2020/03/26 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にヴォルフさんが現れました。
■ヴォルフ > 鉄格子の嵌められた塀を挟んで、灯の飾り立てられた街路には、喧騒と嬌声、酒と食べ物の匂いが満ち、溢れ、流れている。
そして、塀を挟んだこちら側…闘奴達の眠るその場所には、灯もなく、闇が落ち、声もないまま静まり返っていた。
闘奴達に待つ明日は、己の命の散らされる日かもしれぬ。
それを伸ばし生きるには、夜の眠りは貪らねばならぬものなのだ。
そんな静まり返った闘奴の宿舎の庭先へと、歩み出てきたのは一人の少年だった。
胸と肩とに、粗末な包帯を巻いている。
闘奴としての“価値”を証し出してみせた以上、勝手に死なれたり怪我を悪化させ、“商品価値”を下げさせるわけにはゆかぬ、と。鍛錬すら思うままにさせてもらえぬようになった。
それはむしろ、少年には憂さにしかならない。
教官の目を盗み、他の闘奴達が寝静まったこの深夜に、少年は怪我を負った身体に鍛錬を強いて、そして…こうして月夜の許に火照った身体を休めに来たのだった…。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にアラミルさんが現れました。
■アラミル > その奴隷が、塀の向こう側にどういった感情を抱いているのかは知らない。
けれど、深夜であろうともダイラスの喧騒は途切れず。
また、喧騒があるということは向こう側にも人が居るということだ。
「ね、何を、しているの」
少し聞き取りにくい、ぼそぼそとした声。
けれどそれは間違いなく…庭先での鍛錬の後、休んでいる少年にかけられたもの。
塀の向こう側から声をかけたのは、貴族のような格好をしたくすんだ銀色の髪の女。
肢体も艶やかであり、女性らしさを煮詰めたような姿だ。
あまり表情が浮かんでいない顔で、塀の向こうから様子をうかがっている。
■ヴォルフ > その声は、少年の背から届けられた。
ぴくりと、一度だけその肩が、背が震える。血の滲む包帯を巻いた肩が。
それはまるで、手負いのけもの…まだ成熟しきらぬ歳若いけものが、思いもかけず人の接近を許して身構えたかのように。
「………空を見てる」
その、短いいらえは、随分と長い沈黙の後に紡がれた。
どこか、聞きなれぬ訛りがその声と言葉とにあった。
見識豊かな者であれば、それは遥か北方のものであったとわかるだろう。
空。
闘奴達の宿舎の、四角く切り取られた夜空。
少年が今得られるのは、四角く切り取られたその夜空か、楕円に切り取られた、血塗られた空だけなのだと、聡い者なら察せられよう…。
■アラミル > 彼女が居るのは騒がしいこちら側だ。
当然檻も柵もなく。空は広がりを見せる。
「空?……見て、楽しい?」
相手の返答によくわからなさそうに首を傾げる。
知識は特になく、その訛りも酷いものでなければ聞き取れるならいい、と思い
「狭く、無いの。そこ」
静かな声で、そう声をかける。
喧騒の側から見れば、彼は、酷く窮屈そうに見えた。
■ヴォルフ > 「…楽しくは、ないな」
ひどくつまらなさそうに、少年はそう告げた。未だ、張り詰めたままの肩と背。そこに、確かに隆起し始めているのは、これから成長してゆくことをありありと匂わせる男としての色香すらまとう身体の線だった。
そして、掌の中にある、重りをつけた木剣を弄びつつ、少年は真面目腐って口を開く。
「狭い…?ああ、そうだ。ここは狭い。なにもかも、ぶち破りたくなるほど、ここは狭い」
その声に、笑みの響きがあることを、聞き取れただろうか?
そしてその笑みの奥底に、察した者に怖気を誘うほどの怒気が籠められている、ということに…。
■アラミル > 「…?」
相手の返答に、不思議そうな顔
多少の常識は得られたものの。
未だ、本能による行動が多い彼女は。
楽しくが無いところになぜ居るのだろうと思っていた。
「…。どうして、ぶち破らないの。…力、あるでしょ?」
怒りも、彼女は感じ取ってはいる。
そして、成長途中とはいえ、逞しいその体は。
この檻程度、破れないとは思えない。
無意識に…男にとっては挑発になり得るかもしれない言葉を投げかけていく。
■ヴォルフ > ようやく、少年は背後を振り向いた。
眩しいと、感じたのだ。女の背後の、灯のせいでもあったろう。けれど、それのみではない。灯に照らされ浮かんだ、銀色の髪がまとう燐光めいた光に、少年は目を細める。
その一瞬は、短絡的に爆ぜかけた、少年の怒気を鎮めさせるには十分だった。
木剣を握らぬ別の手が、鉄格子を握りしめる。
「…まだ、足りない。おれの力じゃ、まだ足りない」
文字通り、この鉄格子を捩じ切れるほどの力があれば、自由を購うことはできるだろうか。
自由を購い、再び北の空を戴くことはできるだろうか。
そんな想念はしかし、目の前の姿を眼にしては、口にされることはなかった。
不思議そうに、少年は瞳を細める。
その姿が、人というにはあまりに幻に見えたから、だろうか。
「…あんたは、何者だ。妖精か」
少年の、殺伐とした知識と生まれでは、その姿は幼い頃に耳にした御伽噺の妖精にしか、見えなくて…。
■アラミル > 女には、相手の望む姿になりたいという原初の願望がある。
この姿は…多数の男に願われた姿。それ故に魅力は溢れており。
そう言った意味では妖精や精霊とも言えるだろう。
振り返った相手に、動じることなく。
不思議そうな顔を向けている。
「そうかな」
ただ、短く。
女は、直接は戦わない。
だから相手の力量もピンとは来ておらず
身体から溢れる生命力で判断していて。
「私は、アラミル。あなた、は?」
性も無い名前を告げ、名前を聞き返す。
■ヴォルフ > 不思議そうに、少年は女を見つめている。
警戒と不審。そこから始まった瞳の色は、女を見つめるうちに次第にゆるりと、賛美の色を宿してもいた。
「…ヴォルフ」
気づけば、短くそう名乗らされていた。
部族では、よそ者に安易に名乗ってはならぬと戒められていたものだ。真の名を教えることは、魂を握られるのと同じだと、あれほど戒められていたというのに。
女は、汲み取るかもしれない。
少年が心の底から欲する、自由の象徴たる姿を。
ただそれは、未だ明確なかたちを成してはいなかった。
この檻を敗れる力。
己に理不尽を強いる者たちへの復讐を果たす力。
それとも…初めて間近に見つめることのできた、女への…少年すらも無自覚な肉欲を貪る自由なのか。
そのいずれもが、この闘奴の少年の中には、混然として渦巻いている…。
■アラミル > 「ヴォルフ。…名前通り、だね」
特に彼女に…呪いをかける力などは無い。
だから、その名前から受けた印象と。
感じる力強い生命力を指して、そんなことを呟いて。
怒りと、諦観、憧れ。
そんな…こちらに向けられていない思いも、ある程度は察せられる。
「ね。…そっちに居る、ってことは奴隷。違う?」
沈黙の後、話しかける。
「お試し。私に、買われて、みる?一瞬だけ、自由にしてあげる」
奴隷が売買されていること。
そして、一時的とはいえ買った奴隷は…代金に見合った期日までなら連れまわせる可能性が高い事。
それらを、王都の娼婦である彼女はある程度知っており。
それが、この闘技場に適用されるかはわからないが、声をかけてみるだけなら損はない。
■ヴォルフ > ぴくりと、鉄格子を握る手が、揺れた。
そしてまた、少年の瞳にも動揺の色が、揺れる。
女は今、ありありと感じていることだろう。
少年の胸中に今、激しい葛藤が渦巻いていることを。
自由を、得ること。一瞬といえど、得られること。
けれどそのために、自ら進んで我が身を“売る”ことを肯ずること…。
それは、誇りと自由を欲する欲望との、狂おしいほどの鬩ぎあいであり、戦いなのだ、と…。
長い長い沈黙であったろう。
その後に、少年は、唇を噛み締めてこう、告げた。
「…お、れは…自分で、自由になる…!」
自由になって、そして、我が手でおまえをおれのものにしてやる。
女には、今度は明確に伝わったことだろう。
鎖を断ち切った男…戦士としての力を備えた姿を少年は夢想し、その男から愛欲のすべてを注ぐ相手としての姿を今、求められているということを…。
それは、女の持つ美に、間違いなく少年が肉欲というもの覚えさせられているということだった。
■アラミル > 「ふふ……」
女が笑む姿は、悪魔のようなもの。
人がどうなろうと、関係なく。自分の欲望を果たす。
そんな心の奥底の独善を露にする笑みだ。
葛藤する姿もまた淫魔としては美味しい感情。
喧騒の側から、彼女は笑いかける。
「そ。…お金、使う先が無かったから。
それなら、ヴォルフに使ってもいいかな、と思っただけ
ヴォルフがそうしたいなら、別にこだわるつもりは、ない」
ほんの少し。
自分の能力を解放する。
娼館勤めで、多少はコントロールできるようになった瘴気。
効くかは少年の耐性次第だが…僅かに、少年が彼女に感じている欲望を助長させるもの。
「ここって、死ぬこともあるんだって、ね。自由になるまで、死なないように…ね」
喉を軽く鳴らして笑い…期待を少年に向けよう。
■ヴォルフ > 女が注いだ甘く芳醇な毒は、確かに少年の胸の奥底へと染みていった。
常から鋭い、狼を思わせる瞳。少年のその瞳が、宵闇の中ですら底光りする眼光を帯びてゆく。
「…死ぬものか」
おまえを、おれのものにするまで。その言葉を、少年は口にはしなかった。けれど、口にせぬその言葉を、女が全て聞き取るように汲み取っていることもまた、少年は不思議と理解してもいた。
悪魔のような、微笑む姿。その姿を、欲してしまったのだ。
欲しいと、そう思ってしまった。
ぶるりと、身体が震えたのは、慣れぬ肉欲を持て余したためか。
否、それは武者震いだ。渇望する自由に、銀髪の女の姿が重ねられた。なんとしても手に入れてやると、少年は血の滲む包帯を巻いた身体を再び起こした。
そして、振り返り女を見つめることなく、闘奴達の眠る宿舎へと消えてゆく…。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からヴォルフさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からアラミルさんが去りました。
ご案内:「アケローン闘技場 闘奴鍛錬場」にヴォルフさんが現れました。
■ヴォルフ > 闘技場に隣接する鍛錬場。夜も更け日付も変わる時刻も近い刻限であるにも関わらず、激しく人の動く気配が届けられる。
木製の剣。グラディウスと呼ばれる剣を模したそれに、いくつもの重りが課せられている。
それを、まだ少年の域を出ない剣闘士が、ただひたすらに振るう気配だ。
振り被り、振り下ろす。
右から左に斬り払う。
左から右に斬り払う。
剣を引き、突き込み、引き戻す。
基本中の基本。ただ愚直に少年は、その基本のかたちを繰り返す。
しかしそこに惰性は無い。全力で振るい、全力で止める。
その動作一つ一つに少年の筋肉が躍動し、篝火に光る汗が玉と散る…。
鉄格子の塀を挟んで反対側は、繁華な港湾都市の眩く光る街。
塀一つ隔てたその空間で、篝火の火灯りと熱に煽られながら、少年はまだ完治せぬ身体を責めるように鍛え続ける…。