2015/12/23 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山中」にシャロンさんが現れました。
■シャロン > 逃亡する貴族の護衛をし始めてから数日が経った。今宵も彼らが寝静まった後に哨戒の任につく。
父娘での逃避行は、特に娘の体に負担をかけていたらしく、熱病に倒れてしまったのが昨日の事。
そこからは、父親に看病を任せながら、法術による補助と周囲の警戒を続けるだけの日々が続いている。
彼らを追うものが居ればもうすぐ追い付かれてしまう頃。あるいは山賊達に身ぐるみ剥がれるか、魔物に襲われるか。
嫌な雲行きの現状を憂慮しながら、少女は暗い岩山を人並み外れた動きで上って行く。跳躍を重ねて上へ。
護衛対象が休む洞穴から少しだけ離れた位置に陣取ると、十字架を剣印で切り結び、周囲の気配を探知する。
何も居なければいいが――そんな思いを胸に秘めながら、反響する情報を精査する。
ご案内:「九頭龍山脈 山中」にヴィクトールさんが現れました。
■ヴィクトール > 彼女の気配を探るレーダーに闇色の魔力を発する男の気配が引っかかるだろう。
この山中の道は、温泉宿の一角やその向こうにある村などへ通じているわけだが、その交通を生業の一つにしようとしている男達からすれば山賊は邪魔者。
塒(ねぐら)になりそうなところをシラミ潰しに探り周り、数を減らそうということだ。
とはいえ、黒尽くめで目付きも悪く、発する気配も闇にちかい男は、どちらかというと悪党に勘違いされかねないが。
「……ぁ?」
離れた岩山の上、男は離れた場所から少女の姿を僅かながらに目視した。
何かいる、という程度ではあるが…それを確かめようと背中の大剣に手をかけつつも、周囲の状況を確かめながら、彼女のいる方向へと近づいていく。
■シャロン > 警戒を続けていた少女は定期的に十字を切り、波動を飛ばす。そして数回目で感じる闇色の魔力。
――敵だろうか。その実がただの傭兵や剣士などであれば、先に手出しをするのも拙い。ゆえに様子を見る。
こちらに向かってくる様子だが、それに対しては逃げるわけでもなく、構えるわけでもなかった。
現状、敵意はない。だが、ここで逃げるのはやましい物を抱えているものと思われかねない。
ともあれ、警戒を込めて剣に手を当てたまま、気配がやってくる方向を向き、目を凝らす。
接近者の目が良ければ、月明かりに照らされた金髪が風になびいている様子を見ることが出来るだろう。
■ヴィクトール > 「……」
そのまま歩き続けると、こちらにも金髪の髪を揺らす少女の姿が見えた。
女騎士というよりは、まだまだ青い少女といった印象を受ける外見だが、整いはかなりいい。
黒尽くめの男は大剣に手をかけたまま、金色の目をギラつかせるように彼女を眺める。
上から下へ、舐めるように往復する視線。
口笛を吹かせながら、満足気ににやりと笑っていた。
「よぉ、何してんだ?」
問いかける声、楽しげに弾む音が響く。
ふと腰に下げられた剣に手が伸びているのを見ると、開いている手でそれを指差す。
「やめとけって、そいつを抜いたらぶった斬るしかなくなるからよ?」
不敵に笑いながら、余裕いっぱいに告げれば歩みは止まらない。
そのまま彼女の傍まで近寄ろうと歩き続ける。
■シャロン > やがて目の前に立った彼は、思った以上にさっぱりとしていた。
闇色の魔力への偏見故か、もっとごつい男かあるいはなよい魔術師が出てくるかと思っていたのだが、存外に端正で身奇麗な男がそこにいる。
大剣には手をかけたままの様子に警戒を強めるが、声をかけられるとピンと張り詰めた空気が僅かに揺れた。
「――あぁ、少々周囲の警戒を。仕事を担っていたものですから」
ウソを付くのは少女の道徳に反するから、と最低限を素直に告げる。
値踏みされるような視線には僅かに身を隠すように捩り、言葉には静かに、彼の目を見て言葉を返す。
「……騎士の名において不意打ちなどはしないと誓います故、まず貴方からその手を解いて頂きたい」
大剣にかけている手を示すと、返事を待つ。彼が従ってくれるならば、少女もまた剣から手を離すだろう。
歩み寄る様子には、隙を見せないように気をつけながら、逃げることはなく待っていた。
■ヴィクトール > 「警戒な…まぁ、その身なりで男襲って貪ったり、金巻き上げたりってわけでも無さそうだな」
こんな綺麗な山賊はいないだろうと思いつつ、冗談じみた言葉と共に笑う。
視線から逃れようとすれば嗜虐心が擽られ、悪戯にもっと眺めようと視線を向けるばかりだ。
「騎士か、前に雷ばらまいて敵味方ぶっ殺す騎士様がいたんだけどよ。それでも信じろってか?」
騎士というより、将軍という感じではあったが。
意地悪に、彼女ではなく騎士自体が信用ならぬと答えながら、相変わらずに笑う。
大分近づき、大剣よりも、そちらの双剣にちょうどいいぐらいの間合いに踏み込めば、一度足を止める。
「俺も仕事でこうしてるからな、そっちから剣から手をどけろよ。そうしたら止めてやる。不意打ちしねぇんだろ? ならそっちから示せよ、行動でな」
こちらは射程という形で彼女に誠意をみせる。
抜刀するなら、刃を当てるには彼女のほうが有利な間合い。
どうする? とニヤつきながら軽く首を傾けて、少女の様子を見つめる。
■シャロン > 「其のようなことはしませんよ。不誠実な手段で手に入れたお金は直ぐに消えていきますから」
冗談めいた言葉にも真面目に返す辺り、少女はお硬い方である。打ち解ければまた別ではあるものの、そうなるまでには距離がある。
逃げようとしても逃れられない視線はむしろ強くなるばかりで、僅かに居心地悪そうにしながら、何処か困ったような表情を浮かべていた。
やがて彼が告げる言葉には、より困ったような形になる。そんな騎士居るんだ、という驚きしかうかばなくて。
「……むぅ、そう言われると困りましたね。私が誠実であるかは初対面の貴方には解りませんし……」
騎士は信用ならない。そう言われてしまえばそこまでだ。故に示すのは行動で。剣を抜かぬ意志を見せる事で答えようとする。
だがそれでも彼の疑いは深い――それだけ慎重なのだろう。ならば根負けするのは少女の方だ。剣から手を離すと、ついでに手のひらを見せて隠し持った暗器すらないことを示しながら。
「これでいかが?――襲う気なんて全く無いですからね。これで信用出来ないと言われたら、どうしようもないですが」
これ以上は袖を触れないぞ、と言外に告げながら、彼を見る。さて、どんな運命をたどるか。無防備になった少女は全てを彼の意思に委ねることとなる。
■ヴィクトール > 「…かてぇ奴だな、冗談だよ」
面白いぐらいに真面目な返答が帰れば、呆れたように鼻で笑って苦笑いをこぼす。
そして、信用に足らぬと却下した要望とこちらの要求。
さてどうなるかと見ていれば、素直に手を離し、掌をみせられればニヤリと笑った。
「あぁ、信用してやる。相手がどうしようもないクソかどうか、分からねぇのに構えを解いたお人好しってな…?」
企み笑みがどうにも悪どくなる。
無防備を晒した少女の前で剣から手を離そうとした瞬間、ダンッと地面を蹴って急加速すれば、間近に近づこうと踏み込む。
まるで飛び掛かるようなしぐさを見せるも、大剣は引き抜かれず、届けば掌を金糸の上へ乗せてしまおうとするだろう。
「良かったな? ど悪党じゃなくてよ」
攻撃はない。
警告じみた悪戯のつもりなのだろう。
■シャロン > 「……すみません、これが性分ですので」
呆れられてしまったなぁ、と内心思いながらも、返す言葉は極めて平静。
ついでに剣を振るう意志もないから、見せた掌はそのままに下ろした。笑いが濃くなるのを見ながらどうにかなったかと胸を撫で下ろす。
「随分酷い言い草ですね。あんまり良い気分にならない言葉ですが――っ!?」
一瞬、彼の姿が消える。内側に入り込まれたとも思うが、彼を信用していた体は弛緩しており動かない。
――あの剣は痛いんだろうなぁ。半竜故に死ぬことはないが、辛いのは嫌だなぁ、と冷静な思考が内心に呟く。
さぁ、刃が来るかと覚悟した所、頭上に当たるのは彼の掌。それには思わず目を丸くして。
「――っ……あ、あれ……切りに来たんじゃ……?」
からかわれたのだと一瞬遅れて理解する。同時に何故かこみ上げてくるのは羞恥心。
顔を真赤にしながら、少女は頬を膨らませる。ずっと固く要られるほど大人でもないのだ。
「……意地悪ですね、全く」
少しばかり拗ねたような調子で、呟いてみせた。
■ヴィクトール > まるで自分の兄の様な性格をしている。
また真面目に答えられれば、相変わらずに笑うばかりだ。
不意打ちに踏み込んだ間合い、おそらく大剣を振り下ろせば大打撃を与えられるであろう。
しかしその掌は金糸を撫でるだけで、害なんて何一つ起こさない。
指の間に髪を通して、梳く様に撫でて可愛がるだけ。
「こんな上玉を潰したらもったいないだろ?」
あと数年すれば、いっそういい女になりそうだとも思う。
青さの感じる今ですら、そこらの女より魅力を感じるぐらいだ。
恥じらいの表情、拗ねた言葉にニヤっと笑う男の心中には、嗜虐心が沸き立つ。
食べるのであれば叩き壊すより、じっくりと苛め倒したいと。
「嬢ちゃんが真面目過ぎるから…だけじゃねぇな、可愛いから苛めたくなる」
髪を撫でていた掌を無遠慮に頬へと回そうとする。
届けばそのまま白い肌を撫でて、一層可愛がろうとするだろう。
「俺はここらの山賊を追い出して、行路を確保しなきゃいけなかったんだけどよ、嬢ちゃんは何してたんだ?」
そもそもこんな真面目な娘がここで何をしていたのやら、元々気になっていた謎を改めて問いかけた。
■シャロン > 撫でられるとつい出てしまうのは、少女が歳相応に持つ幼い雰囲気だ。
家族と呼ばれるものは老いた相手しか知らず、実母と実父は山奥で仲睦まじくいちゃついている。
故に少女は、父や母の温もりを知らない。歳近い相手とのやり取りもよくわかっていないのである。
だからこそ、頭を撫でられるという行為は、なんだかむず痒くて、それでいて心地良く感じてしまうのだった。
「上玉、ですか……そう言われるのは、あまり慣れてませんね……」
褒められるのはむず痒い。嫌いではないが恥ずかしいのだ。
どこか居場所がないような、なんだか穴を掘ってその中に入りたいような感覚を覚える。
ニヤッと笑う男を見ながら、すねたような素振りもすぐに鳴りを潜めていく。
「――虐める、ですか?うぅ……こういうの、苦手、です」
優しく撫でられるのには慣れていないから、と身を捩ろうとして失敗する。
結果としては、好き勝手にされるがままとなる。次いだ問いには少し考えてから、小さな声で。
「ティルヒアから逃げてこられた避難民の護衛、ですね。それなりに身分ある父娘らしいので、山賊などに襲われないように、です」
と告げる。それも彼を信頼しての事だった。
■ヴィクトール > 撫でるうちに現れてくる子供っぽい雰囲気は一層男の心を擽る。
嗜虐心は鳴りを潜める様子はないが、可愛がるように意地悪を重ねたくなっていく。
慣れていないと恥じらえば、そうか と一言だけ囁くものの…頬に重ねた掌が滑り、肩から背中に回れば、華奢な体を壊さないように抱きしめようとするだろう。
「じゃあ慣れさせて、もっといい顔ができるようにしちまうか…」
耳元を擽るようにささやき、意地悪は止まない。
問の答えは、なるほどと納得の行く内容で、うなづきながら碧眼を見つめようと見下ろす。
「どっか行く宛はあんのか? ねぇんだったら、ここの麓に俺らの組合が作った集落…つぅか市場みてぇなのがあるからよ、そこに連れてこいよ。ティルヒアから逃げてきたのも多いしな」
そこだと指差すも、目が良くなければ明かりがポツポツとあるのが見えるぐらいだろう。
土嚢状の防壁と堀、建物と櫓が幾つか拵えられた集落が街道沿いにあるのが見えるかもしれない。
■シャロン > 「ひゃっ!?――あ、えっと……その……」
肩を抱かれると、お硬い少女でも流石に慌て始める。とは言え、彼の手を跳ね除けるのも失礼かと考えてしまうと、小さくなる以外に対処ができなかった。
かああ、っと熱くなる頬は火照りの赤を示しており、其の鼓動は跳ね上がるように加速していた。
「う、あぅ……それは、その……え、遠慮、したい、です」
小さく出たのは拒絶の言葉。だがそれは、少女が神聖な職にあるからと思えば決まり文句かもしれない。
そして少女自身、性的な経験が無いわけではない。龍の力を開放した後は狂おしいほどの衝動を得ることもままあるのだ。
過日は行きずりの男に体を許してしまったし、また別の時は心優しい魔族と肌を重ねてしまった。
だから拒絶は、決まり文句であると同時に、少女が己を律するための枷だった。
意地悪に次いで返って来る言葉。それは少女にとって願ってもないものだった。
正直を言えば、ここから村に向かっても、父娘が無事に暮らせるかはわからない。
それなら山奥とはいえ同じような境遇のものと一緒に居たほうが安全だろう。
貴族と言うには温厚で、下々にも理解はあるように見えた。ならば穏当に暮らせるはずと判断する。
「……宛てはなかったので、其の言葉に甘えても構いませんか?」
指さされた先には、僅かに明かりが見える。それを綺麗と思ったのは久しぶりのことだった。
彼が了承するならば、父娘を伴い集落まで向かう算段を立てる。父娘が無事でいられるなら、それだけで少女は嬉しかった。
■ヴィクトール > 抱き寄せると共に魅せる初な反応。
実にいい、恥じらいの表情はいっそう貪りたくなるものだ。
お誘いの言葉に固い返事が返るのは分かっていたが、だからこそ手を出したくなる。
今は返事を返さない、もう一つの言葉の反応を待ってからだ。
「いいぜ、仕事も流れ込んでくるし、食うにも困らないだろうよ」
一つの存在を取り除けば、すべてが平等とされる場所。
比較的、その空気もティルヒアに近いものがあるだろう。
だが、彼女が引取先を求めたのと同じく、彼もその言葉を舞っていた。
但し、と言うように彼女の前で人差し指を立てる。
「嬢ちゃんを可愛がらせてくれるなら…って、言うほどまで意地悪は言わねぇけど。礼の代わりに可愛がらせてくれよ?」
別に断ってもいい話だ。
お礼として彼女を求めるが、絶対とは言わなかった。
ただ、少女の今迄を見れば真面目な彼女が、恩義に応えたがるだろうという心理の予測は、頭をつかうのが下手なこの男でも分かること。
「まぁ、断っても…受け入れないとかはいわねぇけどよ?」
敢えて逃げ道をチラつかせるのも、選ばせないための裏返しな言葉だ。
ニヤッと笑いながらも少女を見つめ、どうする? と首を傾ける。
■シャロン > やはりそう来たか、と少女は内心で嘆息する。取引と称して己の身を提示されることは想定の範囲内だった。
着の身着のままに僅かな財産で逃げ出してきた父娘に払わせるのは非道であるし、かと言って彼に報酬を払わないのは不義理である。
そうなるように動かされたのだろう、と今更ながらに淡い後悔を抱くが、それも些細な事。少しの間を開けてから。
「……彼らが無事に其の集落で生き長らえるのであれば、私の体など幾らでも差し出しましょう。人が2人救われるなら、安いものです」
其の瞳に宿るのは静かで強い意志。それこそが少女の異名たる"幼き聖女"の所以だった。
自身の体を差し出せば、それだけで不義理と非道の2つを解消することが出来るのだ。故に、迷いはなかった。
ただ、この場でしようと言われると、流石に山の冷気が厳しい。彼がそう望むならばこの場で一糸纏わぬ姿を晒すことも厭わないが、龍でも風邪は引くのだ。体調不良は避けたくて。
「――ただ、できれば集落の宿辺りを使わせてもらえればと思います。無論、貴方がそれ以外を望むなら私は頷きますけれども。……それと、出来れば子を孕むのは避けたいので、秘所での交わりは避けて頂けると、嬉しい、です」
宿った命を殺すのは聖女として出来無いから、と付け加えながら、少女はそっと彼に身を寄せる。
それは、彼に自分の自由を一切預けるということを表す意思表示だった。
■ヴィクトール > 思惑通りに転がすことが出来たと、この男にしては珍しく頭を使った結果に満足気に笑みが零れそうになった。
けれど、その顔が少しだけ不服そうになったのは彼女の言葉の一つ。
聖女らしい言葉が溢れると、ツンツンと彼女の額を突っつき始める。
「なぁにが 私の体など だよ。どうでもいい女なら抱かねぇよ。金とかそんなのより、嬢ちゃんを可愛がりてぇって思ったから言ったんだ」
安い女ではなかろう、だからこそ抱きたい。
そう思う男からすれば、その一言は赦せなかったのか、わかったか? と言いたげに何度か突っつくだろう。
集落周辺の宿と言われると、一応完成した娼婦宿があったから、そこの一室を借りるとしようとか考えつつ小さく頷くも。
「いいぜ、じゃあ宿入ってからにするか。ぁー…そりゃあ…入れるなってのは、無理だなぁ…孕まない様にはしてやるけど」
孕ませないという一点については、一つアテがある。
それを使えばと思いつつ…身を寄せた少女を腕の中に包み込んだ。
粗暴な駆け引きをした割には、力の加減をした優しい抱きしめ方。
壊さぬように、でも逃したくはない。
程よく抱きしめながら顔を寄せると、頬に唇を押し付けようとする。
「……んじゃあ、その親父さんと娘さんつれて、行くとするか」
何処にいるんだと笑みで問いかけながら、一度腕を解いた。
■シャロン > 「――っ!?」
予想外すぎる言葉に、顔が真っ赤になる。ここまでストレートに褒められたのは初めてだ。
それも、異性に、可愛がりたいなどという求愛の言葉で、である。経験のない少女はただ顔を赤らめるしかなかった。
更に加速した鼓動は、戦いで窮地に立たされた時よりも激しく、熱い。呼吸が切なく苦しくなって、1人で立っていられない気がしてくる。
それは結果として彼の体により掛かる形で解消されるが、それでも激しい動悸は収まる気配を見せなかった。
ただひとつ言えることは、彼の言葉に真摯に向き合わなければいけないということ。頭の硬い少女は、硬いが故に絆されていた。
「……責任を取ってくださるなら孕ませてくれても構いませんが、それは私の伴侶を意味しますので、覚悟はなさってください」
少女からすれば、結婚などというものに幻想を抱いていない。それは両親が異種間で結ばれてイチャコラしているのを見飽きているからで。
実の娘ですら砂糖を吐くほどに甘い空間が広がるのだが、同時にその輪の中に自分が入りきれないのが辛いのだ。
騎士としての職務を第一として考えてきたから、少女は女としての価値など自覚していないし、恋愛を欲していないのである。
それが崩れるときは、其れこそ少女の事を身も心も根こそぎかっさらうような誰かが現れた時だろう。
そうでないなら、ちゃんと距離を保って――。それが少女の言う責任の意味だった。
抱き寄せられ、頬にされるくちづけ。想像よりは柔らかい唇が頬肉にあたった。
同時に顔は熟したトマトのように赤くなるが、話題が変われば少しずつ平穏に戻っていく。
「……二人は近くの洞穴に。娘さんの方が熱を出してしまったので途方に暮れていたのです。――ただ、貴方がいてくれるなら、私は彼女を背負って村に迎えます」
そう言うと、花が綻ぶかのように、少女は微笑みを浮かべる。2人が助かるというのが心底嬉しかったのだろう。
そして洞穴へ向かう最中、不意に思い出したかのように。
「あぁ、申し遅れました。私はシャロン。シャロン・アルコットと申します」
もしかしたら彼も知っているかもしれない。小さな"幼い聖女"はゆったりと一礼して、己の名を告げる。
■ヴィクトール > 犯されようとも、踏みにじられようとも、自身を安く見るな。
そう伝えたかったのだけれど、彼女の顔が赤くなっていくのが見えると、何故やらと思うのだが…可愛らしいから良しとする。
寄りかかる体を抱きしめながら、一挙一動の可愛らしさにニヤける様に微笑んでしまう。
「寧ろあって直ぐの男に伴侶とかな…気が早ぇだろ」
愛の言葉もまだだというのに、抱いて孕んだら直ぐに責任をとれと迫る言葉に苦笑いが溢れる。
固いが…寧ろと思えば、笑みが深まる。
「いいぜ、孕ませてやるよ…。その代わり、孕んだら剣置いて、騎士やめて俺の女になるんだよな? 一緒にいれる夜は毎晩抱くし、避妊しねぇと大所帯になるぐらい可愛がってやる」
覚悟を求める言葉に、ならば一層の覚悟を彼女に求めてみせた。
こんな荒くれ者を旦那に選んだらどうなるのかと…言わんばかりに。
自身があまり頭が良くなければ、勢い任せな分、手綱を握りそうなこの真面目さもアリかもしれないと思えるのも事実。
距離なんて知らぬと微笑みながら、抱擁を解く。
「おいおい、じゃあさっさと運ばねぇとな…。ぁ? 俺が…いや、男じゃ親父さんが嫌がるか」
花咲くような明るい微笑みは、この先の事を一層期待させる。
力仕事ぐらいはと思うも、年頃の娘が男に抱きかかえられるのは父親としては複雑な気持ちにもなるかと、言葉を引っ込めながら頷く。
「シャロンな、俺はヴィクトールだ。よろしくな?」
多分耳にしているのだろうが、憶えの悪い男は改めて二つ名を聞くまでは思い出さないだろう。
名を答えれば、彼女とともに父娘を介抱し、麓の拠点まで連れて行く。
後の事は兄か、代わりに仕切る輩に任せ、彼は彼女を連れて宿へと向かうだろう。