2020/05/10 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > 闘技場は、今日も煩すぎる程に盛況である。
青い剣闘士クレスは、その雑音の中、次の試合が始まるのを待っていた。
今日は、既に二回ほど、試合を終わらせている――普段なら、一日の試合数は一回か、多くて二回で抑えているのだが。

「(最近は、ミレーの奴隷の数が減ったからな……)」

闘技場でも多く使われるミレー族は、現在需要の加速と供給の現象で、それなりに値が上がっている。前者は魔導兵器のエネルギー源として、後者は要塞都市の閉鎖に伴って――だ。
そうなると、試合数を稼ぐためには、男のような囲い込まれた選手を使い回さざるをえない、ということだ。

「(断っても良かったんだけど――あっちの都合も解るからなあ)」

あくまで怪我をしない程度に、融通を効かせよう。
そんな訳で、男は今回三回目の戦いに挑む。
一回目、二回目の敵は強かったものの、回復魔法で疲労や傷がほぼ癒える程度の相手だったが、

「(三回目は、流石に運営も強いカードを入れてくるかもな……)」

そうこうしている間に、試合開始のアナウンスが流れてくる。
思考を試合モードに切り替えて、今日の対戦相手を待つ。

ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にクレス・ローベルクさんが現れました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」に黒須さんが現れました。
黒須 > (騒がしくなる会場の控室。
闘技場へと向かう男は一言呟いた。)

「…はぁ…めんどくせぇな…。」

(これから試合であるのにも関わらず、呑気と言うか気だるげに呟いた。
そもそも、この試合は自分から志願して参加したのであった。
現在、マグメールでは魔物の依頼がかなり減ったため、師団内での稽古だけしか体を動かしていなかった。
昔から実践を加えての稽古を日々続けて来た気持ちのため、黒須としては物足りなかった。
アナウンスが流れればまた一つため息を)

「さてと…楽に終われば良いが…。」

『さぁ!お待たせしました!!
今宵の試合は目が離せません!!
選手の紹介です!!』

(会場に響くやかましいほどの大きなアナウンス。
それと同時に黒須は闘技場に姿を出す。)

『貧民地区では誰もが耳にし、その強さに噂は広まり続けました…。
現在は平民地区第七師団に所属している戦闘員!!
貧民地区最強…黒須・狼!!!』

(名前が上がると同時に歓声が響く。
貧民地区では知らない人間が居ないとされる名前、黒須。
その選手が現れるのであった。)

クレス・ローベルク > 随分と真っ黒な青年が来たな、というのが第一印象。
しかし、黒を着ている割には、地味という印象は受けない。
どちらかというと、物騒というイメージを与える出で立ちだ。

「黒須・狼か。名前は聞いた事あるが……」

実際にその戦いぶりを見たことはない。
ただ、貧民地区ではかなり強いと、そういう噂しか。
流石に最強というのはアナウンサーの"盛り"だろうと推測するが、それが"通じる"と判断されてるだけでも、十分警戒に値する。

「やあ、今日はよろしく。いい試合をしよう」

とはいえ、思考の時間はそう長くない。
試合開始の鐘がなる前に笑顔で挨拶し、剣を抜く。
そして、お互いが構えた所で、試合開始のゴングがけたたましく鳴り響く――!

黒須 > (黒須の名が出て騒いでいた観客達。
その姿を見ては一瞬にして静かになった。
貧民地区の情報を知るものからすれば、黒須は巨体を持つ狼の獣人。
今の男はかなり痩せ型な体系で、尻尾が生えているぐらいだ。
方や、闘技場での雰囲気を察する物、あるいは素人でもわかるが、黒須の服装はほとんど私服と言うように、戦いに徹した格好ではなかったのだ。)

「めんどくせぇからよ?さっさと済ませるぞ…。」

(笑顔で挨拶をする相手に対して、嘗めている様にポケットから煙草を取り出す、蒸かす。
相手が剣を抜き、ゴングが鳴っていても、黒須はかなりリラックスしている様に煙草の煙を吐く。)

クレス・ローベルク > 「いやあ。少しは尺伸ばさないと怒られるんだよ。
俺を助けると思って協力とかしてくれない?してくれないよねー」

明らかにやる気なさげな黒須と対照的に、こちらは軽口を叩きながらも慎重に相手を見定め、すり足で距離を測る。
相手がやる気なさげなのは、あくまでポーズで、何かを狙っている――と男は考える。そう考えないよりはマシだからだ。
そして、その上で、

「ま、どっちにしろやる事は変わらないか!」

剣を構えたまま駆け出し、男の拳のリーチ外から剣を突き出す。
重心を前に倒して、とにかく速度とリーチを伸ばした突きだ。
反撃への備えをまるで感じさせないが、しかしそれ故に。

「(流石にこれで全く動かないって事はないだろ!)」

貧民地区最強と言われる男の実力とはどれほどか。
まずは、それを測ろうと。

黒須 > 「尺を伸ばすなんざ面倒なことしねぇよ。
俺はさっさと戦って、終わって家に帰るだけだ…。」

(なぜこの男はこの闘技場に出たのか。
そう思いたくなるような言い方であった。
そのまま、スリ足で近寄る対戦相手、次の瞬間にリーチを伸ばした突きが放たれる。
黒須の観察眼に直感など、あらゆる感覚が研ぎ澄まされて相手の動きを読めた。)

(その突きが来ると、それを外側に流そうとした。
剣の側面、切れない部分に腕を添えると、そのまま軌道を変え、足場を変えずに攻撃をかわす。
その後、流れた剣に合わせて自身の体もそちらに流す。そして、勢いを使い、体を捻ると、クレスの腹部に向けて鋭い足刀を放った。
スピードと重心を乗せた蹴り、魔術により強化された蹴りがクレスの腹に向かう。)

クレス・ローベルク > 「ひゅっ……!」

流された、とそう思った直後には、男はカウンターへの備えを実行していた。
強引に一歩後ろに下がり、相手の蹴りと腹の間に右腕を噛ませる。

「ぐっ……!?ただの蹴りじゃ、ねえなこれ!」

食らったとはいえ、威力を後ろに流して、更に防御までしたというのに、右腕が一瞬、不吉に軋んだ。
恐らく、身体強化系か何かだと判断するが、魔力の流れが見えてない今は解呪は不可能だ。
ダメージは最小限で済んだ。だが、下手な攻撃は逆効果なのも解った。ならば、

「それじゃあ、泥試合やるしかねえな!」

先程とは違い、今度は短いモーションで黒須の右肩から胸に向かう斬撃を繰り出す。
それを躱したならば今度は左。後はそれをランダムに繰り返すだけだ。
隙は少ないが、威力も少ない連撃。
だが、それで良い。狙いはダメージではなく、相手のカウンターを封じて、回避させ続ける事が目的だからだ。

「(この状況が続けば、守りに入ってるあっちの方が確実に疲労する。
さっきの攻防で、そう簡単にこっちがカウンターを喰らわない事は解ったろ……!)」

ならば、どうすると。そう問いかける様に、男は攻撃を重ねていく。

黒須 > 「…流したか。」

(蹴りが当たる瞬間の感触を読み取り、察した。
自分と同様に攻撃を受け流して大きなダメージは消したようだ。
そのまま、立ち上がればまたポケットに手を入れる。)

「…斬撃か…。」

(相手の剣の振りを見て、すぐに読み取った。
自分の右肩から胸に向かう斬撃だ。
しかし、躱したところで次の斬撃が来るのはわかっていた。
だからこそ、思った…めんどくせぇっと。)

「そんな単純なので…動きを止められると思ったか?」

(革ジャンを脱ぎ捨てて遠くの方へ、黒いYシャツ姿になると腕をバツ印にしてガードすれば斬撃を全て体で受けとめる。
大量の斬撃が自分の衣類を破き、肉体が現れる様になると生身で攻撃を受ける。
体勢を崩さないままでいると、少しづつ跪く体勢になる。
攻撃が通用し疲労を重ねたかと思うと、巨大な破裂音と共に黒須はクレスの前の前に現れる。
斬撃のダメージを蓄積し、魔術で足に貯めると爆発エンジンの様に吹き飛んで、一気に近づいた。
その息を乗せたまま、全部のダメージの魔力を腕に回し、大振りのボディーブローへ。
その衝撃は正しく、ゼロ距離ショットガンのような威力であった。)

クレス・ローベルク > 「いっ……!?」

突然、風が来た。
そう思った瞬間には、男は吹っ飛ばされていた。
試合場の中心に立っていた男は、重力など感じさせないほど真っ直ぐ後ろへとすっ飛び、試合場の壁に叩きつけられた。

「……ッ」

全身を、痛みというよりも痺れの様なものが襲う。
だが、それを振り切り、男は立ち上がる。
血の混じった痰を吐き捨て、無様にもよろけながら。
この状況でも手放さなかった剣を握って。
そして、男は――笑った。

「いやあ、止められるなんて、そんな勿体ない事思ってないよ」

そう言うと、男は剣を捨てた。
拳を受けて刀身が砕けた、その剣を。
男の狙いは、動きを止める事ではなかった。寧ろ、逆だ。
男に、渾身の一撃を叩きつけてもらい――そこに自らの渾身の一撃を当てる事こそ、目的だった。

「あのノーガード戦法で、君の魔術の原理は何となく解った。
君は君の肉体を強化してるのではなく、その力を……恐らく俺の力を使って、強化してるんだ。
なら、話は早い」

硬いものを殴れば、痛い。
まして、勢いのついた剣が、まともに拳に当たったとすれば。
相当のダメージが、相手に行ったはずだろうと。
尤も、その全力の一撃を迎撃するのに全意識を集中していたため、男自身は攻撃をまともに食らった訳なのだが。

「さて、一矢は報いたと思いたいけど……俺ももう限界か。
悪いけど、こっちはゆっくり向かっていくからさ。急いで終わらせたかったら、君から来てくれると助かる」

そう言うと、クレスはゆっくりと黒須に向かって歩き出す。
前のように駆け出したりはしない。その体力が勿体ないからだ。
満身創痍の状態で、更に無手。その状態で、一歩一歩黒須に近づいていく。