2019/08/13 のログ
ご案内:「ハテグの主戦場」にアマーリエさんが現れました。
■アマーリエ > ――それなりに長い休暇であった、と。そう思うとしよう。
微睡みから修羅の巷である現実に引き戻す霹靂とは、いつだって唐突に響く。
ハデクの丘に接近しつつある隣国の兵士の攻勢を聞き付ければ、足の早さを以て鳴る師団として招集が掛かる。
末端の兵士でも、そして何より集団を纏める頭目も漏れなく、例外なくだ。
強行偵察を兼ねた数騎の竜騎士が国土に踏み入った敵兵の集団の頭を叩き、その後の後続が槍と盾を並べて打ち砕く。
大規模な戦役にもならない、ある種の日常茶飯事めいた動向の一つだ。
大勢については夕刻頃に決着がつき、その後は残兵掃討と安全確保に陣取る者達とで分かれて時が過ぎる。
凡そ流れが落ち着いてゆけば、少しなりとも余裕が出てくる。
最後に護衛の兵と共に到着する補給部隊が至れば、運ばれてきた糧秣と新鮮な水、酒類でちょっとした宴も開かれる。
国の兵士だけではなく、傭兵達も混じっていればこの程度の空気はいつものことだ。
「……こんな暑い最中に、動かされる兵が可哀そうでならないわね」
そんな動向を幾つもある丘の上より、幾つもの並ぶ幕舎たちを遠眼鏡を仕舞いながら一息ついて眺め遣ろう。
何せ、鎧の表面で卵が焼けそうなくらいの暑気の中の強行軍であったのだ。
味方は兎も角、駆り立てられた敵兵の方が寧ろ哀れにしか思えない惨状だったと思えば、複雑な思いが過ぎる。
お陰で水入りの樽やワインなどが直ぐに捌けてゆく。岩塩の類も一緒に消えてゆくのは、是非もない。身体が欲するのだ。
■アマーリエ > 「暑さで滅入るのはこっちも同じではあるけど、……どうかしらね。早暁に遣ってくる元気があるのかしら」
如何しても綺麗な水を確保する、運ぶには限度がある。
水を過剰に摂るなという達しをしていても、熱気の中に強行軍に強行軍を以て迎え撃ったツケがある。
疲れを押してでも、捕虜となった女兵士が居れば犯さずにはいられない物好きたちが放つ声が遠く聞こえる。
少しなりとも暑さとの付き合い方を弁えた兵のうち、魔法による冷気を巡らせた幕舎で休んでいるものも居る。
活力を計画的に残した者達で示し合わせて、見張り等の備えの策定をしなければならないだろう。
丘より降りながら、夜風に髪を靡かせて歩いてゆけば、入り口を開け放ったテントの一つで声が響く。嗚呼と苦笑を滲ませて。
「混ざってもいいかしら、なんて言わないけど――程々になさいな。精々寝首など掛かれないようにね?」
どうやら、傭兵らしい風体の者が「お楽しみ」の途中であったらしい。
薄暗がりでも目に見える肌色と臭いに嘆息しながら、嗜める程度の声色と微かな威圧で念押しして通り過ぎよう。
敗残の兵のよくあることだ。己とて、負ければそうなることは否めない。
だが、少しばかり羨ましいコトには違いない。
己の中のモノが疼く欲動は、どうしても無性に抑えがたいものがある。戦場の習いのようなものだ。