2020/04/23 のログ
■ティアフェル > 「そんなことないわ。だってきっちり治ってなかったら、『アイツ…腕…悪…』って周知される。
―――地獄! それで一生懸命完治させても世間は『とーぜん』って感じなんだから……ちくしょう」
彼がどう思うかというよりも、この後試合に出る相手なのだから動きが鈍られてしまったりすると、施術が不十分と認識されてしまうのが悔しすぎる。自分を呼んだここの運営からも信用がなくなるだろう。それは全力で阻止する。
力強く主張して、「お分かり?!」そう、キッと鋭い眼を注いだ。
「いいですいいです。これはわたしの今日の仕事。で、クレスさんも仕事しただけ。お互い報酬はそれぞれいただいてるんだから。わたくし報酬以上の物は受け取れませんの――ってか、埋め合わせ…なら前回のヘルハウンド事件をチャラにしてくれれば助かりまーす」
チップをいただくような職業でもないので、丁重にお断りしかけたが、どうしてもってんなら前回の件をなかったことにしてくれればいいとあっさりした笑顔を向けて。アホ毛もお気になさらず、というようにひらひら揺れた。
「ああ。そうなの? ここはレイプされて運び込まれる女性が多いから多分女医なんかも常駐してるでしょう?
無理矢理出さされてショックな奴隷の娘は無茶されると、男性には近寄れもしなくなっちゃうからねー。やっぱ過激が売りの闘士さんもいるしょーがないんだけど」
今日も来たわぁ。しょうがないけど、と肩を竦めて息を吐き出し。
彼のような男性闘士には男性の施術者が担当するので出会ってないだけではと小首を傾げ。
そして、足の方が意外と無事で両手やられてた状態に、機動力を削ぐってスタイルの相手ではなかったんだなーと感じ。
脛の青痣に手を翳して短詠唱で回復させ。余りに小さな、戦闘に支障ないような痕は、ぺち、と軽く叩いて終了。
下着が不自然なテント状態だが、気にするんなら先端数センチを圧迫して萎えさせれば…思ったが。お互い気にしてないので問題なし。治療の邪魔でもなかったので怪我だけをさっさと処置して。
「はい、いいですよー。お大事にどうぞ。
……んん? そう? そりゃあもうがんばってるので誉められると嬉しい。
クエスト中の施術よりはよっぽど楽ちんだからねえ」
施術は大方済んだはずだ。最後に頭部などは平気だろうかと気にして眩暈や吐き気などを確認し、激しく打ったりはなかったかと尋ね。
治療されなれた立場から評価いただくと、それはありがたいもので嬉しそうに破顔して。
それから脱がせた闘牛服は汚れが見えるがいかがしようかと。取り敢えず備え付けられていたガウンを手渡し。替えがあるなら洗濯にでも回して。と。
■クレス・ローベルク > 「あ、成程。それは地獄だな……剣闘士より地獄だ……」
自分の場合、良くも悪くも成果が評価される。
そういう意味では恵まれた職なのだなあと思う。
いや、その親玉である闘技場運営にはビタイチ感謝はしないが。
「ああ、そういやアレ、一応ヘルハウンドからの護衛依頼って形だったっけ。
良いよ良いよ。何も出なかったし。報酬貰い忘れてたぐらいだし」
というか、男の記憶としては、「面白い娘と一緒に帰った」ぐらいのアレで、ヘルハウンドが出たとかは瑣末事として記憶されていた。
多分、持ち出されなければ依頼の事自体を忘却していただろう。
「あー、じゃあ見てなかっただけか。トラウマ持ちも来るならそれなりの配慮があっておかしくないし。
俺なんて、奴隷や女性の選手側からしたら明確に"敵"だしね」
ある意味、当たり前の話ではある。
万が一にも、犯した側と犯された側がばったり出くわしなどすれば、色々な意味で地獄と化すのは想像に難くない。
……まあ、男の場合、負かせた女性も何だかんだ精神的にピンピンしてる事が多いが、それは相手のメンタルが強いだけだろう。
「不衛生だったり、道具のない場所での治療はしんどいからなあ。
ああ、大丈夫。吐き気や頭痛、ふらつきなんかはないよ」
そう言いつつ、診察台から起き上がり、ガウンを受け取り羽織る。
洗濯するか聞かれたので、ありがたく頷いておく。
元々、二試合連続の時には着替える為に予備は複数ある。
着替えは控え室にあるので、ガウンのまま外に出る事にはなるが、前もそれなりに隠せているし問題はないだろう。
「お陰さまで、客をがっかりさせずに済みそうだ。
でも、次はお互いプライベートの時に話したいところだね」
そう言うと、控室の扉に手をかける。
特に呼び止められないなら、そのまま男は退室することだろう。
■ティアフェル > 「でっしょ。絶対そんなことにさすか。だから次勝つよーに」
相手が誰なのかも知らされていない状況かだったが、わたしのプライドに懸けて治すのでいい動きしてよと念を押す。
勝ちはしなくても機敏に動いてください。
「あ…ひょっとしてこれ掘り返すべきじゃなかったヤツか……」
すっかり忘れていたような相手の反応にしまった、と悔やんだが。結果としては想起させてもさせなくても変わらないもので。まあ、いっかと肩を竦めた。
自分にとってヘルハウンドショックは半端なかったのだが。
「と思うよ? 何せケアがデリケートになってくるからね。わたしも今日ここに、女だから呼ばれたのよ。
ま、クレスさんは恨まれてない方よねー。感心する」
むしろそういう目的で対戦している女性からは逆にモテてしまってるだろう。男性闘士もこういうタイプが多いとと女闘士のアフターケアも楽だろうなと感じ。
「そう。それにいつ敵が出てくるか分かんない状況だとね。焦る。
うん。なら良かったわ。――一応このあと交代する人に状態は申し送っておくので。何かあったら伝えてね」
連戦ということなので夜番で救護室を預かる者には伝えておこう。車椅子などもう必要なくなった剣闘士がガウンを羽織って出て行こうとすると、手を振って。
「――それは何より。次の試合も頑張って。わたしのヒール無駄にしないでくれることを信じてるわ。
そーね、オフの時は遊ぼうー」
退室する剣闘士に、にこ、と施術中とは違う屈託ないオフモードな笑顔を投げかけて見送った。
そして、また救護室に一人になると残された添え木や包帯を片づけたり、闘牛服を洗濯に回すように手配する。
次の患者が来ても対応できるように整えると、また扉の向こうから声がした。今日は魔力はほとんど使い切ってしまった。大した症例じゃありませんよーに、と祈りながら。
「はい、どうぞー」
交代の時間まで今日はそうして、救護班として働くのだった。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場/救護室」からクレス・ローベルクさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場/救護室」からティアフェルさんが去りました。