2016/09/05 のログ
テイア > 「ちゃんとした商隊であれば、始点から護衛を雇っているだろう。途中で身元のわからない者を雇うほうがリスクが高いと思うがな。」

怜悧な二色の瞳は、小さな違和感も逃さぬよう男の様子をつぶさに観察する。
がくりと肩を落とす様子に、もし仮に商隊であったとしても雇用の確率は低いだろうと告げるがそれは相手にとって追い打ちとなってしまうかも。
ぐぅ、と鳴る腹の虫の鳴き声はこちらにまで聞こえてきた。
彼がよほどの役者でなければ、上手く職にありつけず食うに困っているのだろうと予想をつける。
笑の浮かばないその表情は冷たい印象を相手に抱かせるかもしれず。

「好きにすればいい。この街道は別に私たちのものというわけではないからな。…そうだな、野党の集団であれば今頃はそなたは身ぐるみをはがされ真っ裸になっていただろうな」

言葉に軽く女は肩をすくめた。
カマをかけているのかは知らないが、わざわざ付け加えられた言葉にも軽口を返して動揺は見えないだろう。
とはいいつつも、詰所の者がコップに入った水を男へと手渡してくれるか。

「そういうそなたは、どこに向かうつもりで此処を歩いてきたんだ?そうだな、魅力的な砂糖に誘われて蟻が集まってくれるならば願ってもない事だが。」

まだ彼が山賊の一味でないという確証は得られていない。
行き先を告げれば、そこへ向かうルートに待ち伏せをされる可能性だってある。
だから女は逆に男に問いかけを投げる。ただ、野党がたかってくるとの言葉に返した言葉の裏を読めば寧ろそれを狙っているという意図に気づくだろう。

レアン > 「はは、それもそうだ。しかし隊商じゃないなら、一体あんたたちは何者なんだい?
 旅芸人――っていう風には見えないけどねぇ。ましてや、荷馬車とは言っているけど、
 引いているのが『アレ』じゃあねぇ。どこの誰だかは分からないが、とんでもな発想をしたやつもいるもんだ」

ちらりと休んでいる銀の鳥に視線を向ける。鳥と聞けば普通空を飛ぶものだと想像する。
対して馬車と言えば、普通馬を引かせるものだと想像する。
――いや、まぁ、生物学に詳しくない彼ではあったが、足の速い鳥が存在することぐらいは知っている。
でも、だからといって荷馬車を引かせるという発想は出てこなかった。こればかりは素直に驚きと感心を抱いた。

「はは、俺は冒険者だぜ。そこに浪漫があるなら西へ東へ、文字通り東奔西走するさね。
 まあ、今回ばかりは本当に食糧や小銭になるようなもんを探しに来ただけなんだがな。
 そこに面白そうな荷馬車と休めそうな小屋が目に入ってきたもんだから、ふらっと寄ってみただけさ」

事実なんだから仕方がない。よその他人に格好つけたって、一銭にもなりやしない。
詰所の男が渡してくれたコップを傾けて、一気に水を飲み干しながら笑えばひとつ吐息を溢す。

「まあ、真面目な話、ここのところあちらもこちらも物騒だろ?
 だから、少しでも喰えそうな話をうろついて探してたっていうのもあるけどね。傭兵として。
 だが、当てが外れちまったようだ。ま――この水一杯を貰えただけでもよしとするかね」

ありがとさん、と水を渡してくれた男性に軽い調子で感謝を伝えると、ふむと軽く唸って。

「ああ、成程、そういうことね。いや、珍しいことじゃあないか。
 奴らが隊商を装って襲うこともあれば、その逆もありえるっていうことか。」

なら、尚のこと彼女らの手伝いをして、少しばかりでも金を手に入れたいところだったが、
それは無理な話ということだろう。なぜなら、彼女たちの仕事や分け前を奪うことになるのだから。
護衛として雇って貰うということは難しそうだ。

「……さて、それなら尚のこと気を付けた方がいい。最近は魔族の跋扈も目立ってきてるからな。
 特にこういう場所なら、なおさら『そういうこと』が起きてもよくあることだと処理されがちだからさ。
 おっと、申し遅れたな。俺はレアン。さっきも言ったが、俺は冒険者。何か仕事があればいつでも連絡してくれよ?」

彼女がこちらのことをどう思っているかは分からないが、
彼女たちが野盗の集団の類ではないことは完全に信頼できるだろう。
彼女の言う通り、盗賊団であるならとっくに襲われていただろうし、そもそも獲物を待ち受けている様子はなかった。
敵でないのなら、伝手を作っておくのもいいかもしれない。そう判断した彼は自分の身元を明かしたのだった。

テイア > 「旅芸人というのも面白そうだが、芸達者ではないので難しいな。私たちは、ここより南の地にあるルミナスの森の民だ。この鳥はオルカモントという種だ。かつてはこの国の様々な場所に生息していたが、今は森でしか卵が孵らない種になっている。」

問いかけに嘘偽りなく答える。
自身の相棒でもある銀の鳥の首筋を撫でながら、その種の説明も加えて。
森でしか卵が孵らないため生息の場所も、ほぼルミナスの森に限定されている。
騎獣としても、荷馬車を引くのに使用されるのも馬が主体だから、男が奇妙に思うのも無理はない話だろう。

「浪漫ばかりでは、腹は膨れないからな。」

どうやら嘘はついていないようだ、とふっと唇を緩めると世知辛い事だと肩をすくめて。
その雰囲気は最初よりも少しだけ柔らかくなっていることだろう。
遅れて到着した、馬が引く馬車のほうへと詰所の者たちが水を運んでいく。

「そういう事だ。羊だと思って襲いかかれば、狼を食らう獅子だったという事もある。そうだな、魔族に出てこられると少々厄介ではあるが山賊に魔族が加わっているという情報は今のところない。気をつけるに越したことはないが。」

彼の言うとおり、魔族の動向が活発になってきている昨今。
彼らが面白半分に山賊に加担すれば被害は今よりももっと急速に悪化していくことだろう。
あまり動かない表情の中で、すこしだけ眉間に皺が刻まれる。
――レアンと名乗った男を、じっと二色の瞳が見つめ暫しの無言が流れた。
彼の魔力の流れを見極めるその目には、人間とはすこし異なる流れを見出していて。

「…ふむ。もし、餌につられて山賊が襲ってきたら命の保証はない。隊列に加われば、上の者の命令に従ってもらう。勝手な行動をするようであれば斬り殺される事もあるだろう。…それでもよければ、こちらとしては戦力が多いのに越したことはないが。食うに困って野盗の類に落られても面倒事が増えるしな。」

彼の言葉に嘘偽りがない。
様々な人を見てきた女がそう決断を下す。
最初と言っていることが違うと言われればそこまでだが、どうする?と問いかけを投げて。

レアン > 「残念ながらエルフの知人はいなくてね。勝手に楽器演奏とか上手そうなイメージを持ってたよ。
 へぇ、オルカモントっていうのかい。いやいや、これはまた一つ勉強になった。
 情報は多ければ多いほどいいってのが信条でね。ルミナスの森か……そういやあっちの方には足を伸ばしたことがなかったな」

彼女の言葉に、成程と納得が出来たのか頷いてみて、説明のあったオルカモントへと視線を向けてみる。
荷馬車を引くぐらいだ。強靭な身体の作りをしているのだろう。
物珍しそうにしげしげと鳥を観察しながら、はぁぁと感心しきたように溜息を溢した。

「こいつは手厳しい。いやいや、でも男は浪漫ってのが必要な生き物なんだぜ?
 きっと旦那さんだって、そういった浪漫のひとつやふたつ持ってるはずさ」

きらりと光る左の手指にはめられている指輪を目聡く見つけながら、くくと笑う。
まあ、ある意味こんな美人の奥方を捕まえるほどだ。男のロマンというものを分かってらっしゃる。
――もっともそんなことを当の本人を目の前にして口に出すわけもなかったが。

「大変だね、アンタたちも。ハイエナどもを退治するのにあれこれ工夫しないといけないなんて。
 その上命懸けときたもんだ。冒険者も命懸けだが、そいつはあくまでも自分の為。
 他人の為に命を掛けるなんざ、俺にはとてもまね出来ないね。」

もっともそれが傭兵として金を出して貰えるのなら、別だが。
皮肉ではない。純粋に騎士といったものに尊敬を覚える。
見ず知らずの他人の為に命を掛けることなんて、到底真似できるものではないからだ。
彼女からしてみれば、それが当然の理なのかもしれないが。

「ああ、この世界はいつどうなってもおかしくないってくらいに、治安が悪くなってきてやがるからな。
 あんたも十分気を付けるこった。俺みたいな独り身ならともかく、何かあったら悲しむ人もいるだろうに」

ちらりと再び嵌められている指輪を眺めながら、からかい半分、心配半分そんな言葉を投げかけながらも、
この女性なら何となく大丈夫なような気がした。気丈さや芯の強さが感じられたからだ。

「よし、商談成立だ。大丈夫、こっちもプロだ。信用を裏切るつもりはことさらないね。それに、当分の食糧とそれに見合った報酬が貰えるなら、こっちとしては万々歳だ。それこそ野盗なんかに堕ちたくはないんでね。もとより、当ての無い旅だ。どうせ、浪漫を追いかけるなら当面の方針があった方が動きやすいしね。そんなわけで改めてよろしく頼むよ」

もちろん、と彼女の問いかけに答えれば、手を差し出して握手を求める。

テイア > 「上手い者は確かに多いな。そこにいる彼なんかは笛の名手だ。…余所者を嫌うところはあるが、穏やかないい森だ。機会があれば足を伸ばしてみるのもいいと思うぞ。」

さきほど彼に水を渡した男を指して。確かに考えてみれば歌や踊り、楽器の演奏と秀でている者が多い。
排他的なところがあるのは否定のしようのない事実であるから、初めて訪れた時に少しでも嫌な思いをしないようにと予め説明をして。

「確かに男には女にはない考え方があるように感じる。…まあ、持っているだろうな。」

手甲を外していたから指に嵌る指輪も見えていた。
目ざとくそれを見つけての言葉に、ふっと笑みが浮かぶ。
今まで見せた表情が嘘のような柔らかな表情となって。
きっと本人には自覚なんてないのだろうけれど。

「最近手口が大胆になりすぎていてな、森への流通にも影響が出ている。森のため、自分たちのためにすることがこの街道を通る者たちの役にも立っているというだけだ。」

女以外の者たちが命をかけるのは、森に住む人々のためだから。
見ず知らずの他人のために命をかけられる者は少ないだろう。
それを女は強制するつもりもないし、強要するつもりもない。

「本当にな。しかし今更性分を変えることも難しい。せいぜい鍛錬を怠らず、死なないように努めるさ。気遣いには感謝を。」

そう、夫も子供もいる身となっては以前のように捨て身にはなれない。
いつ何があってもおかしくはないし、職務上そういった災厄が降りかかることも多い。
だから、からかいの中に交じる心配には素直に感謝を示して。

「ああ、よろしく頼む。私の名はテイアだ。行き先はドラゴンフィート。この馬車は山賊の動きが激しくなったことを受けてそこで作られたものだ。今は、オルカモントの導入のための試験走行といったところか。囮もかねてな。そなたには、後ろの馬の方の隊列に加わってもらうこととなる。
 報酬は、目的地に付きしだい支払おう。山賊との戦闘になれば、その分上乗せさせてもらう。」

商談が成立したところでようやく女が名を明かす。
差し出された手を握って握手を交わし。行き先、馬車の経緯、報酬について説明して。

レアン > 「ふぅ……これで当分野垂れ死ぬ心配をしなくて済むな。感謝するよ。
 俺もプロだ。与えられる報酬に見合う分の仕事はきっちりこなして見せるさ」

どうやら、まずは交渉成立と言ったところだろう。
山賊との戦闘になれば、上乗せもしてくれると言う。不謹慎だが、山賊が出てこないか期待してしまう部分もある。
それだけ今の彼は色々と餓えていたのだった。
ひょっとしたら、彼女たちが賊であったのなら、本当に命を落としていたかもしれないほどに。

「テイア、か。良い名前だ。よし――じゃあ、旅の安全と幸運を祈願しながら、お供させて貰うよ。
 ……って、テイア?どこかで見た顔だと思ったら、ヴァルキュリア・ラインヴァイスか。噂はかねがね。
 いや……マジでアンタが山賊じゃあなくてよかったよ。身ぐるみ剥がされるどころか、命を落としてたね」

これでも情報も取り扱っている。当然彼女の通り名も耳にしたことがある。
戦乙女の通り名に恥じぬ実力者だということぐらいしか知らないが、そんな彼女がこの集団を率いているのであれば、
生半可な山賊なら心配せずともあっという間に返り討ちにしてしまうだろう。
いやはや、余計なおせっかいだったかとも思ったが、そもそも護衛を申し出たのは自分なのだから、
彼女もその辺りは承知の上でこちらの申し出を受け入れたのだろう。

「さて、じゃあ、俺はアンタの言うとおり後方で待機しておくよ。また何かあれば呼んでくれ。」

あとでサインでも貰おうかなー、なんて暢気なことを考えながら、彼は任された荷馬車へと向かうのだった。

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道」からレアンさんが去りました。
テイア > 「これから向かうドラゴンフィートも、人材に関しては不足している部分があるようだから、上手くすれば職があるかもしれないな。」

この馬車の護衛をやり遂げたとなれば、それなりに向こうについてからも信用に足ると判断されるだろうと考えて。
実際決めるのは、ドラゴンフィート側の者であるから断言はできないけれど。

「ああ、よろしく頼む。…山賊に身を落としていたなら、その二つ名は捨てねばならんがな。」

山賊が戦乙女などと笑えないと苦笑を零して。

「ああ、隊の者には声をかけておくから食事を済ませるといい。」

話している間に、護衛の者たちはそれぞれ食事を済ませていた。荷馬車へとつけば食事が渡され空腹を満たす事ができるだろう。
暫くして馬車は再び同時に出発して街道を北西へと走っていく。

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道」からテイアさんが去りました。