2018/09/13 のログ
ツァナ > 「それって。獲られた、売られた、…だから、買い戻す。…そういう事?」

という事は。先の少女達の同胞だとか、少なくとも同族が、この街で奴隷にされて、売られていたのかと。
若干、経緯については勘違いもあるものの、最終的な部分については、男の言わんとする事が伝わった。
ふんと鼻を鳴らしつつも。取り敢えず…刃物からは手を離すと。
もう少しばかり、話をし易い距離へ。少なくとも、男が首を捻らずに済む、馬車の前方へ。歩み寄っていく。
男が魔法使いでもない限り、無手から武器を取り出し、手に取る、というタイムラグが有るだろう事と。
確かに言葉通り、他の伏兵は無かった事とが、主な理由。
…本当に、男の言い草を信じたかどうか、は。残念ながら、順位としては、割と低い侭。

「ならず者、程度、って。そう思うのが…自信過剰だって。思う、けど。
だってさ。街その物とか、国、その物、とか。それが、わた………あのコ達の、敵、じゃない?
って。…って、と…?何ソレ。それは、ちょっと、見てなかった。」

言われてみれば。お仕着せのように、皆が同じ服装をしていた少女達、だったが。
得体の知れない武器やら、先ず同族達だ、という所に意識が引かれて。細かい意匠までは注視していなかった。
何せ、良い言い方をすれば、心配だった、と言って良い。
合法的にミレー族を奴隷化し、売り買いしているこの街その物が、彼女達を付け狙えば。
相手が、ならず者程度、だけで済む筈もないのだし…例え、然るべき所在や所属が有ったとしても。
種族を理由に、良からぬ因縁を付けられる可能性は、無きにしも非ずなのだから。
お陰で注意力散漫だったものの。男が語るソレを聞いてみると。何やら大きな組織であるらしい。
正規の軍とも、関係を持つ組織、ともなると。逆にそのせいで、イリーガルな身としては、初耳になってしまったものの。

「う…ん。うん、だいたい、わかった。気がする。
それに、しても。平等に…ね。色んな、種族と、平等に?ミレーだけ…じゃ、なくって。
それなら、それで。……それが、本当に、出来てるなら。羨ましくは、ある、ケド。」

言葉で説明されて。証拠とばかり、書類という形でも示されて。
其処には男の名乗った名前も。彼と少女達の所属するという組織名も。その他、様々な事柄が、きちんと列挙されている。
そういう公的な部分については、嘘ではないらしい、とは納得するものの。
彼が理念としてであろう、語った事に関しては。少しだけ、信じ切れない、と眉を寄せた。
…先ず、それを口にした男自身が、ミレー族ではない、という事も有ったのだろうし。

「…売ったり、買ったり。後腐れなく、穏便に、済ませる為だって。そうなんだろうって、思う、ケド。
でも……金で解決出来る、そう、思われてる、のは。ちょっぴり、ヤ、だな。
少なくとも、あの檻の中に居た、人達は…自分達は、買われたんだ、って。
今は、売り買いされる、モノでしかないんだ、って。きっと、そう、考える。」

勿論。その後できっと、行き届いたアフターケアは、約束されているのだろう。
先程の少女達も、元々は買われたというのなら。少なくとも、其処から立ち直っている、と見えた。
それを察していて、ちょっぴり意地の悪い事を言ってしまうのは。
…多分、最初から平等を作り上げる事は。男達だけではない、誰にも無理なのだろう、そう思うから。
同じような事を考え、同じように苦労している、そんな者達も知っているから、だろうか。

「……だから。大変な、事。してるんだろう、ね。
其処に、本当に、本当の、自由が有るなら。……さっきのコ、達も。
買われた事なんて、すっかり、忘れる事が出来てるなら。…そういうトコなら。見てみたい、かな。」

アーヴァイン > 「そんなところだ。つい先日、ミレーの里が一つまるまる奴隷商に壊滅させられ、商品にさせられた。垢抜けない状態のまま、質を保って売ると直ぐに買い手を求めていたのは幸いだった」

多少なり納得が言った様子に、刃から手が離れていくのが服越しの揺れでわかる。
こちらも安堵したように小さく息を零すと、近づく姿を見つめる。
いまだ警戒は全て解けきっていない様子は、やはり野良猫のようだと思えて、思わず口角が上がってしまう。

「確固たる自信だ。俺達の組合は国と直接契約している。その組織の人員に手を出せば、最悪投獄だ。だが……心配してくれた事は嬉しく思う、ありがとう」

ミレー族であるということは、この国では身分上の大きなハンデだ。
多少腕が立つ程度では、良い感じに使い潰されるのが関の山だが、特徴を活かした精鋭の戦士ともなれば、そうは行かない。
渋々でも高慢な者共を納得させるための実力があるが故に、安心して行かせたというのもあった。
気づいていなかった紋について簡単に所在を説明していくと、柔和な笑みを浮かべながお礼を重ねる。
彼女が少女達だけで行かせたことを咎めたのも、こうして刃を向けようとしたのも、同族に対する心配があったからだろう。
その気持ちには、心の底から嬉しさがゆっくりと沸き立ち、胸の奥が熱くなり……嬉しさが笑みを象った。

「ありがとう。あぁ誰が上でも誰が下でも駄目だ。無論出来ている…といっても、目にしないと信じられないか」

書面と言葉の説明に、納得した様子を見せれば、再び羊皮紙をしまっていく。
問いかける言葉には小さく頷きながらも、訝しむ様子に苦笑いで答えていった。
彼女が疑るのも仕方ないというもので、人間がそんな事を言うのは奇人としか見られない。
幾度も経験した反応に軽く肩をすくめながらも、続く言葉に耳を傾けていった。

「……確かに、君の言うことも正しい。金で買われる以上、人ではなく扱いは物に近い。だが……物で無くなるには、買い取るしかない。力を震えば、帰る場所を失う」

意地悪な言葉に、何度か瞳を瞬かせるものの、その言葉を否定しなかった。
彼女の言う通り、金で動く以上は商品であり、物であることには変わりない。
しかし、それで済むならその一時だけ我慢してもらうのが最善でもある。
力で奪うなら、帰る場所に刃を向けられる理由を彼らに与えることになるのだから。
その理解を求めるように困った様に笑いつつ、生真面目に説明を重ねていった。

「……それなら、この後そこへ戻るところだ。一緒に来るといい、本当かどうか直ぐわかる。その前に、君の名前も教えてくれるか? ずっと君と呼ぶのも失礼だろう?」

ツァナ > 「…良く有る、事、だ。色んな里が、もう、随分減った。
そういう、趣味嗜好?性癖?は、良く解らないケド。それで救われるってのは。…何だか、なぁ…」

少し複雑な気分だった。勿論、在り得た傷が、一つ減ったというのは。良い事ではあるものの。
それが結局、人間達の、欲望の故だというのだから。素直に万々歳とは言えそうにない。
取り敢えず結果だけを見て、救われた事を、安心しておくべきだろう、と。
実際…此処暫くの間にも。自分が知っている、同時に、人間達は知らなかった筈の、ミレーの里が。複数壊滅の憂き目に遭っている。
滅んだ里から、連れ去られた者の多くが、今正にこの街に居るのかもしれない。
そう考えれば、正直、後先考えずに暴れたくなってしまいそうで……同時に。そんな気持ちを、少女達は押さえつけているのだろうと。
鑑みてしまうからこそ、動きだす事はせずにおいた。…再び、刃を握る事はせず。

「権力に。抵抗出来るのも、また、権力か。…解るケド、さ。
ン、ん。そりゃ、そ、でしょ?あぁいうコ達が。嫌な事、されるの。…見たくない。」

誰だって、と付け足せる程、親切ではないものの。少なくとも、ヒトにも拘わらずこの男なら、同じ思いを抱いてくれる筈と。
短い内にソレだけは察した様子。
至極当たり前の感想で。だから、礼を言われるような事ではない、と思うから。ぱたぱたとフードの前で、手を左右に振ってみせる。
その掌と、被ったフードが有って良かった。さもなければ、照れ臭さに色帯びる頬が、バレていただろうから。

「そ。見なきゃ、解らない、よ。…ソッチが、ウソつこうとしてる、とは、思わないケド。
……怨みつらみは、根深いよ。幸せになれても、早々直ぐには、忘れられない。」

だから、もしかしたら。率いる立場にあるのだろう、男の前では平等で。自由で。理想的でも。
目に見えない部分では、沈殿したモノが有っても。拐かされた、虐げられた、その過去が堆積していても。おかしくはない。
それこそ…少女達が、義務感以上の強い意識を持って、同族達を引き取りに行ったのも。
彼女達が、そういった事柄を、忘れられない…刻みつけられて、今も痛みを覚えているから、かもしれない。
だとしたら。その痛みを抑えて、奮うべき力を押さえて。
そうまでして、維持したがる自由が、何処まで本物に近いのか。気になるのは当然だった。

「…………そう、だね。」

否定出来ない。力を振るい、より大きな力に潰された、その生き残りとしては。
只、例え、力というモノが宿す可能性と危険性とを、理解出来ていたとしても。
それに頼らざるを得なくなってしまう場合は、どうしても存在するものだ。……間違っていると。それも、理解出来ていたとしても。
だから、其処に関してだけは。応える声は、最低限。きゅとマントの端を握った指先に、力が篭もる。
その侭。緩く緩く、一度息を吐いてから。

「…ツァナ。名前は、ソレだけ。
どうせ、今、都に戻るの、無理っぽいし。…暫く、良いかも。」

こくんと頷く素振りを見せる。
暫く待てば、先程の少女達は、多くの同胞達を連れて、戻って来るのだろう。
それを待たせて貰う、と告げて、馬車の傍らに座り込み。
…後は、男が話しかけてくるのなら、ぽつぽつと答えを返していくような。短い会話だけが続く。
その後向かう事になった、彼等の住まう地で。果たして、何を見る事に。識る事になるのだろうか。

ご案内:「奴隷市場都市バフート」からツァナさんが去りました。
アーヴァイン > 「よくあっては欲しくないがな。だが、不幸中の幸いと見るべきだ。最悪の場合、精神が粉々に砕かれた性奴隷にされて、陳列される可能性もある」

小さく嘆息を零しつつ応えるのは、決して最良というべき状態ではないこと。
だが、最悪を紡げば、手付かずに売ることが幸いに感じられるだろうか。
奴隷市場に並ぶ性奴隷達の中でも、自我を持って抗い、踏みにじられる品々は多い。
だが、媚薬漬けにされ、蕩けた微笑みのまま虚ろに道行く人々を見やる檻の猫も何度も見たはずだ。
そうなる前に買い取れたなら、幸いと言わざるを得ないと、曇った表情は語る。

「そういう事だ。向こうが敷いた掟なら、逆手に取って利用すればいい」

人間敷いたルールに従った守りというのも、彼女からすれば気に食わないところも多いのだろう。
バツの悪い言葉に理解を示すようにくすっと微笑みながら答えていくと、あたり前のことだと感謝の言葉に応える様子を見つめる。
フードの下は覗けなかったが、彼女も嬉しさを浮かべてくれていならいいのだがと、振られる手の向こうをみやっていた。

「……知ってるさ。ただ、恨みを返して返されてでは、永遠に殺し合いだ。対等の力なら、後に停戦となるかもしれないが……そうではないだろう?」

檻に閉じ込められ、嬲られ、辱められて傷つけられる。
心身に残る消えない陵辱の爪痕は、恨みを抱かせるものだろう。
だが同時に、深いトラウマとなって本来の営みを妨げる古傷になっていく。
その方が心配で、俯きながらに呟く言葉は沈んだ音色を奏でていた。
しかし、彼女が考えた答えと、少女達が迎えに行った理由は一致していない。
それが、檻の前に立ち、虐げられた者を連れ出した時の瞬間に浮かぶ感情は思いの外複雑なことが多い。

「……だから、少しずつ変えていくべきだ。正しいなら、正しいと証明し続けていくしかない」

小さな言葉から感じる意志は、とても深かった。
震える声が必死に絞り出した答えが、彼女に何をもたらしたかを物語る。
前職の仕事柄か、なんとなく……これまでの行動から、彼女が何者かが察しづきつつあった。
けれど、確証はない。
今はそれを飲み込み、彼女へと掌を差し出していく。

「ツァナか、よろしく。あぁ、ぜひゆっくりしていってくれ、きっと気にいると思う」

友好の証に求めた握手は、交わされただろうか。
その答えよりも先に、少女達が奴隷となったミレーの少女達を引き取って戻ってくると、彼女を見て瞳をパチパチと瞬かせていた。
同時に、彼も奴隷達に見えないように馬車の影に身体を隠し、ハンドサインで荷台の方を指差す。
彼女にも乗るように示唆すると、馬車は直ぐに発射しなかった。
樽の中に収められた水を、魔石の埋め込まれたケトルでお湯にしつつ、少女達は木箱の中に収められた携帯食料を振る舞っていく。
胃が驚かないように、冷凍粉末にされたコーンスープを、木箱に収めていた器に開けていくと、お湯を注いで配っていく。
あっという間に出来上がるスープの暖かさと甘みは、凍てついた心を少しずつほぐすだろう。
スープを零さないように足を止めて、落ち着いた頃に馬車は走り出す。
その土地を所有する竜の元、それ以外を全て平等に扱う特別な土地。
竜の足元と冠された場所はゲートをくぐった瞬間に、笑い声とともに駆け抜ける幼いミレー族の姿が飛び込む。
それこそが、ここが何であるかを示していただろう。

ご案内:「奴隷市場都市バフート」からアーヴァインさんが去りました。