2019/08/29 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山中」にベルモットさんが現れました。
ご案内:「九頭龍山脈 山中」にアセナさんが現れました。
■ベルモット > 遠くに視るなら峨峨たる稜線が美しく、近くに寄るなら数多の惹句が耳に入る。
大小様々な古代の遺跡が眠るとされる九頭竜山脈は、成程冒険者にとって垂涎の地に違いない。
けれども彼ら彼女らを狙う山賊、野盗の数は計り知れず、近隣の人々の間では付近の道は山賊街道とまで呼ばれるのだとか。
「つまりは濫りに近寄るべからずって風評な訳で、近づかれると困る何かが此処に在るって事よ」
あたしがこの国来たのは、そもそもが一説には賢者の石の材料とも言われる朱金・辰金を求めての事だ。
その存在が此処、九頭竜山脈に眠るとの実しやかな噂を耳にして早速とやって来た──と言う訳。
……本当は一緒に来る筈の人が居るのだけど、先んじて先行調査と云う奴。だってあたしは天才だから。
「賢者の石か、はたまたその材料か。手に入るならあたしの目標達成へと近づくのだからどっちだって素敵よね。
今日は様子見だけのつもりだけど、まさかまさかの大発見!なんてのもあるかもしれないわ」
乗合馬車を利用して近隣の集落まで行き、そこからは街道を歩いて山に入り、特別な問題も無く登山道中となった。
メグメールの森と違い、快晴の空が合間に見える山道は何処となく清々しいもので独り言も自然と弾む。
「ただ問題は古代遺跡だけど……山脈内部に様々な遺跡が──なんて妙な話だわ。
案外、昔々には山じゃなくて巨大な建造物だったりして。温泉が湧くというのも気になる所だし」
山道を歩いていると時折揺蕩う白煙を視た。それらは自然に沸きだした泉からなる湯気であり、この地に熱量が眠る事を示している。
九頭竜山脈が火山であるという話は聞いていないのだから、何か別の、そうした要因があると察する事は容易い。
「それらの謎を解き明かして賢者の石の手掛かりを掴み、遺跡を踏破したならばあたしはタイクーンよ。やってみる価値はあるわ!」
意気軒昂と杖を振うと、その先にあたしの闘志であるかのように炎が灯ってお昼時の山道に輝いた。
■アセナ >
登山道中。己(おれ)は魔狼の末裔なので体力的問題はないのだが。
この同行者はニンゲンなのにとても元気だ。
「そうか………」
喋りながら歩くのはしんどくないのか?
そしてこの山道は硫黄臭が鼻をつく。
己は嗅覚が鋭いので若干堪える。
「古代遺跡」
相手の言葉を反芻するように頷く。
でも言っていることは鸚鵡返しだが。
「それで……その賢者の石というのは、良いものなのか?」
己はレンキンジュツというのに明るくない。
多分、賢くないと作れないのだろうが。
杖の先の灯りに視線を落として。
「まぁ……己は金になりそうなものが手に入れば文句はない、もう日雇いはしばらくしたくない」
■ベルモット > 「ふふん、そうなのよ。そして古代遺跡にあるとされる賢者の石だけど……そりゃあ良いものよ?……たぶん」
もう一度杖を振って炎を消してからくるりと後ろを向いて同行者に胸を張る。
張るけれど語調の後半はちょっとトーンダウンした。
「一般的に言われているのは不老不死の源だとか、永遠のリソース、石屑を黄金に変え続ける変性体だとか。
はたまた手にした人間の魔力や精神に干渉する魔術的触媒だとか。具体性に乏しくも共通しているのは、
人智を超えた物体である。人の手に無い神々の権能の一部である。という事よ。
平たく言っちゃうと、なんでも願い事が叶う物体。とかでもいいのかもね」
けれども問いに対する回答が連なるにつれてトーンアップして何時もの調子に早戻り。
近隣の集落で出会い、同行する事になった殿方にあたしは鼻息荒く言葉を投げる。
「勿論貴方の言う通りにお金にもなるわ。それこそ一生遊んでくらせる大金になるでしょうね。
だから頑張りましょう?もっとも、あたしとしては売るよりはその性質を技術として──」
後ろ歩きの姿勢で山道を上り、殿方──アセナさんに身振り手振りを交えながらに語っていた言葉が不意に止まる。
止まって、視界が空転して倒れる。幸いに背負った背嚢のおかげで怪我はしなかったけれど、
何事かと足元を見ると細い倒木に躓いたのだと知れた。自然に倒れたものじゃあない、天上の雷霆に打たれて焦げたものだ。
「危ない危ない……そういえば数日前は随分な雷雨だったそうね。
何処かで土砂崩れでも起きているかも。序に未開遺跡の入口でも露わになってくれていたらいいんだけど」
颯爽と立ち上がってスカートの土を掃う。視線を巡らせると木々の合間に言葉通りの崩れた跡が視得た。
「あ、ほら。ちょっとあっち行ってみない?」
■アセナ >
話を聞けば、なにやらとんでもない宝らしい。
それだけ聞けば冒険に出る理由として十分だ。
「それはすごいな………神々の権能、というのは気に入らんが」
彼女……ベルモットはなんというか、物好きに見える。
少し癖のあるブロンドヘアー。好奇心に輝く碧眼。
そして、何とも言えず良い匂いがする。
頼んだら匂いを嗅がせてくれないものだろうか。
「がんばろう」
がんばろう。そう思った。
躓いた彼女が起き上がるのを見ていた。
本当は手を貸そうかと思ったが、あっという間に立ち上がる。元気なものだ。
「む……崩落が続くかも知れん、己が先に歩こう」
崩落や倒木で死ぬ魔狼はいない。かなり痛いが、死ぬほどではない。
「いいか、防御と近接攻撃と荷物持ちは己がやる」
「それ以外は基本的に自己責任だ、いいな?」
■ベルモット > 「んふふ、あたしも。ちいっとも気に入らないわ。
だから超常のなにか、は解明されて技術として普及するべきよ。
そうすれば限られた一部の人間以外の人も幸せになるわ。
差し当たって手に入ったら……まあ医術の発展に役立ちそうかな?」
頑張ろう。と云うアセナさんにあたしは緩やかに笑んでみせた。
彼は言葉数こそ少ないけれど、誠実に見える。
言葉の端々から人の好さも感じ取れた。例えば、荷物持ちの事とか。
「荷物くらいはあたしも持てるってば。でも、前衛はお願いね」
先導する彼の後をついて山道から外れる。
木々の影にある土は未だ湿り、ぬかるみ、歩き辛いけれど、歩き辛いだけだ。
何も泥や木々が襲って来る訳じゃあない。
「……うーん………いや、まさかまさかの~なんて言ってたけど。"まさか"ねえ……」
そうして土砂崩れの現場まで辿り着くと私の眉根はぐにゃりと寄った。
倒れた木々、露わな山肌、所々に混ざる岩。
そういったものの中にぽっかりと口を開けた石造りの入口と、朽ち掛けの大扉なんてものがあったのだから。
「でも、これって大きなチャンスだわ!ね、折角だし入ってみない?」
アセナさんの後ろから一歩踏み出そうとして足が滑り、慌てて彼の肩を掴みながら一言。
折角だからとそのまま引っ張って入口に向かおうとしながらの二言。
一先ずも二先ずもあたしはアセナさんをぐいぐいと引いて、そうして朽ちかけた大扉の前に向かう。
扉の高さは3m程。木製で随分と旧いものだと判る。隙間から中を覗くと暗がりにひゅうひゅうと空気の音がするばかり。
■アセナ >
医術の発展に。医術というのも金持ちのやること。
しかし、彼女の言葉には金儲けという色が見えない。
しまった、こいつはお人よしだ。
多分、手に入れたら本気で医術・医学の発展のために賢者の石を使うだろう。
理解に苦しむ。ヒューマンというのは我欲に塗れた生き物ではないのか?
それとも己が読み違えてるだけで自分がハッピーになるついでに畜群を救うという考えか?
「ツーマンセルの基本は長所の押し付けだ」
「己は筋力に優れるから重い財宝を担げる。だからそう判断しただけよ」
進んだ先に見つけたものは、朽ちた扉。
隠された未踏の遺跡など、そう見つかるものではない。
罠満載の危機でもあり、千載一遇のチャンスとも言える。
鼻を鳴らす。
変な匂いはするが、悪い空気ではない。
入って即、昏倒するようなことはないはずだ。
「どいてろ」
剣を抜いて構えを取る。
ヒューマンの剣術には、対物特化の技もあった。
筋力がモノをいうそれを、己は得意としていた。
「ぬん!」
巻き込むように切っ先を突き立てると、衝撃で木の扉が粉砕された。
たしか、ボルテクスブレイクとかいう剣技だったはずだ。
「………」
トラップが作動した気配や音はない。ひとまずは進めそうだ。
■ベルモット > 「そうなるとあたしの長所は……頭脳……とと」
鼻を鳴らして不愛想に告げられる言葉に、改めて考えていると彼が剣を抜いた。
言葉通りに長所を大扉に押し付けようとしている。なんて事は判ろうもので慌てて離れる。
そうして大扉は忽ちに解体されて遺跡の入口が露わになり、古臭い匂いが周囲に漂った。
「………………古い建物の匂いがするわね。多分、瘴気とかじゃないと思うけど。
そして人の踏み込んだ形跡はやっぱり無い……かな?ほら、床の苔が綺麗に残ってるもの」
渋面を作りながらに杖先に炎を灯し、開け放たれた入口周辺を見る。
明らかに自然ではない、人工物の通路は所々が苔生して堆い月日を感じさせようもの。
「罠……もとりあえず無さそう。魔物も……まあ、未開なら生き残っている筈も無いのかな?
とりあえず進んでみましょう!
そうしてあたし達は遺跡の中に入った。
通路は人間が3人程横並びで歩けるくらいの幅で高さは扉と同じくらい。
壁に燭台のようなものはなく、ただただ真直ぐに、緩やかに傾斜して下へと向かう路を進む。
「……何だかずうっと下ってばかりだわ。遺跡ってこういうもの?」
あたしは余り遺跡というものに明るくない。
それとなく傍らの彼に尋ねると同時、あたしの足が何かを踏んだ。
踏まれた床はがこりと沈んで、後方から凄まじい轟音がした。
「あら────?」
振り向くと、通路一杯の球が此方に転がってくる所だった。
■アセナ >
「罠は生きてるだろうし、スケルトンやゴーレムの類ならいるかも知れん、気をつけろ」
言いながら緩やかな傾斜路を下っていく。
己は夜目が利くが、光が一切ない環境ではベルモットの灯りが頼りだ。
「いいか、気をつけて進め……って…」
転がってくる重そうな球体。
二人同時に前を向きなおし、地獄のランニングが始まる。
「言っているだろうがぁぁ!!」
全力疾走、もう罠がどうとか言っている場合ではない。
傾斜はこういうことか。
まずい、全力疾走するよりも球の転がるスピードのほうが速い!!
「解!!」
己は咄嗟に人化の術を解除し、魔狼(といってもニンゲンにはもっふもふの大型犬にしか見えないだろう)に変化。
「乗れ!! 不本意だが!!」
そう叫んで疾駆した。
■ベルモット > 「そんな事ってある!?」
遺跡にあたしの悲鳴が甲高く響き渡るも、巨大な球が転がる音にかき消された。
球。丸い岩。坂道を転がるもの。進路上に存在するものはもれなく轢き潰されるに違いない。
成程、そりゃあ魔物なんて居る訳も無い。なぁんて他人事のように思考が俯瞰して、アセナさんの声で我に返って走る。
杖を落とさないようにして走る。
苔生した路に足を滑らせない事を祈って走る。
おのれ古代人。よくもこんな罠を作ったわね、後で恨んでやる。と決意を新たに走る。
けれども人間の脚力よりも巨大な質量は早くて、速くて、あ、これはひょっとしたら駄目なんじゃ?
なんて弱音が脳裏に歩み寄り──
「──そんな事ってあるぅ!?」
次には、白くてふわっふわの大型犬に変身したアセナさんに蹴り飛ばされて消え、
あたしの口からもう一度甲高い悲鳴が飛び出た。
「ええい、どうにでもなーれ!」
促されるままに飛び乗り、必死にしがみ付く。
ふわふわの毛並みが頬に触れてこんな時だってのに和みそうになるのを振り払う。
■アセナ >
間違っても耳だけは引っ張ってくれるなよ、ベルモット。
「うおおおおおぉぉ!!」
叫びながら転がる球体を少しでも引き離そうと走ると、目の前に大穴が見えた。
クソ、良い性格をしている。
逃げても逃げても、ここで終焉という仕組みらしい。
だが。
「この程度ッ!!」
ベルモットを乗せたまま大きく跳躍、大穴の向こう側にすとんと着地した。
球体は奈落の底に落下し、たっぷり十秒は数えて地の底から重苦しい落下音が響いた。
「ええい、ニンゲンに我が誇り高き真の姿を見られることになろうとは……」
その場に座り込む。
我ながらおすわりが絵になる体型だ。
「だが……ククク…恐れ戦け、ニンゲン。己が何者か、理解したであろう…」
えらそうにふんぞり返る。
ついでに痒かったので耳の辺りを後ろ足でサカサカと掻いた。
■ベルモット > 未開の遺跡に踏み入り、罠にかかり大岩に追われる。
あわや命の危機……と言った所で同行者が大型犬に姿を変え、あたしを背に乗せて逃げ切る。
もしかしたら凄い体験をしたんじゃなかろうか?と人一人乗せたまま跳躍する大型犬の背で思った。
「はあ~…………危なかったあ。多数の罠じゃなくて必殺の罠を無駄なく仕掛ける。
古代人は中々の策士ね。今の大穴もそうだし……」
アセナさんの背から降りて大きく溜息を吐き、今しがた大岩の落ちて行った暗がりを視る。
底を見渡す事は出来ず、落ちたら到底助からないだろう事だけが判り、あたしはもう一度大きく息を吐いた。
傍らではアセナさんが耳を掻いていた。
「ええ理解したわ。まさかアセナさんが犬だったなんて……いえ、やっぱりこの場合は獣人になるのかしら。
人間じゃないーって事はびっくりだけど……でもあたしを助けてくれたんだもの。ありがとうっ」
あたしの故郷では獣人に濫りに近寄るべからず。あれらは人の形をした獣であって、人ではないのだから。
なんて言われていた。でも、この国に来てからの幾つかの出会いで、人の形をしているからと言って、
判断基準や思考までもが同じであると判ずる事は危険だ。とは思えなくなってきている。
判り合えない人がいるんだもの。判り合える人じゃないものがあっても良い筈。
そんな風に思って、あたしは御礼を言いながらに彼の耳の辺りを掻いてみた。
白くてもふもふした外見が多分に親しみ易かったのもあったかも。
■アセナ >
古代人め、よっぽどのお宝を隠した遺跡に違いない。
そうでなければセキュリティ過剰であろう。
「ああ、道中にも似たような仕掛けがたくさんあった」
「踏んでも何も起こらなかったので、どれを踏んでも玉が落ちてきたと思われる」
わかってるヤツは踏まない。
わからないヤツは踏んで死ぬ。
ひどすぎるだろ。悪意の塊か。
「誰が犬だ!?」
耳の辺りを掻かれると気持ちがいい。
だがそれとこれとは話が別だ。
「己はなぁ……魔狼だ、魔族だ、ノーブルな血筋なのだ…!」
「だからこの姿を人に見せたくなかったんだ!!」
前肢で顔を覆う。しかし熊か何かが悩むポーズを取るような愛嬌が自分にあるのが恨めしい。
しばらくニンゲンの姿には戻れない。
この姿のまま進むしかないだろう。
「いいか、ベルモット。己がお前を助けたのはお前の知識をアテにしているからであってだな…!」
文句を言いながら四本の足で歩いた。
今度はあちこちに光るコケが生えている。
幻想的(と、己は思う)な輝きが通路を照らしていた。
■ベルモット > 耳の辺りを掻くついでに頭を撫で摩ると心が和むのを感じる。
砂糖を特別な釜で加工する事で綿のような菓子になるって、前に本で読んだけれど
もしかしたらアセナさんのような見た目なのかもしれないと未知の菓子に想いを馳せ……
「え、違うの!?」
て、いたら舌鋒鋭く否定されて吃驚してしまうの。
しかも続く言葉で狼だとか、魔族だとか言われたなら尚の事。
「魔族って……」
魔的なるもの。広義では人間の敵とされていて、この国も例に漏れず魔の軍勢との戦が続いている。
タナール砦なる場所で日夜血を血で洗う戦端が開かれている事は、滞在歴の短いあたしでも知っている事だ。
でも、今面前で伏せているかのような恰好の彼はとてもそうは見えない。
公園の広場にでもいたら、小さな子供に群がられよう姿なんだもの。
口にするのは流石に憚られようもので言わないけれど、目線は懐疑的にもなったかも。
「え、ええと……そ、そうね。長所の押し付け合い。だものね。
期待された分は仕事してみせるわ。だって天才だもの」
視線を他所に先に進む彼の後をついていく。
ヒカリゴケの満ちた通路は炎の明りが無くとも歩ける程で、歩を進めると少し開けた場所に出た。
天上も高く開放感があり、部屋の左右に人型の石像が3体ずつ並んでいるのだけど、
そのどれもが何処かしらか朽ちていて完全な姿じゃあない。
そして部屋の奥には祭壇のようなものが在って、その上に炎の明りを受けて煌めく像が鎮座していた。
姿形は座り込んだ猫。大きさも大人の猫くらい。特筆すべきは全体が金で出来ていて、瞳に紫水晶と思しき物が象嵌されている。
「……罠は無さそうに見えるけど……どう思う?」
見た所、像の周りに仕掛けがありそうな様子は見えない。
あたしは傍らのもふもふした背を撫でながらに意見を求めた。
■アセナ >
ベルモットからの視線が痛い。
喋る犬が狼を自称していると思われていることだろう。
「信じてくれよ!?」
ぎゃーぎゃー言いながら進む。
すると、崩れた石像と祭壇にも似た遺構に目を見張る。
「うむ、己の鼻にも罠の匂いは感じられない」
「悪意と言ってもいい、それが匂ってこないどころか、神々しさを感じるな」
「ってナチュラルに撫でるな!? 己は犬じゃないぞ!!」
進んでいくと、周囲にも価値のありそうなものが散らばっていた。
「これは魔鉱の一種だ、それも純度が高い…何か布はあるか?」
「拾えるだけ拾って己の背に結べ、金になる」
足元の石ころの匂いを嗅いで。
「これが三個もあれば一握りの魔道金属ができるだろう」
しかし、何故魔鉱がこんなところに?
捧げ物か、あるいは。
「己は今、前肢しかない。あのキンピカと、その瞳を調べるのはお前だ、ベルモット」
■ベルモット > 「あら、御免なさい。うふふ、信じる信じる。信じるからもうちょっと撫でさせて」
やいのやいのと重なる言葉の調子は緩やかに流れる清流のようなもの。
アセナさんが本当に魔族なのか、そうじゃあないのか。真偽は一先ず遺跡の暗がりに放ってしまうわ。
「あ、あるある。こんな事もあろうかとちゃーんと用意しているわ。でも魔鉱だなんて良く判るわね……。
もしかして魔族の国だと一般的だったりするの?」
放った先に魔鉱があるなら、本当に魔族なのかも。と意識が傾きもする。
何しろ手にして拾ってみてもあたしには少し変わった石ころのようにしか見えないんだもの。
ただ、手にした石に魔力を通すと淡く緑色に輝くのだから、彼の審美眼に感嘆の声だって上がった。
「……知識で負けている気がしたけど、それはそれ、これはこれね。
ええ、今は手のあるあたしが、この像を調べるわ!」
長所:腕がある。
それって長所なのか。と他人が聞いたら首を傾げそうなものだけど、
幸いにして此処に他人は居ないのだから問題無い。
あたしは魔鉱をアセナさんの背に結んでから黄金の猫像を眺め、周囲の祭壇を眺め、
改めて何も無さそうな事を確認してから像をひょいと取り上げてみた。
すると、周囲の石像群がにわかに震えだし、動き出し、けれども朽ちかけていたものだからそのまま崩れ落ちていった。
「………結果オーライね!」
もし石像群が朽ちかけていなかったら、多分、きっと、6体のゴーレムに襲われていた気がする。
気のせいと云う事にしてあたしは爽やかに笑って見せた。
■アセナ >
「ええい、その口ぶりは絶対に信じていない…!」
小さな手が毛並みを撫でると気持ちいいのだが。
それはそれ。これはこれ。己にも魔狼の矜持がある。
「いや、己の出身でもこれは貴重品だ。だから匂いを覚えた」
魔道金属はゴーレムの関節やリビング・アーマーの核なんかに使われる。
待てよ。ゴーレム? いや、まさかな。
「やっぱり待……」
言うが早いか、ベルモットが彫像を手に取ると。
危険な音が聞こえてくる。
財宝の番人、ゴーレムだ!! しかし……古すぎて崩れてしまった。
「……肝を冷やしたぞ」
マズルから深く重い息を吐いた。
魔鉱と、金になりそうな像。
後はここを新しい遺跡と報告することでもうひと稼ぎするか。