2020/04/22 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にティルヴィンさんが現れました。
ティルヴィン > 嗚呼、麗しきかな我らのノーシス主教。神への祈りは神へ通ずる交信であり人々を導く思し召しを頂く手段である。
トップハットを体の横に添えて、眼を閉ざして口を紡ぐ。
硬く結んだ手指を握りしめ、膝をついて偶像に向けて傅き、聖典を諳んじる。罪と罰、反省と後悔を戒める警句である。
少女は絶賛懺悔の真っ最中であった。

「……そんでー、んとー……」

合間に口ずさむのは空事の独白。誰に聞かれるでもない言葉は虚ろなりて空に消える。ああそうだと思い出して少女騎士は続けての聖典を語る。
――どう考えてもうろ覚えによる間延びの仕方をした言葉だった。

「やね、事務ほっぽったのはあーし悪かったけどー、でも悪党とっ捕まえたじゃん? なら別に良いんじゃないかなーって」

思ったり思わなかったり。歯切れの悪い言葉に対して誰かが諫めてくれることも警告をしてくれることも、怒ってくれる者もいない。

ティルヴィン > 今は誰も居ない祈りの場に、うろ覚えの祈りの声を響かせていた。

「えーっとぉ、そーゆーわけでぇ、仕事サボったことは許して下さぁい。以上!
 はいおしまいー、完結ー、ぱちぱちぱちー」

勢いよく立ち上がり、意気軒昂と口を開きながら拍手をすると静謐な空間に一層響いていく。
残響として残り続ける少女の甲高い声は少女の想定していた以上に響き渡り、思わず両手で口を押えながら眉を浮かばせた。
仮にも聖堂騎士団に所属していながらぞんざいな物言いである。司祭が見れば無い髪で怒髪天を突いてお小言を貰い、従士が見れば辟易と呆れと不満を貰うに違いない。
聖歌隊もいないのにクラップを鳴らし、この静寂を破壊することに流石の少女も仰天したのか、思わず周囲へと視線を向ける。
今はまだ誰もいない、はずである。

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にレザンさんが現れました。
レザン > 「仕事サボったことは許して下さぁい。以上!」

誰もいないはずだった教会の中、
言葉をそっくりそのまま真似た、小娘のような高い声がこだまのように響く。
声の主を探そうとするならば、長椅子と長椅子の間を飛ぶ小さな影を見つけられるかもしれない。
それは鼠と大して変わらない大きさだが、翅の生えた人間の形をしている。

「はいおしまいー、完結ー、ぱちぱちぱちー」

手を叩く音までする。

ティルヴィン > 「……え、ナニ?」

悪戯がバレた時の子供のようなリアクションで硬直する。それでも恐る恐る音の発生源を探すことが出来る程度には機器察知能力は優秀らしい。
目線で追いかけると、羽虫のように小さな――しかし絶対的に見逃さない影を見つけた。
高い声色と共に拍手する音は、自分と誰か以外いない教会によく響き渡って静寂を破壊していく。

「えー、ちょっと。真似っ子してるワルい子だ~れだ。怒りませんから出てきなさ~い」

帽子を被り直しながら、見つけた影の方へと向かう。言葉の割に非常に陽気な音を出していた。

レザン > 相手が驚いているとわかれば、くすくすと梢の葉擦れのように笑い声を立てる。
この小さな妖精──レザンはどこにでも現れて、誰かを困らせることに命をかけていた。

「怒りませんから出てきなさ~い!」

真似っ子を継続して、椅子の陰から飛び出すと
一陣の緑色の風となって飛翔して、歩み迫ってくる少女の両足の間をくぐって後ろを取ろうとする。
もし相手がなんの訓練も受けていないただの子供だったら、捕まえられない──その程度の速さだ。

ティルヴィン > ――どこからか迷い込んだのか、湯水のように湧いて出てきたのか。風に誘われるままやって来たのか。
その姿が極小の人型、妖精であることを認識すれば合点が行った。
妖精が低空飛行で己の股下を潜ろうとしているその自由で不遜な態度に、少女は眼をぱちくりとしてから。

「いらっしゃ~い」

被り直したトップハットを片手に己の脚元から潜ろうとする妖精を捕まえるようにして帽子を振るった。
気分は虫取り編みを振るう童のようなものである。

レザン > ボフッ。
そんな音を立てて、見事に帽子の中に飛び込み──身体がひっくり返る。
少女の髪の残り香を味わいながら、網の中の虫さながらにはみ出させた小さく細っこい両脚を
じたばたと動かして、なんとか帽子から脱出を試みようとする。
要するに捕まっている。

不遜な羽虫を見逃すほどに寛大な精神の持ち主なら、そのまま見過ごしてあげてもいいかもしれない。