2018/09/27 のログ
■ラボラス > (――タナール砦を、恐らくは独断で只管に攻め込んでいる魔族の軍が居る。
魔族側に其の一報が流れ始めてから暫しの間、砦へと表立った進軍は控えていた。
理由は明白だ、戦場に、指揮官は二人要らぬ。 彼の軍が敗戦を繰り返しているのなら兎も角
圧倒的な兵力で砦を強奪し、人間達の領土にまで迫らんとしているならば、其れは十分に過ぎる戦果だ
故に、他の戦場を駆け巡り続け、静かな侵攻を繰り返して数か月。
――砦の付近にまで訪れたのは、人間の感覚で言うならば、久方ぶり、と為る。)
――――――今は向こう側が占拠しているか。
(砦を望む場所、彼方に其の影を捉えた地点にて、集団の先頭に立ちながら
傍らに居る側近へと、彼の軍は動いて居ないのかと問いかける。
先日、動きを見せて砦を占拠したらしいとの報告は返って来たが
もし、彼の軍に関わる話が本当ならば、既に王都への進攻を断念し、撤収したと言う事だろう
砦の防衛は行わぬと聞いているが、如何やら其れが本当の様だと確かめれば
ゆっくりとした歩みで、行軍を率いて距離を詰める。
――一度、右手を掲げ、其の行軍を停止させた。
その動作に従い、一糸乱れぬ統制で行軍を止めた兵達は、疑問を差し挟む気配も無く、次の指示を待ち。
刹那。)
――――――…………ふっ…!
(左腕を、振るう。 纏う漆黒の鎧、其の手甲部にて、高速で飛来する熱源を叩き落とす様に。
刹那、弾け飛ぶ火花が一瞬、人間側の観測手、そして狙撃手にも確認出来るだろう。)
―――……良い腕だ、俺を狙うか。 ……正解だが…然し、不正解でも在る。
(――手甲の表面が、ぱらぱらと欠けている。
標的の選択も、狙撃も、戦術としての選択も何もかもが最善と言えるだろう。
ただ、結果が伴わなかった。
故に、其の代償は決して安くは無い。
直後、砦側の通信連絡に一報が入る事だろう。
接近して居た筈の魔軍が――『突然視界から消えて仕舞った』と)。
■レナーテ > 『あれっぽくない?』
『あれっぽい』
軍勢が見え、距離が詰まっていく中、一人だけ雰囲気の異なる魔族が居た。
黒尽くめの鎧姿は、城にあった戦士の彫刻を思わせる逞しさに満ちており、金の瞳から感じる貫禄は他の者とは全く異なる。
観測手と射手、二人一組が2チームで探りながら見つけた彼へ狙いを定めていくと、単眼鏡にその姿を捉えていった。
『私頭いく』
『じゃ、胸いっちゃう』
まるでカフェのオーダーの様な軽い口調だが、口走る内容はなかなかに殺伐としている。
獲物を見つけた猫科の獣が如き目付きで狙いを定めると、手を振り上げて止まった瞬間、同時に魔法弾が放たれる。
狙撃用に可視性を限界まで下げつつ、圧縮と火力を高めた魔法弾はまっすぐに彼の胸と頭部目掛けて直進し、交差するはずだった。
『にゃっ!?』
『弾かれたっ!?』
『すぐ引いてください、狙われたら殺られます』
ピンと猫耳を尖らせながら射手の少女達は、彼の腕のひと振るいに瞳を見開く。
普段は賊相手に撃つことも多く、完璧な狙いを防がれたのは今までになかった。
指示されるがまま射手の少女達は身を低くしながら、ライフルを背負うと、茂みの中を静かに駆け抜ける。
同時に、狙撃後の様子を確かめていた観測手の娘からは信じがたいメッセージが飛び込んでいく。
『レナちゃん、敵消えたんだけど…?』
『ホントだよ! 手品みたいに消えちゃったよ!?』
獣化の力を発動させ、獣の如き加速力を一時的に得ながら少女達は一目散に砦へと引いていく。
その合間に飛び込んだ言葉に、重ねるはずだった攻め手を一瞬止め、鳥の背の上で思考を巡らす。
転移で移動したのか、それとも何かの術で姿を隠しているのか。
報告から浮かんだのはその二つだが、一番最悪な手段はどれかを冷静に脳内でシュミレートしていった。
一分に満ちるかどうか、それぐらいの合間眉間にシワを寄せて考えた結果、少女達へと指示を飛ばす。
『給仕の娘は消耗品の装備以外を乗せたまま、撤退してください。狙撃以外の娘は、量産した攻撃薬瓶を防壁状まで運んで待機です、あと誰か師団兵の指揮官さんに撤退の旨伝えてください。狙撃の娘は観測の娘と一緒に、周囲警戒を』
りょうかーいと間延びした愛らしい声が重なる中、こちらも次の手に動く。
念話の領域を切り替え、集落の方へ撤収装備の隼をお願いすると相棒と共に空へと舞い上がっる。
耳打ちするように指示をかければ、わざと目立つように翼から火の粉を散らし、夜空に煌々と赤色を輝かせるとホバリングするように翼が空を叩き、零れ落ちる炎が玉となって放たれていった。
『これでいいのか?』
「はい、隠れて移動してるなら、多分動きがあるはず……です」
もし転移で攻撃に出るなら、砦の中に姿を表しているはず。
しかし、まだ砦内で騒ぎが起きた気配が無いことを見ると、その可能性は低め。
逆に逃げたなら、確かめようがないが時間経過で逃げたのだろうか?程度に予測はできるはず。
そして、姿だけが消えているなら……今も静かにこちらへ進軍を繰り返しているはず。
消えた地点と砦の合間の地点へ、探り撃ちに火の玉を放っていけば、姿があれば何かしらリアクションがあるはずと考えたのも、避けたのではなく弾いたという言葉から導き出した答え。
当たったら多少なり怪我をするから弾いたとみるなら、炎でも肌が焼けるのを恐れ、弾くかも知れない。
散弾と言った様子に、手毬程度の火球が無数に降り注いでいく。
■ラボラス > (兵としての練度、勘、何よりも超遠距離からの狙撃の技術
全てが高度に訓練されている事は、其の一射で良く判る
其れが人間であったなら、或いは下級の魔族や獣の類で在れば、間違い無く二つの急所を撃ち抜かれて居ただろう
だが、其れ故に。 斥候ですら其れほどの練度を誇る兵力が、「砦に居る」と言う事が
何よりも己が軍を進撃させる理由となって仕舞った事は、人間達にとっては災難でしか無いだろう。
斥候二人の視界から消えて、暫し。 新たに空中へ舞い上がった炎の鳥が、周囲へと炎を撒き散らすなら
風に乗って舞い散る火の粉が戦場を薙ぎ、その日のこの流れに、一か所、不自然な揺らぎを作る事だろう。
加えて、撃ち出される火球の一つが、明らかに地面よりも浮いた場所に着弾する。)
――――……ほう、到着を待つのではなく、先んじるか。
……部隊を二つに分ける、脚に自信の在る者を連れて先に行け。
辿り着いた後は、御前に任せる、構わん――自由に暴れろ。
(刹那、其の位置から姿を現した魔軍の行列が、各々に距離を取りながら散開しつつ、砦に向けて突進を始める
元々居た数の凡そ4割程度では在るが、一気に散開した分即座に人数を把握させ辛くし
加えてまだ距離は在るが、砦への明確な侵攻を敵方へと確認させては、対応する時間を稼ぐ
其の突撃部隊を側近へと任せれば、此方は未だ姿を消したままの行進を続け。
――そして、後方へと待機しているサキュバスの一人に声を掛ければ。)
――――上を任せる。 可能ならば撃ち落とせ。
或いは――あの、鳥と共に居る娘を、堕として来い。
(――小さく、愉快げな笑みを浮かべたサキュバスの一人が、姿を消した儘に空へと舞いあがる。
地面を低く這う様に飛んで距離を離し、其処から一気に上空へと舞い上がって、火鳥よりも高所を取る。
或いは、其の姿に気付く事が出来るならば、途中で対応する事も出来るだろうが――
まるで、猛禽の如くに頭上から一気に接近を叶えて仕舞えるならば。
突如、娘の眼前にて姿を現し、其の身体へと組み付く様に抱きついて
其の瞳を、覗き込んで仕舞おうとするだろう。 ――其の意識を縛る、魅了の魔眼にて)。
■レナーテ > 『炎の動きが変だな』
「多分、転移ではなくて、消えていたんだと思います」
探り撃ちの炎が奇妙な着弾を見せ、火の粉が何かを撫でるようにすり抜けていく。
予測の一つが当たっても、敵の攻勢は衰えず、寧ろこちらの手を理解した動きを見せる。
半分ほどの戦力が姿を見せ、散開していく事で全体把握がしづらくなる。
偵察に飛んでいる別の隼の方へ上空索敵を任せると、こちらは砦周辺にまだ潜むであろう残りを探るべく再度炎を砦側へ寄せるように放ち続けた。
報告に聞いた人数よりも少なく、すんなりと姿を見せて突撃というのもあからさまな攻撃とみえる。
その合間に何か仕掛けるのだろうと考えるも、出来ることは多くない。
今は進行を抑える事を優先だった。
『狙撃組は、攻撃薬瓶を箱ごと砦内のポイントに運んでください。他の娘は瓶を持てるだけ持ったら、各個攻撃して迎撃を。300m切ったら撤退です』
散開されてしまうと、攻撃薬瓶を使った面制圧も、隼による上空攻撃も効力が半減してしまう。
かといって、彼等の戦力数に対抗できる頭数はなく、師団兵と給仕の娘の撤退もほぼ終了しつつあった。
ここで我らも戦うと出てくれる指揮官なら良かったが、師団長クラスでも無ければ、望むのは難しいところ。
『レナちゃんっ! 上からなにか来るっ!』
上空偵察をしている娘の念話に、戦略に引っ張られていた意識が戻っていく。
ハッとした様子で慌て、空を見上げれば、そこには蝙蝠羽の女の姿があった。
手すりから両手を離しながら、聞き手は腹部に斜めに収められた予備の魔法銃へと伸ばされる。
組み付かれた勢いで鳥の背から落下しつつ、魔法銃を引き抜けば、瞳を覗き込もうとする淫魔の術が身体を侵食していく。
しかし、胸元に宿された旧神の眷属の紋がその速度を遅らせていた事が幸いする。
瞳を遮らんと、猫爪の飛び出した手で顔を鷲掴みにしようと試みながら、銃口をその脇腹へと押し当てていく。
「っ……!!」
パパァンッ!! と激しい炸裂音を響かせ、増幅弾で強化された魔法弾が二発連続で放たれる。
小銃型に比べれば火力は落ちるものの、至近距離で強化した魔法弾であれば、上級の魔族であろうと肉を抉る破壊力を生み出せる。
紋章を通して流れる風の力で、落下速度を緩やかにしていき、倒せたならそのまま振り払うだろう。
それでも組み付くなら、主を襲った魔族を触れるなと言わんばかりに足で捕まえて握りつぶそうとするはず。
■ラボラス > (先行組が散開し、先んじて砦を襲う。
速度に自信の在る者ばかり、其の進軍速度は人間の其れとは比較にならないだろう。
だが、これまでの砦戦では全て、其の砦目前になるまで発見される事は無かった
そういう意味で、此れまでで最も接近までに猶予が在る戦いとなって居るのやも知れず。
――頭上で、銃声が響いた。 見上げれば、夜空へと尾を引く魔力の閃光。
僅かに双眸を細めながらも、進軍を止める事無く、ゆっくりと其の方向を変えては
先行隊が正面から攻め込むのに対し、此方は横から回り込む形を取ろうとする。
同時に、頭上で始まった戦闘の落下地点へと近づいて行く形を取れば。)
――――……牽制を優先しろ、鳥を近づけるな。
女は捕えられるなら捕えるぞ、情報源になるかも知れんからな。
(――其の頃、サキュバスの脇腹には、大きく抉られた傷跡が刻まれて居た。
普通ならば甘ったるい声音で囀るのだろう其の唇から、苦痛に濁った咆哮を響かせながら
けれど、離れ間際、力を振り絞る様にして再び娘の瞳を覗き込み――二度目の、魔眼。
そうして、火鳥の爪から逃れる様に、娘を突き飛ばす様にして離れれば、其の儘地面へと落下した。
どさり、と、響いた落下音。 人間ならば間違い無く死んで居るだろう落下距離だ、が
――其の身体は、大地へと叩きつけられる前に、漆黒の鎧を纏う腕が、受け止めた。)
――――4人、負傷者を連れて下がれ。
今下がった者には、次の戦で前線に立つ事を約束してやる。
(響かせる声、其れと共に、其れまで姿を消して居た本隊が、其の姿を出現させて
――その大多数は、進軍。 そして、名乗りを上げた4人が、己から負傷したサキュバスを受け取り、撤退する。
そうして、其の場に残るは、かの斥候が指揮官であると判じた、漆黒の鎧と
そして、娘、そして其の使い魔たる二匹の猛禽のみとなる、か)。
■レナーテ > 『すっごい早いんだけどっ!?』
『単発弾じゃなくて、散弾でドカドカ撃つよっ! こういのは手数勝負でしょ!』
防壁上の少女達も魔法弾を幾度も放ち、青白い閃光や頑強な鋭石弾、火炎弾に水圧弾と各々得意な魔法の弾を放ち続ける。
しかし、足の早い敵に当てるには集中力を要し、数熟すには不利となっていく。
途中から拡散する散弾方式の魔法へ切り替え、削り落とすようにダメージを狙おうとしつつも、少しでも密集する所があれば、攻撃薬瓶が放り込まれる。
かしゅっと音を立て蓋が拗じられると、内部で薬液が混じり合い、成分が変容していく。
それを放り込めば、地面に激突すると同時に爆発し、派手な破壊力を生み出す。
300mの境界線を割ると、一斉に当てずっぽうの攻撃薬瓶が次々と放り込まれ、熱で弾けるトウモロコシが如く、そこらで破裂音が響き渡った。
その合間に少女達は壁から内側へ飛び降りていき、猫のごとく俊敏な動きで砦を後にする。
上空では、組み付いたサキュバスの脇腹を魔法弾が大きく抉っていた。
苦悶の声に顔をしかめつつも、まだ暴れる様子が見えるサキュバスに改めて引き金を引こうとする。
しかし、顔をずらして強引に覗き込む瞳が追い打ちを仕掛けてくれば、意識が深く沈もうとしていく。
「ぅ……ぁ」
眠りに落ちるような心地の中、駄目だと脳裏で繰り返しながらも、最後の指示を上空に居る仲間へ遅れば、とうとう意識を縛られてしまう。
突き飛ばされ、爪の中へ突っ込むようにして捕まえられると、だらんと項垂れていった。
そして、上空偵察の隼とその背に乗る少女は、苦い表情を浮かべながらも、命令に従って王都方面と下がっていくが、砦の上空を確かめられる範囲の距離で旋回しながら様子を伺っている。
『く……っ』
落下していく契約者に追いすがり、不意打ちじみた淫魔の動きに体制を崩す鳥は翼を暴れさせながら、姿勢制御を繰り返す。
地面すれすれのところで急上昇するようにして、どうにか飛行を維持するも、足に捕まえた彼女の様子が気がかりだった。
あの魔物が何を仕掛けたのか、それが気になるも、今は逃げるべきと王都側へと撤退しようと翼が空を叩く。
だが先程までの火の粉も炎も出さないのは、それが彼女へ降り注ぐリスクを恐れてのことだった。
■ラボラス > ――――……アレだけの猶予が在れば、人間も戦線は構築するか。
或いは、開幕の指揮が、其れだけ的確であった、か。
(――爆発が、起こる。 其れは明確な開戦の合図。
散開して襲い掛かる此方に対応し、戦場を燃やし尽くさんとするかの砲撃、射撃、そして爆発
先行した者達も決して軟では無いが、今までの様に圧倒的有利な状況ではないからか
砦へと取り付くまでに、己が予想よりも随分と時間を要した。
其れでも、もとより戦場を求め、戦闘を求め集まった者ばかりだ
其の程度の事で動揺する者など一人たりとも居はしない。
ふと、上空を見上げた。 空には未だ燃える翼と、其の爪に捉えられた娘の姿
此方に接近する事は無く、距離を離そうと去って行くのを見送れば、其れ以上の深追いはしないだろう。)
―――……第二波、横合いから包囲しろ。 先に逃げて行く者は追わなくて良い、砦の陥落を優先だ。
(次に響かせた指示は、本隊を本格的に動かす為のモノ。
二面攻撃を受ける形となる砦との、戦力差にモノを言わせた蹂躙。
けれど今回は、砦の所有権獲得を優先する事で、敵の撤退を明確に追いはしないだろう
元より――今宵の進軍は予定にない、ただ、売られた喧嘩を買っただけだ。
同じ魔族側でありながら、独自に砦を攻める組織だった軍の情報を得るのが本来の目的なのだから。)
―――……だが、何れ再び相見える機会も在るだろう。
俺が魔であり、奴が人間であるなら、な。
(其の独り言は、次第に追い落とされて行く砦の状況を
そして、其の上空から王都の方角へ飛び去って行く炎の翼を眺めながらに、紡がれる。
――深い傷を負いながらも、娘を撤退せしめたサキュバスの魔眼
其の魅了の力、魔族の気配を持つ者に対して、無意識に好意を抱く呪い。
その力が、本来魔族を憎む娘に対して、果たしてどの程度働くかは判らない、が)。
■レナーテ > 『無理っ、むーりーっ!』
『無駄口叩いてないで逃げるよっ!』
国家の師団とは異なり、どうしても正面衝突には無理がある人数で構成されている分、一人頭の力は確りと蓄えていた。
逆に一人のロストが、普通の兵のコストに置き換えるなら何倍もの損失を発生させるほどに。
戦略もまた、それを活かしつつもロストを避けるための短い時間での戦い。
進行を遅らせられれば、それだけ味方は逃げられる。
後は捕まらないように自分達も逃げる頃には、先に逃げた狙撃犯の置き土産が残されていた。
砦の外まで出た少女達も、その合間に接近していた撤退用の籠を備えた隼に回収され、そそくさと空へと逃げ出す。
抵抗した割にはあっさりと砦を明け渡し、本隊共々砦に踏み入った頃には夕餉の香りだけを残し、もぬけの殻となっている。
『大事がなければいいが……』
魔眼によって蝕まれたのは身体ではなく、意識であることに気付くのは集落へ戻ってからだろう。
その爪痕をどう拭っていくかは、今は知れぬことだが……今にわかるのは別のこと。
砦に魔族の軍勢が多数踏み込んだところで、後方で旋回していた隼の上で、騎手たる少女が魔法銃を構える。
攻撃薬瓶の残りは、通路のいたるところに目印となる布をかぶせて置かれていた。
いくつかは起爆用に蓋をひねられており、後はひねられぬままの状態。
その瓶目掛けて、布を目印に少女はトリガーを引き絞る。
放たれた魔法弾が起爆用の瓶へ届いたなら、地響きのような爆音が折り重なる事になる。
通路を爆風と炎の逃げ道にし、建物の表面を焼き焦がしながら、連鎖的に爆発を繰り返す置き土産。
混じらなかった薬瓶の中身は、吹き飛ばされた中で混じり、炸裂することで生身には強くとも、無機物には物足りない破壊力で襲いかかるのを狙ってのこと。
彼がそれを阻止するか、それとも届いたかは少女達には気になることではなかった。
呪いを受けた彼女の身を案じながら、今宵の幕が下りるのだろう。
■ラボラス > (最終的に――砦の正面入り口を突破する事は、程無くして完了するのだろう。
敵も初めから撤退を前提に行動していたのか、砦を明け渡す様な形で代わりに此方が居座る事と為る
撤退する者達を深追いしないと指示が出て居る以上、恐らく人間側の被害は
大規模な戦闘に比べれば少なく済んで居る筈だ。
――ただ、其の置き土産だけを残して。)
―――――………砦ごとを燃やすか。
(――本隊は、乗り込むのが遅かったが故にそれを逃れる事は出来たが
先行隊は、其の直撃を食らう事と為る。
屈強な魔族の集団とは言え、被害は決して少なくは無い。
即座に医療隊の展開を指示し、後方へと援軍要請の使いを至急出しては
砦は一時、野戦病院と化すのだろう。
はたして、どちらが勝ったと言えるのかは判らぬ戦果
ただ、結果として其の日、一時の事とは言えど、砦は魔族の手に陥落する――)
ご案内:「タナール砦」からレナーテさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からラボラスさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」にシュティレさんが現れました。
■シュティレ > 魔族の国と、マグメール王国を物理的な境目であるタナール砦……その場所は、毎日のように王国の軍と魔族が諍い、奪い合っている場所です、橋頭堡という奴ですね、私は今宵、この場所にやってきています。
私の現在地は、砦の塔の屋根に座って……見下ろしているのです、ちょうど、魔族が侵攻し、ヒトが彼らを迎え撃つさまを。
私にとっては、魔族も、ヒトも同じく捉えております、彼らから見れば私は魔族というカテゴライズでは有りましょう。
しかし、です。彼らに面識がないので助力する理由も気分もありません、故に高みの見物ということになりましょう。
夜空を見上げ、混乱を酒の肴に私は赤いワインを取り出します、私の中の空間に取っておいたそれは、熟成し、馥郁たる香りの赤いワインで、それをグラスに開けて、くい、と口に含みます。
しっかりと銘が打たれている高級品だけあって、香り高く酸味と、深い味わいのある良いものです。
一人倒れながらも一人を倒す、この砦からヒトの国の方面には、魔族が大きく力を減衰させられるので、それにより対等となっているようです。
私自身、血族としての能力が大きく封じられているのがわかります、ただ、技術はさにあらず、という所でしょう。
技術も磨いておいて良かった、と私は思いながら、死闘を肴に、お酒を一口。