2016/10/31 のログ
■テイア > 砦の地上部分に空いた穴はすでに、修復により塞がれていたが地下へと降りればぽっかりと口を開ける暗闇がそこにはあった。
松明の炎を照らした限りでは底の方は見えない。
かなりの深さがありそうだ。当然といえば当然か。そこまで深くない穴であったなら、今までの捜索で容易に見つかっているだろうし、あの男ならば登ってくるだろう。
深い深い地の底で、怪我で動けなくなっているのか、それとも息絶えているのか。
もしくは、空間の切れ目が出現しており異次元に飛ばされている可能性もある。
「全く、そなた一人がいなくなっただけでこの有様だ。城の方も闇の気配が強い。サロメの要請を受けて騎士団でも城の警備を強化しているが…。このままでは、国は魔族に飲み込まれてしまうぞ。オーギュスト。」
200年ほど前から国の光に陰りがさしている。
その頃から、貴族として国の中枢に入り込んだ魔族は存在した。全てが魔族が原因ではないにしろ、その者たちは、国を内側からじわじわと腐らせている。
それでも、第七師団は少なからず歯止めになっていたはずだ。
しかし、急な将軍の不在に足並みを乱され、付け入る隙を与えてしまっている。
「生きているのなら、さっさと出てきてもらいたいものだな…。」
捜索のための準備を上で行っている間、松明を持って女は一人穴へと語りかける。
■テイア > 実際に、魔族によって国が侵略された際己がどういう行動をとるのか予想できない。
神の威厳を忘れ、正しさを忘れ、腐れ行くままに享楽にふけっているのは、当の人間たちだ。
弱者が強者に虐げられる世界。どれだけ、それは違うのだ、と訴えても無駄だった。
ならば、魔族による支配も彼らが望んだことの結果のひとつだろう。
国が落日への道を進み、闇に染まったときは女神の結界に守られた領地に引きこもり閉じた箱庭の中で、大切な者達とだけ生きていきたい。
諦めた心は、そう思うのに…
正しき心を持つ者はまだいるのだ、その者たちを見捨ててはいけない。
諦めきれない心が矛盾を生む。
「全く…」
矛盾に苦笑を刻む。探し人は決して善人とはいえないけれど、魔族の侵略ぶ歯止めをかけるのに一役買っているのは確かだ。
このままいけば、この国を待つのは破滅のみ。
そこへと進む速度を少しでも遅らせる事ができる要因は大切にすべきだろう。
捜索班の準備が整い、地下へと騎士たちが下りてくる。
「では、行くとするか。」
聖なる壁が魔族に対してどの程度もつかはわからない。
班わけした騎士たちを率いて、女は暗闇の中へと降りていった。
ご案内:「タナール砦」からテイアさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」にフォークさんが現れました。
■フォーク > 切欠はひょんな事だった。
傭兵フォークは、街で差し込みを起こして蹲っていた少女を助けた。
その少女が、たまたま貴族の娘だったのである。
娘を救ってもらった義理堅い貴族は、その傭兵を正規の軍人として取り立ててくれたのである。
フォーク・ルースは砦から眼下を眺めた。
魔族の群れがひしめき合っている。味方軍も奮闘をしているが、数で押されている。
このままでは三日の間にも砦を奪われてしまうだろう。
「危ういな、こりゃ」
魔族との戦は初めてだが、人間同士の争いはげっぷが出るほど参加してきた。
だから戦場を見渡せば、何日で戦線が崩れるかは大方の推測がつくのである。
劣勢なほど燃える性質だが、正規兵として預かった兵はたった百名だ。とても戦況を覆す程の力は無い。
だが動かねば、炙られたマシュマロのようにゆっくりと軍は崩壊してしまうのは火を見るより明らかだった。
「仕方ねえ。やるか」
砦周辺の地図を開く。間諜を駆使して砦の周囲にある些細なものまで記させた。
正規の軍人として雇われた記念に、大枚はたいて鍛冶職人に打ってもらった『鋼鉄のハンマー』を肩に担ぐ。
愛馬ビッグ・マネー号に跨がった。愛馬はハンマーの分、少し重くなった主人に不満めいた嘶きをあげた。
持ち兵百名を率い、砦から出た。自ら部隊の先頭を駈け、味方が目立つ場所を突っ切る。
せっかく預かった可愛い部下だ、なるべくなら一人も死なせたくはない。
死なせないために、殺すしかない。
「矢を番えろ」
で、兵に命じる。
眼前に、魔族の村が見えた。
■フォーク > 『砦側の魔族の村が鏖される』
タナール砦の長い戦史に、このような一文が記されることになる。
村民も驚いたに違いない。魔族とはいえ戦から避けて隠れるように小さな村を作り、平和に暮らしていた村なのだ。
そこに百名の人間の兵が押し入り、苛烈で残虐な侵略行為を行ったのだ。
「数名は見逃せ」
指揮をする時は、できるだけ言葉少なに指示をする。部下には感情を悟られたくはない。
自らハンマーを振るう。魔族の血も熱いことを知った。
部下たちも武器を持たない相手を攻めることに躊躇をしていたが、隊長の命令に背くほど愚かな兵たちではない。
血の宴は一時間もかからなかった。
フォーク・ルースは村の入り口に死体を乱雑に並べ、家々に油を撒いた。
そして、砦で戦っている兵が逃げた村民から話を聞き、軍を割いてこちらに兵を差し向けてくるのを待つことにした。
「池の水を減らしたい時はどうすればいい。溝を掘って水が抜ける道を作ればいいだけさ」
もし魔族の指揮官がこちらに兵を割かねば、砦は奪われる。しかし兵をこちらに来れば、それだけ味方の負担は軽くなる。
そして斥候が、魔族の軍が村に向って進軍していると知らせてきた。
「さて、もう一仕事だぜ、皆の衆」
返り血で顔も鎧も朱に染めた部下たちに新たなる命令を下した。
■フォーク > 「よく来たな、○○○○(魔族の言葉で、魔族を心底侮蔑する差別的な言葉)」
フォーク・ルースは愛馬に跨がり、村の入り口で、死屍累々の村民の遺体にすがりつき涙を流す魔族の兵たちに、大声で呼びかけた。
「俺の名はフォーク・ルースだ。見ての通り人間だ。これは全て俺がやったことさ。ま、戦場の近くで平穏に暮らせる程……世の中は平和じゃねえってことさ」
魔族の軍が襲いかかってきた。どの顔にも狂わんばかりの殺意が浮かんでいる。
フォークは馬主を翻すと、呆れるばかりの速度で逃げ出したのである。
魔軍は追う、フォークは逃げる。捕まりそうになればすり抜け、また駈ける。
「入ったぞ!」
村に魔族全員が入り込んだのを確認して、合図を出す。
村の家々に配置していた兵士たちが窓から飛び出し、一斉に家を押し倒したのだ。
あらかじめ柱に斬りこみを入れていたので、家はあっさりと崩れて魔族たちを押しつぶしていく。
潰れた家々の間にあるほんの小さな空間に、愛馬ビッグ・マネー号は立っていた。
「最後だ。火をかけるぞ」
潰れた家の下からは、魔族の呻き声が聞こえる。とどめを刺さねば、ここまでやった意味はない。
かくして魔族の間に、フォーク・ルースという男の悪名が一気に広がるのである。
なお、戦術とはいえあまりにも非人道的な行為をした責任を取らされ、フォーク・ルースは軍を解雇されたのはいうまでもない。
「とほほ~」
とほほ~ではない。
ご案内:「タナール砦」からフォークさんが去りました。