2019/01/26 のログ
■クレス・ローベルク > 「……って、その鎖、武器振り回しながらでも使えるのかよ!チートかよ!?」
理解してももう遅い。何せこちらは既に蹴りの動作を行っているのだ。
放たれた前蹴り。それはロザリンドに着弾するすんでのところで、ゴキィ、と嫌な音を立てて叩き落とされた。
「――ッ!」
苦悶の声はあげずとも、その表情だけで、足に大きなダメージを受けた事が解るだろう。
だが、男に休息は許されなかった。寧ろ、痛みを受けたその隙に、軸足を薙ぎ払われ――
「っこの、させるか!」
る前に、そちらの方は片足を上げる事で対処する。
怪我をしている足に重心が乗っかるため痛みは増すが、しかしそんな事を気にしている場合ではない。
当たれば最低でも重症、最悪真っ二つになりかねない凶悪な一撃が、身に差し迫っている。
「うおおお、死、死んでたまるか!俺は命を諦めない!」
挙げた足をロザリンドの方に思いっきり踏み込み、身体を思い切り前傾に、つまりロザリンドの方に傾ける。
槍斧の刃は先端にしかついていない。それでも、胴体に直撃を受ければ、当然ただではすむまい。
故に、男は槍斧を、右の肘を使って下から上にかち上げる。
下から上に弾かれた槍斧は、威力を殺され、
「今だ……!」
左のホルスターから薬物注入器を引き抜き、ロザリンドの腕に薬品を注入しようとする。
勿論、その前に鎖を引っ張って体勢を崩せば、それで終わりになるだろうが……
■ロザリンド > 「基本自律ですがやはり”魔具”ですので」
綻ぶような笑みと共に小さく返答を返す。
魔具はやはり、組み合わせたり戦術に組み込むことで一番効力を発揮する。
使っているようで使われているだけでは勿体ない。
「気絶程度で留めますので
どうかごゆっくりお休みください」
捌きそこね、表情を歪める様子を確認しつつ攻撃の手を緩めない。
自分の戦い方は常に攻め続ける事が最も効力を発揮する。
特に眼前の彼はいなしの技術に長けている。
相手の重い一撃を僅かにずらし、そこを突くことでカウンターに持って行く戦い方は
重く取り回しにくい武器を使う相手に特に有効と言え、
あまり息を継ぐタイミングを与えてはいけない相手。
「お見事にございます」
仕留めるつもりだった一撃を対処された。
さぞかし腕にも負担がかかった事だろうと思うが
それにしてもあの小さな動きだけで軌道を僅かに変え、そこに活路を見出すとは。
やはりこういった場で戦い、そして生き残ってきた猛者という事はある。
ひょうひょうとした態度を取っているが戦い方は効率的な後の先戦法を取り続けている。
……故に、動きを読みやすい瞬間があることも確か。
追いすがる様に深めに放った一閃からバックステップでは逃げられない。
ならば、カウンター型なら尚更飛び込むという選択肢を取る可能性が酷く高い。
「そこ!」
それを足払いと捻りサマーソルトのコンビネーションで狙い撃つ。
あっさりと斧槍から手を放し手元を狙う腕を払いのけながら
地を這い踵で掬い上げるような回し蹴りへと移行。
その後スカートの陰から蹴り上げた足の爪先が顎を狙って弧を描く。
手から離れた斧槍は一瞬で砕け散り細かい破片となってきらきらと輝きながら消えていった。
「失礼いたします!」
蹴り上げの初動で一瞬ガーターベルトにを付けた足が根元近くまで露出するが
戦いにおいて羞恥が介入する要素はない。無いといったらないのです。
体を返す様に後ろに重心を傾け
斜めに体を捻りながら槍撃の勢いが乗った蹴りを放った。
■クレス・ローベルク > 武器を手放してくれたのは正直助かるが、身軽になった分、今度は幾層にも渡る蹴りの乱舞だ。
流石に、いい加減足に来ているのか、足払いが直撃。
ぐえっ、という情けない声と共に、姿勢が前に崩れ、そこに併せて顎狙いの大回転蹴りが飛んでくる。
「させっかあ!?」
幸いだったのは、下から上に掬い上げる形の蹴りであった為、攻撃の初動を視界で捉え、腕で受ける余地があったという事だ。腕をクロスして、その蹴りを受け止める。
蹴りの勢いに押され、男の身体は土煙をあげて後方へと押し戻される。
「クソ、まるでねずみ花火みたいにぐるんぐるん回ってくれおってからに……」
ふぅ、ふぅと息を付きながら、そんな事を呟くが、しかし何時までも待っては貰えまい。
相手の戦法は、只管攻め続けてこちらの消耗を狙うもの。
並の相手ならばカウンターでおしまいにするが、彼女の場合肉弾戦の得手である上に、攻勢で発生する隙を鎖でカバーしてくる。
「……仕方ない。一か八かになるけど、もうこれしか方法がないもんな……」
そう言うと、男はその場で座った。
胡座を掻いて、ロザリンドをじっと見つめる。
見つめるだけで、何もしない。
「……」
勿論、実際には何もしていない訳ではない。
ロザリンドの魔装に対し、視線を媒体として魔力を送っているのだ。
要所に余計な魔力を流されれば、やがて魔装自らが動作不良を起こし、一時的な機能停止状態に追い込まれる。
ある程度の集中力が必要であるため、白兵戦の最中ではできない。
故に、何もせず、何も言わず、ただ見つめるという動作でプレッシャーをかけ、あちらの攻撃を躊躇わせている。
「(しかし、魔族だもんなあ。魔力感知とかされたらそれで終わりなんだけど……!)」
今まで白兵戦、それもカウンターだけに頼ってきたのが良いブラフになる事を祈るしか無い。
俺の戦い祈ってばっかだな、と自嘲しつつ、男は静かに戦っている。
■ロザリンド > 「……ふぅ」
空中に浮いているように見える彼女の体は
数多の鎖によって支えられており
少し距離を取った場所に降り立つと小さく息を吐く。
「仕留められませんか。いやはや……」
基本近接戦でも片手を使わない為
蹴り技主体で戦闘を組み立てがちだが
淑女としてそう褒められたものでないのも確か。
ましてや自分は従者の立場を好むとはいえ、これでも貴族の娘。
舞闘術を嗜んではいるが足癖が悪いというのはあまり褒められたことではない。
「……えっと」
地面に座り込み此方を凝視するヒトに戸惑ったように瞳を瞬かせる。
魔力を送ってきている事は判るのだが思いっきり座り込んでいる。
いっそ無抵抗に近い行動に対処に困ってしまう。
今の所、こういった場のヒトの作法があまりわからない。
これは攻撃してよいのだろうか。
「……ヒトとはやはり不可思議なものですね」
困ったような笑みを浮かべてその場でじっと立ち止まる。
無意識に両手を揃えて立っているのは職業病。
……いくら戦闘に慣れているとはいえ
彼女の修めている武術や作法は戦場の物ではない。
舞うような戦い方もそれに起因する。
相手が魔力を送ってきている以上何らかの思惑はあるはずであり
傭兵業や闘士なら迷う事無く追撃にかかる場面であったが
そういう所はやはり”お上品”な家系の者らしく
追撃をして良いのか躊躇ってしまう。
……こういう降参の仕方かもしれないというお人よしな疑問を捨てきれずに。
結果十分な時間を相手に与えてしまう事になる。
■クレス・ローベルク > 「……」
男が最初に思ったのは、「あれ?追撃してこない」であった。
男としては、最悪鎖で遠距離攻撃されて何もなせず死ぬパターンまで想定していたのだが。
まさか、彼女が押し留めているのが威圧とかブラフとかではなく、単なる異文化や常識の壁である事など思いもよらない。
……ちなみに、観客や実況も『え、何なのこれ?』という雰囲気になっており、結果として誰一人として声を上げない、闘技場としては異常な事態になっていた。
とはいえ、攻撃してこないのであれば、時間はこちらの味方である。
「(魔力阻害因子構成、自立思考術式と駆動術式間の通信術式阻害……完了。外部入力術式阻害……完了。……素材自体が魔力だったら、メイド服そのものを崩壊させて裸にできたんだけどなあ……)」
途中雑念が入ったが、これで鎖は最早動かすことはできない。
正確には、彼女の魔装に埋め込んだ魔力阻害因子は自動で崩壊するため、時間が経てば元に戻るが、それには少なくとも48時間は必要だ。
男は立ち上がると、足についた土を払う。
そして、近くに落ちていた自分の剣の内の一つを回収する。
「さて、それじゃあ、最後の戦いと行こうか……!」
ロザリンドに対し、鎖が生きていれば無防備といえる程真っ直ぐに直進。
そのまま、ロザリンドの胸に対して剣を突き出す。
男の剣は生体を斬らない魔剣。直撃すれば、ロザリンドのメイド服がやや大胆な事になりそうだが……
■ロザリンド > まるで命令に備える従者のように両手を揃え、じっと待っていると
がしゃんという音と共に鎌首をもたげていた鎖が地面に落ち、
淡い光となって消えていく。
同時に手元で淡い碧の光を放っていた指輪もその光が減じていく。
「……なるほど」
武器を拾い上げる姿を視界にとらえつつ
ああそういうことねと得心したような様子。
まるで教室で難問の解き方を解説された生徒のよう。
今一つ緊張感に欠ける。
「うーん、やはりあの場面では追撃するのが正解だったのですね。
こういう戦い方もあるのですか。正直意外でした」
ある意味相手に依存した時間稼ぎと対処。
放棄したように見せかけた武器も実は魔具としていくらでも再構築が可能なのだけれど
鎖を封じる副作用で阻害されてしまい起動しそうもない。
結果として此処まで嵌った戦法なのだからと素直に感心しつつ
次回からは干渉対策も考えておかなければと頭の中のメモ帳に一言。
……魔族でもこんな手に引っかかる人物はそう多くないだろうという事実は彼女の認識外。
「そうですね。そろそろお客様が退屈してしまいますわ」
放たれた矢のように胸元へ延びる剣の切っ先が胸元直前で止まり
魔力干渉の閃光と共に金属同士がぶつかり合う火花が散る。
そこには白銀に輝く短剣の切っ先。
「先程と立場が逆になりましたね」
そう面白げにつぶやくと短剣をくるりと逆手に持ち替え
懐へと入り込もうと軽やかに踏み込んで。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からクレス・ローベルクさんが去りました。
■ロザリンド > ――終戦まであとわずか? To be continued
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からロザリンドさんが去りました。