2018/10/23 のログ
レイカ > 「………あくまで、止まってくれないということですか。」

おそらく、こんな状態でなければその胸を、私はとてもうらやましいと思っただろう。
何しろ細身で、スレンダーな体つきをしているからないものをねだってしまう。
私だって生き物なのだから、ないものをうらやましいと思うのは仕方がない。
だが、それが逆に私をまだ、獣に落ちていないと思わせてくれる。

が、今はそんなことはどうでもいい。
手にしている刀と呼ばれる武器は、随分と長い。
ドリアードの気配が徐々に、随分と鋭くなっていくのがわかる。
彼らもおそらく、わかっているのだろう……”ここでは長物は触れない”ことを。

「…それを抜くのはやめたほうがいいですよ、このあたり一帯は精霊の加護を敷いている森。
少しでも傷つければ……彼らの怒りを買うことになります。」

おそらく今、この場所は私は間合いに入っている。
そして私の間合いはまだ遠い。

ヒビキ > 死線に踏み入るその瞬間、機先を制して投げつけられるエルフの鈴声。
鉄壁の無表情が、ピク、と小さく眉根を跳ねて―――ピゥン。

斬閃の音は、弦楽器の一弾きよりも尚涼やかに響いた。
食人鬼の巨胴すら一薙にて両断する黒色の陽炎が、長刀を数倍する間合いの外から振るわれたのだ。
本来ならば、鞘を捨てねば物理的に引き抜く事すら出来ない理外の長物。
しかし、長柄を握る双腕は一瞬見失う程の速度で確かに振るわれ、直後にはチィィインンっと高らかに鍔鳴りの音を響かせ刃を鞘に戻していた。

「―――…大丈夫。傷は付けない。…………もし付いてたら、ごめん、舐めて治す。」

鋼の胸鎧諸共、エルフの細身の前面を覆う着衣全てを斬り裂く唐竹割り。
それでいて、精妙なる剣筋は彼女の白肌に血の一滴すら滲ませる事は無いはず―――なのだけど、エルフの動きや精霊の守りがどの様に作用したか次第で結果は変わろう。
無論、彼女の身体に軽傷以上の傷を付ける事になるのなら、その直前に無理矢理鬼道をずらした一閃は、地面だけを深々と切り裂く結果に終わる事となるが。

レイカ > 「………なるほど、確かに早いですね。」

おそらくその一太刀は、あっさりと私を切り裂くこともできるだろう。
ぎりぎりの間合いであったその場所ならば、私のするべきことはたった一つ。

あいにく、私も生娘や町娘のように、刃物をみておびえるような…そんな繊細な心は持ち合わせてはいない。
一瞬、ほんの一瞬だけでいい。
後ろ位に下がり、その刃を避けるだけでいいのだ。
少しだけ、ブレストプレートに瑕はすくだろう、何しろこれは銀製。
あまり強くはないそれだから、鋼をも切り裂けるというその刃。
太刀風に前髪を揺らされながら、私はそこに…ブレストプレートを裂かれた状態で、立っている。

「舐めて治されるのはごめんです、何しろこの身体は先約がありますので。
でも…わかりました。この先に何の用があるのかを聞きたいのですが。」

殺気の口調で分かった…この人はおそらく、敵意をもってここにいるわけじゃない。
何か、本当に用事があってきたのだろう。
それがミレー族に対する敵対行為ならば本気で相手をするが。

ヒビキ > 変わらぬ無表情。
しかし、その心中では『あれを躱すか……っ!』という確かな驚嘆を感じていた。
並の剣士であれば、切られた事にすら気付かずに立ち尽くすのみ。
達人であろうと、僅かな気配の変化に気付いて大きく飛び退いて回避を狙うのが精々の初見殺し。
それを僅かに身を引くことで無力化してのけたエルフの実力は、どうやらヒビキの眼力を上回る物だったらしい。

「―――…修行不足」

鉄壁の無表情にほのかに滲むしょんぼりとした気配。
しかし、一瞬覗いた鬼気は既に霧散し、長柄に添えた両手も下ろしている。
ある程度の実力を備えた武人であれば、ただの一合が言葉の羅列を上回って理解を深めると知っている。
こちらに敵意が無いことが見抜かれたのと同じく、眼前のエルフにも邪心が存在しないと感じ取ったヒビキは

「―――…これ。頼まれて持ってきた」

背負い袋を漁り、種の詰まった麻袋を彼女に差し出す。
数日中に馴染みの行商人が農作物の種を持ってくる事になっているという情報は、恐らく守り人たる彼女にも伝えられているはずだ。
様々な情報を曖昧にぼやけさせたままの目的開示が、この緊張状態の解決を果たすことになるかどうか。

レイカ > 「だてに、この森で過ごしているわけではないので。」

この自然がすべて私の目であり、体だ。
言ったはず、この場所では互角に戦えるはずと。
もしもこの森の中でなく、精霊の力が使えない場所だったら…今頃私は丸裸にされていただろう。
それも、何も理解できないままに恥ずかしいことになっていたに違いない。

だが…私のブレストプレートは完全に切り裂かれている。
避けたのはよけた、しかしそれは布地一枚分程度。
どうやら、今度は変えの防具を持ってきてもらわないといけないかもしれない。
何しろこのブレストプレート、私が持っていた唯一のものなのだから。

「………はい?…ああ、トゥネルソルの人だったんですか。
そうならそうと、早く言ってくれれば…。」

…いつもと違う人が持ってくるという話は聞いている。
確か、行商人に持たせてという話は聞いていたが…彼女が?
いや、ただの行商人にしては明らかに姿や武器が…。
用心棒でも雇っていたのだろうか、そんな考えが浮かぶ。

ヒビキ > 何の反応も出来ぬまま着衣を切られ、偉そうなことを言っている間に裸身を晒す。
美貌の妖精族のそんな可愛らしい有様も見てみたかった……などと考えるむっつりスケベな女サムライだが、エルフにも劣らぬ美貌が作る超然たる無表情からはそんな気配は漏れ出ない……はず。

防具に対する被害は物資の不足する隠れ里に属する彼女にとって馬鹿にならない代物だろうが、鉄血のサムライ衆に抜かせておきながらも死んでいないというだけでも僥倖という物だ。
などといういかにも武人らしい理屈で、使い物にならなくなった防具から微妙に目を背けるヒビキ。

「――――…とぅねりゅ? ……ん、そういえばそんな事言ってた。」

耳慣れぬ響きに舌を噛みつつも、依頼してきた行商人は確かにそんな名前を名乗っていた様に思う。
ともあれ、完全に彼女の警戒が解けた事に、ポーカーフェイスで安堵する。

「――――…お前を疑うわけじゃない、けど、きちんと村に持っていきたい。それが仕事。案内、頼める?」

彼女に種を渡して王都に帰るという選択肢も無いでは無いが、受けた仕事は完璧に遂行しておきたい。
それが、出会ったばかりのサムライ娘に全額前払いで依頼した行商人に対する義理という物だから。

レイカ > なんだろう…背筋に何か悪寒のようなものが…。
いや、それに関しては今は気にしないでおこう、たぶん気のせいだろう。
精霊の力を使った後の反動だろうし、気にしないでおこう。

「…そっちから、私のことは聞いていなかったんですね……。」

おそらく、あの子の担当のはず。
説明し忘れたとか、そういうのだろうし…うん、気にしないでおこう。
あそこにはいくらでも世話になるのだし、この程度のことでクレームをつけてはいられない。
使い物にならなくなったブレストプレートは、拾って里で何かに使いまわそうか。

「…ええ、もちろんです。ですが…聞いていると思いますが、里のことは王都では絶対に秘密にしてください。」

里のことを外に漏らしてしまえば、しばらくは落ち着いている奴隷商人がまた押し寄せてくる。
もうすぐ冬になり、このあたりの防御はその期間はどうしても衰える。
自然に左右されやすい私の力だから、できる限り内密にしたいのだ。

ヒビキ > 「――――…ん、道中気をつけるようには言われたけど、それだけ」

生き馬の目を抜く商人の世界で生きる相手なのだし、単に説明し忘れた、というよりも何かしら別の理由があっての事かも知れない。
ヒビキが無為にエルフの守り人を斬殺したりしないという確信もあっただろうし、その逆もないと見越しての事だとは思うが、事情を知らぬヒビキには分からぬ事である。

「ん、それについては強く言われた。仕事の一環。安心、して」

そもそも、茶飲み話に花を咲かせる相手すらいないぼっちである。
元々の極端なまでの口数の少なさも相まって、このサムライ娘から情報が漏れるなどという事はありえない事だった。
そんなわけで、彼女の頼みには力強く頷き、黒の馬尾を揺らして見せた。

「―――…じゃあ、案内よろしく」

種を戻した背負袋を背負い直し、切れ長の黒瞳で改めてエルフを見下ろす長駆の女剣士。
それらの挙措は胸元の肉果実をいちいち揺れ動かして、エルフの薄胸に得も言われぬ感情を呼び起こすかも知れない。

レイカ > 「……いえ、たぶん忘れただけでしょう…。」

何となくだけど、そんな気がする。
だけどそれに対していちいちクレームをつけるつもりはない。
そういうこともあるだろう、程度でいい。

「ええ、わかりました。…私はレイカ、以後そう呼んでください。
あと…………いえ、これはとても個人的なことなので、今は言わないでおきましょう。」

気になる…すごく気になる。
いったい何を食べればそんなにも大きくなるのかとか、どうやったらそこまで体格に恵まれるのか、とか。
小柄で、スレンダーな私だからこそ気になってしまうのだ。
確かに色事にはあるけれども、最近あの人も帰ってこないし。

だが、今はそのことは置いておこう…うん、置いておこう。
確かに美人だし、スタイルもいいから気になるのは気になる…。
でも、今はとりあえず、里までの道を急ごう…。
そうして、私は自分の考えを少しよそに放り出すのに精いっぱいだった。

ご案内:「ミレーの隠れ里」からレイカさんが去りました。
ご案内:「ミレーの隠れ里」からヒビキさんが去りました。