2018/06/26 のログ
ご案内:「タナール砦」にプリシラさんが現れました。
■プリシラ > 街道を望む観測所。
装備を纏った歩哨が二人、他愛ない談笑の最中に膝から崩れ落ちた。
同時に沈む二体の身体。煉瓦の壁へ寄り添うようにゆっくりと、鎧が触れて微かな音が立つ。
「――――…失礼。お邪魔しますよ。」
前触れなく寝息を立て始めた人間の兵士達。
座り込んだ彼らの鎧が煉瓦にぶつかり発生したのが一つの物音とすれば、対してこちらは無音だった。
虚空から突如現れた、軽装備姿の一人の女。
寝入った兵士達の傍らへふわりと宙から降り立てば、背から流れる白いマントがはためいた。
ニコニコと気の抜けた笑い顔で、女は小山になった鎧二つを一瞥。
彼らの背後から術を掛け、姿も見せぬ内に昏睡させたのはこの女だ。
掛けた声が、彼らには夢の中へすらも届かないことは充分に承知している。
「ここが一番眺めよさそうだったので。
申し訳ないですが、ちょっとの間そうしてて下さい。
―――――…さて。」
返事は二つの寝息のみ。変わらぬ笑顔で、片手を持ち上げ目上に庇いを作り砦の外を見渡した。
伸びる街道、広漠とした地形。あちら側は、ヒトの国だ。
■プリシラ > ―――――第七師団が王都を発った。背にした山脈の向こう、暗澹たる彼の地へ向けて。
掲示に踊る文面を頭の中へ反芻し、細めた金目が大地を浚う。
行軍を見物できるかとやって来たはいいが、望む景色を端から端まで見渡せど、それらしき形は伺えない。
「あれー?
今どの辺なんでしょうねぇ。
…ひょっとして、もう通り過ぎちゃいました?」
暢気に伸びる声が風切り音に重なった。当然今回も返事はない。
白マントとスカートの裾を翻し、身体を半転回。
今度は険しい山々が織り成す景色を視野に収め、同じく視線を走らせて――――
やはり見当たらない。
……歩哨を眠らせさえしなければ、話を聞くことくらいは出来ただろうか。
下ろした手を顎に当て、ふむ、と一考。片方だけ起こすか否か。
「………まー、いいか。
お楽しみは取っとくことにしましょう。」
ちらりと流した金目に歩哨の一人を見遣るも行動へは移さずに。
もう半回転。最初の向きへ身体を戻すと、身を乗り出して今一度あちら側の陣地を眺め。
■プリシラ > 暫くの後。
――――…一体どれだけの時間が経過したかは分からない。
しかし後の報告には、こう上がることだろう。
『突然強烈な睡魔に襲われて、目が覚めると治療室のベッドの上だった。』
『見張り役二名が街道側の観測所で倒れているのを、交代の兵が発見。
辺りに不審な点はなく、術者と思しき姿も既に見当たらなかった。』
白髪と衣服を風に靡かせて、その女は暫くの後、宙へ浮かぶと人知れず姿を消した。
姿が融けた虚空に滲みた魔力の残滓を、生温く戦ぐ風が掻き消してゆく。
ご案内:「タナール砦」からプリシラさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」にカインさんが現れました。
■カイン > 数刻前まで激しい戦闘の起きていた砦。
今は王国側の旗の翻る門の前で、億劫そうな表情を隠しもせず番をしている男の姿があった。
幸い死傷者はそう多くはない物の、先ほどの戦闘で被った被害はそれなりのようで、
結果として外様の傭兵までもが門の前に駆り出される始末である。
「……しかしこいつは、まずいんじゃないかね?」
そう独り言を漏らす物の、それを聞く者は誰もいない。
騒々しい声の聞こえる砦の内側に視線を向けると、
多くの人影が右往左往している所が見て取れる。
「砦をとったはいいにしろ、維持できないんじゃお話にならんなあ」
そう、ぼやいた言葉は風に消えていく。
ただっぴろい砦の前の殺風景な景色を詰まらなさそうに眺めて肩を竦めた。
もう一戦、などとなったらそれこそ尻尾をまいて逃げるか籠城でもするかだろう。
■カイン > 「ま、そうなったら殿でも買って出るか。
他にできそうなのも数がおらんだろうし、
今の国軍に手練れが居るならそれでいいんだが」
雇い主が消えてしまっては報酬がおじゃんだし、
何よりも肩を並べた相手がくたばるのは目覚めが悪い。
仕方がないと流す程度の感傷とはいえ、酒が不味くなるのは宜しくない。
顎に手を当てながら剣を軽く叩くと、息を吐いて少し気合を入れる。
何せ相手は魔族である。何を仕掛けてくるのか分かったものではない。
■カイン > 「…お、交代要員か。遅かったな?
全く、このまま一日中立たされるものかと思ったぞ」
漸く現れた二人組の見張りにそう声をかければ手を挙げて、
そのまま横に振りながら入れ替わりに砦の中に去っていく。
持ってきた酒でもとりあえず飲んでしまおうと頭の中で算段立てながら。
ご案内:「タナール砦」からカインさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」に影時さんが現れました。
■影時 > ――全く、またなのか。
そう考えるものは誰か。
この砦に詰め続ける兵士たちであり、吉報とは相反する知らせを受け取る貴族であり、情勢の機微に過敏な者達だろう。
取られては取り返す。また取られる。奪い返す。
この場は転がり続けるコインの裏表の如く、目まぐるしく立ち位置を変える。
過日の大きな戦闘で何かと被害を被った状況であれば、おちおち砦の中に詰めても居られない。
まして、腐臭をさせ始めた魔物の死骸や被害を被った食料の劣化等もあれば、マグメール側の砦の門外に陣を構えるのは自然の道理だろう。
特に正規の軍ではなく、傭兵や冒険者達を募った義勇兵の類で有ればそうだ。
そんな己も彼らと同様に身分を装って、その中に混じる。情勢次第では魔族の国側も単身で潜入し、見て来いともいう。
「……あー、全く。何だろうなァ。妙に海のものの死骸が目立つってのはどういう絡繰りだ? ったく」
門外の傍、場内から運び出された魔物の死骸を集め、焼き清める火を見遣りながら思う。
ここは陸地だ。にもかかわらず、何故か海由来の異形の類が多いように思える。
だから、か。周囲の待機に微かにまだまだ磯臭い風情も漂うように思うのは。故に雇い主は、こんなものを運ばせたのだろう。
「石灰の袋は、水入りの樽と離して置いておけよー。土壌改善とかに使うんでな」
布袋入りの石灰である。雇い主からの依頼で臨時の補給隊の一つに混じり、ここに来た。
胡散臭い冒険者風情に見えるが、補給隊の臨時の指揮者として任は受けている。
塩害を被っている可能性もあると聞けば、おのずとこの物資の扱いは見えて来る。土壌改善に関する知識も心得ている故に。
■影時 > 「でー、だ。……この様だと中もいっそ火でも放って清めた方が早くねェか? 無理か」
手押し車で運び出される死骸や得体のしれないものが、口元を覆面で覆った者によってまた一つ。火に投じられる。
この砦は何度か足を運び、少なからず建物の構造や地勢を把握しているつもりだ。
此処まで手酷くやられると、戦線を後退させて陣を敷き直した方が道理としてはいいのではないか?
そんな感慨に駆られるのはあくまで、己が余所者であるからだろう。この場に強いこだわりがないから、そう考えられもする。
ふと、零した己の声を聞いたのか、通りかかった騎士らしい姿が険のある眼で睨んできた気がする。
ひょいと肩を竦め、近場にある大きな樽の一つに寄り掛かろう。
「灰は――埋めるしかねぇな。貝殻でも出るんだったら、砕いておくか」
あと、どれだけ火を焚き続けることになるのだろう。夜の砦の門前でこの火はおどろおどしくも、強く灯る。
燃料となる薪炭を集めるのも一苦労だ。
自分が集めるワケではないにしろ、無くなれば使いに遣られるのは使い走りの宿命か。
ご案内:「タナール砦」に紅月さんが現れました。
■紅月 > なんか砦が大惨事になってるらしい。
いつものように治癒術師のお仕事にと砦に向かうものの、正直なんだか気が進まない。
「こういう日って、何かしらあるんだよなぁ…」
砦の真ん前で、ぼやく。
だってなんかもう既に潮の香りとかおかしい、絶対おかしい。
「治癒術師・紅月、只今つきまし…って臭っ、磯臭っ!何よりキショっ!!」
思わずたじろぐ…だって、フナムシの残骸がこんなにも。
やたら海鮮を腐らせた香りがするのも頂けない。
…嗅覚も人間に近付けて下げまくってるのに、それでも香ってるってすごい。
「…うーわ、えっ、コレ野焼きしちゃダメなんです?
私、火焔魔法は得意分野なのですが」
思わず近くにいた騎士に訊ねてみる。