2020/04/24 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にヴォルフさんが現れました。
■ヴォルフ > 闘技場へと続く扉が上がる。
地下へと続く暗闇の中にいる少年を、容赦のない白光が襲う瞬間だった。
それまで、地鳴りのようだった歓声が、一気に鼓膜を打ち震わせる。
眼の前、白い白い砂が広がった。
血を、映えさせるための白い砂…。
少年は、その砂の上へと踏み出すと、常のように数歩足踏みをする。サンダルの底に白い砂を擦り付けるように。
そして、手にしていたグラディウスとバックラーを置くと、掌に白砂を掬い取る…。
その白砂で手を洗うかのように。
少年は手指にも砂を擦り込んだ。
そうして、再び武器を取り少年は、物憂げに満員の観衆を見渡してゆく…。
今宵もまた、血を流せと、狂ったように叫ぶ観衆を物憂げに…。
今宵、どのような相手が立ち塞がるかも、知らされていない。
ただ少年は、その時が来るのを待つだけだ。
自由を勝ち取るための階梯の、一段となるべき相手が現れるのを…。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にエル・ジーヴァエさんが現れました。
■エル・ジーヴァエ > まるで地鳴りのような歓声が響き渡るような、舞台へと上がる手前の広場にて。
黙々と準備運動をしていればやがて主催者の一人から時間が来たことの知らせが入り。
大鉈を肩に担ぐように持ちながら闘技場へと続く短い階段を上り。
持ちあがる鉄柵の扉をくぐって歓声の中に入っていけば砂を踏み鳴らしながらゆっくりとした歩みで中央へと近づいていき。
「…………君が、今日の血に飢えた獣かい。
若いのに、残念なことだねェ」
開始の銅鑼が鳴り響く前。
深くかぶった帽子の奥から、フローライトグリーンの瞳を覗かせ。
対戦相手を見れば口角をうっすらと上げつつ、ややハスキーな声で呟き。
■ヴォルフ > 少年のその黒い瞳は、どこか物憂げなままだった。
無感動と、そう言ってもよいかもしれない。
告げられた言葉を、理解していないわけではないらしい。
が、怪訝そうに小首をかしげた仕草にだけ、歳相応の幼さが一瞬、垣間見えた。
けれど、そんな様子も開始の銅鑼が鳴り響くまで…。
ゆっくりと、少年は肩幅よりも僅かに広く脚を開く。
そして、その膝にしっかりと力の溜めを作ってゆく。
安易に飛び跳ねもしなければ、これ見よがしに武器を振り回したりもしなかった。
力を入れすぎずに握り込まれるグラディウス…。
ゆっくりと、白い砂を噛み…少年は“間”を刻み始める…。
■エル・ジーヴァエ > 「ふふ……いい目だ、優秀な戦士……そして狩人の目だね」
開戦を知らせる銅鑼の音が響き。
此方の攻撃を警戒するような、それでいていつでも攻撃に転じれるように構えを取る相手の目を見て一人つぶやき。
しっかりと構えを取る相手とは対照的にこちらは肩幅に足を開いた程度の直立体勢で。
そのまま大鉈を振り下ろせば白い砂ぼこりを立て。
しかし、じりじりと間合いを詰めてくる相手を待つように微動だにせず。
歓声を上げていた観客もお互いの空気に飲まれていったのか。
やがて沈黙があたりを包みこんでいくだろうか。
■ヴォルフ > 内側に屈曲した武器は、その間合いを読み違うことがある。
それを少年は、身体を通して知っていた。
ゆっくりでは、あるが。着実に間は刻まれている。
一足一刀と、武の道に言う…。
あと一歩。その一歩を踏み越えれば、いずれかの刃が届く距離。その一足一刀の“刃境”を、少年は無造作に超えてきた。
シ、と鋭い呼気が漏れる。
フェイントも何もない。
派手さも、けれんみもまったくない。
右手に持ったグラディウスを、最短距離で鍔の広い帽子の奥へとただ、突き込む。
愚直であり、それであるがゆえに、鋭い。
それは、そういう一太刀だった。
■エル・ジーヴァエ > じりじりと距離を詰めてくる相手を瞬き一つせずにじっと見守り。
やがて二人が放つさっきの制空権に触れたとき、少年の姿が掻き消える。
それはただの訓練だけでは得ることのできない、まさに天賦の才を持つゆえに出来たのであろうタイミングと鋭い動きであった。
放たれた刃は確かに帽子に隠れた額へと飛び。
しかしそれが当たる寸前、小さく首を横にずらして剣筋を交わし。
相手の鋭い一撃はかぶっていた帽子を吹き飛ばし、自身の額に小さな傷をつけるに留まり。
その刹那、右手で構えていた鉈を大きく横なぎに相手の脇腹に振りかぶる。
鋸刃であるそれは当たっただけでは切れないだろうがゆえに鋭い打撃を相手に与るだろうし。
そのまま引けば布を固めただけのような相手の防具を引き裂いて肉を切ることになるだろう
■ヴォルフ > グラディウスの切っ先は、獲物を捕らえること叶わなかった。
そしてまた、最小限の身のこなしで避けるのであれば、それはそのまま攻め手へとつなげやすい。
が、それはむしろ少年も覚悟のうちであったのだろう。
そしてまた、故にこそその突き込みは、鋭く、そして深かった。
グラディウスの一刀の一突きを、少年は引かない。
否、むしろそのまま勢いを利して、前へと。
凶暴なその刃を、少年は後ろにも横にも避けず、そして受けない。
ただ、前へと。
鋭い一太刀のその勢いが、大鉈の懐深くへと潜り込む体当たりとなっていたのだ。
バックラーの縁を立てる。その細い線がそのまま、鉈を受けるためではなく対手の内懐を打ち砕かん、と…。
■エル・ジーヴァエ > 「……っ、ほぉ……」
相手の行動に思わず小さく短い声をあげる。
普通の闘士であれば強く踏み込んだ後の一撃は回避できないだろう。
しかし少年はむしろ突っ込むことで対処したようだ。
確かに自分の得物は懐には比較的弱い。
相手が放ったバックラーによる打撃が自身の脇下へと入ればミシっと骨が軋むような音と鋭い痛みが走る。
しかしその程度で根をあげるような女ではなく。
そのまま鉈を持つ手を離せばグラディウスをもつ相手の腕を掴みつつ後ろに飛び。
相手の勢いを利用したまま身体を反転させれば相手の身体を下にして地面に倒れ込むように叩きつけようとして。
■ヴォルフ > 左腕に残った感触は、確かにバックラーが対手の胴へと食い込んだその感触であった。
が、少年はそれで安堵の色など見せなかった。
であるからこそ、少年もまた、グラディウスを「捨てた」のだ。
観衆には、一見泥仕合へと変じたと見えたかもしれぬ。
しかし、違う。
少年は、背筋を戦慄が駆け抜けてゆくのを、覚えていた。
それは、恐怖だ。
そして恐怖の中に確かに潜む、歓喜でもある。
飛んだ。
引き込まれるままに少年もまた、飛ぶ。
そして宙にて身を捻り、白い砂へと降り立ったのだ。
「…………」
黙したまま、そして憮然として。
少年は利かなくなった右腕を振ってみせる。
対手の肋骨は、もらった。そして、右腕を捻り上げられた。
その「結果」を、ただ受け止める表情として、少年はなんとも憮然とした顔をしてみせたのだ…。
■エル・ジーヴァエ > 相手の体重を利用した投げ。
しかしそれも相手の咄嗟の機転により抜けられることになる。
とはいえ掴み捩じったことによる相手へのダメージは感じられていて。
地面を強く踏み込んで体勢を投げの体勢から立て直し。
ゆっくりと上体を上げれば不機嫌そうな表情を浮かべる相手を見据え。
かなり腕の立つ相手と見定めれば楽しそうに口角を上げ。
お互い無手となってしまえば拳をぐっと握りしめながら相手に大股で近づいていき。
それを見て観客の感性は再び大きくなる、闘技場でたまに起こる闘士同士の倒れるまでの殴り合い。
それを期待しているのだろう。
「シッ!」
小さく息を吐けば歓声にこたえるように相手の鍛えられた腹筋めがけて身体を鋭くひねって拳を放ち。
■ヴォルフ > 右手は、少なくともこの闘いの間はもう、利くまい。
手が利かぬ、ただそれだけのことだ。
命があれば、それでよい。
対手が迫るのを少年は、左腕のパックラーを外し、それを捨て去りながら待っていた。
そして…吼えた。
獅子吼と、そう言ってよい咆哮を、少年のどこかに高さを残す声が上げる。
突き込まれたその拳、それを少年は、受けた。
拳の衝撃が、肉を通して内側に響く…。
けれどその拳もまた、膝と肘で、挟み込むように狙ったのだ。
己の身体に触れさせずに、これをさせてくれる相手ではない。
ならば、肉を斬らせて骨を断つ…否、肉を打たせて、骨を砕くとばかり、少年はその拳をむしろ、狙いにゆく…。
■エル・ジーヴァエ > 相手の腹を確かに狙った拳はしかしそこに到達した瞬間にぐちゃっと骨が潰れるような音とともに砕かれる。
己もその身は人と変わらない、ゆえに今にも叫びたくなるような激痛が走るのだがそんな余裕が戦いの場であるはずもない。
解放された手の甲には細い骨が浮かび上がるような状態であったが眉を寄せる程度で痛みを無視し。
相手がこちらの骨を砕くというのであれば、此方は相手の肉を破壊しようと。
相手が壊れて拳を狙ってくればむしろそちらの防御は無視し。
腹斜筋の隙間やあばらの隙間など人体の急所を狙って攻撃を繰り出し相手の内臓へとダメージを蓄積させていき。
■ヴォルフ > 腹の痛みは、耐えられる。
怖いのは、意識を刈り取られることだ。
立ちたいと、望みながらもそれが叶わぬことだ。
苦しいのは、耐えられる。
しかし、腹へと溜まる苦痛は、本来ならば脚を鈍らせる。
狼のような素早さを誇る少年を攻略するに、それは正解であったと言えるだろう。
そして、だからこそ、少年もまた備えていたのだ。
この、対手の吐息が吸えてしまいかねない距離を制する術を。
少年の額が、思い切り突き込まれる。
同じほどの背の高さ。
そして、腹を狙いに来る低い姿勢。
対手の、その鼻先をめがけて人体中最も硬い部位を突き込んでゆく…!
■エル・ジーヴァエ > 「っ!っく!」
やはり相手は戦いにおいては天才なのだろう。
幾度となく放たれた拳の山を耐えきり。
そして踏み込み拳を放った拳の動きを見切ったようにカウンター気味に放った頭突き。
それは的確に己の鼻っ柱をぶったたき軟骨を砕いて後ろへよろめかせることに成功するだろう。
なんとか足を踏ん張って倒れることは阻止する物の相手に対しては大きな隙を晒すかもしれない。
お互いに流れる血に観客の興奮はピークに達していき。
今こそ追い込み勝負を決めろと少年を煽るだろう。
■ヴォルフ > その観客の声を背に受けても。
少年はしかし、女に飛び掛かろうとは、しなかった。
「…おまえ、強い。そして…面白い」
初めて、少年が口を開いた。
かは、という乾いた呼気が漏れる。
女が立て続けに叩き込んだ拳は、間違いなく効いていたのだ。
それでなくば、声援の後押しなどなくとも少年は、顔を抑える手ががら空きにしているその喉笛を…狙いに走っていただろう。
銅鑼が鳴る。
止めたのは、少年の主であり、女を招いた興行主だ。
見込みのある闘奴がこれ以上壊されてはたまらぬと、闘奴の主は恐れ…。
興行主は、女の背後にちらつくものを、恐れた。
少年は、ほんの刹那、誇り高い勝負を奪われたことに怒りではなく…失望の色を過らせる。
そして…。
「…おまえ、強い。今度は、勝つ」
北の、凍てつき乾いた風を思わせるような訛りの残る声で少年は告げ、そして…本当に歳相応の幼さをみせて、女に向けて微笑んだ…。
引き分けと、場内には声が響くが、勝利ではない以上、少年にはそれは、敗北と同義であったのだ。
何故ならば…自由への階梯を登れはしなかったのだから…。