2016/08/22 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にイルミさんが現れました。
イルミ > 「……どうやって帰ろう」

夕暮れも近い船着き場の倉庫区画に、何をするでもなくぼんやりと海を眺める魔女一人、歓楽街を避け、なるべく人気のない場所を探してここに辿り着いた時にはこんな時間だった。そもそもは山賊街道で薬草探しをしていたはずが帰りが遅くなり、宿を探すうちにいつの間にかダイラスまで辿り着いてしまっていたのだが、

「歩く?今から?王都の方まで?」

路銀がほとんど底をついてしまっている現状、それくらいしか道が見つからない。とはいえ、剣ひとつ振るえない女一人で夜の山賊街道を抜けるなど自殺行為だ。
娼婦紛いのことをして金を稼ぐ?そんなことできたら魔女の真似事なんてやっていない。歓楽街の路上で占いでもやろうかと思ったが、生憎水晶玉は店に置いてきてある。あるのは試作品の薬が少し、いくらかの珍しくもない薬草、かさばる本、あとは水筒。

「……おなかすいた」

イルミ > 「……やっぱりこれかなぁ」

手持ち無沙汰に分厚い本をパラパラと開いてみる。幻惑術、特に透明化の呪文についての手引き書のような内容のこの本はそれなりに貴重なもので、手にいれるまでに結構な手間と金をかけた。つまり、これをどこかで質に出せば、家に帰るまでの路銀には足りる金が手に入る可能性がある。ひょっとしたら、馬車にだって乗れるかもしれない。でも、

「でも……でもなぁ」

早く決断しなければ質屋なり古本屋なりも閉まってしまうかもしれない。けれど、多少使えるようになるだけでも相当役立つはずの透明化の呪文。それについての手がかりをここで失うのは痛すぎる。結局、本を売るという決心はつかず、溜め息と共にカバンの中にしまいこんでしまった。

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にエレイさんが現れました。
エレイ > 「───あっれー?」

不意に、そんな気の抜けたような男の声が響く。
海の方を向いている彼女の背後、少し離れた位置に、その声の主である金髪の男は立っていた。
そのままおもむろに彼女の方へと近寄ると、馴れ馴れしく肩に手を回しながら顔を覗きこむようにして、にへらと緩い笑みを向け。

「誰かと思えばイルミちゃんではにいか。ようお久しぶりッ。俺様の事は覚えてるかね?」

などと、自分を立てた親指で指し示しながら楽しげに問いかけ。

イルミ > 「ひっ」

男性の声が自分に向けられている。それだけでも男性恐怖症の魔女が固まってしまうには十分だった。振り向くこともできないまま肩に手を回されて、その間彼の言葉の内容すらほとんど聞き取れていなかったのだが、

「あ……れ……えっと、あなたは……ッ!」

彼の顔が向こうから視界に入ってきて、それが見覚えのあるものであると気づくと、少しだけ緊張が緩んだ…のも束の間。彼がかつて自分にしたことを断片的に思い出して、羞恥で顔が真っ赤に染まる。その間、彼に対する物理的な抵抗は一切していない…というかできなかった。

エレイ > 「……ヒヒ、どーやら覚えていてはくれているようだったな」

こちらの顔を見れば、程なく顔を真っ赤にしてしまう彼女に、ニヤリと悪戯っぽく笑い。
マント越しの肩に触れた手は、そのラインを確かめるようにゆるゆると撫で回しつつ、さらにずいっと顔を近づけ。

「まああそれはともかくとして……こんなトコで何してるわけ? ちなみに俺はたまたまこっち方面に用事があって、その帰りに此処に寄り手なんだが……」

声をかける直前、ため息を零していたように見えたのも気になり、些か心配げな視線を向け。

イルミ > 「っ……あ、えっ、と」

彼のことを嫌っているわけではないが、やはり男性は男性。顔が近づくと恐怖心でさっきの赤らんだ顔が一気に青ざめたものに上書きされ、つい顔を逸らしてしまう。それを少し申し訳ないと思う気持ちもあるが、自分ではどうしようもなく、

「その、はっ、はずかしい、話なんですが…手持ちのお金が、なくて…。帰り、どうしようっ、て、そのっ…」

精一杯今の状況を説明することをせめてもの償いにしようと思った。しかし、撫でられる肩が少しずつ熱くなるような感覚も覚えていて…

エレイ > 赤くなったかと思えば今度は青ざめた顔を逸らす仕草に眉を持ち上げる。
その程度で堪えるような男ではないが、何か思案するようにふぅむ、と唸り。

「……これは俺の予想なのだが、もしや此処まで来たのはイルミちゃんが望んだことではなかったりするのか? 具体的に言うと迷子的な?」

彼女の説明を聞けば首を傾げ、どうしてそんな状況になったのかと思うも、ふと閃いたことを問いかけてみて。

「あとそれと、だ……イルミちゃん、実は男怖い?」

イルミ > 「は……はい、そんな、かんじです」

王都からはるばるダイラスまでやってくる迷子、というのも凄まじい話で恥ずかしいなんてものではないのだけど、嘘をつくわけにもいかない。それはよかったのだが、

「ぅ……はい、その……少し、怖いです、その……ごめんなさい」

男性恐怖症も見抜かれてしまった…いや、ここまで露骨ならわかって当然だろうけれど。 なんにせよ、馴れ馴れしいなりにこちらに友好的な彼に対して『怖い』と言ってしまうのはあまりに失礼に思えて、謝る声も小さくなる。しかしその一方で、片手がいつの間にか彼の胸元に添えられて、服をギュッと掴んでいた。

エレイ > 「──いや謝る必要はにいのだが。……難儀ですなあ、サキュバスちゃんなのに男恐怖症とか」

いずれも予想通りな返答に眉下げて笑い、近づけた顔を少しだけ離す。
肩に触れた手はそのままであるが。
今思えば、最初に会った時の反応もそういうことであれば得心が行く。
種族特性と相反する性質というか性格を持ってしまった彼女には、同情せざるを得ない。

「……まあでもスイッチ入っちゃえば忘れちゃうし問題はないのかにゃ? ってまあそれはそれとして……迷子とゆーことなら、俺様が安全に王都まで送り届けてやろう。折角久々に会えたワケだしなッ、そのよしみっちゅーことで」

前回の彼女の痴態を思い出し、独り言のようにつぶやきつつ。
いつしかこちらの服の胸元を握りしめている彼女の手の甲に触れて、こちらもさすりと撫でながら、ニッと笑顔を向けてそんな提案を。

イルミ > 「…………うぅ」

サキュバスの癖に男性恐怖症。そして、前に彼に見せてしまったはしたない姿。その両方が自分にとってはあまりにも恥ずかしい。顔が再び真っ赤になるけれど、それは彼と密着しているという恐怖心が多少なりとも薄らいだという証でもあり、

「……ほっ、ほんとですか?それは、ありがたい……ですけど。私、何もお礼できるようなことは……」

彼の提案に思わず顔を上げた。しかし、すぐに自分がろくなものをもっておらず、家に帰ったところで渡せるものも特にないことを思い出し、また目をそらす。彼に撫でられた手は、相変わらず不安そうに服を掴んだまま。