2018/06/02 のログ
ご案内:「タナール砦」にルーシェさんが現れました。
ルーシェ > 戦う時は守る必要があるときだけ、そうは告げてもどうしても言われると渋々戦地に降り立つことも多くなった最近。
たまにこうして顔を出しておけば、面倒なことに巻き込まれそうになっても逃げれるからだ。
この間、○○手伝ったよね? と満面の微笑みで突きつければ、向こうはぐぬぬといった様子で要求を取り下げざるを得ない。
それが交代の軍勢がやってくるまでの間、砦を維持するということであれば尚更。

「~♪」

少女とも女とも見えそうな年頃の姿、実際はもっと歳を重ねた魔王。
癖の掛かった水色の髪を揺らしつつ、壁の上から鼻歌混じりに掌を揺らすと、虹色の粉が広がっていく。
ばら蒔いたのは、魔海に住まう珊瑚の胞子。
ふよふよと周囲の地面に触れると、一緒にばら蒔いた魔力を吸って一気に育っていく。
パステルカラーに彩られた珊瑚達が枝を広げ、絡み合えば、堅牢な城壁代わりとなって守りを補強する。
ついでにと、ポケットをゴソゴソと漁っていくと、取り出したのは小さな二枚貝達。
魔力を込めて、豆撒きのように珊瑚の向こうへと放り込むと、地面に触れた瞬間に人の頭ぐらいまで育っていく。
そして直ぐに土の中に潜っていくそれは、人の足を感知した瞬間に噛み付く虎挟み代わりだ。
足を切断しないように、大人しめの気性になるように育てたそれは、打撲ぐらいはさせるかもしれないが、足を壊すことはない。
魔力が切れて元のサイズに戻るまで足止めするだけであり、殺しもしない。
それを巻き終えると、見た目にそぐわぬ跳躍力で壁を蹴り、珊瑚の天辺につま先立ちで着地。

「っと……と、とととぉっ!?」

ふわっとスカートが揺れながら、身体が少し前のめりになると、あわあわと両手をばたつかせながらバランスを取って身体を安定させていた。
どうにかバランスを取り戻すと、掌を胸元に当て、ほっと安堵の吐息を零す。
そして、改めて掌の親指の辺りを額に当て、広げた掌で月明かりを遮るようにして遠くを見渡していく。

「……誰も来ないといいんだけどなぁ」

なんて苦笑いを浮かべながら呟きながら人影を探す。
戦いは昼間の内に激しいぶつかり合いとなって、人間側を追い返して決したと聞く。
だが、こちらも沢山の負傷兵を抱えたこともあって撤退を余儀なくされたのだとか。
ふらふらと街中で食べ歩きをしていたところ、魔族の軍勢の頭目の一人に呼び出され、こうして恩を売るために守りのしごとを引き受けたというところである。

ご案内:「タナール砦」に影時さんが現れました。
影時 > 全く――如何に食客として抱えてくれているといっても、無茶をさせてくれる。

……と。そんな声は出さずとも、内心でぼやかずにはいられない。
適度に情報収集や敵情偵察、合間に対立関係にある貴族の今日の夜伽の者でも調べて来いなぞと、一々面倒な頼まれごとをこなす。
それらの面倒事をこなすのも、あるいは為せるのも相応に実力を培っているからである。
そうでなければ、縦横無尽の働きは為しえない。

しかしながら、幾度目と数えるのも億劫な気さえするかのタナール砦の攻防の現在の状況を見て来い、と。
ちょっとお使いに行って来てくれ、とばかりの風情で頼まれて、ひとっ走り見に行くというのは、どうだろうか。

「三食と寝床とその他の便宜を図ってもらってるたァ、言え、だ。俺も便利に使われているもんだ」

向かい、進むはかの砦に続く道ではない。山野を突っ切って進む、いわば獣道然としたルートだ。
大軍が進むむどころではない処を駆け抜け、砦の正面が望めるところまで至ろう。
刻限は夜。月が見える。酒を呑むには良い夜だが、出来ればひっそりと事を運びたいとするには困る空である。
それを砦の正面に近い丘陵の草木の合間に身をかがめて潜み、遠く目を凝らそう。

「……仕方ないねェなあ。ちょいと覗いて、か……ンー?」

月と星の配置を確かめ、頃合いを見計らっては最低限の依頼を果たして戻るとしよう。
そんな腹積もりでいれば、見える光景に思わず眉を顰める。誰か居る。何者かの姿がある。
ただものではあるまい。この場に似つかわしくない色合いのものがある。微かに潮の気配もしそうな気さえする風情である。

まさかね、と。少し考えて、立ち上がっては地を蹴る。己の酔狂の蟲が騒いだのだ。
正面から敢えて進むという蛮勇めいた行為を選ばせる。まずは正直に進んで、近くから見てみようではないか。

ルーシェ > 人影はなく、あとは夜明けを待つだけで良さそうかと思っていたものの、緑の生い茂る丘陵の草が揺れていた。
なんだろうかと目を凝らし、紫色の瞳を絞るようにぎゅっと細めていく。

「ん~……?」

闇に溶け込むような色合いで見えづらいものの、たしかに何かが動いていた。
自分よりも大きな背丈に、あまり見慣れない格好。
夜闇の中で一際色合い強く見えるのは、そのワインレッドを思わせる瞳だろうか。
それも明るさのない色合いなので、よくよく見ないと気づけない。
正面から進むと、砦へと通じる道すがらに木製の立て看板が突き刺さっている。
魔王滞在中、危険なので帰るべし と、脅しているのか誘っているのか、どちらとも取れそうな奇妙な看板。
手書き文字も少女を思わせるような角のない、丸っこい文字というのも迫力がない。

「そこの人~、危ないから来ない方がいいよ~っ!」

くすんだ水色のウェーブヘアに、アメジストの様な紫の瞳。
色白の肌に戦場には似つかわぬ、ワンピースとカーディガンを羽織った姿は大人しくしていれば、どこぞの御令嬢の様にみえる……かもしれない。
現実はと言えば、程よいソプラノの音で彼へと呼びかけ、来るなというように両手をオーバーリアクションに追い返すように前後へ振っている。
丁度その看板を越えた先が、二枚貝の虎挟みエリアであり、そこらに魔物を思わせるような気配が感じるかもしれない。

影時 > 己が持ち帰る情報が如何に役立つかは、分からない。生かすも殺すもそれを聞いたもの次第だろう。
行って、見て、帰らなければ伝わりはしない。
優れた魔法使いであれば、遠見の水晶玉等でも使って見るのだろうが、それも絶対の手段ではないとも聞く。
時と場合によっては、遠隔より呪殺されることすらあるとなれば、簡便かつ確実な方法はおのずと定まろう。

「………おいおい」

闇に溶ける、あるいは近い色合いの装束となれば、素人目には容易く視認することは夜間では難しいだろう。
この辺りの地勢に沿った色であれば、もっと難しくもなろう。
そんな装いで進んでいれば、いよいよ見えて来る事物に不精髭が目立つ顎先を摩って胡乱げに眉を顰めよう。
それはそうだ。遠目から見て、まさかなと思ったが、近づいてしまえばますます見えてしまう。

今見えてしまうものを、何故、どのような方法で否定できようか。
自分の進む先、進路上に刺さった立て看板に記された文字の内容と。
そして何より、その先で待ち受けている水色の髪と幾度もなく血を吸った戦場には似つかわしくない装いの少女の影を。

「そこの人ってのは、俺のことかい?お嬢ちゃん。
 ……今見えた看板によると、この辺りに魔王様がいらっしゃるってハナシだが、知らねェか?」

声が己の方に届けば、その場で足を止めよう。
左手で後頭部を掻きながら、おどけるように肩を竦め、すぅと双眸を細めて遠くながらも鋭く周囲を観察しよう。
近くに色々と気配がする。この場に何かが仕込まれていると見るべきだろう、と。
その場にしゃがみ込み、地面に触れて確かめてみよう。練り上げた氣を進行方向側に流し、何か異物がないかを探るために。

ルーシェ > なにか呟いた様に聞こえたものの、何と言ったかまでははっきり聞こえないらしい。
キョトンとした様子で小首をかしげ、彼が近づいてくる様子を眺めていた。
闇に溶け込み、ボンヤリと誰か居るぐらいにしか見て取れなかった姿も、月夜に照らされながら近づけばはっきりとしていく。
王都でも見慣れない姿を不思議そうに見つめる様子は、魔王というよりは、興味の対象をみつけた子供のような眼差し。
パチパチと何度か瞬かせながら見つめていると、返答の声に一間遅れてぴくっと身体が跳ね上がる。

「ぁ、うんっ! 私だよ~、あんまり戦場にどんどんでるタイプじゃないから、知られてないと思うけど~っ」

魔王は何処か、その問いかけに小さく頷いてからそれなりに育った胸元を張って、得意げに答える。
満面の微笑みで告げるには似合わぬ答えを返すと、彼がしゃがみ込むのに気付く。
地面に触れれば、それほど気性の荒い感じではないが、魔物を思わせる気配が地の底から幾つも伝わるだろう。
彼の氣を使ったレーダーの先も、幾つかの二枚貝が引っかかる。
人の頭ぐらいはあろう大きな貝殻と、道の先にある土のところどころが僅かながら不自然に盛り上がっている。
正確な位置まで辿れるなら、盛り上がった真下に気配があるのも容易に気づけるはず。

「危ないよ~! そこにさっき、魔海の貝をばら蒔いたからっ! 踏んじゃうと足打撲しちゃうからねっ!」

魔王本人もばら蒔いたという証言もあり、何かあるのは確定して分かるだろう。
来ちゃ駄目だと言わんばかりに両手を振って、あわあわと制止を求めるものの、彼が止まるかはわからない。

影時 > 「ほぅ。お嬢ちゃんが魔王ってヤツか。驚いたなァ。……魔族とは何回か戦り合ったが、初めて見たぞ」

己もそうだ。忍としての気質よりも、持ち前の好奇心が前に出た眼差しでしげしげと見遣ろう。
ついつい胸元や腰つきまで見てしまうのは、此ればかりは好奇心よりも女好きも性ゆえにか。
だが、傍目からすれば、奇妙な光景かもしれない。
異国風のセンスが混じった装いの大の大人と、正体さえ秘していればお嬢様然とした少女が距離を置いて言葉を投げ合う様というのは。

(……やっぱり何か居るなァ。海の気配のような具合だが、まさかな)

そして、しゃがみ込んで手を触れつつ、氣を使った謂わばアクティブソナーめいた探知技能を使って感じる手ごたえに唸る。
目こそ視点を下げたが故に、より素直に相手の胸元辺りを見遣りつつも視界の端で捕らえる地面の起伏に口の端を釣り上げる。

「答え合わせ、痛み入るぜ。ではちょいと――危なくないようにさせてもらうか、ッ!」

言葉の性質等から思うに、戦い向きではないのだろう。
親切心が先立つような具合に毒気を抜かれたように笑い、地面から離した左手と右手を顔の前で構える。
左右の指が複雑に閃き、幾つかの印を切ったうえで気合ととも再び地面にたたきつけてゆこう。
そうすれば、己と前方に居る姿の間に対して、橋を作るかの如く大地が隆起する。
術だ。氣を通して硬質化した地盤を、己の肩幅程度の幅で連続して地表に向かって屹立させるのである。
途中、トラップの貝があればそれごと地表に押し出して、脇に転がしてゆくことで無害化しようと試みる。