2019/07/31 のログ
■クレス・ローベルク > ――試合が始まる
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からクレス・ローベルクさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にクレス・ローベルクさんが現れました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にハーティリアさんが現れました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にクレス・ローベルクさんが現れました。
■ハーティリア > まるで剣舞に合わせて舞うように、ワルツのステップを刻み、剣の軌道をすりぬけるように柔らかな体がうねる。
踊る物に戦いをくぐり抜ける素早さと鋭さを与える「熱砂のワルツ」を舞い踊り、ひらりと…はだけそうなローブは扇情的に肌を時折合間からさらし…隙を見つけて魔術を放った…と思ったが、その合間に剣が割り込んで鎖に術式が触れないまま、叩きつけられた金属製の箒に、剣があっけなく砕け散る。
じゃらりと…己の腕を這う鎖が…バリン、と何かを砕く手応えに。
「ぬぁっ…あああぁぁぁ!俺の魔術刻印…!」
入れ墨のように腕に刻んでいた、特定の魔術の詠唱を省略するための刻印…腕に刻まれていたそれは、流星を呼び落とすためのそれ。
しかし、絡みついた鎖を…ギュッ、と掴めば…一つ、彼の勘違いを正しておこう。この魔王は「接近戦で威力を出すのに都合が良いから魔力で自分を操作してた」だけで、「屍体を常に魔力で動かしている」わけではない。ゾンビが魔術で動いているわけではないのと、理屈は割と一緒である。しかし……自分が「リッチに成る」のに魔術を経由しているのは確かで…この場合、すでに「転化」という結果をもって発動を終えているものを破壊できるか…という話になるのだが。
「体に刻んだ魔術までぶち壊すって、反則だろくそ…このぉっ!」
半ば自棄混じりに、グイィィッ!と鎖を手繰り寄せてやろう。華奢な見た目だが、異形の腕力は、ミノタウロスにもひけを取らない勢いで。
「俺の動きを鈍らせたきゃ、聖女か聖騎士連れてくるんだなぁ!……『銀幕の舞台は私のために』!」
鎖を引きながら、歌うような詠唱と共にダンッ!と石畳を叩く足から…冷気がほとばしり、舞台がみるみる凍りつきはじめて。
■クレス・ローベルク > 「手応え……!」
あった、と思ったが、しかしそれは彼女の身体を阻害するものではなかった。
そう、男は勘違いしていた――もとより、男は魔術に詳しい訳ではない。
彼女に流れる魔力と、それが作用している様子から『効果』と『程度』が解るだけ。
『原理』や『法則』の段階の知識もあるが、それは魔術師に勝る物ではない。
そして、鎖は魔力は破壊できるが、魔力が効果を及ぼした"後"までは干渉できない。よって、ハーティリアの身体の自由は、殆ど損なわれない――
「っ!」
故に、男は素早く後ろに下がる。
自分が"何"を砕いたかは解らないが、今となってはこの近接距離は危険過ぎる。
だが、勘違いと言うなら、彼女、或いは彼もまた勘違いをしていた。
「残念だったね!その鎖は、単に魔術空間から"召還"されているだけ……俺のローブに繋がってる訳じゃない!召還の起点が俺のローブの裾から設定されているだけで、ローブの一部って訳じゃないんだよ!」
部屋の内側からはみ出ている鎖をドア越しに引っ張っても、ドアそのものが引っ張られたりはしないのと原理は同じ。
故に、手繰らせられた鎖は、そのまま余剰分が文字通り手繰り寄せられるだけで終わる。
だが、
「っ、くそっ!」
男の表情は全く芳しくなかった。
迸る冷気が、闘技場全体を覆い尽くし始めたからだ。
男のローブには、耐熱・耐冷機能もあるにはあるが――それはあくまで"環境"に対応する為のもの。
魔王が顕現する冷気の程に、対応できるかは極めて怪しい。
そして、鎖は触れた魔力は破壊できるが、それだけに過ぎない。
広範囲に冷気をばら撒かれれば、その影響は雀の涙だ。
「だが、それで舞台を奪えると思うなよ!?」
わざわざ石畳を叩いたということは、つまり魔力の起点は足だ。
ならば、それを狙い撃つだけ。
握られている右の鎖の代わりに、未だ使っていない左の鎖で、足元を薙ぎ払う。
もとより、威力は度外視。避けようと跳躍しても、軌道を変えて強引に当てるつもりだ。
■ハーティリア > 「ぐぬ…ぅっ、なら…次の手!」
てっきり引っ張れると思っていた腕力で空振り、蹈鞴を踏むが…十分に腕に絡みついた鎖を今更解くのも難しい…鎖が絡む前なら、幻術で惑わすのも視野に入れたが、魔力に敏感な男に、この鎖が絡みついたままの自分を隠すのも難しいだろう。
『影は我が下僕 影は我が領域なれば 我のみに影の扉が開く…シャドウ・ドア』
ジャラジャラジャラッ!と鎖が繋がっていないのを良いことに勢いよく、全て引き出す勢いで巻き取り、巻き上げた腕ごと…自分の影にとぷん、と押し込み、沈み込む…だろうか?
「さて、俺の影の中は『俺だけの空間』…俺の許可なく入れないし、俺の許可なしに出ることも許されない…はずなんだが、生憎他人の召喚物を突っ込んだ記憶がなくてねぇ、どうなるかはご愛嬌、だ。」
すくなくとも空気もなにもない空間なので、まともな生物は入れた瞬間に窒息死するが、召喚された鎖というのは生憎記憶にないのだ。影の空間に突っ込んだ瞬間、「亜空間を作っている魔術が破壊される」可能性もまあ、あるが…それはそれで、魔術が破壊された瞬間、亜空間ごと鎖がどっかに消し飛ばないかなぁ、とかいう打算もあり…まあ、その場合、鎖が巻き付いた自分の腕も一緒に消し飛ぶが、そこはまあ…必要経費だろう。一番最悪なのは、影に触れた時点で魔術が壊れて、そもそも影に手を入れられない場合だ、手を影にぐいぐい押し付けてるだけとか、ひたすらかっこ悪いことこの上ない。
どうなるかはやはり、好奇心故か。
「う~、手加減『させられてる』って感じがすげぇ、歯がゆいなぁ…っと!」
見立ての良さと、己のあれこれを封じる手際の良さは、まさに狩人…多分、キレて会場を吹き飛ばすような大規模魔法使うとかすればまた別なのだろうが、それはそれで負けだ。
「お……っと!」
思考に耽る余裕すらなく、足を薙ぎ払うように迫るもう一本の鎖…影に突っ込んだ手から「自分以外の出入り」を禁じて、手を引き抜こうとしながら、タンッ!と飛ぶ…さぁ、己の左手は、未だに健在だろうか……?
まあ、消し飛んでても別に痛むわけではないのでケロリとしているが。
■クレス・ローベルク > 「げっ、そうきたか!?」
鎖はある程度自由に動かせるものの、その力自体は――オークやゴブリンなどの力ある異種族を縛り上げたり殴りつけたりするには十分過ぎるほどの力ではあるが――決して魔王に張り合えるものではない。
あっけなく全てを引き出され、影に突っ込まれる。
だが、
「残念ながら、亜空間なんて魔力そのものの空間、破壊できない訳がない程度の絶対性はあるんだよね……!」
彼女にとっては残念なことに、影そのものも"魔術"なので破壊はされるが――しかし、鎖を一本失ってしまった。
幸い、男は一つを除いて魔術を使えないのでまだマシだが、しかし状況は悪くなっていく一方だ。
それは、相手の持つ魔力や膂力もあるが、ソレ以上に、
「クッソ、長生きしてんだから、少しぐらい脳みそ固くなってろよ……!」
相手の対応力がこちら以上――否、此処が"上"だと認めてしまえば、事実上の敗北宣言になるので、"同等"としておくべきだが、とにかくそれが異常なのだ。
相手の動きに対し、"対応"して勝つというのは、本来はこちらのスタイルの筈なのだが……それを逆しまにやられてしまっている。
「(だけど、先手を打たない訳にはいかない、か!)」
相手が後ろに跳ぶのを、こちらは追撃する――とにかく、この冷気を何とかしないとどうなるかも解らない。
あえて足そのものを追うのではなく、着地地点に蛇の様に鎖を這わせ、足を絡め取ろうとする。
そして、その間に、
「……」
自分自身はハーティリアに流れる魔力を観察する。
相手が鎖に手間取っている間に、『効果』ではなく、『原理』の段階に理解を推し進める。
幸い、男にはもう一枚の切り札がある。
たった一枚、切れば終わりの切り札――その使い所を慎重に見定めるために。