェラ > 彼の態度から、吸血鬼を倒す手立てが今は無い事を理解する。
そうでなければ彼の性格を考え即座に使用する筈なのだ。
舌打ちの後に言葉を続け、引き抜かれる短刀。
当然其の際にも痛みは走るも何とか耐えられるもので。
付けられた傷は深く、染み出す血は広がりドレス越しにマントを汚す。

「其れで良いのだ、予に興味を持たずとも…
所詮我等は世に在る中でも出来損ないの存在なのだ。
只、此れだけは理解して欲しい。
予は人間と敵対するつもりは欠片も持ち合わせてはおらぬ。
予が求めるものは、きっと人間達が誰しも持ち得るものなのだからな」

傷口を左手で抑え小さく吐息を吐く。
吸血鬼としての能力を殆ど失っている少女故に、其の修復効率は非常に低い。
本来の其れに近付けるには確りと身体を休める必要が在るのだ。
彼の視線に其の意図を察したのか困った様な表情を浮かべた。

「すまないが、待って直ぐ治る程の回復能力は持ち合わせて無くてな。
見ていても面白味も無いし、何ら参考にもならないだろう。
其れでも少し休めば動ける程度には成るが…
予が何かしない為、其方は此の場を離れられない、違うか?
違わぬ為らば、動ける様に為り戻る時迄共に居ては如何だろうか?
尤も、予への興味を失い立ち去るにしても、予は先に伝えた事以外の事はしないがな」

其れを伝えれば、側に在る壁へと身を凭れ掛けさせる。
静かに吐息を整える様にし、言葉の通りに身体を休めさせるかの様に。
言葉を伝え終えれば、小さく笑みを浮かべてみせる。

ゼロ > 彼女の読みは正しく、少年は手立てがあれば即座に使用し、彼女を滅するであろう。
 それが出来ないからこそ、悔しさに臍を噛み、彼女を見据えるしかできない。
 少年は兵士であり、拷問官ではないのも彼女にとっては幸いであろう。
 不必要に痛めつける性癖はなく、性質もない。
 ただただ、地面に落ちて天井を汚す血の赤を眺めるのだ。

「理解はしよう……貴様が特殊だという事は。
 だが、それは個体での話であり、他の存在はまた別だ。
 そして、命令もまた、別の話だ。」

 彼女の言葉は認識はする、ただ、認識するだけ。
 それによって、手を止めることも、命令を覆すことはしない。
 ―――本当に、認識した、と言っていいことなのだろうか、それは。疑問が残るところ、である。

「…………。」

 彼女の言葉は痛い所を突いてきた。
 確かに、彼女の言うとおり彼女が何かをするかどうかを確認するために、ここにいなければならない。
 増援を呼ぶという思考もあったのだが――――。
 偶然は重なるものである、魔族の襲撃が発生しているようだ。
 小規模なものであり、少年が出なくても退治しきれる程度の奴である。
 それに彼女が加わればどうなるかはわからない。
 そうなると、少年は彼女を見張るのが最上の判断となろう。

 それに、今後のことを考えれば回復速度も十分な情報となるのだ。
 壁にもたれかかる彼女、いつでも首をはねられる程度に間合いを取って少年は、ただただ、静かに監視を行うことにする。

リシェラ > 何を思うか、少女は笑みを浮かべた侭で足元を眺める彼の姿を見詰めていた。
種族なんてものは関係無い、各々の持つ思考は十人十色で在るとの考えを改めて強め乍。
彼の一つの考え方に対する拘りは魔族寄りとも云えよう。

「其方は正しき兵士で在るのだな。
其れも又場に依れば必要と為る資質で在ろう。
だからこそ理解をしてくれた事に予は純粋に嬉しく思う。
其れは其方にとっては迷惑で在るかもしれないが…」

不意に少女の言葉が止められた。
彼を見詰めていた視線が彼も聞き取ったであろう新たな魔族の襲撃へと向けられる。
其の表情は先程彼へと向けた笑顔と違い複雑なものであった。

「……悪い事と云うのは重なるものだ。
此の状況で其方も向かった方が良いとも云えぬ。
其れ為らば折角の機会だ、せめて名乗り合う程度はしてみては如何だろう?
もう少しすれば予は去る事と為るが、警戒すべき相手の情報を一つでも知る事は悪くは無いのだと予は思う」

少しずつ傷口も癒され、僅かに乱れていた吐息が元に戻っているのが解るだろう。
人間からすれば弱めの回復魔法を掛けられている程の回復速度で在ろうか。
少々ふら付き乍も壁から離れる。

「予の名はリシェラ、其方は理解してい様が吸血鬼の一人だ。
……さあ、其方の名を教えて貰えないか?」

ゆっくりとした動きで一礼すれば、今度は名を聞き乍に改めて彼を見詰める。
こう聞いてはみたものの、彼が其れに答えてくれるか如何かは正直に云って難しいものだとは思っているが。

ゼロ > 彼女の言葉が不意に止まるのは、少年も意識していた。
 先程の小規模の襲撃に加えて、さらにと魔族が襲いかかってきたのだ、攻撃が始まっているので、チャンス、と思ったのかもしれない。
 少年に焦りの色はない、第七師団はやわではないことは知っているからである。
 複雑な表情さえも、観察の対象なのである。

「…………」

 名乗り云々は聞いているが、少年は逡巡する。
 理由は簡単であり、名乗る理由が薄い上に、彼女から提案してくる理由を考える。
 一部の魔族は名前を媒介に呪いをかけたりする個体がいるという。
 それなのだろうか、など。
 傷の修復の速度も十分に情報となる。

 そして、足元での戦いが、激しさを増してきている。
 仲間か、敵か、少年は考えあぐねた。

「――――ゼロ。」

 それは、一言の言の葉で、彼女に意味が通じるのだろうか。
 表情も何も見ていない、手負いであることと、門が破られそうな状況が少年の判断を決めた。
 それが正しいのかどうかはわからないのだが、少年は門の外側に飛び降り、それと同時に、殲滅を始める。
 少年が戦いを終えてもどる頃には、彼女はいなくなっているのであろう――――。

ご案内:「タナール砦」からゼロさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からリシェラさんが去りました。