2018/11/23 のログ
■アマーリエ > 盾を背中に担ぎ、通信魔法を起動する。
光の群れが幾つかの本の頁のような枠と文字の連なりを描き、遣り取りが成立しているものから順に色を変える。
飛行する竜騎士達自身も規定した水準、或いはそれ以上の魔法の使い手であるから出来る代物だ。
そうでなければ、接近しないと声を飛ばしても風圧にかき消されるコトだってある。
四騎から、それぞれ「制圧完了」の旨を聞きつつ、満足げに目を細めれば。
「……あら?」
緩慢な動きで、漸く一騎分が出入りできる隙間が城門より声が響く。
知った声ではない。――あれ、こんな声音のヒトって雇っていたかしら?
直ぐに思い出せない。否、違う。
今回の奪回戦の後続部隊に含む輜重部隊の護衛にどうしても動員できる人数が足りず、臨時で何人かの傭兵を雇った。
己のスタンスとして人品は選ぶが、種族は選ばない。
速度のままに突入してくる、独断専行騎となれば残存する魔族兵もまた浮足立つ。
嗚呼、とその有様を眺め遣りながら指笛を吹けば、上空を舞う白竜が己の近くに飛来する。
下まで頼むわ、と告げて数瞬だけその背に飛び乗り、城門から一直線に通じる中庭へとさらに飛び降りる。
魔族の国側へと逃げまどう姿は追わず、抜けさせるままにしながら、丁度見事な一騎掛けをする人馬の視覚内に降り立つ。
「そこまでよ。働きは見事だけど、働きすぎも良い所だわ」
――と。どこか困ったような風情の笑い声を織り交ぜながら、嗜めるように言葉を投げよう。
■ジェネット > 作戦に則って規律正しく展開し、城内の掃討と制圧のための歩兵隊を引き入れるため機動する正規軍の騎兵部隊を置き去りに、
敵が多い方に行けば大将首なり先行した竜騎士なりが居るだろうと短絡な発想で
じりじりと後退する敵兵を蹴り飛ばし、殴りつけ、貫きながら駆け抜ける。
――魔族とやり合うのは初めてだが、まだ帝国の辺境守備軍のほうが精強だな。
と故郷に想いを馳せながら、一際目立つ旗を掲げて退く敵の一隊に向けて進路を変え――
ようとした所で、見事な鱗の白い竜が眼前に降り立つ。
確か今回の雇い主、第なんとか師団の部隊長の竜だったか。
雇われとはいえ上官、無視して横を抜けるわけにもいかなければ、まして轢いて行くわけにもいかない。
そも、本隊を離れたのは竜騎士見たさでもあるわけで、制止されれば前脚を跳ね上げ後ろ脚で立ち上がって急制動。
「……おっと。いや、働きすぎではあるま……ありますまい。
取って取られて、削り合いが本懐であるならば将校を討たねば出血はさせられませぬ。
兵卒はどういうわけかいくらでも湧いてくるらしいですからな!」
とすん、と四本の蹄で地面に立って、槍を地に突き刺し盾を立てかけ、背負った大弓を構えて矢を番え、
「とりあえずこれで最後……と!」
びゅん、と弦が風を切り、矢を撃ち出す。
遠く退いていく目立つ旗の一隊、その指揮官らしい敵兵――の、横の副官の頭を後ろから貫き砕いて、その身体が落馬するのを見届けて。
「うぅん、この距離では流石に外すか、兄さまや大父のようにはいかないな……
と、それで何の話でしたか、隊長殿?」
弓を背負い直し、兜のバイザーを跳ね上げて目を見せながら竜騎士に問う。
■アマーリエ > 今回の戦術については、この師団が発足してからの基礎に則ったものだ。
精鋭の竜騎士隊で先陣を切り、敵陣に痛打を与える。
その痛打を以て半ば制圧まで至れば善し。後続の騎兵、荷馬車に乗った歩兵を後詰としてその制圧を確定事項に至らしめる。
……筈だったのだが、真逆今回確保した傭兵がここまで突撃上等吶喊型とは思っていなかった。
作戦として確実に成さねばならないことは、この砦の確保だ。
内部に仕掛けられた罠等の調査もあるが、其れはさらに後続する新たな駐留部隊への引継ぎでも済ませればいい。
退いてゆく敵兵の後追いは無用だ。敵兵とて、愚かではない。
突出した先に何か罠等を仕掛けている可能性もある。故、己の権限を以て制止する。
「そういう考え方は嫌いじゃないわ。
けれど、独り駆けの突出までは注文の内には入れていなかったわよ。……って、もう」
脳筋というのだろうか。
肩を並べて戦うならそういうロジックは嫌いではないが、いざ兵を従えるものとなれば扱いに悩ましくなる。
見慣れぬ意匠の装甲を纏った馬体もそうだが、披露して見せる弓の巧みさは見事。
だが、話を聞いていなかった様子に溜息を突けば、笑うように背後に控える白い竜が唸る。
「暇を持て余すなら、上で見張っていなさいなトルデリーゼ。
ついでに第一小隊の頭に作戦終了、確保領域の警護に当たれと伝えて頂戴。
――遣り過ぎって話よ。それと、師団長よ。第十師団の師団長。つまり、あなたたちの雇い主」
一先ず、此れで残存の兵は気にせずに良くなった。
手にした剣を腰の鞘に納め、竜の鼻先を拳でこつんと叩いて言伝を頼み、上空に飛ばしながら兜を脱ぐ。
納めていた長い金髪を首を振って広げながら、件の人馬騎士の方へと歩んで物珍しげに装具を見遣ろう。
ついつい、装甲の端や馬体にぺたぺたと制止されなければ、触ってみたりもするだろう。
■ジェネット > そうか、正規軍というのはそういうところがしっかりしているのだなあ、などと。
民間の雇われ私兵としてやっていた頃は、戦果を挙げれば挙げるだけ上等だったし、
それより前、遊牧民の氏族として戦っていたころもそれは同じだった。
軍属というのはしっかり統制されているのか、道理で敵に回すと手強いわけだ、と手を打って。
「やりすぎだったか、失礼……あー、師団長……かっか?
うん、雇い主だというのは判っていたのだが……ですが、階級とか役職に疎いので」
申し訳ない、と頭を下げておく。
貴族に顕著だが、人間族はやたらと肩書を重んじるところがある。
次からはきちんと師団長閣下と呼ぼう、と忘れっぽい頭の片隅に記しておいて。
飛び上がる白竜を見上げて、吹き付けられる羽ばたきの風に見事と零してその姿を見送って。
視線を戻せば、師団長閣下は鎧や馬体を物珍しそうに触っていた。
珍しいものを見るような扱いはもう慣れたものだが、
さっきまで凛として軍人然としていた師団長の振る舞いが妙に子供っぽくて苦笑してしまう。
「人馬……王国風に言えばケンタウロス、ですが…………珍しいですか、閣下。
私にすれば竜のほうがよほど珍しくて興味を惹かれるものですけど」
■アマーリエ > この第十師団はどうしても編成上偏った面があるが、その分統率がしやすい。
他所の師団については知らぬことばかりであれば、知れば学ぶこともたくさん出てくるだろう。
だが、組織の常として大きければ、末端まで伝達を行き届かせることに苦労する。
足が速く、即応できる体制を整えている竜騎士達に後続できるようにするのも、訓練も含め事前の準備があってのこと。
「砦から追い出す程度で善かったのよ。
あなた、勢い任せは良いにしてもそのまま突っ走ってしまいかねなかったもの。
嗚呼、んー……閣下、と呼ばれるのもこそばゆいわね。
私はアマーリエ。アマーリエ・フェーベ・シュタウヘンベルク。――今のこの時なら、名前だけでいいわ」
立場が上であること笠に着て言うのではなく、どちらかと言えば目線を合わせた風情で声をかけ、笑おう。
肩書云々に疎いのは種族故ではなく、気質故のものかもしれない。
薄紅を引いた唇を綻ばせながら笑って、最近呼ばれることもある肩書の響きを己の名に書き換えるべく名乗る。
以後、お見知りおきをと。一旦興味任せの手つきを止め、一礼をしてみせて。
「逆に言えば、見慣れたほど珍しくなくなるのよ。
あなたみたいなヒトは冒険者をやっていた時に見かけたけど、こんな風に話す機会は無かったの。御免なさいね。
……立ち話も何だから、あちらにでも行きましょうか」
素直に珍しい、と。そう告げつつ中庭にある倉庫めいた建物を指差そう。
天井も高そうな建物は臨時の厩舎代わりだったのだろう。
■ジェネット > 「偉い将軍たちが歴代そういうふうに取り合っているならそうなのだろうけどな……
しかし、兵の血は無限に流せるものじゃなかろうに……と、おっと。
失言でした、お許しを。……まあ、ええ。草原の流儀としては大将首を取るなりするまで追い立てようかと思わなくも」
素直に追撃するつもりがあったことを認め、
兜を脱いで脇に抱え、素顔を晒したうえで軍の和を乱しかけた独断専行を詫びるように頭を下げる。
「はい、アマーリエ殿。私は草原の偉大な戦士の一族、コーサー氏族が大父の妾子、ジェネットといいます。
先程の騎竜捌き、騎馬を得手とするものもある草原の民としても見事なものでした。ああも竜と一体になれるとは、憧れますな」
――一体になれるのが羨ましいとて、上半身と下半身で別々に意思がある、というわけではない。
己にもああも心を通わせられる騎手があれば、といった憧れ。
幾人か背に乗せても構わないと思う顔は浮かびこそすれ、生涯の伴侶にして主たる騎手を任せられるかというとそこまでの仲ではない。
アマーリエ師団長に礼を返して、良い主を持つ白竜が消えた空に果報者め、と視線を遣って。
「……この国は山がちですからね。
帝国やそれこそ草原に出ればもっと多くを見ることもできるでしょうが、好んで起伏に富む王国に住もうなどという同胞は中々。
私も我が主にふさわしい騎士を見つける、という目的がなければここまでは来ることも無かったでしょうし」
だからこそ、珍しいもの扱いは慣れている。
特に気にしないから大丈夫だと頷いて、槍と盾を回収すると促されるままに厩舎へと歩いていく。
■アマーリエ > 「――ふふ、聞かなかったコトにしてあげる。
追い立てた処で私が向こうの頭なら濠やら騎兵殺しの縄仕掛けなど、置いていてもおかしくないわ。
数日はこの砦を確保しておけるなら、念のため探っておきたいわね」
素直に頭を下げる姿を見れば、良いのよと鷹揚に頷いて頭を上げさせよう。
聞こえてくる言葉もつくづく自分ばかりではなく、歴戦の兵や指揮官もまた思う処であろう。
兵とて無限に収穫できるわけでもない。その分を賄う兵糧やら支払う給与等、何処までも問題は付き纏う。
一先ず、最終的に獲得したい“結果”を恙なく得ることができた。其れが重要である。
「コーサー氏族の――ジェネット、ね。よろしく、ジェネット。
あそこまでできるようになるまで、苦労したわ。
あの竜、元々は辺境を荒らしていた竜だったから、調伏するまでどれだけ手間暇かかったか」
女同士の言葉の付き合い等、それらを含めでできるようになるまで相応の時間をかけた。かけざるをえなかった。
壊滅状態の隊を立て直すにあたって、少しでも強力な竜を押さえておく必要があったからだ。
次第によっては武力に訴えることもしばしばで。言葉巧みに、というのも難しいこともあった。
舞い上がった白竜が他の竜を経由し、念話を伝達してゆけば他の騎士たちも動く。
後は任せてもいいと判断すれば、必要時に向こうから呼び出されるのを待てば事足りよう。
「まして、街に住まうことまで考えたら……そこまでするというのは結構奇特ね。
騎士、ねぇ。中々見つからない?いい男とか女とか」
向こうの頷きを認めつつ、屋根と壁のある仮設宿舎と云うべき風情の建物に入る。
臭気は其処まで強くないのは左程使われていない証だろう。
備え付けのテーブルに兜を置き、盾を立てかければ一息がつける。
■ジェネット > 「あー……」
罠。その可能性を完全に無視していたわけではないが、軽んじていたのは事実だ。
通常の馬より高い視点、通常の騎兵より捷い反応速度。
人馬という持って生まれた騎兵としての身体的なアドバンテージにあぐらをかき、只の騎兵にとっての脅威を取るに足りぬと考えていたのは否定できない。
――が、ここは意味があるのかもわからないほど幾度も取り合いを重ねられた主戦場。
罠のたぐいは入念に隠匿されるだろうし、その巧妙さも洗練されていることは今なら想像に難くない。
「……止めて頂きありがとうございました。
志半ばで屍を晒していたかもしれないところを助けていただいたこと、大恩として忘れません
重ね重ね、出過ぎた真似をして申し訳ありませんでした」
そしてそんな恩人に、王国軍への漠然とした不満や不信感をぶつけてしまったことを改めて恥じ、詫びる。
「は、宜しくお願いします。
…………辺境の暴れ竜、ですか。彼女にはシンパシーというか、なにか感じてしまいます。
いや、彼女にすれば人馬ごときに親近感を覚えられても迷惑でしょうが……」
人馬族、こと帝国領に接する戦士の一族らは、帝国人にしてみれば辺境を荒らす知能ある魔物のようなもの。
仮に己がかの竜の立場だとして、帝国の戦士に捉えられたとして――
あそこまでの信頼関係を築けるだろうか。そう思うと、アマーリエ殿の努力や才覚、人柄を知れるような気がした。
「街には中々馴染めないもので、街道沿いの宿を転々としております。
この見た目だとやはりすわ魔族かと驚かれますし、そういう亜人への当たりが強い土地のようで。
冒険者や傭兵に交じるのが今の所一番気楽ですな。人化の術は得意ではなくて」
耳と尾が、どうしても丸出しになってしまうのです、と苦笑しながら厩舎に。
半ば癖のように、馬房に歩いていってそこに収まろうとして、はっと気づいて引き返し、アマーリエ殿の側に戻る。
それから兜と盾、槍を置き、結わえた髪を軽く手櫛で梳いて戦の名残を振り落とす。
■アマーリエ > 「気にしなくていいわ。痛い目を見る教訓より、話して気づくコトで済むなら何よりよ。
探ってみたら結局何もなかったかもしれないけれど、死ぬよりはね。まだマシよね」
この場合の死ぬ、というよりは騎兵としても死ぬということも含んで諭す。
歩けなくなった軍馬は殺すしかないことだってあり得るのが、戦場の常である。
癒えるのかもしれないにしても、元のように早駆けができなくなった人馬に価値があるのか、否か。
細かく考え出すと、それはきっとキリがない。
はたはたと手を振りながら、大仰にしなくてもいいと答えて。
「古代語が話せるなら、話してみる?
波長が合えば思うだけで話せるかもしれないわ。あの子、根は結構ぐーたらだから、余りきにしないわよ」
人馬族による害の報告は己も書面の上で幾つか読んだことがある。
その程度の事態に対し、竜を投入するという暴挙に及ぶことは無いが、話だけで済むのならそれに越したことは無い。
一言で無茶というべき提案を冗談交じりに投げ遣りながら、当人ならぬ当竜のことをそう評する。
難しいことをあまり気にしない、解さないというのは野生に生きる竜らしいのかもしれないが。
「難しい処ね、昔からその辺りは。
って――厩暮らしが長いからって、そこまで徹底しなくたって良いわよ。
でも、自分の馬を持つならあなたみたいな仔が一番良いわね。乗りこなしがいがありそう」
尾は兎も角、耳は難しい。ミレー族と間違われることも多いのではないか?
そう言いながら、馬房に日常のように向かうと伺う自然な流れに困ったように笑う。
手櫛で髪を梳く仕草に使う?と持参していた櫛を物入れから取り出しつつ、また馬体を撫でたり眺めたりすることに掛かる。
大人しい馬よりも、勢いのある位がきっと愉しい。今の自分の竜もまたそうだったから。そんな手は臀部側にも構わず移る。
■ジェネット > 「…………ええ、騎兵、騎馬として終わればその時はどこかの草原で狼にでも喰われる最後が良い。
ですが、まだその時ではない、と思います。あるいは、死んで終わるより繋いで終わるほうが良いのでしょうが」
脚を怪我した人馬は、こと草原では足手まといだ。
牧草地を移す時、その場に留まり喰らいに来た狼をなるべく屠って死ぬのが作法。
自分の番がくればその流儀に則るつもりだが、そんな番は来ないほうが良いのが本音である。
思い返せば思い返すほど迂闊極まる振る舞いに、正規騎兵より速く駆けられるという事実に酔っていた驕りを自覚した。
「古代語……語学は苦手で。というか勉強が苦手なもので、さて……」
話ができるならば楽しかろう。けれど、果たして彼女と通じあえるかといえばその自信はない。
周囲から似ていると評されたり、自身がそのように思ったからといってすとんと波長が合うわけでないのが人間関係というものだろう。
それに、万が一奇跡的に話ができたとしても、アマーリエ殿との間に割って入る趣味はないのだし。
フリーの竜がいれば紹介してください、と冗談めかして肩を竦め、差し出された櫛に軽く頭を下げつつ遠慮の意を示す。
あまり町娘のように身なりに気を使うわけではない。
不潔でないように気をつけこそすれ、美しくあろうだとか、外見を褒められたいという欲は薄いのだ。
一方で鎧の外観には妙に拘ったあたりが、ジェネットという人馬の戦士の価値観の典型例であろう。
「ご冗談を、アマーリエ殿がこの上馬まで持てば彼女が嫉妬するでしょう。
馬肉ステーキになるのは御免ですよ」
ミレーに間違われるのが怖くて中々大きな集落には入れないのです、と苦労を零しながら、アマーリエ殿の冗談に苦笑。
ある程度気を許した相手に馬体を撫でられるのは嫌いではないし、数少ない趣味――というか、好きなことでもある。
馬鎧の間から毛並みを撫でる手に気持ちよさそうに目を細め、ふぅぅと長い吐息。
その手が尻に回っても、それが馬体の範囲である間は蹴ることもせずおとなしく身を委ねる。
■アマーリエ > 「種としての誇り、か。
きっと……いえ、そんなときは来ないわよ。教訓を学んだなら、ね」
その辺りの価値観はやはり、人間よりも体躯そのものが体現しているものに近いのだろう。
こういうものだと考え、語る言葉からそのように察し思う。
勿論、折角知った相手がそのような形で終焉を迎えるのは己とて希望しない。
兵を束ねる長としても、だ。数手先の展開を思えば予測できうる事象の対策が出来ないのは、愚の骨頂極まりない。
「其れは困ったわ。うちの師団、竜騎兵を募る際は厳しいのよ。
おあつらえ向きに一騎、教練中の子が居るのよね。気が向いたら会ってみる?」
言語通訳の魔法の仕込みや、あるいはもっと単純に自分が通訳するというのも手であるのだろう。
櫛を遠慮する姿に分かったと頷いてしまいつつ、あら、と。冗談めかした言の葉に目を瞬かせて、奇遇という言葉の意味を思う。
良くも悪くも戦士だ。戦士がその装いに拘るのは当然のことである。
自分も竜騎士が好みそうなスケイルメイルではなく、白銀の目立つ鎧を軽装甲として纏っている。
戦場に立つ騎士の頭としての誇りである。矢面に立つことで盾を構え、注意を引くことも戦術のうちだ。
「そんなものかしら、ねぇ。――でも、腕の立つ騎兵の類は幾ら在っても困らないのは本当よ。
ン、櫛より、ブラシの類に持ちあわせがあれば良かったかもしれないわね。近くになかった……無いか」
良ければ、宿ついでにうちの本拠を使うか?と。そう言葉を足して問うてみよう。
その代わりに傭兵の仕事を斡旋すれば、使う際の名分には困らないだろう。
近くにお手頃なブラシの類はないが、気持ちよさそうな息に笑って指を立ててちょっと強めに毛並みを撫で、整えてみよう。
引き締まった馬体は上に人の躰があろうとなかろうとも、戦士の端くれとして眺めていられるものだ。
■ジェネット > 「……ありがとうございます。
おかげで、罠に掛かって惨めに死ぬ末路は少しは遠のいたと信じましょう」
世の中に絶対はない。
気を配ったとて罠に掛かる時は掛かるものだし、単に戦の手傷や転倒などの事故で騎馬人生を終えることもありえない話ではない。
ただ、雇い主と傭兵という関係ながらに心配をしてくれるアマーリエ殿への信頼感は、確実に胸のうちに芽生えていた。
「それは、そうでしょうね……あの空中機動、相当の練度と素養が必要でしょうから。
それに竜に興味はあれど、私は乗るより乗られる側が……こほん。失礼、今のは失言でした」
ただ、フリーの子には会ってみたいです、モノの試しということで、と面会をねだりつつ。
男前ですか、なんて冗談ついでに聞いてみたり。
しかし、アマーリエ殿の甲冑も洒落ているなあ、
さすがは王国の将軍、装備も一級品か。と鎧を想ったついでに内心で褒め称える。
なんだかんだ子供の頃から使い込んでいる武具一式、愛着もあるがたまには全く別のものを試してみたい気持ちもある。
買い揃えると高いので、東方の鎧の一部を元の鎧に組み込んでイメージチェンジを試みたりしたのだが。
これはこれでお気に入りだが、新しいものも欲しいものは欲しい。
「竜騎はいろいろと難しそうですからな。
今暫くは陸戦が主体、騎兵が主役であれば幸いです。私達の見せ場を奪われずに済む。
……ブラシはダメです。
――本格的に気持ちよくなっては、動きたくなくなるので」
師団の拠点を使わせてもらえるならば願ったりのお誘いだ。
それに頷きながら、でもブラッシングは駄目ですよ、と再度念押し。
今一番欲しいのは、王都に居を構えることができる金と術、そして仕事。
いろいろと俗っぽく疚しい目的があるものの、それを軒並みクリアしてくれる誘いには二つ返事で頷く。
それはそうと、騎竜と騎馬で種族は違えど、さすがは生き物に乗る騎士。
馬体への手櫛の心地よさたるや、すっかりメロメロにされてしまいそうだ。
■アマーリエ > 「それなら良かった。会ったばかりでも、知り合いが死ぬ目に遭うのは嫌よ」
弁えている。
死ぬときは死ぬのだ。強壮を誇ったものだって、情けない理由で死ぬのであるから。
しかし、怯懦と謗られても注意を払うだけで致死を避けられるなら、寧ろ安いものであると思う。
言葉を交わし合えるということは、信用を払うに至るきざはしでもあるから。
「うふふ……聞いちゃったわ。気が合うわね。私も乗られるより、乗りに行く方が好きよ。
慣れないうちは、空の上で吐くことだってあるわねぇ。
今訓練中の子は男前って言うより、結構強面よ。火竜の系譜かしら」
訓練中でも見物人を入れられない訳ではない。
そも、最終的に自身の騎竜に出来るかどうかについては、竜自身が認めるかどうかにもかかる。
実年齢に見合わない仕草で笑った後、慣れないうちの情景については、ふっと明後日の方向を見ながら遠い目をしてしまう。
紳士淑女お構いなし、だ。
船酔いとは別ベクトルの三次元機動、高度によっては未対策だと空気の薄さと寒さに悩まされることも起こりうる。
鎧を見る目に、こて、と。何処か子供めいた仕草で首を傾げ。
「そうねぇ。値でいうなら騎兵よりも値が張るわ。騎士の練成も飼料代だって――馬鹿にならない。
だから、あなた達騎兵も居なければ、今日みたいに最終的にコトは速やかに成せない。
――そんなこと聞いたら気になるわねー。
と、冗談はさておいて、本拠に戻ったら許可状を私の名前で一筆認めてあげる。
そのかわり、出来たら面倒がない範囲で依頼を受けてくれれば嬉しいわ」
駄目と云われたらやってしまいたくなるのが、人情である。
ますます目を輝かせて、いたずらっ子のような顔になりつつ、こほんと咳払い一つで表情を戻す。
所属しろという強制はしないが、此方からの依頼を発布することがあれば受けて欲しい、などと。
そんなことを話しつつ、毛並みを堪能した後に部下からの内部調査に問題ないの報告を受ければ、この砦を後にすることだろう。
行きも竜ならば帰りも竜。白竜の行く先を追えば見つかる王都郊外の館に、その足を運べば口にした通りの書類を出そう。
仮宿ついでに術も学んでゆけばいい等とも話したのち、この場を後にしたか――。
ご案内:「タナール砦」からアマーリエさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からジェネットさんが去りました。