2019/07/12 のログ
■クレス・ローベルク > 「むっ……!」
早い。
速度もだが、何より、許可を出してからの即応が見事だ。
だが、それぐらいは当然、想定してある。
元々、"相手が一番先に攻撃する試合"については、誰よりも経験があるのだ。
「ふっ……!」
敢えて足を動かさず、上半身を傾けるだけで、首への一撃を躱す。
ならばと相手は一歩踏み込んで来たが、こちらは相手の動きに合わせ、道を譲るように半身になり、相手の身体に身を寄せる。
そこは、お互い剣を振っても当たらぬ距離である。
「剣術のほどは解ったが、体術はどうかな?」
故に、男は剣を振らず、そのまま膝蹴りで相手の腹を狙う。
当たれば悶絶必死と言えるが、果たして。
■ナカム > 敵に先手を取られる戦いに慣れている。
一度の攻撃で悟ったのはソレだった。
追撃しようと踏み込むも、円を描くように流麗に、懐に潜り込まれる。
「チィッ!!」
自慢の剣術が意味をなさない距離。
文字通りゼロ距離からの攻撃が迫り、腹部に強烈な一撃を貰うだろうか。
それでも只受けた訳ではない。
「痛っいなぁ!!おい!」
込み上がってくる吐き気を抑え、頭突きを繰り出してくる。
同じくゼロ距離からの、泥臭い喧嘩殺法。
しかし命中すれば距離は離れ、また剣の間合いになることだろう。
■クレス・ローベルク > 「ぐえっ!」
こちらがそうした様に、あちらもまた、素早く喧嘩殺法を繰り出してきた。
ふらつく様に二歩後退し、再び間合いは剣のものに。
「一瞬視界が二重にブレたぞ……!どんだけ硬い頭してんだ!」
そう言いながら、今度は男の方が剣を構えて相手に踏み込む。
左足で一歩を踏み込んでからの、右足で踏み込む突き。
左右に避ければ、それに合わせて薙ぎ払う斬撃のおまけ付きだ。
■ナカム > 「うえぇぇ…。気持ち悪い。そんでもって容赦がない…!」
腹にくらった蹴りが効いているのか、顔をしかめながつつ。
しかし剣の突き込みは半身をずらして回避する。
薙ぎ払いの一閃は自身の剣で受け、水を斬ったかのように威力を逸らす。
他にも何度か追撃を受けるかもしれないが、尽くを受け流していく。
そのまま距離を取らなければ、外套を目隠しに死角から剣を突き込むだろう。
■クレス・ローベルク > 突きこまれた剣は、ほぼ予想通り回避された。
ならばと予め決めていた通り、回避された突きを斬撃に変換。
しかし、今度はそれを受けられる――それも、鍔迫り合いすら許さぬ、完全な受け流しで、だ。
「――くそっ!普通に強いなこいつ!?」
強い、というのは控え目な表現だ。
実際は、"相当に強い"或いは、"勝てないかもしれないぐらいに強い"と言った所だ。
何せ、こちらは相手の身体の至近距離から斬撃したのだ。
突きが斬撃に変わるまで、3秒も無かったはずだ。
それを、こうも簡単に受け流すとは、
「軽いノリはフェイクか三味線野郎……!」
あちらは、外套で隠すように突きの構えを取った。
嫌な構えだ。剣の軌道が解らない状態での防御は、そうでないときより遥かに難しいのだ。
だが、回避の手段はある。
「……!」
見るべきは、相手の目だ。
"突き"である以上、点での攻撃――つまり、どうしたって相手は、攻撃すべき箇所を選ぶ必要がある。
そして、人は通常、"選んだ"場所に視線を置く癖がある。
ならば、それを盗めば回避可能。
「(だといいんだけどな……!)」
とはいえ、あくまでこれは先の理屈が通じる相手の話だ。
果たして、"この強敵"に通じるかどうか、確率としては半々と言ったところか。
■ナカム > 「………ふっ!」
人体が最も避けずらい攻撃は、重心を狙った攻撃である。
重心を咄嗟にずらすことは難しく、できても明確な隙が生まれる。
その重心を狙った一撃だったのだが。
「こ、これを避けるのかよ…。さては読んでやがったな?」
どうやら攻撃時の【何か】で先読みされたらしい。
問題はどうして先読みされたかだが、考えても答えは見えてこない。
付け加えると吐き気がそろそろヤバい。多分あと数合で吐く。
だから、隙を見せる前に斬ることにした。
「うっぷ…。早く負けてくれぇ、よ……!」
突きを繰り出した姿勢から反転、左脚での回し蹴り。
それを避けられたならば、頭に剣を振り下ろし気絶させようと。
■クレス・ローベルク > よりにもよって正中線を狙って来たと知った時には、苦笑いしか出てこなかった。
読めていて尚、咄嗟の受けは殆どギリギリだったのだ。
剣を横に寝かせて、剣の腹を盾にして受け止めなければ、腹に一撃食らって悶絶していただろう。
「悪いけど、サシ勝負なら間違いなくこっちが経験上だからね……!」
しかし、こちらはこちらで不味い。
剣を横に寝かせてしまったせいで、攻撃姿勢を取るのが一瞬遅れたのだ。
左足での回し蹴りは、一歩を後ろに下がって避けたが、
「――やっべ」
後ろに一歩下がったのが良くなかった。
足が前後に開いた姿勢は、前後ろの移動には向くが、左右の即応には向かない。
こちらの移動可能な範囲をまるごと叩き潰す様な、振り下ろしの軌道を回避する術はない――!
「くそっ!」
男が選択したのは、簡単なダメージコントロールだった。
攻撃に使用する右は絶対に譲れない。
ならば、残るのは――
「左肩……!」
ごきり、という重い物を砕いたような鈍い音。
受けに使用した左肩の骨が、折れる音だ。
だが、そこで男は止まらない。
「ぐ……おおおおおおお!」
痛みすら自分を興奮させる麻薬と変えて。
男の腹を、思い切り蹴り飛ばす。
■ナカム > 骨を折ったという確信があった。
鈍い感触と共に剣を押し込みニヤリと笑う。
真剣を使っていれば肩から二つに分かれていたことだろう。
しかしここで油断をした。油断を、してしまった。
「グベラッ!?」
腹に一撃、貰ってしまう。
普段の青年ならば、すぐにでも反撃する苦し紛れの一撃。
しかしながら今回は場所が不味かった。
「ぐ…!おぇ…!」
持っていた直剣を投げ出し、ついでに腹の中身も吐き出す。
先程まで有利に戦っていたことなど、観客の頭から消すかのように、吐く。
やがて一旦吐き気が収まると。
「………ごめん、ギブ」
そう言って壁際で悶絶している姿を見せるだろうか。
■クレス・ローベルク > 「……!」
蹴りを引き戻し、男は素早く構える。
幾ら相手が鎧などを着ていないとは言え、蹴りだけで決着がつくとは思えない。
左手は最早使えない、故に右手で手刀を構え、ナカムの反撃を――
「うん?」
受けようと思った所で、何かがおかしいと気付く。
見れば、自分の獲物を引き戻し、何やら体調が悪そうな顔をしている。
というか、よく見れば顔色が悪い。
そして、数秒後、まさかのリバース。
「う、うわあああああ!?!?!?!?」
自分の三倍の身長の大きさの巨人と戦った時でさえ出さなかった様な声を上げ、大急ぎで後ろに下がる。
左手が使えないのが災いして、途中でどちゃあとこけた。
幸い、服にはつかなかったが、直後に敗北宣言がなされ、
「あ、はい。……その、何か、ごめんね?」
と仰向けのまま、それを受けてしまった。
なんとも閉まらない、試合の終わりであった。
■ナカム > 「ぢ、ぐ、じょ、う。飯を全部吐いちまった…」
口を手で押さえてボソッと呟く。
金を稼ぎに来たのに結局損をしてしまったらしい。
そのことに肩を落としつつ。
「いえいえ……。こちらこそ吐いちまってすいません」
そう言って礼をする。
白熱した武と武のぶつかり合いが、ただの嘔吐ショーになってしまったことに謝罪しつつ、その場を後にするだろうか。
その後青年に罰が降り、悲鳴が響いたのは別の話。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からクレス・ローベルクさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からナカムさんが去りました。