2018/02/21 のログ
スナ > どんな武具でも、魔術による改造を施せばその性質は変わる。事実、彼女の構えた銃は弾を込め直すことなく連射できている。
そして、相手の腰に短銃が下がっていることもまたひとつの懸念事項。
威嚇射撃の甲斐もあって、スナは回避を続けつつも、間合いを近づけること叶わないでいた。

では、と試みた幻術による惑乱(+セクハラ)。
目論見通り、目の前の女性は己の武器がいやらしく変幻したことに狼狽の気配を見せた。
気持ち悪い男性器めいた肉棒に変われば、武器を取り落とすこともやむ無し。接近するも良し、戦意喪失判定を待つも良し。
魔法銃を手放すのを見れば、組み付いてやろうとすかさず距離を詰めようとする……が。

「………っとと!! わわっ!!」

素早く、そして冷たい動作で抜かれる短銃。拡がる魔法陣、放たれる轟音。
油断していたというわけでもないが、あまりにも素早い一連のモーションと、迫真にせまる威圧的な声色には、躊躇せざるを得なかった。
たたらを踏むように足を鳴らし、飛び退こうとする。そのすぐ手前で炎が爆ぜる。
スナの小柄な身体をまるごと包んで余りあるような爆発が発生し、闘技場全体をみしみしと揺さぶった。

爆風に煽られてか、自ら跳躍してか。スナはアリーナの中空をふわりと飛んでいた。その高さは5mほどにも達する。
髪や衣服、尻尾には火の粉がまとわりつき、焦げ跡も見える。無傷ではない。

「く、く、ククッ……! こいつはいけねぇ、怒らせちまったかの!
 すまん、すまんのーぅ! 女子と戦う時は一度はコレをせんと気がすまんのじゃよ!」

跳ね飛ばされ宙を舞いながらも、スナはなおも楽しげな声で、弁明とも挑発ともつかぬセリフを紡ぐ。
身を翻し、着地の準備はぬかりないが、空中で軌道を変えるような芸当はできない。銃相手には隙だらけだ。
スナは喋りつつも次の幻術を行使。今度はレナーテと彼との間に、3枚の石壁を生やした。
ゴゴゴゴ…と空気を震わせる音を放ちながら、アリーナの白砂を割って、灰色の直方体がせり出してくる。
当座の攻撃を躊躇させようという、どちらかといえば苦肉の策。スナのセクハラに怒ったレナーテには通用するか否か。

レナーテ > 師と仰ぐ人ほど魔法銃の素質も低く、近接戦に於いては師の後を継いだ指南役にも及ばない。
けれど、室内に居続けるという職務柄で必要となった素早い持ち替えは、気付いてはいないが組織内でもトップクラスに洗練されていた。
怒りに自身の動きの最短具合を認識することもなく、瞬時に爆発の魔法を叩き込むも、彼にて傷一つ追わせられずにいる。
相変わらず侮蔑するような冷たい視線で彼を見やっているが、跳躍とともに空に飛び上がっても、先程のように驚きもしない。
淡々と、銃口を彼の方へと向け、トリガーを引き絞ろうとするが……。

「謝罪は気持ちを込めて口にしてください、上辺だけでは不愉快です」

射線を遮るように生み出された石壁、それに流石に爆発する火球は放ちづらい。
しかし、放てる炎はそれだけではなくトリガーを引いていく。
パシュっと魔法弾を放つような弱い音が響き、相変わらず赤い魔法陣が銃口から広がった。
すると、自身の左右の空間と前方に、赤い光の球体が生み出されていく。
先程の魔法よりは小さな球体だが、それ自身には攻撃力はない。
だが、次に空に向けてトリガーを引いたのが本命である。
パァンッ!!と炸裂音を響かせ、増幅弾を用いて魔法を強化して放たれたそれは、赤い魔法陣から真紅の光球を放つ。
先程同様、バスケットボールぐらいはあろう大きな球体だが、先程の3つの球体からも同じモノが空へ放たれたのだ。
そして空中で炸裂したそれは、無数の火炎の短矢へと変貌し、石壁を迂回するようにして左右と頭上、足元の4方向から迫ろうとする。
さながら、火矢の一斉掃射のような勢いで、真っ赤に空間を染め上げながら、彼へ遠慮ない攻撃を続けていく。

スナ > スナの幻術は、己の思い描いた空想を現実に写像する術。それゆえに弱点もある。
今回最も致命的となったのは、己の立てた壁によってスナ自身の視界も阻害されるということだ。
きちんと念を込めれば、自分だけ向こうを見通せるような巧妙な壁も作れるが、とっさに立てた目隠しではそうはいかない。
着地し、火の粉を払い、改めてレナーテに向けて接近を試みようとしたスナだったが……。

「ひっ!? ちょ、ちょっと、ちょっとまて、おい!」

壁の向こうからは相変わらず、魔法銃独特のトリガー音が鳴り続けている。
そして、視界の端に捉えたのは幾つかの火球。それが爆ぜ、魚の群れめいて無数の炎のボルトに化けるのを見れば、いよいよ焦る。
射線を幻で遮っただけなので、居場所はバレている。この状況で飽和攻撃を受ければ、結果は火を見るより明らかだ……もう火は見えてるが。

「わ、わかったわかった!! ギブ、ギブ!! 降参じゃーー!!」

たまらず、スナは叫ぶ。叫びつつ、炎が止まなかった時に備えて全速力で横へと駆ける。

「無理じゃ、無理じゃっつーの!! 獣、獣、獣ときていきなり銃使いに全力出されたらどーしようもないっつーの!!」

観衆からブーイングが飛ぶのを見越して、先手を打って弁明のことばを叫び放つ。哀れなり。

レナーテ > この確殺を狙う、必殺の魔法乱舞は普段使うことの少ない大技でもある。
火力を倍増させる魔法は、自身の魔力消費を増やすため、非常に疲労をためやすく、オーバーキルになりかねない。
火矢の魔法は緩い追尾と消費量の多さ、範囲の広さもあって集団戦で使うなら初手の不意打ちが多い。
一人だからこそ無遠慮に行ける、そういった意味では最悪なタイミングで怒らせたというところか。
魔力の尖兵達が炎の切っ先を向けたところで、彼の悲鳴が聞こえるも、魔法を解く様子はなかった。

「終了とは言われてないです。辞める理由もありませんし……加減する理由もありませんよね? 死傷についても言及はありませんから、問題ありませんね」

嬉々として語られる文言は、先程までの冷えた事は異なる。
怒りを通り越し、穏やかに微笑む姿は逆に恐怖を煽るだろうか?
満面の微笑みで炎の矢をけしかけるが、降参の声が聞こえても直ぐには刃を収めなかった。
彼が逃げようとした瞬間、矢を全て空へと向かわせていく。
それも、彼の周囲をスレスレに抜けさせながら、勢い良く赤色が駆け抜ければ、熱量も間近に感じられたかもしれない。

「そんなこと知りません」

ブーイングが響き渡る中、勝敗が下され、此方の勝利が確定していく。
変わらぬ笑みのまま、彼へ無遠慮な言葉を吐き捨てると、空に浮かぶ彼を見つめながらも銃は収めていなかった。
代わりに、反対の手ですっと酷い姿に変えられた大切な小銃を指差していく。

「……直せますよね?」

幻術とは分かっていないらしく、実際にそう変えられたのだろうと思っていた。
直らなかったらどうなるか覚悟しておけと言わんばかりに、目元が弧を描き、微笑んでいるが……。
薄っすらと開いた瞼の隙間から、冷たい視線が突き刺さるように彼へ向けられていく。

スナ > 「ひーっ! ひーっ!!」

ギブアップを宣言しても、炎の矢の群れは消えない。逃げ惑うスナを弄ぶように付け回し、視界の端には常に朱色が見える。
スナは息を切らし、時折足をもつれさせながらも逃げ続ける。あまりに気が動転してか、手を抜かれていることにも気付いていない。
すでに彼の手には武器はない。よく見れば、スナのお尻から生えた尻尾が2本から4本に増えていることに気付くだろう。

「ひっ、あ、熱っ!! やめてくれっ、直すからっ、消すからっ!」

異形に変貌し、地に投げ捨てられた銃を指し示されれば、スナは半ば悲鳴めいてそう叫ぶ。
と同時に、レナーテの愛銃は一瞬にしてもとの姿へと戻った。漂っていた醜悪な性臭も瞬時に解消される。石壁もまた然り。
幻術は幻術である、解除すれば床にも武器にも跡は残らない。レナーテの害された心は埋まらないだろうけれど…。

やがて、スナを追い回す炎の群れも消えるだろう。
ブーイングの中、スナは荒い息を繰り返しながらトボトボと場内を歩き、レナーテへと近づいてくる。
そして十歩ほど手前でがくりと地に膝と両手を突き、深々と頭を下げる。土下座の一歩手前だ。

「……うう、すまぬ。麗しき女銃士よ。
 大変穢らわしい幻を見せ、気を損ねてしまった。このスナ、心より謝罪する……」

未だ続く動悸に肩を震わせながらも、スナは恭しく神妙な声色で、はっきりとそう述べる。
ブーイングがつかの間止めば、観客席の後方へも通りそうな声量だ。

「……この闘技場のしきたりじゃ、敗者の俺はお前さんにどんなことでもされる義理がある。
 どんな辱めでも受けよう。……できれば命は奪わないでほしいが、の」

スナは顔を下げたまま、今度は2人だけに通る小声で呟く。

レナーテ > 空へと登っていく火矢は、花火のように空で力を失って消えていく。
刃を収めたところで、悲鳴を上げる彼を見やるといつの間にか尻尾が増えているのに気付き、小さく首を傾ける。
最初から4本あっただろうか……と、種族柄のものなのかもしれないと思いつつ、悲鳴とともに匂いが消えたのに気づく。
確かめるようにそちらへ振り返れば、普段と変わらぬ小銃が転がっており、足早に近づくとそれを拾い上げ、大切そうにぎゅっと胸の中に抱きしめた。
そんな中、近づいてくる足音に気がつけば、烈火の如く燃え盛っていた憤りの消えた顔は、最初に顔を合わせた時のように、真面目そうな落ち着いた表情を見せる。

「……この銃は、私にとって大切なものなんです。戦って壊れるのは仕方ないですけど、あんな仕打ちは許せませんでした」

深々と頭を下げ、両手と両膝をついた格好を見やればしばらく言葉を失い、深呼吸を一つ。
その後紡いだのは、憤った理由である。
大切なものを貶された、だから我慢のきかぬ怒りが溢れたと紡ぎつつ、不機嫌そうに眉をひそめていた。
しかし、そこまで語った後、こちらも彼へ深々と頭を下げていく。

「私こそ、手合わせなのに危険な手を使って失礼しました……大怪我しなくて、良かったです」

顔を上げ、苦笑いのまま吐き出す息が震え、微かに両肩も震えていく。
もしもあれが全て当たっていたら……彼を本当に死なせてしまったかもしれない、と。
殺しをしたことがないわけではないが、悪戯心でしでかした事で死なせるのとは訳が違う。
薄っすらと金色の瞳を潤ませながら、小さく鼻を鳴らすと先程よりも小さな声に瞳を瞬かせると、よく聞こえるように目の前でしゃがみ込んでいく。
ふわりと揺れる前髪と三つ編みにしみた、シトラスの香りが先程の悪臭を消し去るように、彼にも届くかもしれない。

「……じゃあ、ここで狐の毛皮さんにするのも、晒し者にするのもしません。代わりに、今度から私のお願いを全部聞いてください。といっても、無茶苦茶なことはいいませんから」

慈悲をかけつつも、意外と意地悪に自由にできる権利を無制限にしようと囁きかける。
高く穏やかなソプラノの音を聞かせながら囁やけば、くすんだ銀髪へ掌を重ねていき、優しく撫でようとしていく。
こうも神妙になられると、酷いことは言い切れず囁く表情は悪戯した子供を許すような穏やかな微笑みを浮かべる。

「まず、ちゃんと名前で読んで下さいね。レナーテです。あとは……スナさんをそのまま返したってしてしまうと、周りの人からブーイングで取り上げられても大変です。戦利品のフリしてくださいね?」

手にしていた拳銃をホルスターへ、そして抱えていた小銃は肩紐をくぐらせて袈裟懸けにして背負い、両手を開けていく。
しょげるように小さくなった彼へ両手を伸ばしていくと、その身体を抱き寄せようとする。
届いたなら、そのまま弟でも抱き上げるかのように抱きかかえ、立ち上がろうとするだろう。

スナ > 「……なるほど、そうじゃろうな。命と同じくらい、あるいは命より大事な武器というのもあるだろう。すまなかった。
 もう二度とするまいよ」

スナにとっても、今回得物として使った剣は己のアイデンティティに近いほどに重要な物品である。レナーテの気持ちはわかる。
もっとも、そういう物だという可能性も加味した上で異形に変える幻を使うところが、スナの悪辣なところだったりもするが。

地に這いうなだれるスナへと、レナーテの気配が近づいてくる。
柑橘の香りは香水だろうか。身なりも凛としており、腕っ節も強い。このような男臭い場所には不釣り合いなほどに。
きっと王都やらどこぞの集落やらの腕利きの戦士なのだろう。
ひどいマッチングに内心毒づきつつも、負けは負け、スナとしても己の力を発揮したうえでの負けだ。納得は行く。
全力を出したことに謝罪する言葉がかけられれば、いよいよみじめな気持ちが湧いてくるが、ぐっと呑み込む

「……いいさ。元は下品な手を使った俺が悪いんだ。それにまぁ……随分と派手な攻撃、さぞ映えたじゃろう。
 観客にもいい土産話になろうってもんだ。興行的にはアレでよかったんだろうさ。俺も見習いたいものよ……」

光線、炎、爆発。やろうと思えば幻術で真似できなくもない。路上パフォーマンスにはちょっと剣呑すぎるだろうが。
きっとレナーテも普段はなかなか使えずに悶々としていたのだろう。珍しいものを間近で見れたと考えれば、気分も晴れる。

「うむ、毛皮はやめておくれよレナーテ……って……ううむ、今後全部の願いを聞けっつーのはちょいとズルい要求な気もするぞ。
 ……だがまぁ、レナーテのほうが上手なんじゃ、逆らわんほうが俺の得になることも多いじゃろうの。いいさ。それを飲むよ」

膝と両手を付いたまま、スナはレナーテを見上げる。はにかむような、どこか自嘲するような、不気味な薄ら笑みを浮かべつつ。
無残に殺されるよりはいいが、ここで裸踊りをするよりはちょっとだけ理不尽な要求。
それでもまぁ、彼女がスナにどういう「お願い」をしてくるのかは気になる。お願いとは、その者自身の欲求の発露。
人間観察をするにあたり、セクハラのように積極的に突いてみる手もあれば、こうして下手に回る手もあるのだ。

レナーテの手が伸びれば、スナは抵抗せずに抱えあげられる。体格に比して筋肉は多めで重いが、きっと容易に抱えられるだろう。

「……ひっ!? や、やめろ! 殺すなと言ったではないか! おい! 俺はギブアップしたんだぞ!
 あの部屋か!? あの部屋に連れていくつもりか!? やめろっ!! マジやめろっ!! 俺はまだ、俺はまだっ……尻をっ……!!」

そして、迫真の声色で悲鳴を上げつつ、ありやなしや喚き立てる。レナーテの腕から抜けないよう加減しながら、手足をばたつかせる。
レナーテに言われたとおりの、スナお得意の芝居である。
結局は闘技場に必要なのはパフォーマンスだ。完敗を喫しながらも、スナはそこは心得ている。
こうして、敗者スナは勝者レナーテに戦利品として抱えられ、退場していった。
果たしてどこへ連れて行かれるのか……。闘技場からできるだけ離れた酒場がいいな、とぼんやり考えつつ。

ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からスナさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からレナーテさんが去りました。