2019/02/09 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にクレス・ローベルクさんが現れました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にロザリンドさんが現れました。
ロザリンド > 「手負いと思って侮らないでくださいまし」

飛び降りたのは武器を保管していたと思われる場所。
柵を剥ぎ取った衝撃で地面に散らばっている投擲槍の近くに落下の勢いを乗せた震脚を放つと
衝撃で宙に浮いた数本を空中でつかみ、そのまま横薙ぎに投げつける。
弾かれても観客の方へと飛んでいかないよう少しだけ上を狙う。
そもそも人を庇う必要などみじんもないのだが
巻き込まれないように守ってしまうのは生来の気質。
……とは言え流石に弾かれた流れ弾までは保証できない。
化け物みたいな強さを誇る他魔族とは自分は違うのだから。

「流れ弾にはご注意あそばせ!」

大声で周辺の客へと告げると残りを牽制で投擲。
先に投げたものが壁に突き刺さるも近くの観客は避難する気配を見せない。
『派手になってきた!』『ひゃっはぁ闘技場は地獄だぜぇ』
むしろ立体移動と特殊武器まで出てきた事で盛り上がっている客まで居る始末。
……やっぱり人って頭が少しおかしい。
そのまま追撃の一撃を入れようと身を沈めて駆け出そうとして……

「……は?」

だからこそ余計に唐突な提案に少々間の抜けた声を上げる。
せっかくここまで策を組み、追い詰めたというのに自分から停戦の提案?
わざわざここまで罠に追い込んで?
魔族狩りの罠にまぬけにも誘いこまれたと勘違いしている女は
突きつけた武器を引きながら戸惑ったような表情を浮かべた。

「……理解できません。
 お馬鹿な世間知らずをここまで追い込んで、挙句停戦の提案ですか?
 素直にねじ伏せられるつもりはございませんが既に大勢は見えております。
 貴方様にメリットがあるようには思えないのですが」

何度か叩き付けられ罅の入った大剣の切っ先をゆっくりと地面に降ろす。
後いくらか叩き付ければこの武器も砕けるだろう。

クレス・ローベルク > 「いや、メリットとかそういうんじゃないんだよ。
ぶっちゃけ、この試合をこのまま続けたら俺が首を切られるレベルでデメリットがでかいんだよこの試合……!」

先程は、相手の調子を乱すために敢えてあっけらかんと言ったが。
しかし、冷静に考えると、今非常に不味いのは自分の立場である。

「(っていうか、観客達も何喜んでるんだよ!逃げろよ!)」

周囲の観客の反応を見ると、何だか客の身を慮っているこっちが阿呆らしくなってくるが。
しかし、こちらは"闘技場の人間"なのだ。
寧ろ、客が熱中している時ほど、こちらは頭を冷やして安全リスクを考えねばならない。

「うん、あのね?君が何でさっきからそんなヒートアップしてるか解んないけどさ……
これ、"興行"試合だからね?殺し合いじゃなくてさ。
選手ですら人死にが出るとそれなりに問題になるのに、観客に被害が出たら、闘技場の偉い人達、泣くからね?
っていうか既に壊された備品と柵だけでも結構シャレにならない金額が」

流石に屋台骨が揺らぐ程ではないにせよ、痛手ではあるだろう。
特に、柵が壊されればそれが修理されるまで、試合場は使えないだろうし、支出と収入の両面で痛手なのは間違いない。
とまあ、これまでは闘技場の理屈ばかりを言っていたが。
後一つ、個人的に言っておくことがある。

「それとさあ。
何で君が此処に来たのかは知らないけど、今は試合中で、君の相手は俺なんだよ。
なのに、君、さっきから別の事ばっか考えてるでしょ。そういうの、気に入らないんだよね。……俺に集中してよ。試合の時ぐらい」

さっきから、ロザリンドの言うことは何一つ男には解っていなかった。
発言の内容から、彼女が何者かに嵌められた、と感じているのは確かだが、当方にそんなつもりは一切ないのだ。
憎まれるのは慣れているが、試合外の事を、試合場に持ち出されるのは面白くない。

「そんな訳で、試合を続けるなら、これからは場外乱闘なし。
それが呑めないなら、俺はさっさと試合放棄するよ。
俺は剣闘士[グラディエーター]であって――魔族殺し[デモンスレイヤー]でも、戦士[ウォリアー]でもないんだから」

そう言い切り、彼女の返答を待つ。

ロザリンド > 「……此処で何が起きようと責任を持たないというのがこの場なのでは?
 ましてや貴方様もまたわたくしと同じく消耗品。
 何か損失があればそれは興行主の想定不足。
 ましてやこのような場で、縛りの無い私共を相手に
 場に被害がないなどと本気で考えられていたのですか?」
 
此処は勝負の場ではなく、見世物小屋。
決闘の場ではなく、他者の心をへし折る場であり
それを見て血を湧き立たせる愚か者たちの動物園。
誇りも命も大衆の娯楽の為に浪費する三文芝居であり
修理費など、ましてや人の命など気にもかけないような場所。
そう結論付けたというのに……

「……やはり人は理解できません」

浪費されているのは眼前の彼とて同じはずだ。
思った以上に自分が強かった場合、彼は命を落とす可能性が高い。
それでもそれは観衆の娯楽に過ぎない。まるで使い捨ての玩具の如く。

「馘以前に命を落とす可能性も十分にあるとわかっていて
 それで、なぜ他者の事情まで慮るのですか」

けれど、そんな舞台の真ん中で自分を見て欲しいなど……
まるで真摯に決闘に臨む騎士のようではないかと思う。
眼前の剣闘士の真っすぐな言葉と視線は胸を射抜くような力があった。

「この戦いに誇り等というものはない。
 これは如何に相手を弄るかという類の見世物だと考えておりましたが……
 貴方様は貴方様なりに誇りをもって戦われているのですね」

手に持った大剣を手放す。
がらんと大きな音を立てて地面に転がるそれを一瞥すると
はぁと一つため息をついて、ゆっくりと片足を引く。
同時にここまで怒っていた理由にも思い至り苦笑を漏らした。
全く何もかも自分らしくない。

「……馬鹿なお人ですね。貴方は、本当に」

きっと本気で戦っているのは自分だけだったと苛立たしかったのだ。
正面からぶつかることが馬鹿みたいだと言われたような気がして。
それこそ揶揄われて頬を膨らます小娘のように。
だからこそ、先に相手が口にした言葉が理解できる。
目の前の彼も、きっと同じくらい腹立たしかったのだろう。

「――参ります」

ふぅ、と息を吐き先程までの激情が嘘であったかのように凪いだ雰囲気を漂わせ、
半身で構えると共に神経の隅々まで意識を行きわたらせる。
あれだけ暴れまわったのだから体力はかなり消費している。
加えて恐らく何度か打ち込まれた薬の影響だろう。
背筋をひっかく様な感覚が体中に走っていて集中を乱すと共に体力を奪う。
並の魔族なら兎も角、自分では最早限界に近い。
勝つにしろ負けるにしろ、此処で勝負を終わらせるつもりで静かにその機を伺う。