2019/01/30 のログ
ロザリンド > 「……」

投げかけられる問いにそれは何も答えない。
まるで動力が切れたかのように俯き、
座り込んだままの肩が細かく震えている。
それはまるで恐怖に震えているようにも見えた。

「……は」

此処までを見るなら結果として彼女は常に翻弄されている。
それに薬剤投与を行う戦法はそう秘密のやり方でもない。
心が折れたのだろうかと囁く声が観客から漏れはじめ、
続く醜態と痴態を期待するざわめきが膨れていく最中、
その震えはだんだんと大きな物となっていく。

「……はぁ」

ぴたりとその震えが止まると同時に嬌声に似たため息が漏れた。
ゆっくりと見上げた女の顔は情感に上気し、
何処か浮かれたような瞳をしていた。

「ええ、認めます。これはわたくしが完全に負けで”あった”と」

文面だけで言えば降伏とも取れるような発言をしながら
それはゆらりと立ち上がる。
薬の影響が出ている事は自分でも自覚はしているが
それでも笑いが零れる事を抑えられない。

「ええ、馬鹿な事を。
 わたくし如きが連戦の闘士とやり合って
 まともにやり合えるなど思い上がりも甚だしい……ええ」

膝元の土を払い、僅かに乱れた服を治す。
そして紅く煌々と輝く瞳で土に汚れた自らの手と
眼前の男をゆっくりと観察すると笑った。

「ギブアップ?わたくしが、逃げると?
 このわたくしが?御冗談を。」

指先は軽く震えている。このまま進めばどうなるかは理解している。
生きている経験が長い分、それらについて知識がないとは言わない。
むしろ自分主体であればいくばくか経験がある。
とは言えこれでも名家の出身。……守るべき一線というものがある。
無理やり事に至ろうとする者はそう多くもなかった。
此処まであからさまなセクハラも久し振りである。
故に

「覚悟はよろしいですか」

かなり、プッツンしていた。
その瞳に浮かぶのは愉悦と、情欲、そして怒り。

クレス・ローベルク > あ、ヤベ。と、男は正直思った。
これ、見覚えがあるやつ、と。
前にも、薬を投与した時、"そういう"反応を返した者が居た。
圧倒的不利を知りながら、笑い、自らの全能を以て、挑んできたものが。
その時は――

「……クソ」

思い出したくもない記憶だ。
故に、男は眼の前の女性に注目する。
武装は剥いだ。注入した薬品の効果は、見る限り継続中。
冷静に分析する限りに置いて、こちらが絶対に有利である。
が。

「……」

無言で先程捨てた剣を拾い両手で構え、すり足でゆっくりと近づいていく。
油断は既に無い。勿論、セクハラで倒すという基本方針は捨てていない。それは、剣闘士として観客と結んだ、無言の約束である。
しかし、そうであっても、両手でしっかりと武器を保持しなければならないと、男に思わせるだけの気迫が彼女にはあった。というか、顔を赤くしながら剣呑な笑みを浮かべる美人って普通に怖い。

「"ええい!どっからでもかかってこい"、だ!」

そう言って、男は彼女の動きを待つ。

ロザリンド > 何処まで行っても油断というものはぬぐえないもので、
彼女の理論では完全に敗北したといっても過言ではない。
本来であればここで敗者として罰を受けるというのも甘んじて受けたかもしれない。
けれど今は投薬された影響か、いつも以上に感情の激化が激しい。
つまりは……プライドと我儘が礼節やらその他もろもろを凌駕した。
完全にハイに感情と感覚が振り切っていて
それは普段であれば決して行わないような戦法すら取らせる。
大事に抱えていた本をゆっくりと宙へと投げ上げる。
手放した本はゆっくりと舞い、ジワリと溶けるように空中に消えていった。
……彼女は自ら本を手放した。

「これで」

それを満足げに眺めると同時に軽く片足を引き、半身で構える。
すうっと息を吸い込む。ああ、随分と気分がイイ。

「利き腕が使えますわ!」

哄笑を上げながら地面を殴りつけた。
闘技場の半ば近くまで届くほどの亀裂を作り、砂塵を舞い上げる。
同時に地面にめり込んだ腕を引き抜き岩を投てき。
投げられた岩は土煙を裂くように飛んでいく。
その岩の陰に隠れるように胸元から引き抜いた長針も投げつける。
おまけと言わんばかりに自身も容赦なくその追撃に笑いながら飛び込んで行く。

クレス・ローベルク > 自ら本を手放すロザリンド。
それを見て、男の警戒は最大限に高まった。
そういえばさっきから肌身離さず持っていた、アレは何だ?何らかの封印か?それともアレを媒体に何かを召喚するのか?
彼女の反応を伺う彼の耳を、晴れがましささえ感じる彼女の声が打つ。

『これで』

これで?何だ?何をやらかしてくるんだ?

『利き腕が使えますわ!』

え、あ、はい。

「って言ってる場合じゃねええええええ!?」

メイドさんが地面をぶん殴ったら地面に亀裂が走って土煙が上がった。
何を言っているのか解らないだろうが、自分の方がもっと解らない。
しかし、理解はできなくとも身体は目の前の危機に正直に動いた。
投擲された岩を、とっさにステップすることで回避する。
しかし、

「ぐっ!何だこれ、針か……!?」

土煙に紛れるように放たれた針が脚に直撃し、一瞬苦悶の表情を浮かべる。
毒なんか塗ってないだろうな、と思うのもつかの間、ロザリンド自体も突貫してくる。

「くっ……!」

先に針が直撃したのに気を取られた分、反応が遅い。
慌てて剣を構えて防御態勢を取るが、間に合うかどうか――

ロザリンド > 放たれた矢のような勢いそのままに拳を突き出す。
胴体を狙うように見せかけて実際の狙いは腕の骨。
大地を砕く様な威力のモノであれば掠るだけでも十分持って行ける。
少しずつでも確実に、肉を削ぎ、骨を砕き、
相手を仕留めんという決意のもと、種としてのスペックを存分に活かし
目の前の男へと叩き付ける。

「ごめんあそばせ!」

今までは決闘などで勝負をつけるためのような
貴族めいた良くも悪くも型通りの武芸だったが
今振るっているのは対象を効率よく”壊す”為のモノ。
同じ地平に堕ちてしまえばそれ以上を躊躇しない。

「そこっ」

そこにさらに追撃を放つ。
爪先で地面に線を描く様な低い回し蹴りで狙うのは、鎖で砕き、針が被弾した足。
あろうことか突き刺さった針を斜めに蹴り抜く様にその足が最短距離で振り抜かれる。
被弾すれば足の筋肉を斜めに裂かれる事になる。
その痛みは凄まじいものとなる。
それが非道と分かっていても、ハイになっている彼女は止まらない。
……だってこんなに気持ちが良いんですもの。

クレス・ローベルク > まるで、槍の達人が放つ穿撃の様な拳。
普通の人間なら、此処で防御してしまうだろう。
だが、幸いな事に、男には実戦経験があり、またこういう時の為の訓練も豊富に積んでいる。

「(――鬼種などの人間から外れたレベルの筋力を持つ種族にとって、命中した部位は重要ではない。一部でも破壊すれば、その戦力的有利を活かして勝利できるからだ。故に、そういう相手には、多少オーバーでも攻撃は"避ける"事)」

実家で実戦付きで叩き込まれた知恵は、男に強引な回避を選択させた。
膝の力を抜いて、脱力する形で座り込んだのだ。
そして、姿勢が後ろに流れるのを利用して、後転で蹴りを回避する。
針が刺さった脚に負荷を与えないように、左足の着地は足の裏ではなくて膝。立膝をついた状態で、男は女に相対する。

「やれやれ、全く。やっぱり嫌な予感ってのは当たるもんだ」

そう言うと、男は再び、胡座をかく。
ついさっきと同じ構図が、再び現れる。
それは、おちょくっているようでも、なにか策があるようでもあり、

「とはいえ、精々最後まで抵抗させて貰うさ。もう脚も限界だけど――さあ、攻撃をどうぞ?できるものなら、ね」

ロザリンド > 何方も相手を再起不能にさせる事を狙った一撃ではあったが
その何方も躱され眉を顰める。
元々あまり全力で戦う事は得意ではない。

「ああもぅ……ウロチョロと……」

魔族にしては致命的に体力が無いのだ。
普段は技術でロスを限りなく減らして誤魔化しているにすぎない。
日常生活なら問題ないが今は息がかなり上がっている。
鋭敏になった感覚のせいで体中が服に擽られているような感覚すらする。
明らかに体力を過剰に消耗している。

「はー…はー…♡」

運動で乱れているのか、快感に押し上げられているのか、それすら定かではない。
一撃さえ当たればと思うものの、他魔族と違いその一撃を当てる為の時間が短すぎる。
だからこそ。

「……お覚悟、くださいまし」

跳んだのは男の方角ではなく真逆。
闘技場の壁際までたどり着くとそのまま駆け上がり、柵を掴むと座席から力任せに引き剥がし
両手で抱えた巨大なそれを壁から蹴り離れる反動を利用して

「無事では済みませんよ!」

胡坐を組んでいる男目がけて投げるように叩き付ける。

クレス・ローベルク > ロザリンドが引っ剥がした柵の周辺の観客達は、まるで蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
それを見て、男は笑った。
それは、何か企みが上手く行った時、人がよくやる、ある意味では魔族以上に邪悪な笑みだった。
男は、柵を投げつけられるのを、まるで他人事のように眺めて居た。

「ああ、無事で済まないぐらいが丁度良いんだ、この場合はね。
無事で済んでもらっては困るんだ。本当に困るんだよ」

そして。柵が。
魔族の力によってぶん投げられた、普通の人間ならば確実に重傷を追わせるだけの運動エネルギーを持って投げつけられたその柵が。

「――コイツを使うっていうのは、そういう事なんだからね」

金属音と共に、何かに掴まれた。
それは、鎖だった。
男が着ている、ローブの袖から出てきている鎖だった。
ロザリンドが闘技場の壁際に行くために背を向けた際に、実況席から投げつけられたローブの袖から出ている鎖だった。

「こいつはね、謂わば非常用装備さ」

くるり、と見せびらかすように回ってみせて、男は言う。

「もともとは、俺の実家からパチって来たんだけど、あんまりにも身も蓋もなく強力すぎてね。"余りにも危険なモンスターや魔族が現れた時に限って投げ入れてくれるよう、闘技場側にお願いしているもの"なんだよ」

だから、今まで使えなかった。
ロザリンドが礼儀正しく、闘技場の流儀に則って戦っている限り。
闘技場の物を過度に破壊したり、こちらに致死級のダメージを与えようとしない限り、
この武装が、表に出ることは無かったのだ。

「さあ、それじゃあ覚悟してもらおうか」

そう言うと、柵を放り投げた鎖――右袖から三本、左袖から三本の計六本が、ロザリンドの四肢を絡め取ろうと、襲いかかる。
嘗て、数々の魔物を縛った、英雄の鎖が――

ロザリンド > 「……なるほど、分かりやすい劇ですわ」

殺到する鎖の間を縫うように半身でそれをすり抜ける。
一瞬ふら付くも指先で地面をトンっとつつき立ち上がり、

「わたくしはロザリンド。
 アルドウィッチ家のロザリンド」


告げると同時に右手が跳ねた。
それは柵に絡めるように邪魔になる鎖を絡めとりそのまま地面へと叩き込む。
見た限り自分が使うものと似た性質のモノ。
こうして数本拘束したところで鎖撃を止めるには意味がない。
逆に今の所此方は主力も使えず体力も残り乏しいと笑える状況。
それでも……

「魔具を司るアルドウィッチ家の者として
 魔装使いに後れを取るわけにはまいりませんの」

獰猛な笑みを浮かべて柵をむしり取った本命を手に取る。
そこには剣闘士用の無数の武器。
出番を待つ剣闘士達が控えている席であり武器置き場。

「……もう少しだけ、お付き合いいたしますわ」

そう少しだけ笑うと、片手で身の丈ほどの大剣を掴み
迷わず投てきした。

クレス・ローベルク > 「やれやれ、別にこちとら張り合おうなんて気持ちはさらさらないし、何なら使いたくもなかったんだけど――ね!」

鎖は、呆気なく投擲された大剣を掴み、その辺に打ち捨てた。
それは、下手な小細工など効かぬと、ロザリンドに見せつけるような態度だった。
地面に叩き込まれた鎖は、どうやら動けないようだが、しかし男は構わなかった。
もともと、この鎖は、ローブの何処にも繋がっていない。袖の中の亜空間に繋がっている。
位置取りや姿勢を妨害される心配もない。

「それにしても、随分と手ひどく武器を使ってくれるじゃないか。
武器ってのは本来、こうやって使うもんなんだ――よっ!」

右手に剣を提げ、ロザリンドに対して駆け出していく。
ローブの力で筋力や速力も跳ね上がっているらしく、まるで風のようにロザリンドの居る剣闘士席まで飛び上がる。
そして、ロザリンドに対し、一閃。
同時に、左の袖からは、地面への叩き込みから逃れた一本の鎖が、ロザリンドの右手を縛鎖しようとしている。

「さあ、鎖と剣の両方を、何処まで躱せるかなあっ!」

ロザリンド > 「いくらわたくしが世間知らずでも……無理がございますわね」

彼女は普段、剣闘士の戦い方を知らない。
故に、その準備の良さにこれがそういう筋書きで
初めから仕組まれていたことだと判断していた。
故に、この流れもまた、筋書き通りなのだと思っている。

「ああ、あの時点で」

チンピラに絡まれていた時点で自分は罠の上だったのだなと小さく嘆息を零す。
何処から漏れていたのかはわからないが、来るべくして自分はここに来たのだと。
この場は文字通り見世物の為の場だったのだろう。
こうして遠距離で武器を叩きつける事になるのも、きっと。
本当に本気で魔装を振るえない事が残念でならない。

「わたくしが、間違って、おり、ましたわ」

曰く、人とは狡猾で度し難いものだという。
曰く、人とは悪逆で救いがたいものだという。
そもそも物見遊山で人の里など訪れるのが間違いだったのだ。
こみ上げる情感を怒りで噛み殺す様に唇をかむ。

「やはり、人など……!」

安易に信用してはならない。
他の魔族の言う通り。閃いた銀閃を残っていた大剣で受ける。
出力の割に質量が足りないのだろう。二、三歩ほどたたらを踏む様に後退しながら
視界の端で鎖の位置を確認。片手で細剣を拾い上げる。

「それはそちら”次第”ではないでしょうか」

吹き飛ばされる勢いを利用して大剣を盾代わりに叩き落とし
その輪に通す様に細剣で地面に縫い付けながら距離を取る。
いくら勝手知ったる武器とは言え、簡単に捌けるものでもない。
今の状態では何かに触れられるというのは避けたい。
故に一撃離脱もしくは遠距離戦となるが、そのどちらにも相性がいい装備と言える。
本当だったら舌打ちしたいくらいだ。
……武器が何れも粗悪品過ぎる。

「……っ」

息を吸い込むタイミングで体が一瞬痙攣する。
油断をすると布同士が擦れる感覚でも声が零れそうになる。
それをこらえながら再び闘技場へと落下するように飛び降りる。

クレス・ローベルク > 筋力の増強や、速力の増強。
針や鎖によるダメージもある程度アジャストするほど強力な魔装。
性質もロザリンドが所有するアイテムに似ているし、その来歴は魔族殺しの家に由来する。
成程、確かに場面的には、彼女を嵌めようとしていると思われても仕方ない。
……が、残念なことに、そもそも男は、彼女が人間に頼まれて出場しているという前提情報を知らないので、

「いや、本当に使いたくないんだよ!実家嫌いだし!
っていうか、冷静に考えると、君が試合上の上に登って行った時点でリングアウト負けだよね本来!ジャッジー!?」

と残念な言葉が出てくるのみであった。
とはいえ、今更審判がしゃしゃり出ても、「やはり、人など……!」とか言ってるロザリンドが聞くか疑問だし、此処まで来たら逆にやり通さないと、試合としても尻切れトンボだ。

「お客さん!今更だけど、無理に会場に残らないでもいいからね!チケットがあれば再入場は出来るから、騒ぎが収まるまで逃げてくれてもいいからね!?」

鎖が縫い留められてしまった以上、ローブを着ている意味はない。
幸い、ローブは直ぐ脱ぎ捨てられる仕様だ。一応、ローブを脱いで強化魔術の効果が消える前に、脚の針だけ抜いて、地上に降りる。
再び剣を構え、男は女と対峙するが、そこで男は、「ちょっとタンマ」とばかりに、平手で少女を制した。

「うーん……」

そして、数秒間考えた後、

「あのさー、君が良ければ、何だけど」

男は言った。

「試合場、滅茶苦茶になっちゃったし、今日、やめない?」

今までの全てを台無しにするような、発言を。

ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からクレス・ローベルクさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からロザリンドさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > 【待機中です】
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > 【お相手様のご都合が急に悪くなったそうなので、今日は中止です。長時間専有してしまい申し訳ありません】
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からクレス・ローベルクさんが去りました。