2019/03/30 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」に空木さんが現れました。
■空木 > 抜刀。
刃圏に触れた一枚の葉に三度斬り付けた。
破片と化した葉が落ちるよりも早く、脇差を抜き架空の攻撃をいなす。
身をばねのように反らし、返す刃で頭を落とす。
水を激しく舞い上げながら足を付き、脇差を戻すと同時に両手で太刀を握り突きを繰り出す――。
「様にはなっているようでございますが、しかし」
女は言うと、水を吸い透けた白襦袢の中で熱を持っている体を冷やす為に踵を返した。
轟々と音を立てて流れ落ちる滝のすぐ傍にて、女は一人剣を振るっていた。
■空木 > 二刀持ちの利点は防御と攻撃に役割を分担できることと、手数を増やせることにある。
女が学んでいるのはあくまで一刀流。二刀を用いることがあっても、脇差を投擲することくらいであろうか。
怒涛の勢いで流れ落ちる水の音が、辺りを“明るく”している。
目暗にとっては均一の音で満ちている状況はむしろ好都合。音の些細な反射の乱れを聞き取れば、針の穴を通すようなことも叶う。
女は剣を振り疲れたのか、深々とため息を漏らした。
武器を近場の岩に置くと、滝の傍から滾々と沸いている温泉に白襦袢のまま浸かる。
「はあ」
このために生きているといわんばかりに頬を緩ませる。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にヴィクトールさんが現れました。
■ヴィクトール > 仕事を終えて集落へと戻る途中、少しでも近道をしようかと森の中を突き進んだのは失敗だったようだ。
見慣れぬ獣道を進みながら、コンパスを頼りに方角だけを合わせて進むばかり。
次第に硫黄の様な匂いと共に感じる人の気配につられ、草を踏みしめて向かった先は滝の水音が響く秘境といったところか。
ほぉ…と、驚きながら湯の沸き立つ部分を見上げると、気配の主を確かめようと金色の瞳があたりを見渡す。
「……っと、わりぃわりぃ、見るまで女とは気づかなくてよ?」
気配だけでは性別まではっきりとは分からず、湯に浸かる彼女を目視して、やっと判別がつく。
とはいえ、女が一人でゆっくりとしているところに踏み込んでしまったわけで、誤魔化すように苦笑いを浮かべながら軽く頬を掻いていた。
人と魔の混じった気配、濃い瘴気と僅かに残る血と汗の匂いは戦場の空気が染み付いたかの様。
それが彼女の好奇心を煽るかどうかまでは、分からないが。
■空木 > 音がした。大柄で筋肉質な歩き方のように聞こえた。
武器を帯びているようだが、盗賊にしては堂々と接近してきている。
草を踏みしめる気配を元に、その方角に顔を向けた。
「………はて、盗賊にしては気さくなようで……。
そこのお方も湯浴みをしに来たので?」
声にこもる気まずそうな色。盗賊にしてはおかしなことだった。
見られて恥ずかしい体をしているつもりはないが、それでも一応は警戒をしているのか、身を硬くする。
まったくの無意識に指が窄まると刀を探した。己でその手を押さえると、口元をかすかに歪ませる。
「随分と臭いが漂って、くく………共に湯浴みをするというのはいかがでございましょう」
斬りたい。匂いを、嗅ぎたい。欲望を鋼の理性で押さえ込み、水面を足で揺らして誘う。
■ヴィクトール > 戦場を正面から切り開き、敵を叩き伏せる野良犬たちの長。
仲間はいざ知らず、本人にとって密やかに動く必要を覚えることは少ないせいか、まるで自身を隠す様子はない。
そして、自身の力を結晶と化して鍛え直された相棒たる剣もまた、闇の気配をゆらりと踊る炎のように仄暗く零しながら存在を主張する。
「盗賊たぁ、ひでぇ言われようだな。これでも傭兵で、部隊長してんだぜ? ぁ~…ただの迷子だ」
カラカラと楽しそうに悪人面が微笑んでいるが、閉ざされた瞳には音だけが届くだろうか。
警戒する様子が見えれば、何もしねぇよと小さく呟くように言葉をつなげていき、その証拠にそこから動くことはない。
あまりジロジロ見るのも良くないと体からは視線を反らしたが、閉ざされ続ける瞳に僅かに違和感を覚えれば、訝しげに眉をひそめて首をかしげる。
「匂い……? あぁ、わりぃ、仕事帰りだから変な匂いするかもしんねぇ……ん? そりゃ構わねぇけど…」
警戒した相手をそんな簡単に招き入れるというのも妙な話で、頭から疑問符が浮かび上がりそうな心地になる。
しかし、女からの誘いを断るのは男が廃るというもので、不思議に思いながらも近づいていき…口元の笑みに僅かな違和感を覚える。
男を誘う笑い方とは何処か異なるそれに、獣じみた直感が僅かだが警戒を促しながら、ゆっくりと湯の泉へと足音が近づく。
■空木 > 男の担ぐ剣は尋常のものではない。燃えるような闇の気配を隠し切れていない。
対する女の刀もまた尋常のものではないが、男の大剣とは異なり凡庸な一振りに見えることだろう。
あれを抜かせるか、抜かせる前に切り刻むか。斬られるのもよさそうだ。
渦巻く欲望をこらえきれず震え始める手を湯につけて隠す。
「なるほど。まあ傭兵も盗賊もさほど違いがあるようには………」
相変わらず投げる言葉は辛辣なものばかり。
食虫植物がそうするように、蜜を出して誘う。すなわち湯で温められて紅潮した肢体を誘うように見せ付ける。
白襦袢の裾を微かに開き、生足を揺らして……。
引っかかるか引っかからないかなどは些細なこと。一瞬でも気が許せばいい。“射程”に入ればそれでいい。
「あぁ、そんなこと……もっといい香りにしてあげますので……!」
抜刀。片足を岩に乗せた姿勢で刀を抜き、下方から斜め上方へ抜く奇襲の一撃を放つ。
■ヴィクトール > 「何だぁ? 傭兵だの盗賊に恨みでもあんのか? それに、傭兵つっても、真っ当な仕事しかしねぇ傭兵だ」
辛辣な言いように、軽く肩をすくめつつも怒ることはなくクツクツと笑っていた。
元々悪いように言われるのも、馬鹿と呼ばれるのも慣れたこと。
そんな扱いに諦めたような顔で小さくため息をこぼせば、甘い誘いに近づいていく。
白い肌に薄っすらと乗る紅色は恥じらいか、それとも熱によるものか。
それは触れてみねば分からないことだが、距離が狭まるに連れて岩場に違和感をはっきりと感じ取る。
刀、護身用に持つには尺の長いそれにピクリと眉が跳ねると、言葉が意味深に変わった瞬間に飛び退いた。
獣の様な靭やかな跳躍で後ろへと滑るも、振り抜いた切っ先は僅かに胸板を切り裂いていく。
あと僅かに反応が遅れていればざっくりと切り捨てられていたであろうという事実。
つぅっと黒地の下で皮膚を伝う赤の感触と共に、傷口が焼けるような痛みに包まれていく。
「何のつもりだ? いくら女の護身たぁいってもよ、誘ってぶった切るのは違ぇだろうが」
何を考えているのやら、不意打ちの一撃に彼女の魂胆が見えず、背中の大剣へ手を回す。
様子見をしながら柄を握るも、刃を抜かないのは、あの細身を相棒で斬れば致命傷となりかねないという考えがあるからだろう。
■空木 > 女の武器は二つ。一つ、際立った意匠のない太刀。もう一つは脇差。
女の護身用に使われる短刀ではないそれは、護身用というよりもむしろ――。
浅い。女は楽しそうに舌打ちをした。あと数瞬早く踏み込むか男が油断していれば首を吹き飛ばすことに成功したというのに。
男は“できる”らしい。傭兵を率いているというのは伊達や酔狂ではないらしい。
女は男の胸元を引き裂いたことで頬に数滴の返り血を浴びていた。指で取ると、ぴちゃぴちゃと舐めて、頬を緩ませる。
「く、くく………なんと甘美な味。
申し遅れました、わたくし空木と申します。しがない用心棒でございます……」
場に似合わない和やかな自己紹介をしながらも、刀を正眼に構えなおす。
「傭兵様のような強者に出会いますと、つい、つい、手が滑ってしまうものでして……。
すぐに終わります。わたくしに斬られて頂くというのはいかがで?」
体の軸がじんじんと熱く疼く感覚。
岩場から平地へ足を運び、隠していた殺意を噴出していく。
男は手加減するかもしれないが、女は手加減をしない。強者を斬るのも斬られるのも楽しいそういう性質だからだ。
■ヴィクトール > 明らかに首を跳ねる軌道、明らかな殺意を潜め、込めて放たれた一閃。
殺し合いの一撃に眉間にシワを寄せる中、頬に飛び散った血潮を舐め取る様子を見やれば、おいおいと呟きながら金色を軽く見開きながら驚く。
「野郎の血を舐めて甘美たぁ、イカれたこと言いやがる…てめぇの何処が用心棒だ、ただの辻斬りじゃねぇか」
似たような仕事柄といえばそうだが、意味のない殺傷をするのは仕事の人間としては間違っているといえよう。
無駄であり、狂気が仕事を遠ざけかねないからだが…そんなこと関係なしと言った静かな御挨拶と構えからは、不動の狂気を感じざるを得ない。
やばい女だと内心思いながらも、続く言葉に短絡思考な脳内は簡単にカチンと斬れてしまい、眉間に青筋が浮かびそうに顔を歪めていく。
「っざけんな、さっきから女だからどうすっかと真面目に考えてりゃ調子乗りやがって……」
流石に一撃で潰れてしまいそうな女に刃を向けるのはどうかと考えていれば、身勝手な要求に苛立ちは募る。
仕事帰りに無駄な疲労を重ねさせられていく現状に心を決めると、しゃりっと金属の擦れる音を響かせて大剣を引き抜く。
真っ黒な刀身からは瘴気を圧縮したような濃厚な気配を零しながら、肩に担ぐような構えを取っていく。
「空木つったな。今からてめぇをブチのめしてやらァ、そん後は疲れさせた分、その体で発散させてもらうから覚悟しろや」
宣告の後、意識を集中させる一呼吸。
全身から溢れ出す黒い魔力が末端まで染み渡るように浸透すると、憤りや魔力の揺れで荒ぶっていた気配が水面の様に静になる。
距離にして7~8mは距離をとった現状、互いに刃は届かないであろう間合いだが、覆すように言葉を続けていく。
「それと……動いたらブッ飛ばすからな」
明らかに射程外といえる距離から、間合いだと言うような宣告を掛ける。
冷静に戦の顔を見せながら、金色は真っ直ぐに瞳閉ざす女をとらえて離さない。
■空木 > 「よく言われます……ふふふ。
女だからと舐めてかかりますと、首が落ちるやもしれませぬ」
一応は、社会に溶け込むことはできている。
用心棒として要人警護もやってのけるし、酒を飲むことを条件に着飾った格好で男の視線を集めることも。
だがこればかりはやめられぬ。強者がいるならばその血を欲するということは。
舐めた血の濃厚さと言ったら、鍛錬で萎えていた体を再起させるには十分過ぎた。
女は、一呼吸に間合いの外に脱出していった男の方角を、目を閉じたまま完璧に捉えているようであった。
切っ先を男の頭部に向けたまま、しとりしとりと髪から湯を滴らせながら距離を詰めていく。
「体でございますか。まあ、確かに他に払えるものもございませんので……」
世間話よろしく軽い口調で応対をする女。
しとり、しとり。ちゅうちゅう。血を吸う音。無機物であるはずの刃がどくんと手の内で鼓動する。
男が発する魔力も、女には見えなかった。激流に相対するような圧力だけは感じ取ることができた。
「はて………まじないの類でございますか」
女の足が、男の声で止まる。止まるべしという意思が自己に反して発生しているようだった。
それも面白い。女はあっさり声を受け入れ、間合いのはるか外で足を止めた。
正眼のまま女は動かない。
■ヴィクトール > 「なら止めとけや、女が戦うんじゃねぇなんて言いやしねぇがよ。趣味悪ぃぜ?」
時折戦場も現れる存在を思い起こさせられる。
まるで水のように静かで冷ややかなのに、欠けてはならない何かを失った戦人。
血が染み出すまでは、景色のように溶け込む不気味さが似た様に感じるが、それが女とも慣れば余計だろう。
血に交じる情報は人のそれとは異なり、魔に近い味を伝えるかも知れない。
だが、自身の一部を取り入れてくれたことは、こちらにも少しメリットが現れるところもあり、距離を詰める彼女をみやりながら、身を縮こませるように体を沈め、力を溜める。
「言ったな? 覚悟しとけや」
軽いノリで受け止めるなら、少しはやる気が出るものとニヤリと口角を上げていく。
そして…警告の言葉を素直に聞き入れるなら、それはそれで欺くに丁度いいと内心ほくそ笑んだ。
「その体で確かめろやっ!」
正眼の構えを取った彼女へ、離れた間合いから全身の力を一気に開放し、自身の右肩から左の方へ流すように袈裟斬りを放つ。
その瞬間、空気が破裂するのが聞こえるだろう。
物質が空気の壁を叩く音速の印、鞭鳴りの様な音色と共に放たれたのは斬撃の圧。
本来はかまいたちのように鋭く、人体を切り裂く飛刃となって一気に迫るものだが、放つ瞬間にわずかに手首をひねる。
圧の刃を潰し、衝撃だけが伝わるように手を加えた飛び道具が一気に迫る。
しかし、何処までも届くわけでもなく、彼女のいるところに届く時には、軽く体を叩く程度まで威力は減衰してしまう。
初手を外した、そう思わせるのが一撃目の狙い。
そのまま振り抜いた勢いで流れるように軸足で一回転し、更に横薙ぎの刃を放つ。
続けざまの二発目が狙うのは、彼女が反撃に転じると踏んでの事。
今の位置よりも踏み込んでくるなら、それは手にした大剣で強烈に殴打されたような破壊力をもたらすだろう。
■空木 > 「やはり、まじないの一つでも使えれば楽しいのでしょうが――」
魔術にしろ、なんにせよ、使う才能がなかった。あるとすれば、刀に由来する術か。
いずれにせよ幻術か暗示か言霊かはわからないが、足が動かないのは事実。
そして女の武器は腕力による破壊力を重視した西洋剣とは相反する切断と刺突に特化した武器。
間合いをとる自由がないままで挑みかかるには男の力は強すぎて、だからこそ燃え上がるのだった。
「おや」
男の攻撃は遥か彼方から始まった。受ければ骨も粉になろうという猛打。
空気を刃に見立てた一撃―――。
「ふふ」
軽く腕を振るい、空気の塊ごと強引に切り裂き四散させる。空気の刃を飛ばす相手はこれが始めてではなかった。
だからこそ攻撃の軽さに拍子抜けする。この程度か。ならば暗示にかかってやる必要もなし。
すり足。地を抉る程強く足の指をかみ締め、一歩。相手が急に接近しているのを理解した時には少々遅かった。
一息に間合いに踏み込み体を一回転させる相手の動きの速さと言ったら疾風のようで、迎撃の為にしならせた刃の迎撃がギリギリで間に合った。
「―――つ゛ぅぅッ……!」
威力を殺しきれず、刃が激しく動いた。体が宙に浮き岩場まで吹き飛ばされ、そのまま湯に砲弾のような速度で沈む。
刃を岩に突き立てて姿勢を起こし、ここでようやく瞼を上げた。赤い瞳が焦点の狂った視線を相手に送る。
■ヴィクトール > 力による斬撃の射出、それを剛力によるものと捉えた彼女の答えは当たってもいるが外れてもいる。
元々は自分よりも技量に多くを費やした女剣士の神速を思わす動きを、己に取り込んで作り上げた技。
剛でもあり柔でもあるが故か、使いようによっては変化も得られる。
狙い通り、一撃目はいなされてしまい、その程度と気を許したところへ刃が踏み込んでいく。
迫る二発目はいつの間にか刀身から刃を消した相棒で放たれていき、彼女を捉える。
その瞬間に僅かに力の入れ方を変えていき、破壊の全てが矮躯へ駆け巡らないように見た目によらぬ細かな調整を瞬時に施す。
吹き飛んだ体は打撲はあれども骨は居らず、激痛だけで彼女を苦しめていく。
「…やっぱ目ぇみえてねぇのか、すげぇな。さて……治してやっけど、いきなり斬りかかるのはやめてくれや?」
最後まで開かれなかった瞳が、今になってこちらへと向けられた。
焦点の定まらぬ深紅色は少々不気味にみえるものの、視野という大切な場を失っての検討に感心するほうが強い。
僅かに目を丸くして驚くと、剣を片手に握ったまま彼女の方へと歩み寄っていく。
こちらとしてはもう戦うつもりはないが、彼女の気持ちがどうかはまだ知れぬ。
ゆっくりと地面を踏みしめて近づく気配は、あれだけの動きの後でも余裕を持って落ち着いていた。
■空木 > 「……はぁ、はぁ、はぁ………全く、全く度し難いお方でございますね。
膝をついた……“つかせた”のならば追撃をすればいいものを……」
女は理解する。やろうと思えば魔術なりなんなりで追撃すればいい。
刀一本でやろうとする一匹狼よりかは手をもっているだろうに、やらない。
どうやら己の腕前だけでは男に全力を出させることは難しかったらしい。まだ修行が足りないらしかった。
男が接近してくる。警戒はしているのか武器は握ったままであるが、女に再び立ち上がり斬りかかる余力はない。
刀を地面から抜くと、緩慢な動きで岩場へと寝かせて置いた。
「降参でございます。生死をかけた殺し合いもまたそそりますが…………それはそれ、これはこれ。
お察しの通りわたくしは目暗でございます」
降参と言わんばかりに武器から手を離し、そのまま岩に腰掛ける。
衝撃の強さを物語るように腰帯は破けて、さらしに巻かれた胸元があらわになっていた。
戦闘の余韻に浸るように汗をぬぐうと、ぐったりと猫背で男がやってくるのを見つめていた。
■ヴィクトール > 「これ以上やったら傷跡になっちまうだろ? んなこたぁしたくねぇよ」
単純に剣の変化で追い打ちを掛けることも出来るし、血を取り込んだ彼女に自身の術を発揮して身動きを阻害することも出来る。
それをしないのは力量の差よりも、彼女を女として扱うからで。
出会ったときと同じ様にカラカラと楽しげに笑いながら近寄れば、刃を手放す様子に安堵の吐息を零し、こちらも剣を背中の鞘へと収めていった。
「分からんでもねぇけど、程々にしとけよ? 自分じゃわかんねぇかもしんねぇけど、いい体付きしてんだ。勿体ねぇぜ」
腰を下ろす彼女の方へと近寄る合間、解けた胸元が目に飛び込む。
鍛えられた無駄のない体に女らしいはっきりとした膨らみと、なかなかに唆る体付きを遠慮なくマジマジと見つめれば肌を視線という指先が伝うのを感じるだろうか。
下肢や胸元、そして顔と欲を唆る部分に視線を集中させつつ傍によると、猫背の彼女を濡れることも気にせずに抱き寄せようとする。
「そいや名前まだ言ってなかったな、ヴィクトールだ」
今更ながらに名前を伝えつつ、彼女の体に触れていく。
黒い魔力を彼女の体へと流し込み、意志の魔法を働かせていくと、意識を集中する。
癒える想像を明確な意志へと変えて彼女の中へと送り込むと、ぞわりと寒気の様なものを伝えていき、口にした血を媒介にするように体内へ侵入する。
痛みを消し去り、体内の内出血も何もかもを消し去るように癒やしていくと、少々疲労感の残る深い息を吐き出しながら、肩の力を抜いていく。
「さてと、何処か近場の宿でも入るか。いきなり斬りかかった罰でも受けてもらいながらな?」
にんまりと意地悪な笑みを浮かべる悪人面は、紅の瞳にどう映るやら。
背の高めの彼女を軽々と太い両腕が横抱きにしていくと、殆ど裸に近い体の上へ彼女の手荷物やら刀を抱えさせていき、そのまま歩き出す。
先程の術と合わせて寒くならぬように暖かな空気を纏わせてはいるが、道中に人とすれ違えが肌を見られるかも知れない羞恥が彼女への罰というところか。
そんな意地悪な道筋の先、宿でどれだけの対価を貪ったかは今は知れぬ事。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」から空木さんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からヴィクトールさんが去りました。