2016/05/25 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にエリミアさんが現れました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にハーディさんが現れました。
ハーディ > ここのところ頻度が増した賊の騒ぎで、商人たちの間では『馬車だけでは危ない』という噂が流れ始めていた。
とはいえ護衛付きの頑丈な大型馬車など持ち合わせているのはギルドや組合などの集団、一部の財ある者。
小規模の隊商ではなかなかホイホイ運用できるようなものではない。

皮袋や植物製の容器をたくさん積んだ大きな絨毯が、夜の闇を滑るように駆けていく。
木々に引っかからないよう地面の少し上を飛ぶささやかな飛行だが、浮いているゆえの安定感で揺れはほとんどない。
絨毯の上には、前方を時々確認しながら、脇の荷物を漁る、ターバンの男が居た。

「結構進んだな……今のところは大きなトラブルもなし、か。
……羊の乳だが、飲むか?」

木をくり抜いたカップに白い液体を注ぐと、同乗している少女に声をかける。
温泉までの護衛を探していたところ、ちょうど連絡が付いたので、乗ってもらっているのだった。
とくに馬車にこだわりがなければ、別の移動手段を用意すればいいだけのこと。
幸いにして、ハーディには空飛ぶ絨毯があった。
山賊は、……道中、出ないこともないが、1人から3人くらいの、ほんの少数だ。
出くわしても、速度を上げて振り切るか、ちょっと暴れてもらうくらいでちょうど良い。

エリミア > 闇の帳が降りた森を滑るように進んでいく絨毯には二つの人影。
そのうちの小さな方は、夜風にたなびく髪を揺らしながら後ろに流れていく木々の影を目で追いつつ、手に持っている片刃槍を脇へとどかしながら軽く伸びをする。
どかされた片刃槍には、細い紐のようなものが伸びており、それは少女の髪に繋がっている。
部分的に伸ばした触手で、落とさないように荷造りの紐の代わりをしているのだ。

「ふあ~~っ、山賊食べ放題って聞いたのに、全然出ないじゃん。
んっ、変わってる味だね…ひつじ?牛じゃないんだ、ありがと」

護衛を頼まれた際に、撃退した山賊は好きにしていいと言われ、久々に気兼ねなく精気を奪えるかと思いきや、今のところは平和な二人旅になっていた。
それを退屈そうにしているのをポーカーフェイスを捨てたむすっとした少女の表情が物語っている。
カップを手渡された少女は、両手で持つカップになみなみと注がれた白い液体を嚥下してからそれが知ってる味とはやや違うものだと気づいて小首をかしげた。
そして、もらった器を返しながら再び視線を道へと向ける。
依然として、危険な気配は感じられずにいた。

「お兄さんって、仲悪いけど親がいるんだよね?」

そんな時、少女は以前に聞いた男の言葉を反芻するように視線を森へと向けたままぽつりと呟くように問いかける。

ハーディ > 今のところ、護衛の出番はあまりない。
落胆からか、空腹からか。あまり機嫌のよろしくない少女。
もう少し目立つ場所を通ればよかったかと、少し悔やんだ。

「悪いな、暇そうな仕事回しちまって。せっかく“補給”目的で来たろうにな。
討伐隊もけっこう出張ってたらしい。いくつかの冒険者ギルドにも依頼状が出てたが、気にしてなかったか?
とはいえ、大集団とカチ合っちまうとそれはそれで困るんだが」

空のカップを受け取り、自分の分のミルクを注ぎなおすと、口をつけて一息。
口元を指で拭うと、少女が投げかけた疑問に答える。

「……ああ。
国元に居る親父の方とはそんなに悪くないが。
お袋とは少々、な。下層民──つまり、乞食とか立ちんぼとかそういうところから運よく成上った方で、
俺を利用して権力階級に仲間入りしようって野望持っててな。
……俺の国じゃ、王が統治してはいるが完全実力主義で、力を証明すれば外からの血でも、階級が違っても、バンバン取り入れる。
息子を王族か貴族入りさせれば親も結構いい暮らしが保障されるんで、必死なのさ。
ま、俺が逃げたんで、お袋は親父に頼って、そこそこの暮らししかできねえが」

現王の兄弟だって、数十人はいる世界である。限られた椅子を巡る競争、その倍率は死ぬほど高い。
ハーディは口元に皮肉を浮かべ、苦々しく笑う。
そうして、逆に少女に疑問を返した。

「そういや、エリミアのことはそれほど知らねえな。
親族とか、生きてるのか?」

エリミア > わざわざ馬車の轍も見えず、馬の嘶きも聞こえない夜道を待ち伏せるだけの旨味がないのか、今宵の山賊たちも静かなものであった。
結局、食事にありつけない少女も、じーっと男の方へどこか物欲しそうな視線を送っていた。

「ううん、あとで報酬いっぱいお兄さんからもらうもんね~。
だって、冒険者の仕事だと同業も多くてイチイチやってられないし。
あはは、そうなったら大漁じゃない?」

空になったカップを返しながら、鼻歌交じりに男のお腹付近をぽんぽんと叩きながら少女は笑う。
そして、相手の親については神妙な表情で耳を傾けた。

「ふぅん…よくわかんないけど、お兄さんも、お兄さんのお母さんも大変だったんだね。
それでも、昔のまんまに逆戻りしなかっただけよかったんじゃないかな?」

聞いたはいいが、人の欲望だの情念だのがよく理解できていない少女は、いつもポーカーフェイスのようでただ恍けてるだけの表情に戻って暫く黙る。
そして、開かれた唇から出た言葉は、当たり障りのない無難な答えであった。

「親っていうか、創造主?みたいなのはいるよ。
私起き抜けなのにごちゃごちゃうるさかったからぶん殴ってノビてるの放ってきた。
だからわからないんだ、親っていうの」

問われた出自には、少女はさらりと聞き捨てるには妙な内容を口走ってため息を吐き出す。
それから少し間があってから口をついて出た言葉には、なんとも言葉にしがたい心地がこもっていて。

ハーディ > 少女から向けられる視線に、男はぶるりと身を震わせた。
例えるなら、それは獲物が捕れなくて飢えた野獣の眼である。
もちろん、ミルクなんぞで腹が膨れるわけではないことは、この前聞いて知っていた。
しかし、いくら控えめな道を通っているとはいえ、想像以上に、夜道は平穏そのもの。

「まあ、そりゃそうだな。
魔族に厳しいこの時世に、目の前に獲物が居ても堂々と吸えないのは辛そうだ。
ちょうど交易できる範囲も広がったから、ま、そのうち物騒な場所の護衛行くときはよろしくな。

しかし、そのグレイブも、何か特別な力がこもってるわけじゃないんだろ?
切った相手から力を吸収できるとかさ。」

でなきゃ、会うたびに腹を空かせていることはないだろう。
と、催促のつもりだろうか、ぺちぺちと少女に腹を叩かれ。
今回の報酬は上乗せ、結構要求されるかもしれないな、と思う。
というか、ハーディと連絡つくまでの間、ちゃんと“食事”にありつけていたんだろうか?

「どうかな。
たとえ奴隷身分に転落しても、這い上がるチャンスは結構転がってる。頑張ればな。
ただ、お袋は他人の金で浪費する生活ばっか目指してて、権力階級なら仕事が増えるとか、言動に責任が伴うとかそういうのは一切考えてなかったからな」

むしろ大変なのは、そんなぐーたらを引き取って面倒見てた親父の方である。
現在進行形で。

「創造主、ねえ。男と女から生まれたんじゃない、か。
つっても人の形してるから、人型種族の誰かしらベースになった奴はいそうな気もするがな。
言い方はおかしいが、そういうやつなら、親と言えなくもないんじゃないか?

な、殴ってノビているの放って出てきた?_
その腕力で殴られたら、いくら魔族とはいえ無事じゃいられないかもしれんが。放置したままでいいのか?
気が付いたら追ってくるかもしれんぜ」

ずいぶんな出奔の仕方だな、と思った。
何かしら、もし用があるならばその創造主とやらが、姿を見せないことは奇妙なわけで。

エリミア > 平穏な道であることで、だんだんと少女の気も警戒から普通に夜の散歩でもしている心地になってきているのか、先ほどの餓えた獣のような態度はどこへやら、風の音に合わせるように鼻歌を口遊んでいた。

「ふふ…足りなくなったら適当に行きずりを探すけど、こうも節約したら結構持つもんだよ。
うん、相手を殺すなーみたいな面倒臭いのじゃなきゃオーケーオーケー。
これ?振り回してて一番壊れにくかったから使ってるんだ」

食事に関しては困窮してはいても手段はあるのだと少女は言いながら、普段のすとんとした身体を手で撫でながら少しばつの悪そうな表情になる。
なれるならもっと肉感的な姿とか、取ってみたい気持ちはあるようで。
大っぴらに魔力や精力を奪えるほど魔族が幅を利かせられるような街ではなく、正体を隠して生活をしなければならない。
普段から持ち歩いている片刃槍も、そこらの武具店でちょっと探せば見つかりそうな程度のものだった。

「ふーん、お兄さんのお母さんあんま頑張ってないね。
でもちょっと気持ちはわかるかもな~」

と、バッサリ。
しかし、労せず魔力も食べ放題の生活に憧れないかと問われれば、ひもじさよりはと思ってしまうのが少女のお腹事情で。

「そういう研究とかをしてるって言ってたような気もするけど、私は魔物の血肉のツギハギだよ。
さぁ?今頃別の人形でも作ってるんじゃないかな。
もし追って来たら今度は首と脚の骨でも折ってくっつくまで放っておくよ
…あっ…お、お兄さんは、魔物のツギハギは嫌?」

旅だった後を追っては来ない創造主相手に少女はさしたる興味もなく。
それから、少女はすすっとさりげなく移動しようとして、髪を巻き付けていたグレイヴを引っ張ってしまい、つい声が漏れる。
そして気を取り直して男の真横に移動すれば、その腕に寄りかかりながらニマニマと悪戯っぽい笑みを浮かべて問いかけてみて。

ハーディ > 鼻歌が風に乗って夜に溶けてゆく。
それでも心配ないくらい、いや、ある意味では心配なのだが、絨毯は特にトラブルもなく夜道を飛んでいった。

「ああ、流石に燃費悪いわけでもなかったか。よほど無茶しなければ控えめに抑えて維持できる、と。
やっぱ、頑丈な武器を振り回してるだけか。破壊力はよーく分かるが。うっかりすっぽ抜けたら、回収が大変そうだな」

ちらり、と大きな片刃槍を目の端でとらえる。
投げ落としたものが手元に帰ってくる魔法、そのうち考えておくか、と呟き。

「たまのぐーたらならいいんだけどな。ずっとっていうと……俺の親の話はそれくらいでいいだろ。
自分で言っててなんだが、結構情けなくなってきたぜ。」

がっくりと肩を落とし、うんざりしたような口調で話を終わらせようとする。
しばらく会っていないが、不自由ない生活を得て油断しきった母親は、10年前の時点でトドか何かに見えたので、
親父からの注意がなければ、当分あのままだろう。

「魔物のツギハギ……キメラってことか?
そ、そうか、たいして気にならないならいいんだが。

さあな、正直なところ、好きか嫌いかとか、あんまりそういう事は考えたことないからな。
無難に人間の女と限りなく似た姿かたち、身体構造してれば、欲情はする程度だ。」

特に抵抗することもなく、横から腕に寄り掛かられれば、其方に首を向け、ニヤニヤしている少女を眺める。
別段ぼんきゅぼーんでもない、本人の説明から解釈すれば、省エネ重視な体か。

「流石に触手塊とか、粘体とか、全体的に人型から離れちまうと、ちと厳しいがな。
……ところでエリミアさん?温泉到着はまだ先ですが?」

セリフの後半はやや上ずった調子になってしまった。たらりと、冷や汗がハーディの額を伝う。
空いているもう片方の手で体を支えているが、絨毯を操作しているせいで、あまり頻繁に動くことはできない。