2019/02/07 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”2」にアマーリエさんが現れました。
■アマーリエ > ――こんな季節なのに、ご苦労な事だ。
ご苦労と言えば、麾下の師団もそうだが何よりも沖合で跳梁していた海賊たちだ。
まさか空中からブレスと魔術、そして火矢のつるべ打ちで慈悲もなく鱶の餌になるとは思ってもみるまい。
師団に現状、優先順位は多少はあれども直ぐに手が回らぬ事態に対しての即応部隊としての性格が強い。
数騎の竜騎士と支援部隊を率いてこの地域に入り、事を為して王都に戻る。その予定だ。
「……この辺りも、だいぶ変わりは無いわねぇ。変わり映えがあり過ぎても困るけど」
目的を果たした部隊には一日の休暇を命じ、己も散策に出る。
冒険者だった頃の伝手やら既知の知り合いと会っておきたいこともあったが、何よりも新しきを求めてだ。
必要に足る品物や人材がそうそう簡単に転がっている訳がない。
待ち受けても落ちてこないのなら、探す方が何よりも能率的であり、何よりも気がまぎれる。
腰に佩いた愛剣はそのままに騎士服から手持ちの装いに着替え、闊歩する中で――。
「嗚呼、なっつかしいわね。こういうのよく見たわ」
ふと、露店めいたものが目に入る。駆け出しの錬金術師やら術士やらの技能を持った者達が遣る光景である。
故、懐かしさを覚えて硬質な靴音を隠すことなく、色づいた液体が揺蕩う瓶を並べた店の一つに足を向けようか。
■徒綱 > ひとしきり客の流れを眺める。人の通りでどういう人々がそこに暮らしているかは何とはなしに分かるつもりだ。
そこそこの修羅場をくぐっていれば、その程度は十全に。
そこで分かったことは、もう少しメインの通りに出たほうが正しいということ。このあたりは人に余裕がない。人の流れがないほうが物を見てもらえるかとは思ったのだが、見て回る余裕すらないというのは致命傷だった。
そんなわけで、場所を移そうかなどと考えているうちに、ふと靴音がする。
「―――いらっしゃい。なにぶん殺風景な露店だが、ゆっくり見ていってくれ。質には、自信があるつもりだ」
いいながら、足を向けたものに向かい、目を細めて笑みを作り、客引きの言葉を投げる。
この場にはあまり似つかわしくない、欲望を理性でしっかりと抑制した声。並んでいるものはそれぞれ、いくつかの素材を混ぜた香水である。
―――見る人が見れば気付く。この香水に使われている成分のひとつ。その異常性。
腕利きの冒険者たちが森で出くわすと厄介だとさえ言う、植物の魔物を用いていることに、果たしてこの客は気付くだろうか。
■アマーリエ > 見た目こそ、見目整った女のそれであるが色々とこの場に似つかわしくないものがあろう。
立ち振る舞いは周囲に紛れる、冒険者とは何たるかを少しは弁えている風情であるが、裡に秘めるものは違う。
一日一日をただ過ごせれば善しとする刹那的な風情ではなく、先と己が為すべきことを弁えた者のそれだ。
だが、其れと共に何処か子供じみた処もないまぜた所作もある。
そうでなければわざわざ、こんな処まで足を運ぶことは無い。
「そうさせて貰うわ。この辺りに来るのは久しぶりだから、ちょっと気になったのよね」
店主らしい姿に会釈を返しつつ、見える装いにほう、と息を吐く。
この辺りで見ない――訳ではないけれども、あまり見かけない類の其れだ。
剣士の端くれの倣いとして、直ぐに気になるのは向こうの腰にある得物だが、それもまた直ぐに二の次となる。
片膝を突くようにしゃがみこみつつ、背筋を曲げて並ぶ瓶達を見遣れば、直ぐにふと、気づくものがある。
「……この匂い。――よくやるわねぇ。アレ、倒せるの?」
知った匂いだ。一瞬驚いたように目を見開き、直ぐに呆れたような表情を整った顔立ちに浮かべる。
それはもう色々な意味でキくことだろう。想像通りであると仮定すれば、効果のある代物であろう。
■徒綱 > 相手の目線の動きは、しっかりと把握している。腰に下げた獲物に一瞬視線をやったあたりから、油断ならぬ存在であろうと当たりをつけておく。
こういうのは多少過剰気味に値踏みしておいて困ることはない。
侮った相手から反撃を受ければ致命打になりかねない。臆病なぐらいでちょうどいいのだ。
「倒す? いえそんな滅相もない」
そして、この町には似つかわしくないほどの目を持っているようだ。
しっかりと香木を加えて整えてあるというのに、その正体に気付いているあたり。こんな場所で売るようなものではないかもしれないが、それを気にすることはない。
まだまだしっかりと根をはれぬ己には、こんな場所こそがふさわしいのだとばかりに、肩をすくめて告げるのだ。
「あんなに有益なもの、倒しておしまいなどとは。しっかりと慣らせば、何かと便利であるというのに」
普通の冒険者が聞いたら、目を剥くであろう一言を。
だが、事実だから仕方ない。本拠地である店の警備にと、いろいろ試行錯誤していたら飼いならせてしまったのだから。
植物の魔物の中でも有名どころ、アルラウネを。
■アマーリエ > 覚えのある使い手だからこそ、伊達や酔狂で抑えた輝きの金色をあしらった柄、鍔の剣を腰に提げてはいない。
鞘の造りは地味ではあるが、見るものが見れば秘めたる魔力も含めて名工の作と伺えることだろう。
互いに互いの目線と所作をそれとなく意識することとなれば、存外の拾い物であると言えるか。
否、そう思うのはまだ早い。潮の香りを含む風に長い金髪を揺らして。
「違うの?」
なんと。倒していない――のか。さりとて、冒険者に依頼を募って素材を収集させるのも効率が悪いだろう。
魔物から採取できる素材は品によって鮮度を問われるものが多い。
強力な薬効を望めるものであれば、物の数分で駄目になるということだってざらだ。
倒していないというのなら、ではどうしたというのか? 向こうの言葉を待てば、次の瞬間。
「……呆れた。アレ、人に馴れるの? 初めて聞いたわ。魔物使いじゃなさそうなのに、よくやれるわね」
なんと。虚を突かれた風情で目を見開き、口元を抑えながら肩を揺らして笑い声を零す。
どんな風にして手懐けたというのだろうか。
否、其れを言ってしまえば自分達も竜を手懐けている。
厳密には相互に話し合って合意獲得やら腕力にものを言わせて調伏させた、というのもあるため一概には言えないが。
だが、嘘か真か面白いことを聞いたと思えば、次にこう言おうか。
「御幾らかしら? これ」
■徒綱 > 青磁の色合いをした鞘に納められた、刀と呼ばれる東洋の刃。正しくこれがそうかと問われれば言葉に詰まる。
自分が打ち鍛えるうちに、独自の工夫が重なりもはや刀本来のものかと呼びにくくなってしまっているのだ。
一事が万事その調子で、凝り性というのも困り者である。もっとも、それを改めるつもりは毛頭ありはしないが。
相手の刀には視線をやるが、いかな作などとは気にしない。この場はただ、この出会いを楽しもうと決めているがゆえに。
「苗のうちからしっかりとやれば、別に難しくもない。考える頭があって利害が伝われば、少々のことは大目に見るものさ」
慣らした秘訣を問われれば、まるで犬猫に対するかのような受け答え。
実際、自宅に近寄るものの中で目印がないものはすべて食べてよい、ある程度の防護をしてくれるとなれば破格の条件ではあろう。そのために自分の実りを差し出すのも飲ませられるくらいには。
「ああ。御代はそれぞれ一瓶につき……」
そうして、告げる値段は労力に見合ったもの。だが、本来の市場価格にしてみればかなり安い。苦労してないから当然と言うべきなのと、もうひとつy。
「瓶は慎重に選んだほうがいい。赤は力、青は感、黄色は機敏、緑は心。それぞれに働くからな」
この香水が、『普通ではない』からだ。まあ、催眠作用のある植物を使っているのだからそうもなる。
この場合、自分に暗示をかけて己の限界を限界でなくす、儀式用の香に近いのだから仕方ない。
■アマーリエ > 「嗚呼、そういうコトね。それなら少しは納得だわ。
既に成熟している奴なんて、最悪脅して宥めすかすしかなさそうだもの」
魔術も高位の術も含めて心得はあるが、下手に知性のあるものを馴らそうとなると手間がかかる。
服従しなければ、灰にする――なんて脅しだけでは靡くまい。
しかし、成熟前の段階から遣るとなれば少しは難易度が下がるだろうが、此れもまた容易いものではあるまい。
故にその労力は想像を超えうるだろう。きっと、鉢植えの花を育てることよりも大変だろう。
「……選ぶっていうより、どれもこれも心得なく使ったら危ない代物じゃないの?
んー。仕方ないわね。そのままほっぽいておくと後が気になるから、買うわ。全部」
告げられる価格は自身のポケットマネーで賄えるものだ。
師団長としての収入もあるが、冒険者だった頃に幾らか集めた私物の宝物を適宜捌き、自由にできる財はある。
聞いた効用を思えば、十分な説明を行い、理解をしていなければリスクはある代物ではないか?
柳眉を顰め、少し考えてまとめ買いすることを決める。
自身で使うか。或いは誰かに使わせるか。ともすれば自白剤等にも再加工できそうな代物をまずは、買い上げてしまおう。
■徒綱 > 「成熟した苗でもできないことはないがね。いろいろ食べていると癖が出て触媒には向かなくなる。
それなら、用途に合わせてしっかり生育したほうが便利ということだよ」
物を作るとき、最もやってはいけないことは妥協だ、と自分は信じている。
この場合の妥協とは、相手の求めに対して答えないこと、である。早くを求める注文に、粗雑でも早く仕上げることは妥協ではない。
最高のものを粗雑に仕上げるのが妥協であり、それはなすべきではないと思っている。このあたりは職人気質であった。
「そのあたりは調節してある。さすがに原液そのままでは危ないが、少々いつもより力が出る程度さ」
往々にしてこういう人間がやりがちなことだが、一般人とそうでない人間の差というのが曖昧になりがちである。
しっかりと効能を弁え、使う分には問題ないようにしてはある。
非常事態に吸いすぎた場合に多少問題は出るかもしれないが、命に別状はないレベルだ。
多少後遺症に苦しむだろうが、最長でも二週間程度で済む分量である。
そのあたりは己を律しなかった戒めとして受け入れてもらいたい。
「見たところ相当やるようだが、まあ、気をもませたならば謝ろう。その代わり、これを」
そういって、香水を包みながら、差し出すのは一枚の荒い紙―和紙と呼ばれる植物で梳いた紙―でできた付箋のようなもの。
中央部に切れ込みが入っており、破れるようになっている。そして、感じられるのは何かの魔術を封じた痕跡。
■アマーリエ > 「ふぅん。……徹底しているのね。そういうのは嫌いじゃないわ」
成る程、かの魔物の生態、活用法も含めて熟知している様子か。
生成物の癖、特徴を弁えていなければそう言った言葉は出てこない。
魔物ではない農作物の育成でも同じだ。根より水を吸い上げて育つものは、その土地の精気を吸って育つのも同然だ。
活用、精製を意図できるものを望むとなれば、それこそ生育環境の段階から気を付ける必要が出てくる。
「弁えているなら良いけど、売るならもうちょっと気を付けなさいな。
人間の箍って意外と癖が付いちゃうものよ?」
全く、と。困ったように笑いながらも忠告は忘れない。
脱臼と同じ感覚で語るのは此れもまた聊か適切ではないが、一度抑制が外れ過ぎると癖がつくこともある。
人間は不思議なことに魔術だけではなく、音楽や匂いで自己の箍を爆ぜさせることがままある。
遣ろうと思えば、自白剤等にも転用しうる可能性もある。一冒険者を装うつもりでも、看過はし得ない。
「ちょっとはね。……って、何これ?」
胸を張りつつ、差し出された一枚の紙を受け取って首を傾げる。
符の一種だろうか? 触り馴染みのない感触の紙を眺め、感じる魔力の気配に相手の目を見遣ろう。
■徒綱 > 「それはどうも」
好感を持たれるのは悪い気はしない。自分が相応に認めてよいと思う相手ならばなおのこと、だ。
どうやら、自分のやり方は彼女にしてみれば危なっかしいらしい。説明を受ければ納得しえる部分も多いが、そうこうと言ってられない事情もあるのだ。
「繋げたのがこの場なものでね、さすがにまだまだ身の回りを整えるほど余裕はない。まあ、霞を食べて生きられるわけでなし、非常の措置と思ってくれればそれで」
実際、路銀は尽きかけていたのである。普通に生活するのが厳しいほどに。ここで元手を手に入れられたのはまあ良かったと思えるが、少々相手に警戒させたのはあまり良いことではない、ゆえに。
「本来の商い場への切符さ。こう見えて、他にも色々取り扱っているのだが、場所が辺鄙なものでね? ここにはそう、行商のようなものだと思っていただきたい」
それがあれば店に入れる、と使用方法をあわせて説明する。
要するに一種の転移スクロールのようなもので、条件を満たすことで魔法を発動させることができる仕組みだ。
使い方は簡単。この札を二つに切り、どこかの扉をくぐること。
そうすることで、転移陣を発動できる仕組みとなっている。盗賊除けを兼ねて作った、請った代物だ
■アマーリエ > 「この辺りで捌くなら、もうちょっと緩めが良いわよ? カジュアルに使える位が入門編としても手頃ね」
勿論、強烈な効果が好きだからという豪の者がいることは否めない。
後先残る、常用性のあるものというのはトラブルの種になるため進めないが、気軽に使える位が程よいだろう。
現在の地位になってから、私用で立ち寄ることはそうそうないが、多少なこの地の機微は知っている心算だ。
「……繋げた? 空間操作の心得があるの?」
はて、と。響く言葉を噛み締めてはこてりと首を傾げて零す。
他にどう述べるべきだろうか。適切な言葉が浮かばない。
仮にあると考えるなら、もう少し売り込むことができれば仕官だって叶うものではないか?
糊口を凌ぐ手立てとして手っ取り早く物を売りたいというのは分かるが、容易に捌くには聊か効果が強い理由はここか。
「分かったわ。今後、気が向いた使わせてもらうわね。武器とか扱っているのかしら?」
成る程と説明を聞いて頷き、件の紙を懐に仕舞っておこう。
気になるのは品ぞろえだ。主に使う得物は決まってはいるけども、良い武器や道具はどれだけあっても困らない。
■徒綱 > 「もう少し緩くとなると、備蓄場に困るな……。今回の希釈も相当にやったんだが。香木も考え直しか」
一応気を使ったんだがなあ、と哀愁の念が背中に宿る。調香の技術はそこまで高くないがゆえに、かなり気を使って作ったんだがまだ甘かったか、と肩をすくめるしかない。
使用者が困るような代物は、さすがに早々表に出していいものでもないのだ。
「このあたりは認識の問題なのだがね。色々手を尽くして、空間をすりかえているのだよ。
道具に魔力を込め、それに反応させて向こうから引っ張ってもらうのさ。自分ひとりで空間操作は、とてもとても」
説明して分かってもらえるとは思っていないが、それでも言葉を尽くすのは誠意のためだ。
初めての、しかも価値の分かる客である。饒舌になるというもの。この辺りは道具作りの性といっていい。
「武具であれ何であれ、ご随意に。その価値を分かってくれる方にのみ、須弥山は門戸を開いております」
一礼した後、とりあえず今日は店じまいと片付け始める。布を取り払えばいつ壊れてもおかしくなさそうなボロボロの机。誤魔化す技術も相応のもの。
「縁あって此の国に参じました。御剣 徒綱と申します。どうかお見知りおきを」
胸に手を当て、一礼。こちらの作法のものとはやや違うしぐさの後、懐から取り出すのは透明な鈴。
硝子でできたそれを掲げ、音を鳴らせば背後にあったオンボロの扉が淡く光り始める。
注意して見れば、光で見え難くはあるがその扉が変わっていることにも気付くだろう。
いつ壊れてもおかしくない薄い木製の扉が、黒光りする重厚な扉に。
■アマーリエ > 「そこはもう少し悩みなさいな。
狙いを絞れきれてないから、あやふやになるのではなくて?」
作り手が満足いく出来を作りたいというのは、共感できる。
しかし、実際に使いたい側にとって納得できるかどうかというのは、調整が難しい。
尖っているところ、足りぬところをすり合わせて埋めていくというのは、数を重ねておかねば分からない。
モノづくりで苦慮する姿は、過去も今も含めて幾つも観てきたが故にかけることは優しく響かせて。
「鍵の方に魔力を籠めて、鍵穴を通じて扉を来させる――こんな解釈で良いのかしら。
少しは私も使うけど、転移の類は得意じゃないのよ。」
鍵が意味を成すのは鍵穴に差し込んでから、だ。故に鍵と鍵穴は因果を及ぼす関係が生じる。
いわば縁めいた関係を伝って、事を為すといったところだろう。
無論、此れが正しい解釈であるという保証はない。
転移術は今後の対策のため、細々と研究はしているが最悪、己のものではない他者に任せた方が早い気さえする。
「分かったわ。――私はアマーリエ。アマーリエ・フェーベ・シュタウヘンベルク。
何をしている身かは、敢えて言わないわ。この札を切って使う時に改めて名乗らせてもらうわね」
では、と。己も包みを抱えて立ち上がろう。片付けの光景に見える机のボロさ加減もまた、見慣れたもの。
だが見慣れぬのはやはり、向こうの示す仕草と所作と、そして何より鈴の音が示す「扉」の顕現である。
おんぼろの扉を上書きするように重厚な扉が生じる。其れが先ほどの本来の商い場で住処か。
それを認めつつ、名乗りと共に一礼を返そう。
知る者が調べれば、己が何者かはすぐ知れる。しかし、この場においてはあくまで私人として。
■徒綱 > 「あまり、万人に撒くものを作るというのに慣れていなくてね。それでは良くないと分かってはいるのだが、物を作るときには本気でありたいからなあ」
本当に職人肌であり、その問題点も分かっているがゆえに表情が歪むのである。
納得できる妥協点を探すというのは結構問題があるのだ。自分のような、最高の物を時間をかけてでも仕上げるような者には特に。
「まあ、大筋では正しいかな。そもそも扉とは『部屋を隔てる』もの。
二つの場所を隔てる場所に扉があれば、その先につながっているのが別であっても因果はそこまで狂わない。まあ、虚言の類であるとは認めるよ」
うまい説明がつかないが、魔術など大体がそのようなもの。
魔力という力を使って、世界を騙し望みの効果をもたらすものと認識しているがゆえに。
そういった詐術を現実にすることが、己の魔術の本領なのだ。
「では、アマーリエ殿。次に会う時がいかな状況かは知りませんが」
願わくば、よき出会いであってほしいものですね。
そう言い残し、男は扉をくぐって別の場所へ。
淡い光が消えれば、後には寂れた色町の、つぶれた店の扉があるばかり。
しかしそれが幻でないことは、買い取った商品が証明しているだろう。
■アマーリエ > 「なら、後は慣れるしかないわねえ。後は他に作って捌く位かしら」
品を変え、手を変え。売るだけならアプローチは多様だが、如何せん予算が乏しいとなると難しい処か。
当座凌ぎとなると、此処はどうしても難しい処だろう。
特に向こうはいわば「作り手」であると思しい。商売に慣れていない点も垣間見えるとなれば、猶更であるのか。
「解釈次第でもあるわね。彼方と此方――相が違えば、扉は隔てもするし翻って繋ぎ目の役もするわ。
ま、どっちにしたってこじつけ次第だわ」
男と女、両者の見方の違いだって絡むだろう。どっちもある己が思うべくもないが。
技術として成り立っているとはいえ、個人の才覚も絡む以上此れが正しいというものはそうそうない。
超常の一端を為すというのはそういうものだ。常ならざる、条理を超える術なのだから。
「少なくとも、あなたにとても良い話とちょっと悪い話と。
一緒に持ってくることになるかもしれないわね。楽しみにしてなさい」
消え去る姿を見送れば、後に残るのは名残かどうかわからぬ扉のみだ。
肩を揺らし、買った荷物を抱えて逗留先の宿に向かおう。
伴っている兵に何を買ったのか奇異の眼を向けられれば、曖昧に答えながら次の日には帰途に就いて――。
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”2」から徒綱さんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”2」からアマーリエさんが去りました。