2017/06/30 のログ
エアルナ > 「…はい。足並みの乱れは、致命的になりえるーーですね?」

大体、奇襲とかそういう手段が有効な相手なら。
これだけ大勢の冒険者や魔術師を相手に、そうそうもつはずはないのだ。
さすがは竜、である。

「あっ?!」

竜の吐く豪炎の威力は、半端ではない。
だから、師匠でもある彼がとっさにその口を封じるならーー自分はこうだ、

「高速詠唱ーー【連弾奏】、発動!」

【氷結】【圧縮】【回転】【加速】…さらに【加速】!

一つ一つは基本魔法、ただし、高速詠唱でそれをほぼ瞬時に重ね掛けすることで。
効果は飛躍的に上昇するーー

顕現するのは、鋼よりも硬度の高い氷の短剣が二つ。
それを一気に、矢よりも早い速度を付与して解き放つ…目標は竜の二つの目!

多少外れても、氷結で一瞬でも視界が奪えれば、という算段で。

マティアス > 時に優れた術師たりうるのが、竜である。
その身に纏う魔法への護りを抜くとなると、単なる魔力弾だけでは意味をなさない。
十分な魔力量と相応に練り上げた術でなければ、打ち払われてしまう。

故に――己の教えた手管に基づいた、その術の使い方は決して間違いではないのだ。

「……! エアルナ嬢。その技は、この状況じゃあ駄目だ!!」

だが、よく考えるべきである。
戦場にて、人間が急にその目を潰されたとした場合、大人しく棒立ちになるのだろうか?
否である。恐慌に陥った人間がどうなるのか。どうするのか? 
さらにいえば、人間よりも巨大な化け物の足元や尾が届く範囲に、前線を張っている者たちが居る。

だから、即座に掴んでいた符の全部を使い潰す。
高速魔力弾――。威力は二の次として、出の速さと弾速をただ重視したものを、符としてストックしたものを消費する。
先行する氷の短剣に追いすがり、竜の目の直前で相殺し合うことで目くらましの光爆を生む。

その隙に、前線に立つものたちが態勢を立て直すべく退き、二の陣として構えていた者と入れ変わる。

エアルナ > 「…あ、」

しまった。目くらましになればと思ったが、かえって暴れられたら足元の冒険者が危ない。
気が付くとほぼ同時に、青年の魔法符が飛びーー二つの魔法で目くらましの光へと転じるのを見て、冷や汗をぬぐう。

「すみませんっ、抜かりましたっーー」

ありがとうございます、と至らなさを認め頭を下げる。
あぁ、まだまだこういう時の判断は未熟だと。

目がくらんだ竜の動きが一瞬鈍るすきに、足元では前衛が入れ替わり。
頭上からはまた、ハヤブサが炎を吹きかけるーー竜の注意をひこうと、頭の後ろ側から。

マティアス > 「――謝ってる暇はないよ。
 
 僕らは現状、後に下がってある程度戦域を俯瞰できる立ち位置に居る。
 だから、相手の動きをよく考えて術を使わないといけないのだけど、……少しやり過ぎたみたいだねぇ」

ごそごそと懐や袖口を確かめ、使える符とその種類を確かめつつ助言を投げ遣って、気づく。
少し、やり過ぎた。竜が向ける赫怒の視線が前衛ではなく、自分達に向いていることに。
頬を掻いている暇もない。自分達の方へと、猛然と進みだした竜の巨躯の姿に思考を巡らす。

即座に選ぶのはすぐ、その場を離れること。
竜の後頭部に火焔を投げ遣るハヤブサが、その手助けにはなるだろう。
一瞬足を止め、鬱陶しく飛び回る姿に喰らい付こうと口を開いて首を巡らす。

「僕達が出来る限り、離れて囮になる! 
 その間に翼と足を潰してくれ!――嗚呼、出来たら分け前は残してくれると嬉しいかな!!」

そんな叫びと共に身に強化魔法を重ねて、走り出そう。
並行して剣の能力を借りて、身の周囲に光を生む。人の頭ほどある魔力塊を5個、生成して待機させる。
前衛を張っていた者たちの支援については、ようやく魔力を回復させた他の術師たちに任せる。

エアルナ > 「…怒ってますねえ、あれは」

うん。竜の怒りの目線、というのがもろにこっちを見ている。
足元の前衛よりも明らかに、というのがもろわかりだ。
確かに謝るよりさきに、なんとかしないと…どすどすと思い足音を響かせながら向かってくる竜につぶされかねない。

白狼が状況を察して、だっと青年に追走するように走り出す。
ハヤブサは素早く飛び回り、危険すれすれの高度をジクザクと不規則に動き回りながら、また炎を吐きだして注意を引き付けてくれている。

師に倣って、狼の背で自分も魔力の光球を3つほど、生み出しては待機させる。
こっちを追いかけてくるなら、丘の上と挟み撃ちにちょうどいい体制にもちこんでやればいいーー

そのうえで、だ。 勝負をかけるのは。

マティアス > 「そりゃ、怒るとも。この辺りの調整も――大事だよ?」

敵意の配分、コントロールもまたこの手の集団戦闘において、とても重要になる。
本来は前衛にうまく向くようにすることが重要だが、後衛がやり過ぎるとこのような羽目になる。
前衛で耐え凌ぎつつ、練り上げた魔法を以て戦力を奪うという流れを組むべきところがこの有様だ。

だから、今は走る。思考領域を幾つかに切り分けて、大技の編成を脳裏で行いながらポケットを漁る。

「……仕方がない。この辺りも遠慮なくもっていくといい!」

掴みだすのは、不可思議な線刻文字を刻んだ小さな水晶の珠。
幾つかあるそれを後方にばらまくように投じ、魔力の線を繋いで流せば封じられた術が起動する。
「阻害」を具現する光の鎖。地と竜を繋ぎ、絡みついてその身を縛ろうと走る。

だが、竜の抵抗力と膂力にすれば、それらは些細なものに過ぎない。
それでも十分だ。魔力が乗った弩や長弓の矢が竜の鱗や翼を射貫き、その機動力を削いでゆく。

今のこの瞬間を逃す手はない。だから――走る。走れ。射角を確保できる別の丘の上へ。

エアルナ > 「ぅ、はい。肝に銘じます--」

体力を削りきる前に、後衛が襲われるのは望ましくない状況だ。
魔法が主体のものは、必ずしも機動力があるとは限らない。
自分達のように動かるのは、むしろ例外だ。

「見方によっては…今が機会かも。
【召喚】大地の化身ガレム、その腕で竜の脚を封じてっ!」

そして。竜の背中側から魔力の矢が降り注ぎ、足元に追いすがる姿がちょうど切れたとみれば。

召喚するのは、地面あるところどこからでも現れる岩石ゴーレムの召喚獣。ガレム。
ぬぅ、と大地からわきでた岩でできた大きな腕が、がしりと竜の足。
人間でいえば、ふくらはぎのあたりをつかみ、握りつぶそうとするーー鋼のうろこを持つ竜には、ほんのしばらくの時間稼ぎにしかならないだろう、が。

岩の腕は、砕かれれば再び大地に戻り、溶けるように沈んでいく。
だが、それでも。二人と一匹が、別の丘の上にたどり着く時間を稼ぐくらいは、できるだろう。

マティアス > 「頼むよ。それに一度亡くしたものは、取り返しがつかない。……分かってるね?」

この点については、流石の己もまた厳しく云わずにはいられない。
死と隣り合わせの生き方をしているのは誰も彼も覚悟のうえでも、好んでそうしたいという者が居るものか。
だからこそ、力あるものは常に己の持つ力の扱いに責任を求められる。

「ッ。なら、今が好機ってことだね……!」

十分な距離をあと少しで稼ぎ切れる。もう少し、もう少し。
急く内心を後押しするのは、地より這い出るように召喚される岩石の巨腕である。
文字通り足止めされる竜が、怒りの表情を露に鋭い爪を立てて、その腕を振り払って叩き潰しにかかる。

少しでも、十分な隙である。走り切った後に丘の中腹で立ち止まり、ローブの裾を翻して振り向こう。
剣を構える。掴みだした符をその刃に貼り付け、剣指に結んだ左手の指を這わせて魔力を込める。
活性化する術符が燃える。タンっと地を踏み鳴らし、口の中で呪句を紡げば剣先にに己の周囲に浮かべた魔力塊が集い、形作る。

身の丈程もある――光を帯びた黒鉄色の槍。

「我――四方を封じ、天地を定め、威を以て束ね統べる。撃ち貫くものよ……我が声に応え、威を顕せッ!」

狙いをつける。紡いだ術を溜めた魔力を込めて、剣先の向こうに狙いをつけた対象に解き放つ。
音は、ない。否、射出に伴う爆音と閃光は後から生じる。
狙うは竜の眉間。明らかな脅威の襲来に竜が咆え、その身に防護を纏う。
だが、遅い。発射される槍が一瞬中空で止まるも、帯びた運動力のままに防護を破って着弾する。

致命傷には少し、足りない。ぐらりとよろめき、倒れ伏そうとする動きを好機と猛攻を掛ける冒険者と傭兵たちが後押しする。

エアルナ > 「--はぃ、」

一度なくせば、取り返しがつかない。
その言葉には姿勢を正して頷くしか、ない。
生きてさえいれば、戦いで傷ついたものでも魔法である程度は救えるが…それでも元通りないごともなく、とはいかないこともある。

そして。

「ありがとうっ、ガレム!」

砕かれ、再び大地へと戻っていく岩石ゴーレムに感謝しながら。
丘の中腹で、自身も、光の槍の露払いを果たそう。

「輝きよ、音よりも早く、のぼる太陽のごとく、光放て…【閃光】!」

竜の顔、そこにめがけて。今度は純正に、目くらましの目的で光を飛ばしはじけさせるーー
速度を重視し、槍よりもほんの少し早く、光は竜の視界ではじけるだろう。

そして。よろめき、倒れようとする竜の頭へ、またもハヤブサが追い打ちの炎を吐くーー

マティアス > 「……よぉ、し。――あとは油断なくかかれば、此れで狩りきれる筈だよ」

まともに当たれば、頭部を吹き飛ばしうる槍弾が竜の頭に着弾する。
魔力の塊を工夫もなく投げるのは、良い手ではない。それだけではかき消される。
だから、敵によってはこのように撃ち出すものを使い分ける。
致死手前まで追い込めば、あとは手負い故に反撃に気をつけていれば、あとは狩り切れるだろう。

鍛えていても、緊張の連続は疲れる。けれども、全て片付くまでは油断はできない。
念には念を込めて呼吸を整え、魔力を練り上げ直しながら他の冒険者と傭兵、そして彼らを支援するものたちを見遣ろう。

どう、と竜が倒れ伏せれば、地が揺れる。朝を迎えるまでは全ての方がつく頃だろう。
どれだけのものが生き残り、凱歌を挙げたか。それはまた、別の話にて――。

ご案内:「ハテグの主戦場」からエアルナさんが去りました。
ご案内:「ハテグの主戦場」からマティアスさんが去りました。