2019/01/16 のログ
レナーテ > 「っ……!」

撤退の最終手を遮るサキュバス達の群れ、その対処の面倒さは自身が刃を交えてよく知っている。
この可能性がないとは思っていなかったが、迎撃準備を整えようとした少女達を尻目に、自身は相棒の背へと一気に飛び乗った。

「ユーレック! イグニッションブーストで突っ切ってください!」

音速で飛び抜ける飛行技、それは一人逃げるかのように見えるが、実際はその逆だった。
ばさりと彼らの誘いに乗るかのように、一羽空へ舞い上がった瞬間、鞍の手すりにギュッとしがみついて目を合わさぬようにしつつ身体を貼り付ける。
周囲に風を集め、そして一点へ集中したそこへ自身の炎を宿す荒々しい飛行方法。
激しい炸裂音と共に、音速の砲弾となったマシコと自身がその群れの中央を突き抜けるのだ。
彼らの恐ろしさは目にあるなら、追いすがれず、見ることも叶わぬ速度で圧倒するのみ。
旧神の炎熱を撒き散らす空の道筋を切り開き、一人飛び去るかのように見せかけ……自身はそのまま上空へと、軌道をそらしていく。
籠にギュウギュウ詰めに残りこんだ少女達を載せては、他のマシコは音速飛行はできない。
通常の滑空飛行も速度が落ちる状況だが、この音速で切り開く炎熱の道があれば、手出しさせずに抜け出せる可能性があると、敢えての単独攻勢を取る。

「第零師団指揮下、チェーンブレイカー組合長代理のレナーテ・ヘヒトがお相手しますっ!」

魔族の国にも噂ぐらいは響いているだろう名前。
国のために魔も人も平等に腫瘍となるならば首を撥ね、闇に殺し、時に力尽くで排除する王国軍にあって国の指揮下にない異例の存在。
そして、その指揮下にある組織の長代わりと名乗れば、ただの構成員と犯し尽くされた女騎士など、天秤にかけるはずもないと、己の存在を知らしめるように声を張り上げる。
背を貸す相棒には、無茶苦茶だと呆れた言葉を脳裏に聞かされるも、これしか方法がないと苦笑いを浮かべつつ、器用にも空でも小銃を構えていた。

サロメ >  
「言ったはずだな、借りを返すと」

眼前に現れた闇、そして巨躯の魔族を見据えて
時間稼ぎは最悪の場合を想定したもの、最善は当然眼の前のこの化物を斬り伏せることだろう

「我が第七師団に魔族との交戦の結果に後悔を残す者はいない。
 それとも、私に後悔を刻もうというのか? …無理な相談だ」

突き立てた剣を振り翳し、その宝玉に光が灯れば極低温の魔力が、その剣へと収束してゆく

「私自身、時間稼ぎは性分じゃない」

刹那、石畳を砕かんと蹴り穿ち、剣を大上段から黒き剣士へと振り降ろす
巻き起こる冷気がその動きを封じ、例え受け止めたとしても絶対零度に近い凍気が叩き込まれる
先手をもらった上で、必殺を狙う──その一撃に"時間稼ぎ"などという概念は存在していなかった


──砦へと突撃した第七師団はその洗練された対魔族戦術を遺憾なく発揮する
壊滅した旧第七師団と比べて荒々しさには劣るものの、そこにクレバーな戦術が加わり理詰めで構築されたタクティクスは徐々にその気勢を押し返してゆく

ラボラス > (――其の名乗りは、黒鎧の巨躯にも届いていた。
ほう、と何処か感心した様に、或いは納得した様に双眸が細まる。
チェーンブレイカー、決して武闘派集団と言う印象では無いが、戦力としては聞き及ぶ程だ。
権力や宗教に縛られぬ独自の存在、だが、其れが今、己が軍団に仕掛けて来たと言うのならば。

――漸く

漸くだ

己が待ち望んでいた、闘争が其処に在るのなら。
其れを、歓喜せずして。)

――――貴様ら共々、同じ墓穴に叩き込んでやるのも悪くは無い。
精々俺を愉しませろ、女ども。 俺は、俺の軍団は――烏合の衆では無いぞ。

(――眼前、女の踏み出した脚が屋根を蹴り砕く。
疾風の如く距離を詰め、振り下ろされる冷気を纏った其の剣は
下等な魔族など動く事すら許されぬ、必殺の一撃に他ならぬのだろう。
事実、ただ、接近を許した其れだけで、己が鎧の表面が凍りつき、動きを阻む。
だが、ばきりと、凍結仕掛けた鎧を強引に動かす四肢が、女の剣を、正面から真面に受け止めれば
其の一瞬で、氷漬けの氷像と化した巨躯が、次の刹那、其の氷の奥から、ゆらりと漆黒の魔力を揺らめかせ

――右腕だけが、氷の封印を砕き割り、女の胴をその黒き剣で、叩き伏せとする、か。)

『あー! ちょっと、あっついじゃなーい!』

(そんな中で、サキュバス達の方はと言えば、炎を纏って突撃を繰り返すマシコの素早さに四苦八苦を強いられていた。
幾ら飛行種族とは言え、訓練を重ねられたマシコの速さに追い縋れるほどでは無い。
だが、其れでも、「翼在る獣」の現有戦力で在る淫魔が、普通の其れとは違う事は
文句を言いながらも、其の進路を何とかして阻もうと――隙在らば魔眼で絡め取ろうとし続ける様子から、知れる筈だ。

ふと、一度サキュバス達が、マシコの突撃を阻む様に、前方へと網を張って立ち塞がるだろう
無論、その程度で突撃が止められる筈も無い、が。

もしも、同じ様に其の網をぶち破ろうとするならば。
蜘蛛の子を散らすようにのがれて行くサキュバスの其の奥に、待ち構えている巨躯のオーガが
マシコごと突進を受け止めようと、立ちはだかる、か)。

レナーテ > 普通の炎と熱だけでなく、彼らにとっては毒になるであろう忘れ去られし守り人の力の欠片を有する。
逃げ道を切り開くと、そこを塞ごうと魔眼を光らせる彼らをみやり、進路を塞ぐサキュバス達の頭上を取ろうと進路を変えていく。
最初の突撃は不意打ちと、脱出路の大まかな確保。
赤光の魔法陣を銃口に浮かばせると、増幅弾の砕けるけたたましい発射音を響かせて口火を切った。
周囲に赤い光体を3つ浮かばせると、続けざまにもう一発。
今度は銃口と、浮かばせた球体から合わせて4つの紅の魔法弾を放った。
それはすぐに砕け散り、無数の火矢となって空を真っ赤に埋め尽くす。
それぞれが近くにいるサキュバス達に手当たり次第に追尾し、空走る猟犬が如く淫魔達を追い立て、追いつけば翼や頭部へと飛翔し、墜落を狙っていく。
瞳にとらわれぬようにしつつ、只管にその弾を放ち続け、排莢部分が徐々に魔力の余剰熱を溜め込み、空気が歪む。
その合間も、二羽のマシコ達は撤退すべく空を飛ぶ。
サキュバス達が膜となって立ちふさがるなら、先程の火矢が襲いかかるだろうが、その後ろに控えているオーガには届かない。
だが、届かせないのはそれを支える観察者が居たからだ。

『あのデカブツぐらいぶち抜かないと、そろそろ狙撃手名折れじゃない?』
『前哨狙撃だけじゃなく、長距離も行ける私達もいるってのっ!!』

ココ最近、狙撃失敗の続く少女達の鬱憤は溜まりに溜まっていた。
狙撃手のくせにターゲットを落とせぬとは何事かと、無論相手が悪すぎたのも分かっている。
けれど、少しは一矢報いねば名がすたると、瞳孔をきゅぅっと狭めながらレンズの向こうのオーガを狙う。
銃に最大負荷を掛ける雷の魔法弾、それを二人は同時に放った。
雷光とまでは行かぬが、他のどの魔法弾よりも早く、真っ直ぐで強烈な熱と痺れを叩き込む電撃弾が狙うのは、オーガの目と膝。
膝の関節の隙間を狙い、貫通できずとも強烈な電気で足を崩そうとし、瞳を潰して狙いを狂わせるなり、そこから脳へ電気を叩き込んで動きを止めるなり、確実に効力を狙った狙撃。
弾丸が飛来してから遅れて、轟音とも言える増幅弾の炸裂音が鳴り響き、狙撃手は重たいボルトを引いた。

サロメ >  
「──ふっ!!」

凍てついた、その鎧の胴を蹴って黒き剣の一撃を躱す
同時に距離を取りながらも、再び大剣をその手に水平構えをとる

「砕け散る程の凍気のはずだが、阻んでいるのは貴様自身か?それともその鎧か」

闇を凝縮したような黒の騎士を睨めつけながら次の一手を繰り出す
光輝く程の冷気を纏った極光が横薙ぎに放たれ、返す剣を縦に斬り上げる
退魔十字を描く剣閃をその闇のような鎧に向けて、撃ち放った

──その間も砦の攻防戦は続く
耳に届く名乗りは、なるほど彼の師団だったかと納得を得るものだった
少数で動いたのは、捕虜の救出のみに注視した結果だろう
無事…とは言いかねるまでも救出に成功したのであれば…

胸元の魔法石に手を触れ、念話を送る
後続の銃・魔法を主軸とした部隊はそちらに協力し、退路を確保せよ、と──

ラボラス > (――オーガとサキュバスの狙い自体は、決して間違っては居なかった筈だ
だが、最大の誤算は、其れまで決して手を出さず、観測だけに集中して居た狙撃手の存在を知らなかった事、か。
肉薄するオーガが、其の巨躯からは想像も出来ぬ程に正確に、そして素早い腕の振りでマシコを捉えようとする
だが、其の指先が、掌が、マシコに触れようかとする寸前で――響き渡る轟音と、炸裂音と
オーガの眼に、膝に、正確無比な銃撃が叩き込まれた瞬間、オーガの巨躯は崩れ落ち
そして其の閃光は、周囲に居たサキュバス達の視界をも一瞬奪って、追跡と追撃を一瞬遅らせる事と為るだろう。
相手が放つのが魔法銃で在るなら、魔力の気配を感知して回避しようとはする筈だ、が
少なくとも其の一瞬、狙撃手にとって、彼女たちは間違い無く、「良い的」と為った筈で。)

――――――…………『此れを食らうのは二度目か。
確かに、隙が無く退路をも断つ、必殺に相応しい一太刀だ。』

(――空を切った右腕が、再び構えられる。
再びの剣閃が、胴体に、鎧に向けて十字を描くならば
其の軌道に沿って傾く黒の剣が、一度目の剣筋を僅かに逸らし
そして、二度目の剣筋に弾き飛ばされ、其の切っ先を鎧へと確かに、減り込ませた。
砕け散る冷気が弾け、中から現れる黒の鎧。 其の表面には確かに剣の斬痕が刻まれ、仄かな光を残していた、が

其れも、再び闇に飲まれ、まるで修復されたかに剣の痕も、消えて居るだろう。)

―――――……どちらも正解だが、不正解でも在る。
この鎧は俺自身の力が形となったに過ぎん。 ……見目は、昔の戦利品だがな。
貴様等騎士団で在れば、見覚えが在るモノと思うが…、……クク、歪んだ歴史には消されたやも知れんな。

(鎧の表面を、自らの掌で一度撫でれば、構えた漆黒の剣を、女へと向けて薙ぐ。
今度は、女からでは無く、自ら剣先を仕掛けては。 ――まるで、敢えて女に剣で『受け止めさせる』様に。
往なすとしても、逸らすとしても、或いは正面から受け止めるとしても
刃同士を何度も合わせる様に、鋭く右腕を振るい始め)。

レナーテ > サキュバス達の膜が途切れた部分を狙い、マシコ達が通過しようとした瞬間、それを遮る手が一気に迫る。
速度と火力は自身はあるが、鳥という衝撃に脆い体の構造からすれば、その手は致命傷となりかねない一撃だった、が。
鳥達の肝を冷やす豪腕は崩れ、オーガの巨躯が膝をついていた。

『っしゃおらぁっ!』
『見たかコンチクショーっ!』

少女という可憐さをかなぐり捨てた、喜びの声が念話に響く。
3戦目にしてようやくの一勝を得て、目を爛々と輝かせながら次の的を狙う。
閃光の副次効果が淫魔を怯ませている合間に、鳥達は敵の包囲網を抜けて自分達の拠点たる集落の方へと飛んでいく。
魔族たちもそれ以上に追撃をすれば、身を滅ぼすはずだと思えば、後は自分が離脱できる状況になる必要があった。

(「さっきの会話からして、あの黒いのの相手をしているのは第七師団の現師団長……」)

彼女一人で手に追える相手か、それも考えながら突破しようとする最中、炎の矢から逃げるサキュバス達の進路を遮るように、意趣返しな狙撃が襲いかかる。
見えず、届かず、そして誰を狙っているかわからない。
心理的な抑圧を与える狙撃の力を借りて、自身は退路ではなく援護へと飛翔する。
二人が切り結ぶ上空、王都よりの何時でも逃げれる範囲へと陣取りながら、その様子をうかがおうとした。

サロメ >  
ただの鎧ではない、それは理解っていたが
修復するかのように元の姿を形作る鎧と、その言葉に成程と内心納得するが…

「何だと…?」

見覚えがあるかもしれぬ、という言葉に瞬時、考えを巡らせる
──色こそ変わっているものの、あれは……過去、王国の騎士団長が身につけていた退魔の力を持つ神聖鎧に酷似している

「皮肉とも、侮辱とも挑発とも取れるな。……乗らんぞ、捌かせてもらう」

先程までと違い鋭く、素早く繰り出され始める黒き剣
それを流水のように往なし、打ち合う
こちらは大剣、とはいえ体格も基礎的な身体能力も違う
それでも鍛え抜かれたその腕で巧みに剣を振り、剣戟を繰り広げる
その間も発生し続ける冷気はラボラスへと纏わりつき、腕や脚を氷結させてゆく
動くたびにそれが砕かれようと、多少は出だしが遅れるだろうと、それが打ち合いの均衡をも保っている

──打ち合いながらも術式を練り上げ、次に少しでも間が相手ならば至近距離からの神聖魔法を炸裂させる心積もりに

ラボラス > (急所の二つを正確に射抜かれたオーガは、ビクビクと痙攣めいた動きを繰り返して床へと這う
物質的な銃弾では無かった分、死んでは居ないのだろう、が、少なくとも立ち上がる気配は無いだろう
魔眼持ちのサキュバスにとって、眼は、視界は、最も重要な器官でも在る
其れ等を塞がれた時点で、趨勢が傾いたのは明らかだろう、何処から飛来するかも判らぬ銃弾の雨が
一人、また一人と淫魔を撃ち落として行った。)

―――クク、如何取ろうが好きにしろ。
貴様等、自らの都合の良い歴史の中で生きる種に対して
俺なりの皮肉で在る事は否定せん。

(纏わり付く冷気が失せた訳では無い。
四肢に絡みつき、常にその動きを凍結させようとする其の力は、絶えず己が動きを鈍らせ続けて居る筈だ
だが、至近距離で剣戟を交わす女には気付けるやも知れぬ、其の冷気が次第に、「消されて」居る事に。
魔力の消失、中和では無く、冷気の存在其の物が少しずつ消滅して居るかの如く
そして、その消滅の度合いが、剣戟を交わす程に強まって居る事に。

女の持つ魔剣の力が弱まって居る訳では無い、ただ、先刻よりも、黒の巨躯が携える剣の
其の禍々しい魔力が増している、唯其れだけだ。

――再び、剣と剣がぶつかり合う。

其の瞬間、今度は明確に、一瞬では在るが、周囲から完全に冷気が消えた筈だ。
そして、確信に至れるだろう。 冷気を消して居る其の存在が、鎧では無く、剣であった事に。
其の剣が振るわれる毎に――「冷気」と言う概念が、切り捨てられて居る事に)。

ご案内:「タナール砦」からサロメさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からレナーテさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からラボラスさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」にレナーテさんが現れました。
ご案内:「タナール砦」にラボラスさんが現れました。
レナーテ > 倒れたオーガを尻目に、マシコ達は集落の方へと離脱していく。
サキュバス達を足止めする狙撃をみやりながらも、此方は二人が切り結ぶ現場の上へ。
周囲に溢れる冷気、そして、怒涛の斬撃がぶつかりあう衝撃が、ここまで届きそうな程に激しく映る。
しかし、遠くから見れば、相手の動き…というよりは、状況がおかしいことに気付く。

(「凍っていない……?」)

ピントを絞るように目を凝らすと、四肢へ絡みつく冷気がそれほど効力を発揮していないように見えた。
それだけなら耐性の一言で片付くが、問題は表面に起きるはずの霜や氷が無いことだろう。
消されていくその状態を、親しいもので見た記憶があった。
それがなにかと思いながら魔法の射程へ取り付こうと高度を落としつつ、レンズに浮かぶ光点を彼の頭部へと定めていく。

ご案内:「タナール砦」にサロメさんが現れました。
サロメ >  
「(どうした、冷気が薄れているぞ、ゼルキエス)」

打ち合うたびに、魔剣から発せられる冷気が薄れてゆく
心の中で魔剣へと語りかけ、再び剣を振るう

『妾の機能に問題はない。お前が斬り結んでいる相手が何かしているのだろう』

自身の頭の中で響く言葉がそう告げる
普段無言なこの魔剣が珍しくはっきりと言葉を返した。──その瞬間

「っち…!」

咄嗟に組み上げていた神聖魔法を片手から放ち、至近距離で炸裂させ後ろへと転身する
……今この一瞬、間違いなく剣から発していた冷気は消え失せていた

「──なるほど、本命は鎧ではなく、その剣だったか」

頬を小さく汗が伝う
巨躯を相手に重ねた打ち合いに、僅かにその息を乱しながら、眼前の魔族を睨めつける
それに気づいた後にも、一切その闘志が揺らぐ様子は見せず、再び大剣を構えなおす
己のもつ氷の魔法と魔剣が通用しない、というのなら

「…ならば剣技で圧倒するまでだ」

ラボラス > (強烈な冷気、床面や外壁は既に凍て付き
其の余波は間違い無く砦を包まんとする程だった。
今も尚、その魔力の、冷気の出力は決して収まっては居ない。
其の中でも尚、凍り付く事無く斬り結び続けて居る巨躯は
空より見下ろす鷹の眼には、果たして如何映るだろうか。
中和、抵抗、解消、其のどれも表現としては当て嵌まらぬ現象
冷気と言う存在其の物が、無かった事にされている其れこそが――黒き魔剣の、力。)

貴様の魔剣、其の力は間違い無く魔を断つに相応しき力だ。
―――だが、其れだけでは足りぬ。 俺を越えるには足りぬ。
「頼って居るだけ」では、俺は越えられぬ。

(――炸裂した、至近距離での神聖魔法。
判断としては此れ以上無いほどに正しい物であったろう
冷気が消えた瞬間、押し留められて居た動きが、全力を以て女の首を狩りに掛かったのだから。
胴体へと直撃した魔法が、禍々しい鎧を先刻よりも確かに溶かす。
煙を上げる程の熱量が一瞬巨躯を包み、其の身体が僅かに後退する。
然し、其れでも怯む事無く、女の姿を見据え続ければ

――其の姿は余りにも悠然と、空からの、狙撃のレンズには、余りにも容易い的の様に、映るはず、か)。

レナーテ > 周囲にはその余波が広がり、建物や地面に冷気の爪痕が折り重なっていく。
その冷たさは空にいる自分にも届きそうなほど強烈なのに、あの黒い将にはまるで影響を及ぼしていない。
消える、その症状を見続けて脳裏に思い浮かんだのは半年ほど前に起きた出来事。
自分に銃を教えてくれた同い年の師であり、大切な友人。
その娘の心の臓が破れかけるほど凶悪だった、蒼き炎が本来持っていた『焼き尽くす』力。
脳内で結びつく全てに、目を見開いていく。

『ユーレック、あれは蒼月の力とほとんど同じです。ただ、あれは消す事自体を直接発生させていますが……』
『なら、あの女は蒼月の契約者と同等でなければ、勝負にならない』

――恐らく、彼女と友人が刃を交えれば、強さは彼女に軍配が上がるだろう。
だが、強いという意味の力以外を発揮するなら、強い事自体を消されてしまう。
どうすればよいか、それを考えなからポーチから取り出したのは青色を帯びた鴉の羽根。
それをぎゅっと握りしめれば、脳裏に浮かぶ誰かへと声なき声を届かせていき、紐で銃にそれをぐるぐる巻きにくくりつけていった。

「っ!」

眼下で繰り広げられる戦いの中、相手が魔法で怯むことなく斬りかかろうとしていく。
それを見やれば躊躇いなく引き金を引いたが、放たれたのは先程までと違う、紅ではなく真っ青な炎弾だった。
もし、彼が同様の力を使うものなら、炎の気配に気付くかもしれない。
同じ様に、魔そのものを、存在自体すら『焼き消す』為に生み出された、禁忌であることに。
そして、器をなさぬ自身が羽根を経由して放てばどうなるか、その一発で心臓を握りつぶされそうな激痛を覚え、顔をしかめながら震える。
しかし、その背から飛び降り、風をまとって女将軍の後ろへ立つと、掠れた呼吸を吐きながら銃を構えた。

サロメ >  
己の首を狙った一閃は髪を数本切断する
転身し僅かな距離が開けば剣を眼前へと構え直し

「(──術式構築、聖魔法付与<エンチャント>)」

サロメの持つ大剣の宝玉が輝く
魔法の増幅器としても機能する魔剣ゼルキエス
その機能自体は、確かに失われていなかった
剣を包んでいた冷気は消え去り、代わりにまばゆいばかりの神聖の力が宿る
同時に光は自身の身をも包んでゆく、攻撃力だけでなく防御力までも一時的に増幅させる、魔法剣士の本領だった
これならば、相手が魔族である以上、斬撃が通りさえすれば大きな効果を発揮する筈──

「…!!」

仕掛ける、と姿勢を前傾にしたところで、ラボラスに向け放たれた蒼い炎の存在に気づき立ち止まる
そして、自身の背後へと降り立つ気配にも──