2018/06/28 のログ
ご案内:「タナール砦」に紅月さんが現れました。
紅月 > ーーーそよそよ、そよ、ふわふわ。

窓から緑の風が吹く。
物珍しげに首を傾げる妖精を連れて。

『とある臨時治癒術師がブッ倒れたらしい』
そんな噂がうっかり話のネタにされ始めたのは、とある夜のこと。
それまで磯臭さや腐敗臭や、訳のわからない異臭と共に奇妙なフナムシにまみれていた砦内が…一日にして異様に綺麗になり、また、臭気が綺麗さっぱり無くなったというその日の、翌日。

…何というか、紅月は燃え尽きていた。

臭い消しの香と汚物焼却によりだいぶマシになった砦内を、その後丁寧に丁寧に清浄魔法で隅々まで清めて回り…更に加えてまたおっ始まった戦で怪我人の保護をして、捕虜魔族の治療も当然のように行い。
何だか今回は女魔族の割合が高いなぁと思いつつも、深くは考えないよう努力して。

…そうして、やるべき職務を全うしてから。
律儀にも救護室まで戻って倒れたらしい。

どれだけ真面目か、と、救護部隊の長に説教を喰らう始末。
何故真面目にやって叱られるのかは、とんとわからぬが。
とりあえず、心労・過労・魔力欠乏・貧血、加えて胃をやられてるらしい。
…仕事の鬼の霍乱か、と、面白半分に覗きに来る連中を追い払ってくれる治癒術師仲間のありがたい事といったら。
後でお菓子作って差し入れしようと心に決める。

「…とりあえず、一山越えたな……」

ここまできて思うことが『一仕事やり遂げた』なのだから、誠に手に終えない話である。
それから腹が減った…飯ではなく、人間の血肉的な意味で。
負傷時はやはりエネルギーを使うから、空腹の方だけでなく、飢餓感の方も早く来てしまうのだった。

紅月 > 「あー……、…いかん、だるい」

そりゃあ怠かろう、とツッコミを入れてくれる者は…残念ながら今ここには居ない。

ベッドの上で頭を抱える紅髪は、ひとまずベッドから降りると…ふらふらした足取りで救護室を出、廊下を歩く。
片手で顔の半分を押さえるように頭を抱えつつに。

「あー…星でも見ながら夜風にあたりたいだけなのに、空が遠いわ……」

…どうやら物見の見張り廊下から夜風にあたろうと、そういう算段であるようだ。

紅月 > そうして、どうにか目的地についた彼女は暫しのんびりと時を過ごしたのでした。
ご案内:「タナール砦」から紅月さんが去りました。
ご案内:「タナール砦」にアルテリエさんが現れました。
アルテリエ > (砦を前方に睨む、魔側の陣にて。その報に目を見開いた。)

――――く、そっ。

(らしくもなく。それ以前に、貴族として将としてあるまじく。
露骨に悪態すら吐いてしまった。

――――既に、魔の領内にて。人の軍勢が侵入した痕跡有りと。
まして、丹念な事後工作が施され、その追跡は困難を極めると。

何処からどうやって、という疑問の解決は、諜報を担う魔も居るのだろうから任せるとして。
後詰めの一翼たる己等は、どうすれば良いのだろう。

……旅程は解らずとも、彼の者達の最終的な目的地は、想像が付く。
それがますます以て苛立たしく忌々しい。
己等種族の、頂点たるその一角の下――――其処には、力を持たない無辜の民草も非難しているのに。
…己の任されている街に居た、己の護るべき民達も、受け容れられているのに。
だから、本来ならば。今直ぐにでも取って返したい、とすら。)

ご案内:「タナール砦」にバルベリトさんが現れました。
バルベリト > 「ん、戦端が切られたか。んじゃ、しょうがねぇ。こっちはこっちで死守かねぇ。」

本来は。7師団全員を敵地のど真ん中に放り込むことも嫌だったが――魔族側との全面戦争も回避はしたかった。
連日の魔族側の襲撃が、砦を目標としたものではなく、いや、確かに砦の城壁半壊させた化け物もいたが。
入念にと言って良いほど『物資』を目標とした襲撃とも取れる。

但し、だ。物資を狙いとした襲撃なのに7師団は慌てる様子もなく、救援の動きも殆どない。
だから物資は下げさせた。自分の名前で。
――遠征がどうなるかは知らない。その先も未来もわからない話だ。
それだけに、今自分達がやるべき事は――

「挟み撃ちにはさせねぇぞ。こっちはこっちで掻き回す。8師団、脂樽を翼竜から落せ。質の悪い脂で良い。」

魔王襲撃の際に使った7師団の戦法を借りた迎撃――のフリ。
翼竜に跨る舞台は油脂が詰め込まれた樽を魔族が布陣している周辺にどんどんと落としていく。
臭いにはすぐに気がつくだろう。――魔族の指揮官級であれば気がつく油の粗悪な出来も、前線で陣を張る魔族兵はどうか?
混乱や、陣に乱れが無いか。それを見定めるように城壁の高い箇所から己は睥睨している。

アルテリエ > (…少なくとも己の知る限りでは、此迄に無かった事だ。
この要害その物を、他の師団全てを、囮めかせてしまうなど。

報告に上がっているのは、極小規模且つ散発的な、戦闘の報告でしかないが。
……空からの報が無い以上、侵入者達の規模も測りきれないが。
少なくともそれが、稀に有る迷い人等でない事、規模の大きな侵攻である事は明白だ。

追うか、否か。逡巡は、直ぐに打ち破られた。)

――――上から?解った。一旦距離を。……焼かれるかもな。

(先日、さる王に当たる魔が、この砦を攻めた際も。
油が撒かれ火が用いられた。
同じ事を警戒するのは当然の事。

――――砦の側から見下ろせば、投下の行われる辺りから速やかに、追撃…爆撃、とでも言うか。
それを予期して形を変える陣形が確認出来るだろう。
動揺の少なさは。人間側の作戦と現状が、未だ魔族側の末端迄は、知らされていない為。

故に、回避同様反撃を目論む動きも迅速に。
火が灯る。魔の術によるのだろう火球が次々、上空の飛竜と…それが抱える油を目掛け。)

バルベリト > 「主役が舞踏会で魅せる舞踏を舞うなら、おじさん達はこっちで地道に警備兵ってね。」

撤退するにしろ、戦勝するにしろ、補給線の確保は戦の出来不出来を決する一要素。
進行が始まる前と始まった後では、拠点、そして補給路の重要度は桁違いに高くなる。一手遅かった。否、その動きをとめられるだけの資格を持ち得なかったか。
いずれにしろ割り切る。お互いに軍勢は大規模とまではいかずとも、それなりの規模。どちらかがどちらかの加勢に入れば、天秤を多少揺らすくらいには影響が出るかもしれない。

「樽に固執しなくていい、反撃が来る。下がってこい。代わりに俺が出るか。相手さん、化け物いなけりゃいいんだけどなぁ。」

相手側の動きも迅速だ。一度報告は受けていたのだろう。
ただ、それにしては随分統率が取れている。乱れや動揺は少なく、予想よりは早い回避から反撃に移る動きだ。魔術の火球は花火の様に打ち上げられ、翼竜の肌や翼を焼き、数騎は迎撃をマトモに受けたようだ。墜落していく翼竜に乗った偵察兵達。
―――その後ろから一撃離脱を狙う目論みからか。巨大な翼竜が一匹、凄まじい勢いで滑空しながら魔族の陣地に突っ込んでいく。

その間に自分は城壁から飛び降り――城壁は修復途中の為に凹凸が生まれている。途中途中に掌を、足を引っ掛けながら勢いを殺し魔族側の土地へ降り立った。

アルテリエ > ――招待状も持たない輩が、舞台の客であるものかよ。
叩き出すか、しっかり徴収すべきか、だろう?

(似た様な事柄を例えに上げていた…のは。偶然でしかないだろう。
強いて言うなら、人と魔の生活だの文化だの、存外似た部分も有る故、か。

…少なくとも己に全軍が指揮出来る筈はない。
まして、単騎にて一個師団に匹敵するような王達への注進も。
とはいえ、出来るだけの事はすべきだろう。より上への報告は速やかに。
そして、己が動かせる軍勢に関しては――)

っ、良くもやる…!

(判断が遅れた。そう、悔やまざるを得ない。
ある程度の竜を墜とす事は出来たようだが、想像以上の数は取って返していく。
第二波を警戒せねばならないだろう…と、決める矢先。
一際大きな竜が一匹。此方へと舞い落ちてくる姿。
無理に止めようとする、翼持つ兵が容赦無く吹き飛んだ。
対空の砲火が放たれるが、相手の質量が違う、数発程度でその軌道は変わらない。

――――後退が早い分、最低限ではあろう。だが、そこそこの兵が巻き込まれた。
何より、さながら水を切られ大河を割られたかの如く、陣形が割れた。

一直線の空白の向こう。一人、人間が下りてくる姿。
割れた陣形を直ぐに戻す事なく、己の方も立ち上がった。)

――――将が、来るぞ。全兵護れ。
後は本陣に伝令を。……彼方が戻ってくれるか、否か。

(細かな事は部下に…己よりもずっと、戦慣れしているだろう軍人達に、任せた。
そして己自身は真っ直ぐに。降り立った男へと向かい歩みだそう。)

バルベリト > 虎の子ともいえる巨大翼竜。
手懐けるのには苦労したものだ。丸呑みにされ、排泄された事さえある。
ともかく、紆余曲折を経た今はある程度だが此方の願いは叶えてくれる。翼竜ながら火龍のブレスでさえ耐え切れる鱗の頑強さ。
鋭い爪は付与のない鋼鉄程度は容易く切り裂ける。
そして何より、投石機の放り投げる岩など比較にすらならない大質量が急降下の衝撃波を生み出し――有象無象程度は吹飛ばしながらその巨大な尾を一振り。
割れた陣形の乱れを助長させる混乱を生み出させた直後――再び急上昇。
其の侭、翼竜も一撃離脱とばかり城壁へと帰還していく。

「―――騎馬兵!救助優先!」

ただその一声で良い。相手の目と注意は、巨大な翼竜と自分とで存分に揺さぶり、その奥。砦のほうへの注意も若干は逸らせるだろう。
巨大な翼竜により無理矢理陣形を崩させたのも、救助の為の兵士の活動を妨害させないためであり――。

「んなとこでタダ働きすんなよ!戻って後で7師団から金ふんだくってやれ!」

死んで貰える報奨金に何の意味があるのか。
叱咤するには文字通り現金な内容の発言を繰り返しながら自分の方は割れた陣形、その前に歩み出てくる一人の相手。
そちらを目視すれば無手だった両の手に、銀霧から精霊銀の巨大剣を生み出し――其の侭真っ直ぐ、少女にも見える女性の方へ向って行く。

「よ、初めまして。生憎粗忽なもんでな。ダンスへの誘い文句はしらねぇんだ。良けりゃおじさんと、主演達の舞踊が終わるまで――一緒に踊っちゃくれないかね?」

勢いは殺さない――其の侭突っ込んでいくなら、まるで待ちわびた恋人に突っ込んでいくかのように正面衝突しかねないほどの勢いだ。

アルテリエ > (大質量という物は、それだけで、一個の武器だ。
翼が、爪が、牙が、尾が。駆け抜けたその後は、小型の竜巻が通過したような惨状めく。
それでも、此方も亦。被害は最小限に食い止めた、筈。
人の側と違いが有るとするのなら、砦を押さえていない分、直ぐに退去出来る訳ではなく。
前線を構築する部隊は左右に分かれた防御陣形その侭、じりじりと、後退に向かうという事か。
機先を制され機を逸した感は有るが。
この場を立て直す事は間違い無く急務だった。…退くにせよ留まるにせよ。)

そして。更なる追撃は、男一人。
だがそれが、油断ならない単騎駆けである事は容易に知れた。
…眼を細める。銀。聖なるそれは、多くの魔が忌み嫌う物。)

…名乗り位は欲しい物だな、人間。
騎士は女に優しい物なんじゃぁなかったか?
それに――同じ阿呆扱いという奴は、御免被りたい物だ――!

(片手を振り上げた。
ぞるりと紅い渦が巻き…手の中に生じる、人の背丈に等しい、杭。
飛竜の意趣返しとばかり、真っ向、その質量を迫る男へと撃ち放つ。)

バルベリト > 「……あ、すまん。名乗り忘れてた。」

ギギィィィ、という鈍い停止音は、戦闘用の特注品。
白銀のグリープが急制動をかけるために地面との摩擦が生み出した音だった。
相手の勘がよければ。戦況分析の目を持つなら、その摩擦熱で油の浸み込んだ土が発火しないあたり、最初の油は陽動、偽装、こけおどしの類と看破も出来るだろう。

「第八師団長代理、バルベリト。フルネームだと舌噛みそうなんでな。これで勘弁してくれ。ってちょ、待てやそれぇぇぇ!」

名乗りを上げる自分が悪い。紅の渦から生み出される巨大な杭。
冗談でもあんな物をマトモに受けようとも思わない。故に取った回避行動は単調、かつ単純だ。自分の筋力を魔法で補強しつつ。両の足を踏ん張りながら剣の横腹を見せる様に構え――その巨大な杭を受け止め、そして――。

「重てぇ!やっべ勢い殺すべきじゃなかったか?」

打ち出された杭の勢いは凄まじい。自重もさることながら、魔族の領土である以上相手の力が弱くなる事もない。
増して今は敵対している以上――だが。自分の踏みしめていた足が浮き上がりかける。連射をされると厳しいが、一撃だけなら足をとめれば防げると言うのを示して見せていた。

「いやぁ、最近騎士にも色々いるからなぁ。おじさんは悪いおじさんだから、あんまり良心とかそういうのに期待しないほうが良いぜ。例えば、あんたらと違って俺らは――この辺の地理もそうだが、『目的地』への最短ルートを押さえてる。」

ちらり、と。はったりと、暗にここから相手の陣を動かすことへの危険性を警告もした。99%ハッタリだが――1%だけ。それ未満だが、可能性だけなら心当たりはある。

アルテリエ > (ほぅ、と小さく。
此方の初撃に対し、如何なる策や魔法を使ってくるか、等と考えていれば。
単純至極、受け止められた。
無論身体強化なり何なりは有るのだろうが、真正面から、というのは流石に想像していなかった。
思った以上に、厄介だ――そんな思惑を、努めて顔には出すまいと。)

いや、いや。感謝しよう。
――――此方は。アルテリエ …アンヴァクセン。今夜、この部隊を……
第四前線部隊を、任されている。

(此処でハッタリは必要ないだろう。寧ろ事実を告げる方が、恐らくは効果的。
…少なくともあと三つ以上、同規模の部隊が、この砦に対峙している事と。
それがあくまで、前線向けの物でしかない事と。
――即ち、彼等の国と同様に。然るべき、軍、という物が。
魔族の国の深奥に、手ぐすね引いているのだという事を。)

はは、其処に関しては、してやられたよ。
何処から潜り込んだのかは知らないが…お陰で随分、無駄な足止めを喰らった。
…そうだな。躍ってくれとは言わないけれど。世間話程度には付き合ってくれて、良いんじゃないか?

(男が止まるのに合わせて、此方も足を止める。
…丁度。飛竜に挽き潰された兵士達。そんな、最早肉塊と化した者達の転がった、血溜まりの直中に。
僅かに目を伏せ、そして瞳を上げたなら。)

――――貴君等は、何がしたい?
同胞に出し抜かれて、囮の足止めに使われて、毒を喰わされ火に焼かれ、時間を掛け擦り潰され……
そう迄して。第七師団に、何の義理が有る?

(彼の言葉が、須く嘘ではない、という事は解っている。
何せ既に潜入を赦しているという、頑とした事実が有るのだから。
…一際声を張り上げた。そんな、極秘の侵攻を論った。
この戦場にも。砦に退こうとする人間達にも。届かせる為に。)

バルベリト > 持つ武器が特殊な物でなければ。
身体強化の魔法の補助がなければ。
自分が健康体でなければ。どれか一つでも成立していたなら、容易く吹飛ばされるか、或いは武器毎貫通され、そこらの肉塊と同様の末路は辿っていたに違いない。
相手が此処で矛を収めて対話という手段に出てくれた事は僥倖ともいえる。

念のためだが、『奥の手』に備えて。白銀の巨大剣は地面に突き立てた姿勢で、地面に座り込む。後方では救助の為の騎馬兵達は任務を完遂出来ていた。生存率は判らないが、少なくともあのままよりは少しでも生存率は高くなると信じたい。

「こりゃまた御丁寧に……部隊最低でも4つかよ、まぁ大体は前線部隊の3倍が本陣、同数程度が左右両翼、後詰に半数ってのが定石だから、ふっつーに数で磨り潰されそうだな。」

素直に数と相手の戦力評価を下す。……自分が魔族の国側には本来出向きたくはない。だが、人間側の動きもまた不穏だからだ。
魔族が不信に思うのと同じ様に、人間もまた人間を疑って生きていく生き物なのだ。――例えば今こうして会話をしている背中から、他師団が砲撃を始めてもおかしくはない。

抑止力としては自分の命も立場も軽い物ではあるが――それでも最低限。対話という手を打ち出した相手への敬意は忘れない。

「…そりゃいいな。あんましおじさん戦うのは得意不得意以前に。好きじゃねぇんだ。魔族相手でもな。
 ―――そりゃ出し抜かれたさ。そりゃ、あいつらに良いように使われてる側面もあるさ。7師団の独断で侵攻しやがった挙句、魔族と無駄に緊張を齎したことに少なからず『俺は』怒るさ。」

言葉には素直に応える。7師団のダシに使われている他師団の兵士達も多いだろう。だから彼女の言葉。張り上げられた、声は間違いなく砦にもこもる兵士にも聴こえていた筈だ。
ざわめく――と言うより、漣の様な揺らぎは間違いなく走る。城壁に登る兵はお互いに顔を見合わせ、困惑の色を浮かべる兵もいたはずだ。

「義理なんつーもんはねぇさ。ただ――アレだ。親ってのは子供の還りを待つもんだろ。アイツの年齢もしらねーけど。
 あいつらがやろうとしてる事は褒められた事じゃねぇかもしれねぇけど。止められず、出立しちまった以上。
……失敗した時に帰る事の出来る場所を準備くれーはしておいてやりてぇもんだろ。アンタは違うのかい?仲間がどっかいくなら。その仲間の戻って来る場所ってのは準備したり、守ってやりたくはなんねぇかい?」

アルテリエ > (そして、受け止められた紅い杭は。地に落ちる…迄に、溶け弾ける。どす黒く粘付いた血と化して、男を、その周囲を濡らす。
僅かでも男の足が、前へと突き進んでくる動きが止まったなら。その間に僅かばかり、周囲を見ていた。
先の油が、燃え上がらない事に。して遣られた物だ、と低く溜息を吐いてから。
改めて彼の方へと向き直そうか。
――地に染みて、僅かに減った血溜まりの中。此方は座り込むなどせず、真っ直ぐに立ち、姿勢を正し。)

少なくとも。そうだな、その位は間違いなく、控えているよ。
国だもの。魔物という存在は、野の怪物ではないのだもの。

(きちんと。然るべき組織が、国として、軍隊としての体系がある。
其処の所は主張しておきたかった。
…今の所、言葉を交わす、という手段に応じてくれる相手だから。少なくとも…侵攻した者達よりは。
魔族という者に対して、理解を持ってくれているのかもしれないが。
それでも言葉にしたくなるのは、内心の苛立ち故なのだろう。
勿論、この会話で若干でも、動揺を抱く人側の兵士達が居るのなら。其処に更なる油を注ぐ為でもあるが。)

――私もさ。
本当なら城市に引き籠もっていたかった。
農荘園を管理して、事務仕事にだけ精を出して、市民の生活を見守っていたかった。
お前達のお陰で、それすら侭成らないのだけれど。

(同じなのだ、違わないのだ、と。…だが、これだけを訴えた所で、変わりはしないだろう。
同じという事は。相手にも…人間にも、当て嵌まるのだから。
少しは、人側が動揺した。兵士達が不和を抱くかもしれない。今は、それで充分だ。
何より目の前の男は、どうやら。
第七師団の独断専行めいた行為を、把握済みであり。その上で、此処に立って居るのだと知れたから。
…目を伏すようにして。彼の言葉を、その区切れる所迄。)

否定はしない。…其処も、きっと、同じなのだろうから。
それでも……仲間が、住むべき場を追われたのなら。受け容れてやりたい、取り返してやりたい、し。
石持て追い立てられたなら、守ってやりたい、掛かる苦難を払ってやりたい。

――――だから、退きたい、そう言っても。
貴君等は、赦してはくれないのだろうけど。

(こうしている間に。後方へ、口にしてみせた本隊へ。事の推移が報告されている、筈だ。
その結果下されるだろう命令は、如何なる物となるのだろう。
侵攻から弱い魔族を守る為、前線を退くか。それとも、挟撃する為の転進か。
どちらを選ぶにせよ。男の口振りから、その意図は伝わってきた。
…今背を向けるのは、得策ではない、と。)

バルベリト > 「悪ぃな、ちっとばかし一発が重過ぎて足腰にきちまった。ハハハ、もう現役引退かねぇ。」

相手にとってただの一撃であっても此方の肉体には十分に響く物だった。
殺戮の為の一撃ではなく。その一撃が相手にとっての仲間や同胞を助けたいと思う一撃だからこその重さだったか。

此方は砦に詰める兵士の半数は非戦闘員でもある第八師団。はったりでもなんでも、相手の足を止めるだけの目的の戦闘にならざるを得ない面はある。
……表向き、現状砦にいる単体戦力としては自分が最大。それがこうも容易く足止めされている現状から、砦の兵士も迂闊には仕掛けようとも思わないだろう。
自分が作りたいのは、この近辺での戦線のこう着状態。それを続けることで7師団の退路くらいは造って置きたかった。
…彼らが戻る意思が例えなかろうとも。

「そりゃいいな。俺も自分の土地でのんびり家庭菜園を耕し、気に行った奴に甘い物食べさせたり、茶を楽しんだり。――其処に関しちゃこっちも申し訳ねぇよ。……ただな。7師団にも一応の言い分はあった。
 魔族の侵攻に民心が不安を覚えると言う事は、俺には完璧に否定できるだけの要素がなかった。」

結局は、だ。相互不理解が齎したともいえる今回の戦端。
目の前の相手の様に、会話が通じるなら。
そこに血の通う心があるのであれば。……もしかしたなら、違う未来を作り出す手段というのも有ったのかも知れない。
7師団を糾弾することも。魔族を糾弾する事も違うのだ。問題点は、魔族を恐れすぎた人間にもあるのだから。

「……アルテリエ。あんたは、仲間が心配なんだな?」

ただ。座ったままで。
じっと男の瞳はその意思を確認する様に相手の目を見上げていた。
――相手の言葉が途切れるのを待つのは相手も、こちらも同じなのだ。
確かに、背中を向けられてしまえば追撃をせざるを得なくなると思うのも相手は無理がないだろう。
魔族と人が、本当に理解をしあえない生き物なのか。
そうでないのか。既に答えを出した他者とは違う答えを求める様に、己の瞳は探るのではなく。彼女の意を確認しようと、汲み取ろうと見上げている。