2017/05/12 のログ
レイカ > 「………フフッ、なるほど…キミがたいそうおかしな魔族だっていうのはよくわかったよ。
後、あいにく心変わりはするつもりはないよ、キミがよほどの対価を示してくれない限りはね。」

本当に、私の知っている魔族は変わり者が多い。
人間の世界を好きになりすぎて、一家総出で人間界に関係を持とうとしていた人たちもいた。
私の友達、親友の一家なのだけれど、彼らも相当変わり者だった。
もっとも、そういう魔族がごくごく一部なのだろうけれども。

だが、真剣な顔になった彼女の言葉を聞き、私も少し訝し気な表情になる。
ここ1年、私たちは決して人目につかないように生きてきたはずだ。
つまり、一年前にまで遡り私たちを追う人たちがいる…。
そんなもの、道楽貴族以外の何物でもない、もしくはただのミレー族狩りがそんな情報を流したのか。

だが、そんな後も私たちは決して残していなかった。
この森は、私が半年ほど時間をかけてドリアードたちの協力の下、人間はそう簡単にこの場所にたどり着けないようにしている。
彼女のように、鼻の利く魔族にはあまり効果はないのかもしれないが、そのあたりも考えるべきか。

戦莫迦、その言葉を聞いて少し私はとある人物を思い出した。

「……お金を余らせている貴族の考えそうなことだ。
あと…その質問も黙秘させてもらう。…キミが依頼主にこの場所を教えないとも限らないからな。」

もちろん、その場合の対処も早急に打つつもりだが、さすがに魔族が相手ともなると効果は薄い。
彼女が一緒に来るとなると、この場所はあっけなく暴露されてしまう。
結界を張れないミレー族の里、そんなもの人間にしてみたら宝の山だ。

イスカ・レナイト > 「ふぅむ、まあそりゃそうか。そっちから見りゃ、私はうさんくさい良く分からん魔族だ――って良く分かったな」

分かったなも何も、この口ぶりで人間だったら驚きではある。
が、相手が種族を見極める目を持っていること、それには考えが至らないようだ。

「……しかし、参ったなぁ。でかい報酬の仕事だからと引き受けたが、ガキとっ捕まえてあのデブ貴族に引き渡すのも寝覚めが悪いぞ。
 見たことあるか、この国の貴族の一部な、すごい太ってるんだ。自分で何か働く必要が無いからだな。
 自発的にやるとすりゃ咀嚼くらいで、セックスさえ自分で腰を振らない。十歩走ったら膝が砕けてすっころぶぞありゃ」

雇い主を、金払いはどうだか知らぬが、その人間性については酷く嫌っていると見える。
あしざまに言う顔は嫌悪に満ちているし――語る口ぶりから、雇い主の姿を思い描くのもたやすいだろう。
マグメールにはそんな貴族、捨てるほどに溢れているのだから。
女は暫くの間、座ったままでうーうーと唸っていた。が、やがて腕組みをしたまま立ち上がり、問う。

「……はずれを引いたかねこりゃ。なあ、あんた、もし私が今ここで雇い主を探し始めたら、報酬としてどれだけ出す?」

レイカ > 「それだけ話を聞いてたら、何となくだけれどね…。
それに、私は見た目以上に年を取っているから、知識はそれなりにあるよ。」

きっと見えているだろう、私の尖った耳が。

「私はエルフだからな、少し勘が鋭いんだ。」

後、少し堅物で考えすぎる傾向もあることもわかってくれるだろう。
さすがに、私の目のことは言うつもりはない。
話して、その目をほしがる人がいても困るからだ…。

「……知ってる、今まで何度も相手をしてきたからな…。
その言い方からすると、あんまり好き好んで使えているわけじゃなさそうだな……。
よかったら、名前を教えてもらえるか…?」

雇い主のことを悪く言っているあたり、どうやら完全に敵だという訳じゃなさそうだ。
もちろん、口ぶりからして依頼を受ければ、敵に回る可能性も確かにある。

だが…私はその思い描く貴族を想像しただけで寒気がする。
まだ、私が騎士団にいたころを思い出すようで…自然と体が震えてしまう。
トラウマ、払しょくしきれない心の傷をえぐられるようで…自然と顔がこわばった。

「……残念ですが、提供できるのは食事くらいで…。
この里は、自給自足で成り立っているから、キミが満足できる報酬を渡すことはできないよ。
だけど……そうだな、有事の時に手を貸してくれるっていうなら…。」

………少し、恥ずかしい。
けれど、私はミニスカート(と言っても膝が隠れるくらいだが、スリットがついている)をたくし上げて、下着を見せた。
お金なんて、この里には必要ないし交流している村もない。
食事は、狩りをしてくれるミレー族と畑でとれる野菜くらい。

だから…報酬らしい報酬と言えば…これくらいしかなかった。

「私が助けてほしい時に…状況に応じて付き合ってあげるよ。」

イスカ・レナイト > 何度も相手をしてきた――その言葉を、どう受け取ったのか。
少なくともその時、この女は哀れむような顔をしたわけでも、かと言って嫌悪感を示したわけでもない。
敢えて言うなら貴族の話題を持ち出していた、その延長線の表情のまま――少し眉を上下させたくらいのものである。
そしてまた、この女が戦術以外に、もう一つだけ足りない頭を使うものがある。
色事だ。
目の前の相手の言葉、そのニュアンスがどうにも肯定的でないということは窺えて――

「――その報酬は気に入ったが、隠しておきな。犯すだけなら、相手は戦場でも探せる」

分かった、引き受けよう、とは言わなかった。
否、言えなかったと言うべきか。
引き受ければ相手側に、それを支払う義務と義理が生じる。そして自分は仕事を果たす義務が生まれる。

「今から震えてるような女をベッドに押し倒して、私もあんたも楽しめるとは思えないよ。
 吹っ切れたらまたそうやって誘ってくれ。……下着は着けてないのが好みだ」

が――達成して、じゃあ報酬を受け取ろうと、目の前の相手に飛びついて楽しいものか。
この女は、相手が過去の記憶に震えているのを、自分の為に震えているのだと受け取ったのだ。
そして女は、身体の向きを変えないままで二歩ばかり後退する。
距離を開けた――それは単純に、武力を行使できない位置へ移動したというだけではない。
自分は、そちらが望まぬ方法で触れたりはしない。言葉で示すのは上手くないのだろう、だから距離をとったのだ。

「イスカ・レナイト、傭兵騎士だ。ミレーだろうが王国人だろうが、まともな人間は大好きさ。
 あんたは? 長く生きてる同士だ、お互い名前くらい聞いたこともあるかも知れんよ」

レイカ > 「………。やっぱり、キミ…いえ。
イスカさんは変わり者ですね…先ほどまで警戒していましたけど。」

何となくだけど、この人は敵にはならないのではないか。
そんな安心感が芽生えたので、ようやく私は警戒心を解くことができた。
武器を行使しても届かない位置まで移動したのを見て、少し不思議にも思ったが…。

だけど、この人には一つだけ…そう。
一つだけ、お願いをしたくなった。

「下着はつける主義ですので…、さすがに子供が見てるかもしれないのに、教育上よろしくないでしょ?
私はレイカ…今はそう名乗っています。」

少なくとも、私は彼女の名前を知らなかった。
だけど、もしかしたら彼女は私を知っているかもしれない。
あまり名前を明かすことはなかったけれども…望まぬ形で触れようとしないならば。
戦莫迦であるのだろうけれど、常識外れという訳ではなさそうだった。
やっぱり変わった魔族だ…。

「イスカさん、お願いがあります。
これは依頼でも何でもない…私からのお願いです。」

報酬も、遂行する義務も発生しないただのお願い。
彼女と私との…ただの口上のおねがいだ。

「……ここの場所を、決して誰にも言わないでください。
この森には細工をしてありますが、あなたのように魔力が高い人がいると見破られる可能性が高い…。
…ようやく、平穏を手に入れられそうなミレー族の皆を…そっとしてあげてくれませんか?」

私は、彼女にここのミレー族がどんな境遇にあってきたのか。
案にそのことを彼女に伝えながら…頭を下げた。

イスカ・レナイト > 「ここの場所を、誰にも、か」

復唱し――イスカは少し、黙り込んだ。
分かった、と即座に答えられれば良いのだろう。が、そうはいかない事情もある。
依頼人が自分に嘘を吐いたのか、それともレイカが自分を騙しているのか、どちらだと断言ができないからだ。
この女は、さほど賢くない。
賢くないことを自分で良く分かっている。

「その言い方に、私が返せるものは少ないぞ。
 ここを放っておくんなら、私は依頼人の尻を蹴り飛ばすってことだ。
 仕事をきっちりやるって言うなら、あんたに〝分かった〟と言って、その足で依頼人のところへ駆け込むだろうさ」

だからこそ、今この場で全て決定してしまうには、まだひとつ要素が足りない。
それこそ必要なものは――大義名分だとか報酬だとか、つまりはそういうものかも知れなかった。
直ぐに飛びつける餌が欲しい。そうすればこの女は、嬉々として餌に飛びついたのかも知れない――
しかし、否と言ったわけではないのだ。

「エルフのレイカ――正直、記憶にはない。何百年も生きてるんだ、似たような名前の奴なら、一人くらい思い出すところだが――
 もし思い当たる奴だとしたら、たぶんこの先は余計なおせっかいになるだろうな。まあ、聞け。
 たかだか数十人で篭城したところで、無傷で勝ち続けるのは難しい。極論、空を飛べる魔族や魔術師がいたら、この防壁は無意味だ。
 それに私なら、依頼人の金で火砲を用意するな。防壁もやぐらも砲撃で打ち壊し、人数の差で制圧する。
 ……だから、早く結界を作るか、逆に打って出るんだ。私がたどり着いたんだ、いつか他の誰かも気付く。救援の無い篭城は地獄だぞ」

頭を下げたレイカに、イスカは背を向けて歩き始める。
ついにイスカは、お願いさえ〝引き受けた〟と言うことは無かった。
が――

「まぁ、なんだ。〝影の黒槍〟に嘘偽りを抜かした貴族がいたとしたら――」

この女は、魔族である。
いかに人間が好きで、目の前の相手に配慮を見せる余裕があろうとも――

「そいつに生きててもらう理由もあるまいよ。そう思わんか?」

同意を求めるように言って、イスカ・レナイトは去って行く。
最後に残したこの問いの答えを、背に投げつけるか、それとも飲み込むか。
それもまた、この女が向かう先を決めるのかも知れない――

レイカ > ――――――答えは、保留ということだったのだろう。
わかったと答えないのも、そして却下しないというのも。
結局は、彼女自身も決めかねているのかもしれなかった。
胸の内まではわからないし、あいにく彼女らを動かせるだけの報酬を用意することは、この場所では非常に難しい。
だからこそ、足りない要素を埋め合わせることは…難しかった。

そういう意味では、私は非常に不利な戦いを挑もうとしているのだろう。
すぐに飛びつける餌を用意できない、そして人数でもかなわない。
孤立無援で、もしも人数で攻められたらおそらく、こんな防壁も意味をなさないだろう。

すべてわかっていることだ…人間たちは欲に忠実で。
だからこそ、私は待っている……友達が、ここに来るのを待っている。

「……分かっているつもりですよ、そのくらいのことは。
でも、其れでも…地獄を見てきたものとしては、縋りたいんですよ。」

たとえ薄い氷の上にある平和であっても、命を懸けて守りたい。
その力を蓄えて、この防壁を超えるものがいなくなるまで、私は戦うことに決めたのだから。
いつかこの場所は知れ渡るだろう、結界を張れないミレー族の里なんて、たやすく見つかる財宝のようなものだ。
彼女の言葉を飲み込み、私は顔を上げた。

「…………そうですね。」

彼女が去り際にはなった問い…。
その雇い主が放った嘘を証明できれば…彼女はきっと味方になってくれるだろう。
その背中を見送りながら…私は防壁に目をやった。

未完成で、何と頼りないことかと不安を抱えながら。

ご案内:「ミレーの隠れ里」からイスカ・レナイトさんが去りました。
ご案内:「ミレーの隠れ里」からレイカさんが去りました。