2021/01/23 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > 此処最近、少しばかり調子を崩している男。
別に勝率が悪いわけではないのだが、試合の内容が何となく平凡であるというファンレター(という名の苦情)が客から来ていた。

勿論、それはいつもの事、なのだが……

「(落ち込むよなあ……)

はあ、と客に解らないようにため息をつきつつ、対戦相手を待つ男。
基本的に、クレスは試合の十分前には試合場で待機する様にしている――客に対する面通しや、その日の土の状況を確認する意味を込めて。
だから、基本的には男が今回の試合相手を待つという構図になりがちだ。

そして、今日もそれは同じ。
いつもの様に、アナウンスが今日の対戦相手の準備完了を告げる。

『おまたせしました。それでは、本日の選手入場です!』

試合場の扉が開き、試合が始まる――

ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にゾーイさんが現れました。
ゾーイ > 『本日の選手は……ミレー族のシーフ、ゾーイ・ナインライヴズ!
 もちろん、この場においてはミレー族であろうとも、王侯貴族であろうとも瑣末な違い!
 勝者には栄光が、敗者には恥辱が待つのみです!』

実況を歓声を受けながら試合場の扉を潜りやってきたのは、まだあどけなさを残すミレー族の少女。
しかし同時に、それは命のやり取りを知る者の顔をした、オッドアイの狩人であった。

「君が対戦相手のクレス? 悪いけど、負けるつもりはないよ!」

見るからにシーフという風貌の少女は、短剣を逆手に構え、姿勢を低くする。
いつでも始められると言わんばかりに、やる気に満ちた様子だ。

クレス・ローベルク > 「ミレーのシーフか……」

特に珍しくはない――寧ろ、種族的には最も多いと言っていい組み合わせだ。
だが、最も多いという事は、それだけ有効であると言うこと。
持ち前の身体能力で翻弄され、その隙を突かれるというのは闘技場の外でも良くある話だ。

「(気をつけないとな……)」

と思いつつ、しかし威勢のいい少女に対し男は笑顔を向ける。
彼女に応じる様にこちらも剣を抜いて。

「うん、お手柔らかに。お互い、いい試合をしようじゃないか」

そう言って、右手を挙げると、アナウンサーが心得た様に『試合開始です!』と叫ぶ。
地響きの様な銅鑼の音も鳴ると同時、観客たちも歓声をあげる。
その中で、男は剣を中断に構え、

「とはいえ、俺は最初の一撃は女性に譲ると決めているんだ。
何時でも良い。一発攻撃してご覧。俺はそれを、避けたり防いだりはするが、カウンターはしない」

と、堂々と言いのける。
アナウンサーの方も、『おーっと!クレス選手、毎度のことながら、初撃をハンデとして譲るつもりだァ――ッ!しかし、相手はシーフ、その一撃で戦闘不能になる可能性も十分考えられますが……?』と叫んでいる所を見ると、どうやらいつもの事らしい。

彼女がそれをどう捉えるかは解らないが、少なくとも男の方は、今の所動くつもりはないらしい。

ゾーイ > 「はぁ? 何それ、レディファーストってヤツ?」

子猫は呆れたように眉を下げる。
アナウンサーの言によれば、これは女性相手であれば毎度のことであるらしい。

「ま、いいよ。そっちがそのつもりなら……全力で後悔させてあげる!」

低く屈めていた姿勢をさらに低くし、体全体をバネのように用いて、身長の数倍もの跳躍を見せる。

「あったれー!」

そして投擲される数本のダガー。
当然のことながら、手持ちの短剣は一本ではないらしく、複数隠し持っているようだ。
しかし、投擲はほんの小手調べに過ぎないらしい……子猫の姿が消えた。

「(本命は……こっちだよー!)」

胸中での笑みは攻撃的に牙を剥く表情となって、クレスの後方に姿を現した。
魔術と身のこなしを応用し、子猫は瞬時にクレスの背後に移動して見せたのだ。
そして降り注ぐダガーと、背後からの首を狩る一撃を同時に浴びせようという魂胆。
先手を譲ると豪語した戦士は、この連撃をどういなすのか……観客達も息を呑む。

クレス・ローベルク > 飛んできたナイフを、男は剣で切り払う。
胴体や頭に飛んでくるものを集中的に撃ち落とすため、手足をいくつか掠めたが……一応、着ている闘牛士服は厚手である。
だが、それと同時、彼女の姿が消えた。

「(魔術!)」

瞬間移動の類、と判断する思考よりも速く。
身体が、その状況に対する対処を既に成している。
後ろ回し蹴りによる、迎撃だ。

「(っていうか、首狩りかよ!
毎度の事ながら、上は闘技場の殺戮禁止ってルールを事前に言い聞かせるべきだよな全く!)」

本来なら、頭か脇腹を薙ぐものだが、相手の姿を見ている訳ではないので精度が甘い。
このコースだと、肩に当たるが……それでも、相手の姿勢を崩す程度の威力はあるはずで。

ゾーイ > 「(反応速っ!?)」

だが、子猫も後ろ回し蹴りに即座に対応して見せる。
首狙いの迎撃をその場での薙ぎ払いに急遽変更しつつ、身体を逆さにし、蹴りを片手でいなしてその場で跳ねた。
そのままの勢いで後方へと跳んで距離を取るが、狙いは逸れて革の衣装を切り裂くに留まる。
もしも鞣した革でできた分厚い服なら、さしたるダメージにはならないだろう。

「ふぅん、やるじゃん。ボクの攻撃を綺麗に避けるなんてさ。口だけじゃないってことだね」

ぺろり、と舌なめずりしながら子猫は笑む。
後悔させる、という言葉の通り思いっきり急所を狙いはしたが、流石にそれを防ぐだけの力量はあったようだ。

「でもさー、『同時に攻撃』したのに反撃したのはズルくない? これ、どっちも『最初の一撃』でしょ?」

自分は急所狙いを行なったことを棚に上げて文句を言いつつ、ダガーの本領たる超接近戦へと持ち込むために間合いを詰める。
今の間合いならば、ミレー族であれば一跳躍で詰められる距離だ。

「(反応は上々だったけど……今の感じだと、多分ボクの方が速い。一気に決めさせて貰うよ!)」

クレス・ローベルク > 「うっ、それを言われると弱いけど……まあ厳密にはダガーが身体を掠ったのが、蹴りより若干早かったって事でどうかな?」

と、苦笑いで彼女の抗議に応える男。
別に、試合のルールとして定められている訳ではないのだから、厳密に守る理由もないのだが、しかし確かにグレーなのは確かだ。
今後は気をつけようと思った直後、今度は彼女は至近距離まで間合いを詰めて――

「うぉ、っと!」

直後、まるで踊るように身体を回転させながら、後ろに下がる男。
ただ回りながら下がるのではなく、その回転に載せるように、刃を振るい、追撃を牽制。
ちなみに、剣には予め、『生物の身体は斬れない』という魔術をかけてある――あたっても、斬れる事はない。鉄の棒でぶん殴られた程度である。それでも下手すると死にかねないが。

「(さて、追撃してくるか、それとも距離を離すか……)」

こちらは、回る動きで付かず離れず、剣の間合いを維持し続ける。
その狙いは、勿論リーチによる優位性を保つ事もあるが、相手の焦れを待つというのが本命だ。
身体能力任せの下手な攻めを誘発し、その隙を突くのが狙いだ。

ゾーイ > 「なら、結果的に殺さなければ急所を狙うのもアリだよね?」

にしし、と笑いながら鍔迫り合いに持ち込もうとするが、相手は短剣の弱点を熟知している。
即ち、致命的なリーチの短さ。剣と普通に斬りあったのでは、大人と子供が喧嘩をするようなもの。
どう足掻いても剣の方が攻撃が届くのが先だ。しかもこの場所は開けた闘技場であり、短剣を活かせる閉所でもない。

「ま、そりゃそうなるよね。でもボクだって、それぐらいの対処は知ってるのさ!」

その直後、順手で持った短剣と相手の剣が接触した瞬間に、素早い踏み込みで短剣を持った手首を曲げ、鋭い肘打ちを狙う。
更にはハイキックで顎を狙い、直撃すれば意識が朦朧とすることは間違いのない、優れた体術を披露する。
だが、相手が「針」という、短剣よりも更に短く、そしてある意味致命的な暗器を隠し持つことを、まだ子猫は知らない。