2019/02/09 のログ
アマーリエ > 「そんな御大層な力があるなら、遠慮なく使い放題で共倒れになるわねー。
 丁度良いわ。暇を持て余し過ぎてた処なの。――地図を見なさい。

 ここは魔族領と王国側を行き来するには最短ルートと出来る要衝よ。だから、奪い合っているの。馬鹿みたいにね」

仮にそんなものがあったとしたら――どうだろうか。
バランスの崩壊に拍車がかかり、争奪戦が一層血みどろの惨劇となることだろう。
新兵をお菓子の如く遣い潰し、血色の泥濘を足踏みで塗り固め、阿鼻叫喚が絶えない戦場となるに相違ない。
故に、からからと笑ったあとに一瞬見せる鋭い目つきで顎先で卓上の地図を示す。
砦を示す箇所には砦を模したチェスのピースの如き目印が置かれている。
地勢を読み解けば見える王国と魔族の国を繋ぐ道筋は、砦を躱して進むのも難い。故に、此処は常々死地となりうる。

「何もなくてもおっぱいとかあるじゃない。
 ……ご馳走様。ちょっとだけ心の栄養補給が出来たわ。御礼というのも何だけど、お茶でも飲む?」

師団の説明は敢えてしない。聞かれたらその都度答えよう。
その心づもりで向こうの体格のチェックも含め、女の躰を弄りまくった後にほっこりと、そこはかとなく満足した風情で息を吐く。
危険物確認というには、胸先やら内股等、あらぬ箇所を触っていたのはご無沙汰だったからというのも多分にある。

麾下の兵士は現場判断で対応する。対応しきれぬ時こそ、お呼びがかかろう。
故に、部屋の奥にある魔術式の保温瓶の傍に歩み寄り、湯の貯蔵量を確かめる。茶葉は少なくともまだあった筈だ。

リリー > 「…困ったものね。せっかく大判ふるまいしたのに。」

女は口を尖らせていた。振る舞ったのは金ではなく労力だ。
何せ広い砦のあちこちを直してまわったのだ。
正規の金額を請求すれば結構な稼ぎになっていた。

「まだ魔族の国には行ったことないわね。
将軍は行ったことあるの?」

地図を見せられ、この砦の重要性を女でも分かる様に噛み砕いて教えてもらう。
これだけでもここに来た意味はあっただろう。
女は途端に機嫌を良くし、聞き入っている。
ただ、これで女が欲しい物がここにはないこともはっきりしてしまう。

「もう、職権乱用もいいとこじゃない。」

ボディチェックにしては随分と艶めかしく触られたものだと思っていたが、
事実そういうことだったと知ると女は楽しそうに笑っていた。

女もまた、綺麗な女将軍に触られることで多少なりとも悦んでいたのだから。

「あら、いいの? それじゃ、お呼ばれしようかしら。」

すっかり気が緩んだ女。お茶の誘いにすぐさま首を縦に振る。

「私も自己紹介をさせてもらうわね。 名前はリリー。
つい最近この世界にやってきた異界人よ。」

女は茶の用意をしている将軍に向かって己の事を話し始める。
ここなら扉で隔てられており、他に誰もいない。
おまけにこの人なら力になってくれるかも知れない。

アマーリエ > 「そう、直すのも結構手間なの。敢えて直さないでおくのも手だけど、それだと守る時困るでしょ?

 向こう側、ね。あるわよ。でも――深入りは出来ないわねあそこ。
 師団の一つが奥地まで進んだという話はあるけど、お察しくださいと言わんばかりの有様だったと聞くわ。

 正直言って、大軍を挙げては無理ね。」

何度も何度も直しているのは、王国側も同じ。
出費として考えれば決して馬鹿にならない。材料費もそうだが、人件費だって無料ではない。
無限の国庫でもない限りは、そのうち破綻しかねない気さえする。
続く問いについては、浮かべる表情は苦みが混じる。
暫く前に訪れたことこそあるけれども、最終的な結果としては目的を達し得なかった。

「濫用できない職権なんて職権じゃないわね。その気になっても良かったんだけど、ね?」

ひょいと肩を竦め、ポットの中の茶葉を屑籠に捨てて新しい茶葉を入れる。
危急の際に遣ってくるだろう部下に情事の姿を見せつけるのも、将の技量なのだろうが己もまた武用を満たさねば話にならない。
一応は仕事中である以上、多少は弁えもする。自分が使っていたカップはそのままに、新しいカップを用意して紅茶を注ぐ。

「リリィ、ね。リリーの方が良い? で――あれかしら。この世じゃない、どこかから来たというつもり?」

どうぞ、と。向こうの名の響きを反芻しながらカップを卓上に置いて、空いた椅子の一つを取ろう。
纏ったままのマントを外して背凭れにかけながら、相手の近くに腰掛けて左肘で頬杖をつきつつ向こうの顔を見る。
向こうの言い分は、一笑には付さない。何か証でもある?と言わんばかりに双眸を細め、見詰めて。
 

リリー > 「互いに壊して直して……聴いてるだけで眩暈がしそうだわ。

こっちの魔族は危ない連中が多いって話しだけど本当のようね。
奥地まで…どういう結果になったかは詳しく教えてもらわなくてもわかりそうね。
でないと後生大事にこの砦を守ってるわけないわ。 もっと前線に行くはずだし。

…となると、私一人で行くしかないわね。 民間レベルでならどうかしら。」

奪い奪われを本当に繰り返しているのだと、女は再度認識することになる。
となると、砦にひっついていれば常に何かしらの仕事は貰えそう。
頭の中でそう結論付け、不謹慎ながら少し喜んでいた。

しかし、将軍の話しを聴く限り軍隊に頼っての魔族の国入りは不可能な様子。
非武装の行商となればどうだろうか。

「あら、私の身体でその気になってくれるの?
私も将軍のこと、いいなあって思ってたのよね。」

好色な女は将軍の反応に眼の奥が光る。
今は生憎のようだが、機会があればそういうことも出来るようで。

「どちらでもお好きにどうぞ。
証拠…証拠ねえ。 一銭も持たずに来てるからねえ。
そうね、これならどうかしら。」

ありがと、と短い礼を口にしてから椅子へと腰掛ける。
カップから漂う香りが少し気になってしまう。

こっちに来てようやく良い物にありつけそうで。

女は暫し考えた後、着座したままで魔法を使う。

そして、銃型の魔法道具を卓の中央に置いた。

「これが元の世界で使っていた私の相棒ね。
銃の形をしているけど、私以外が持っても何もできないわよ。」

証拠らしい証拠はこれしかないのだが、果たして信用してもらえるか。
この程度の品、こっちの世界では幾らでもありそうで。

アマーリエ > 「――行きたいなら、止めときなさいな。
 別に行くなとは言わないけど、生きたまま腑分けさせられて死ぬに死ねない動死体とかになりたいなら、止めないわ。
 
 逆に言えば、向こうもこっちまで大軍を挙げては来難いということでもあるのよ。
 この砦に正直、余分な金や兵の命をかけてはいられないけどね。」

砦の防護を募る傭兵や冒険者の募集は皆無ではない。故に、張り付いて稼ぎたいのであれば出来はするだろう。
ただ、砦より先の向こうに行きたいとなれば話は別だ。
こっちの、といった言葉は気になる。しかし、危険は相応以上に付き纏う。
行商となると、それこそあるのかどうか、という程のものだ。

「最近、ご無沙汰してるのよね。夜も徹して良いなら覚悟なさいな」

好色さにおいては此方もそれなり以上にはある。故に紅茶のカップを片手に朱唇を釣り上げて笑う。
苛め甲斐がある、愉しみ甲斐のある雌というのは良いものだ。己の体躯のことは今は言わずに。

「実証の証明を仕様がないものをとやかく突き詰めても仕方ないわね。
 ……銃、ね。私は使わないけど、同じ形をした武器なら幾つか使い手を知っているわ。

 嗚呼、でも、そうねぇ。その銃にしかできないコトでもあるかしら?」

魔法の行使の後に現出する銃の姿を見遣って、小首を傾げる。
銃もピンキリだ。銃弾が出るものがあれば、魔法が飛び出すのものもある。口元に指を当てつつ思索を巡らせる。
何かあったかと思えば、ふと立ち上がって書架の方に足を進めよう。

リリー > 「……こっわっ! 何それ。
せめて普通に殺してくれないの!? 魔族、恐ろしすぎるわ。」

青い瞳が大きく開き、思わず声が大きくなる。
襲われるとか食われるとかよりもよほどえぐい話を聴いてしまう。
女の想像のはるか先を行く魔族という存在に興味を抱くが、それ以上に恐怖感を覚える。

どうやら今の女に来れる所はここまでのようだ。
暫くは砦に出入りを繰り返して状況が動くのを待つとしよう。
魔族が危ない存在である以上王国軍側に協力する方が良さそうだ。

「別に良いわよ。 その代わり、今度お城の中を案内してもらえるかしら。
図書室なんてあれば嬉しいわね。」

覚悟所か、女にとっては願ってもない展開だ。
だが、それを露骨に顔に出すと安くみられそうなので…
敢えて澄ました表情を浮かべ、交換条件を求めた。

「銃もこっちの世界じゃ普通らしいわね。
戦争やってる世界だもの、当たり前よね。

…これは私の魔力と身体能力を上げてくれるだけだからこれじゃないと出来ないってのも少し難しいのよね。
そうね、よく使う魔法はこんなものかしら。 ……ファントム!」

卓の上に転がしていた魔法を手にし、呪文を唱える。
すると、将軍と全く同じ姿の幻が部屋の入り口に現れる。
良くできた幻だが、質感が微妙にないこと、動いても音がしないことから本物と判断することは容易いだろう。

「他にも色んな魔法が使えるようになるわ。 もっとも、将軍クラスになると素でこの程度はできる人をみたことあるでしょうけど。」

女はすぐさま幻影を消去し、茶を口にする。

アマーリエ > 「少なくとも向こうに散歩がてらで行くなら、多少どころじゃない強さが要るわ。
 そして、何よりもね。そんな有様になっても救いの手はないと思いなさい」

当局は一切関知しない――ともいうことだ。
苗床になる位なら良いのかもしれないが、人間の在り方が壊されるような末路は誰だって迎えたくはない。
そう言葉を送った後に、茶を啜る。ふぅ、と息を吐いて。

「そう。……愉しみね。

 流石にはいはいと王城の中を闊歩させるわけにはいかないわねぇ。
 もうちょっと、こう、――何か面白いのがあったら一筆書いてあげなくもないわ」

流石に色事だけで、交換条件とするには弱い。国の守護も王城の守護も結局は同じ守るという任を負っている。
国に対する害意なく、十分に互いに利となるものを欲する。
例えばこの世界にはないものがあり、其れを自分達が活かせるのなら交換条件とするには値する。

「普通じゃないわよ。多くに配備するには金がかかる類の武器ね。
 うちの師団でも滅多に配備しないわ。――幻影、ね。生憎だけど、私も同じような手管は使えるわ。ほら」

上手く使っているように見えた隊と言えば、師団ではないが以前戦場を共にする機会があった少女たちの部隊だろうか。
魔法銃と定義すべきものを手にして行使する魔術の気配を感じつつ、己も脳内で術式を組む。
炎と光を操るのが己だ。炎は光を生み、光は集めることで火を生む。
広い部屋の卓上で遊び交じりで、なまめかしく身をくねらせる白衣姿の女の仕草を幻影をして投影し、ぱっとかき消そう。
その上で、ふと思い立ったことにぽん、と手を打ってこう問おう。

「でも、“使えるようになる”……と言ったわね。
 同じ役割を果たせるもの、作れる? 出来るなら、条件として値するわ」

リリー > 「…そんなの無理よ。
私はただのしがない錬金術師だもの…。」

予想外に現実は厳しかった。
これもはや行くどころか関わることすら避けた方が良さそう。
そう認識した女は深く息を吐いた。

「あら、意外に冷静じゃない。」

もっと乗ってくるかと思っていたので、女は当てが外れてしまう。

(…随分と要求レベルが高いわね。 面白いもの、面白いもの…。)

将軍の要求を満たせるものはないかと、頭の中の引き出しを手当たり次第に漁り始める。

「へ~~、そうなんだ。
それならその銃が大量生産できるようになれば、一筆書いてもらえるかしら。

…って、ちょっとちょっと、人の身体で変なことさせないで。 私はそこまでしなかったでしょう?」

女自身には必要がないので作ったことは無いが、銃も魔法銃も錬金術で作り出すことは可能。

お茶を飲んでいる時に、自分の幻影が色気を振りまき始めたので吹き出しそうに。
むせそうになるのをなんとか我慢しては将軍に抗議する。

「それは無理よ。 これでも元の世界の遺跡でみつけた一品ものなの。
壊すことも出来ないし、中の構造もよく分かってないわ。」

しかし、これで旗色が悪くなった。
相手の要求には応えることができず、咄嗟に見せた魔法は相手に同じものを返されてしまう。

女は錬金術師としても取り立てて優秀という訳ではなかった。
そして、恐らくだがこっちの世界の方が戦闘に関する技術も魔法レベルも高いように見受けられる。

アマーリエ > 「なら、今は我慢なさいな。今すぐ行かなきゃいけない――なんてコトはないのでしょう?」

茶菓子なかったかしら、と。
手近な棚を漁りながら少しは宥めるような声を含みつつ、言葉をかけよう。
敢えていかなくとも、低位どころではない力ある魔族やこの国に侵入しているとも聞く。
そう言った者達に当たりたいのなら、此れも止めようはない。自己責任ではあるが。

「当然よ。その点ばっかりは遊び半分というワケにはいかないわ。
 ましてリリー。異邦人と言ったからには、この国でその身の証を立てる保証もない以上は、ね」

最悪、力を付けて国に害を成す――という可能性は無いとは言わない。言い切れない。
己の気紛れさは否めないとしても、国を守る仕事を務める以上少しはリスクの取り扱いにも煩くはなる。
あ、あったと見つけたのは干した果物やナッツ類を糖蜜で固めたバー状の携行食。
茶菓子とするにはやや味気ないが、二人分見つければ「あげる」と言って、卓上に置こう。

「大量生産は――したくないわね。私が思ったままが正しいなら、一朝一夕で作れるものじゃないわ。
 完全な複製じゃなくても、同様の機能を同じ位のサイズで作れるのなら、いいわ。
 
 え。駄目? 想像の範囲で裸にしても良かったけど、……練りが甘かったかしらん」

大量生産は難色を示す。魔術の増幅器、焦点具となるものは数あれど、“使えるようにする”程の作用を持つものはそうそうない。
数あれば確かに戦争は変わる――かもしれない。
だが、其れでは駄目だ。攻勢を抑える抑止とするには、まだ足りない。まして、濫用される愚は同じ以上に避けたい。
力には責任を伴うのだから、兵力という力の担い手として考えるべきことは多い。
そんな思考をこてりと首を傾げる仕草から伺えるかどうか。そういう問題じゃない、という指摘をされそうな点はさておいて。

「冗談は置いといて、と。王城の書庫も実験だとかそういった類のものがある、という保証は無いわ。

 だから、提案だけど王都にコクマー・ラジエル学院というのがあるの。知ってる?
 其処に伝手があるから、図書館の閲覧許可申請を出してあげることなら出来るわ。どう?」
 

リリー > 「そうなるわね。 元の世界に戻るとしても五体満足で戻らないと意味がないし。」

我慢もなにもこちらから御免被る。
ただ、女なりに思考を進める中で恐ろしい想像が産まれる。

(そんなに恐ろしい魔族ならこっそりこっちの国に入り込んでたりとかしないのかしら。
聴いてみようかしら。 …ああ、でもやっぱり止めておきましょう。 考えるだけで恐ろしいわ。)

女は首を左右に動かし、恐ろしい想像振り払った。

「その通りね。 私が将軍の立場でも同じことを言っていると思うわ。」

この国は腐敗役人が横行していると聴いていたが、真面目に務めている人もいるようだ。
少女は眉をへの字にまげる。 納得はするが、困ったといった様子。

「ありがと、頂くわね。」

出されたお菓子を手にする。 なんだこれはと言った表情を浮かべていた。

(四角いお菓子? なんでわざわざこんな形をしているの? それにこれ、触った瞬間ちょっと零れてるのだけど。
匂いは…あ、果物の匂いがする。 この国はこんな不思議な食べ物が流行ってるの?)

頭の中にハテナを生やしながら、恐る恐る口にする。 あれ、意外においしい。
女は一口食べた後、すぐに二口めと口にし、自分の分をあっと言う間に食べてしまう。

「魔力がない人に魔法を伝える様にするだけならなんとか用意できるかも。
サイズは持ち運べる程度になるけどね。

…良く出来てるけど、良くできてるから余計にダメなの。」

大量生産がしたくないと言った理由まではこの時点の女では思い至らない。
今はただ、将軍のオーダーになんとか近い物を提案することにいっぱいいっぱいだ。

将軍の返答には卓を叩くふりをしながら、文句を言っていた。

「知らないわ。 でも、そこに行けば色んな本が読めるのね。
ありがとう、将軍。 助かるわ。
…で、その対価にはどうすればいいのかしら。」

師団の長に個人的に動いてもらう。
そんなことを何もない女が只でしてもらえるとは思えない。

チラリと、伺うように将軍の顔を見上げた。

アマーリエ > 「戻れるかどうかの保証は兎も角、無事に生き抜くならもう少しこっちの世界も知らなきゃね。
 嗚呼……それと特に公言はしてないけど、街中も用心なさい。意外と、居るのよね」

魔族が、と。心底より面倒臭そうな風情で零す。
何やら色々と考えている風情の事を見遣りつつ、危機管理の意識をより増させるために。
それにこの程度は機密に値するものではない。知っているものであれば、知っている程度の事だ。

「理解してくれて助かるわ。
 これはね、携行食。あなたのセカイにもないかしら? 似たようなの」

四角く、細長く成形しているのは持ち運びやすく、尚且つ甘いのは熱量の補給を容易くするためだ。
バターなどをふんだんに使った菓子には劣るが、こっちの方が喰いでがあるという意見も決して皆無ではない。
すぐにぺろりと食べ終える様を見ながら、己も包装を剥いて一口、また一口を噛み締めるように口に運ぶ。

「そっちまでは望まないわ。うちの精鋭の基準として、一定以上の魔術技能があることが基本だもの。
 用があるとすれば、魔術の増幅と安定、術式をとっておけること。……あと、展開も早くできるかしら?
 私が思うにちょっとした魔導書みたいなものでしょ?それ。

 良く出来ているものを良く模して、より良く作るのに手間暇かかるのは当然よ。
 手本があるなら、それをうまく真似るのは不可能じゃないと信ずるわ。

 ――此れは貸しにしてあげる。時間をかけていいから私も含めて、熟練者に持たせるに足る道具を作って頂戴。

 その代価として、さっきの申請と紹介状、当座の生活費を用意してあげる。いかが?」

流石に己の要求は肉体を差しだせ、だの、師団の参画を強制はしない。
ヒントがあるのなら、為しうる見込みはあろう。出世払いとするには無茶があろうが、投資する価値はある。
伺う視線に視線を重ねつつ、問いを投げ遣ろう。踏み倒されるリスクはあるが、その時はその時だ。

リリー > 「そうね。 私が居た所よりもこっちの方が情勢は複雑そうだわ。

あ、やっぱり居るのね。 想像はしたけど、あまり聞きたくなかったわね。」

女は溜息をついた。 入り込めるのであれば、相当知能が高く力もあるのだろう。
うっかり街の中で遭遇したら大変なことになりそうだ。

「…う~~~ん、こういうのは初めて食べたわね。
少なくとも私の知る範囲ではみたことないわ。
違う国ならあるのかもしれないけど。」

己のはすっかり食べつくしてしまったので、将軍の手元に視線を向けながら。
元の世界でもただの平民であった女が何でも知っている訳ではないので、ひょっとしたら知らない所であるのかもしれないが。
味は良かったのだが、喉が渇く。 女はカップの残りをくいっと飲み干した。

「そういうことなら、出来るかもしれないわ。
ただ、こっちの世界での材料集めに時間がかかりそうだけど。
魔道書…言われてみればそうかもね。

良いの? 私としては凄くおいしい話だけど、将軍にとっては少しメリットが薄い気がするのだけど。」

女は目をパチクリさせた。
あまりにおいしい話であるだけでなく、こちらの窮状さえも見抜かれているからだ。
女に踏み倒すつもりはまるでないが、求めるレベルの品を用意できない場合もあり得る。

「将軍がいいって言うのなら、是非ともやらせて頂くわ。」

こんなチャンスは恐らくそうそうやってこない。
女は目の前にやってきた天の助けにすがることにした。

アマーリエ > 「面倒事はどんな世界でも同じようね。そ、だから気を付けなさい」

魔族領内程の脅威を振るえる――という報告例はあまりないが、獅子身中の虫と云うべきものは厄介だ。
いずれ排除すべきか。それとも融和できるのか。今の己には想像すべくもないが。

「あら、意外だわ。ありそうな気がしていたんだけど。

 ……出来るなら、契約としては成り立ちそうね。
 最終的には踏み倒してくれなければ、いいわ。その時は私自ら追っかけてくると思いなさい。
 嗚呼、現在の住処があるなら教えて頂戴。其処に送ってあげるから。
 為せなくても別に文句は無いわ。実例があるというのはね。“いずれ為せる”ってコトの証なのよ。
 
 力ある魔導書の類に心当たりがない訳じゃないけど、使いこなせる者は限られてしまう。
 故にもう少しとっつき易くて、使い出のある道具は良い剣とかと同じで数あっても困らないわ」

そうと決まれば、と。己も空にしたカップを置いて立ち上がり、戸棚を漁る。
引っ張り出すのは国の公文書に使う様式の便箋と封筒の一式だ。
まずは、当座の十分となる生活費を自身の私財の一部から引き出すことにに関する同意、並びに契約書の作成。
続いて住所を聞き出せば、其処に学院の図書館、資料庫を禁呪などと称されるもの以外は閲覧可能とする旨の許可、紹介書の手配を行う旨を記し、自身の名を記す。

リリー > 「用心するわ。 それにしても、国内でも魔族がいるなんてね。」

この時の女の認識では魔族=危険であった。
なので他にも色々と危険が潜んでいるとまでは考えることができず。

「私が知らないだけかも知れないけど…。

…そんな恐ろしいこと、絶対しないわよ。
え、いいの? じゃあ、平民地区の…。」

わざわざ家まで送ってくれるそうだ。
折角の厚意なので遠慮なく甘えるとしよう。
女はうきうきと己の住所を告げる。

「ま、一応聞いてみるけど必ずやってみせるわ。
私、こう見えて結構負けず嫌いなの。」

ここまでしてもらって、できませんでしたとは言えない。
女は静かに闘志を燃やしていた。 これは明日から忙しくなる。

その後は将軍が用意してくれた書類を受け取り、家路につくことになる。
とりあえずは、この国の事と手に入る素材のことを知るために図書館へと向かうはずで。

アマーリエ > 「表沙汰にはし難いから、口外は無用でお願いね」

唇に指を一本立て、気を付けるように仕草として促しながら片目を瞑ってみせる。
歩いた先に危険が転がっている、というのは往々にしてある話だ。
少なくとも、裏路地など人が寄らない場所に用が無ければ――行かなければ比較的何とかなるだろう。恐らくは。

「かもね。その意味でもこっちは良くも悪くも刺激的かもしれないわねぇ。

 私も暇じゃないの。お互いにそうならないコトを願うわ。
 それと、干上がりそうになるならこっちの連絡先も添えておくから」

最悪、帰る気が無くなるかもしれない。そうなる前には最低でも研究成果ではなくとも、過程の情報を残してもらわねば困るが。
認める書類には、王都郊外にある師団の本拠たる館の住所を書き添えておく。
訪れて示せば、最低限の寝食の援助位は出来るだろう。
副団長にも伝達しておかなければならない。如何に冒険者時代の私財を財貨に変えているとはいえ、道楽と呆れられること請け合いだが。

「愉しみにしてるわ。今度、そっちの住処にも出向かなきゃね」

書類はすぐに仕上がる。纏めて防水加工をされた封筒に納めて渡し、見送るまでは茶呑み話に花を咲かせただろう。
砦内で提示できる書物など、質問にその都度応えつつ、帰途を見届けた後は砦の守護に戻る。

少なくとも――次の部隊が着くまでは、守り切る。そのために。

ご案内:「タナール砦」からリリーさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からアマーリエさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」にヴェルムさんが現れました。
ヴェルム > 遠目からでも松明の灯がぼうっと見えるタナール砦。
雪がしんしんと降っておりいつも以上に静かに聳えているようにも思える。
砦防衛線力として派遣された十三師団。
こうも露骨に寒いときに派遣されるとは、上からの嫌がらせか偶然か。
だが魔法の使える団員が多いこともあって、暖を取ることに苦慮しないためか、寒さでそう困ることはあんまりなく。
ようはいつも通りだ。

「…これじゃあさっぱり見えないね」

砦の屋上にて魔族の国方面を眺める、いつもより服を重ね着した師団長だが、ふわふわした降雪のおかげで視界がよろしくなく、まともな監視にならない。
まぁそのおかげで魔族側も露骨なことはしてこないだろうと楽観しつつ。
一応のためか、砦の前面には前衛陣地…の体をしたハリボテを設置していた。

「…雪の重みで潰れたりしないよねぇ?」

見た目だけのハリボテなので、ちょっとしたことで簡単に壊れてしまうニセ陣地。
体裁的には、遅滞戦術用の壊れてもいいバリケード的なものだ。
師団長の質問に傍にいた団員は『大丈夫じゃないっすか?』と実に適当な返答をしつつ『中入って暖まりましょうよ~』と腕をさすりつつ促していた。
なんとも緊張感のない有様である。

ヴェルム > やはりこうも寒く、おまけに雪まで降っている状況で襲撃が起こることはなかった様子。
少なくとも十三師団がいる間は、だが。
暖を取りに師団長も砦の中へといそいそと戻り、団員たちと酒やらカードゲーム等で団らんしていたとか。

ご案内:「タナール砦」からヴェルムさんが去りました。