2020/09/20 のログ
シンディ・オーネ > 「…そう。」

…あそこに現れたのが抑制を失った本心であるとして、
そういう要素があるとして、それはどの程度のものなのか。

些細な好意が極端に増幅されたという事であれば問題は無いが…
ノウブルの中に、本当に私を好いてくれる想いがあるのなら。
…それはもう、あまり一緒にいない方が良いのかなとも思ってしまう。

ノウブルは好ましい人物だと評価するが、恋人には生憎と絶対的な先約がいて、
二股をかけるなんて器用な真似は決して出来ないし、ノウブルもそんな事を望まないだろうし――

…しかしそこまで具体的に考えてみると、自惚れるなよと可笑しく思う事が出来た。

私が誰かからそんなに好かれるなんて、滅多にある事では無いはずだ。

ノウブルだってきっとそんなに深刻なわけがない――
概ね村八分の人生は、そういう風に考える事を、逃げだとは思えない。

「――ッ!?」

身体を流してくれる手がなぞるようになって、ビクッとしてしまう。
いたわってくれているのだろうと受け止めて、この感覚もくすぐったさやむずがゆさだと言い聞かせ。

「それを言ったら、私がオマケしてもらいに付いて来ていなければ、ノウブルは遠慮なく狂戦士の力を使えたでしょう?
 まあ、うん、指示があれば助かったけど、簡単に言われるくらいじゃ私は欲張るのを止められなかったかもしれない。
 撃退するだけならもっと悩まなくて良いのに、狩りって難しいわね。」

やってみないと実感しない現場の苦労というものだ。
食肉にするのなら毒は使えないとか、大きな毛皮が高価になる理由も分かる気がすると。

ノウブル > 「―――――使えただろうな。
だが、その代わり暫くは帰っても来れなかっただろうが。
……自分の命と狩りの成果、天秤にかけて大切なのは、常に前者だ。」

(不確かな賭けは、してはならないのが鉄則だ、と
――此れが、例えば人里近くで在ったならば、誰かに助けも請えたろう
だが、森の中で頼れるのは、自分達だけ――故に
決して、自分の命を天秤に乗せてはならないのだ、と
それは、狂戦士としてではなく、一般的な狩人としての心構え。

訥々と、森で成すべきことを、此れを僅かでも糧と出来る様に伝えながら。)

「―――――……髪は、流すか?」

(別段、抱いて居る間に、女の髪糸を汚した訳では無いが、問う。
するりと、掌が女の腰裏に沿い、動きを止めたなら
其処から、水の冷たさに触れていた肌へ、静かに掌の温度を伝わせる

――其の、奥で。 数え切れぬほど女は受け止めた。
其処に掌を置かれ、抱かれて居た時間は長く――其れを、想起させるやも知れぬ)。

シンディ・オーネ > 「…ああ、そうか、我を失って何をするか――
 周りに被害を出さなければ良いというものでもないのね。」

そうか、とやはり軽く考えるわけにはいかない深刻さに、
ベストは狂戦士化したノウブルを取り押さえられる者が同行することかと独りごちる。

狩りも生活の糧であれば安全第一。
神妙に頷いて―― とはいえ、ノウブルの狩りもそういうものなのだろうかと首を傾げた。

「…ノウブルが狩りをするのは、生活のため?
 安全第一にしては… 何だか、色々なものに手を出すように思っていたんだけど。」

漠然と聞いた話でしかなかったが、以前さわりを聞いて抱いているのはそんな感想。

…平常運転に戻りつつあるが、腰で止まる手にはそわそわさせられる。
だから髪はと聞いてくれるのに、ざっぱり立ってノウブルの後ろに回ろうとした。

「ありがとう。そんなに気遣ってくれなくて大丈夫よ。
 それよりノウブルもほら、流してあげる。」

お返しだと前に座らせようとして、叶えば広い背中にバシャバシャと健全に。
手拭いを持って来れば良かったなとまごついて、しかし恥ずかしがっているみたいに思われたくなくて、
力強いマッサージめいた手つきで極力セクシャルさを排し、しゃっしゃと流していく。

ノウブル > 「…とは言え、一度そうなった所で、俺自身は心配無い
傍に誰も居なければ…、……其の方が、良いだろうからな。」

(一人で在れば、周囲に獲物が居なければ
少なくとも、頭を冷やすだけの猶予は与えられる
逆に言えば、此れまで単独で在ったのは、其れも要因
無論、己を鎮める事が出来る者が居れば其れが良いのだろう、が

少なくとも――今までに、そんな危険を冒そうとする者は一人も居なかった。)

「……生きる為も在る。 其れだけでは無いが。
……俺は、脅威を狩る為の戦士だ。 魔獣、魔族、何でも構わん
人の害と為る物を狩る。 ……其の為に、居る。
……? ……いや、俺は。」

(自分の事について話すのは――実際の処、苦手、では在る。
如何話したものか、と言うのも在るだろうし
元来、饒舌な方では無いのだ。
ふと、女が己が目前、立ち上がるならば其の姿を見上げ

そして、自分も流すと己が背後に回られるなら
始めこそ、大丈夫だと女を制そうとしたのだが
結局、押し切られる形で背中を任せる事と為るだろう

女とは違う、発達した筋肉。
柔軟さも備え、野生の獣を想起させる其の肉を、女の指先へと伝えながら
己が背を、女の指が這う感覚に、僅か、困った様に。
マッサージめいた指の動き自体は、とても心地よかった訳だ、が

――僅か、水の中に、深く腰を沈めた。
足を延ばし、腰掛ける体勢では在る物の、僅か落ち着かなさを感じさせるだろう

――澄んだ水、透明度の高い水質は、森の中で濾過された結果だろう
もう少し時間が経ち、完全に暗くなって仕舞えば、逆に互いの姿すら見て取るのは難しくなるやも知れぬが
洞窟側で燃える焚き火の明かりが、まだ僅かに届く今
或いは女の視界に、水の中の様子は、見て取れて仕舞うやも知れぬ

――――未だに、落ち着く事なく、反り返った儘の熱の威容が、在る、と言う事に)。

シンディ・オーネ > 「…そう。」

ノウブル自身に危険が無いと聞けば、それならと素直な安心材料に。
しかしここまで状況が把握出来ると、ノウブルが一人でやっていた理由が
単純に仲間に恵まれなかっただけではないと分かる。
狂戦士と言えばもうしょうがない感じだが、ノウブルの人柄もあると、それが何だか少し寂しいものに感じられた。

「…人のために狩るという事? 勇者なのね。」

見返りを求めず人知れず人にとっての害悪と戦うと聞くと、
それは恋人が憧れる勇者そのものであるように思え、
イメージするのとずいぶんタイプが違うぞと、思わず複雑そうな顔になる。

それを誤魔化すようにちょっと勢いで押して、多少慣れればごっしゅごしゅ素手とは言え力強く背をこすり。

「……。」

なんか心地よさそうな気配を感じれば肩揉んであげようかと背後に立つが…
それで、見えてしまった。今だ反り返ったままの――

「――ッ… っ…!」

慌ててざぱんと腰を下ろして、ぺたぺた間に合わせに背を撫でるが動揺の手つき。

…あそこまでしてしまったら何だか今更で、ここまできたら、という思いがやはり無くは無い。
ノウブルはこんなに私を気遣ってくれているし、では私も、ノウブルの辛いところを慰めるべきではないのかと――

しかし、それは違う話だ。
ノウブルは既にこらえて、すまないと言ってくれた。
ノウブルがまだ熱を滾らせていて、私に疼きが残っていたとしても…
私達は今、それが間違いだったというスタンスでいるのに、そうさせている私から受け入れてしまっては。

…過ちは過ちだと、心苦しくなる気持ちに言い聞かせる。
言い聞かせなければならない、のがもう問題なのだが、本人は踏み止まったつもりで。

「――さ、さあ、上がろう! 冷えてしまうから。」

冷たくなってきてるじゃないと努めて明るく。
髪も流したかったが、引き上げようと促して先に上がろうとする。
よく考えたら二人とも全裸で、感覚がマヒしているぞとじわじわ肌を赤らめながら。

ノウブル > 「―――――……狩人は、狩人でしかない。
勇者とは称賛されて然るべき名を残すだろう、だが、俺は違う
俺の其れは、課せられた役割だ。」

(背を預けながら、紡ぐのは――女が、或いは一般的に想像する勇者と
己とは、似ても似つかぬ存在だと言う事
目的の為には手段なぞ選ばず、目的を果たす為ならば、付随する問題なぞ些細
自らの犠牲すら厭わず、名声に囚われず、全う出来ぬならば名も知られず朽ちて行くだけ

――そも、其の起こりは、辺境の部族にて選ばれし、憤怒を司る戦士
部族の為に身を粉にし、一族を護る為に其の全てを捧げる為の存在
故に其れはもう、勇者と呼べるような物では無いのだ。)

「――――……先に上がると良い。 俺は…、……もう少し、頭を冷やす。
必要なら、先に寝て居ろ。 ……明日は、狩りはしない。」

(女が、慌てた様子で立ち上がり、泉から上がる様促すなら
己は未だ身を沈めた儘、女へとは振り向く事なく――戻る様に、促した
相手だけが立ち上がれば、矢張り水の中に猛り立つものが見えて仕舞うだろう
僅かだって萎える事なく、直ぐにでも再び女を貫き、其の胎の奥までをも
みちりと埋め尽くして仕舞うだろう肉の楔

当然、そんな状態で立ち上がれば、女の目前に其れを見せつけるだけ
此方の事は気にするなと、一言付け足しては。)

「………でないと、また我慢出来なくなりそうだ。」

シンディ・オーネ > 「…見返りは?」

これまでの人生における立場の大半が村八分の中にあり、
公共の利益のために、といった意識はかなり薄い方だった。

狩人と言うからには狩ったものが戦利品という事になるのだろうけど、
人類の敵と戦うのが使命のように言われると、まさか人々の未来が報酬なんて言い出さないだろうなと
斜に構えたような形の目が少し険を帯びた。

だとしたら見栄を張りたがる勇者より勇者している気もするが、
そういう人にこそ自分を大事にしてもらえないと、かえって世界が憎らしく思えてしまう。

「……。」

先にと促されて、そうしようとするが、無言はどこか踏ん切りがつかない様子。
先に上がってしまって良いのか、寝てしまって良いのか、それは薄情じゃないのかなんて。

くるぶしまで水から上がって振り返り…
未練のように引きずってしまう思いはあるが、しかしもう答えは出している。
私がなびいてしまっては、意味が無い。

もっともらしい事を考えて、肉欲に溺れようとしているだけだろうと、
雑な言い聞かせ方で、ぎゅっと拳を握る。

「……。」

立ち去る直前、付け足された言葉は確かに聞いた。
――ぞくりと震える体にうろたえる。
自分の身体がそれをどれだけ求めているのか意識させられながら、
しかし魔術師一流の精神力はそれに抗った。

…世間一般にはもう手遅れなのかもしれないが。
本人の価値観としてはノウブルとの一連の関係にまだ言い訳が立ち。
自ら他の男を求めた事は、まだ一度も無いと言える。と思っている。

「ありがとう。」

よく我慢してくれたと、よくも好いてくれたなと、
とんちんかんかもしれないが、自然と出たのはそんな言葉。
足早に拠点へ戻り、色々荒れているのをちょっと片付けたら、寝袋に閉じこもる。

ノウブル > 「……求めてどうする?」

(何か見返りを求めたとて、叶うとは限らぬ
何かの為に何かを行う、と言うのであれば、其れは傭兵と変わらぬのだ
だが、己は違う。 己は、もっと理不尽で、人間と言う種の側だ
おとぎ話の勇者の様に、人々の明日の為、なぞと言い放つほどの崇高さは無い

ただ、自らの為に生きて行く。 生きて行く為に狩る、其れだけ。
己は、ただ、其の為に生まれ、育てられ、そしてこの紋様を刻まれたのだから。
だから――何も、周囲が気に病む事なぞ無いのだ。

女が、其れでも暫くの間は、結論を先延ばしとする様に岸辺でうろつく
水の中へ身を沈めた儘で、小さく溜息を零して居れば
其の内に――其の気配が、洞窟側へと、遠ざかって行くのが感じられた。)

「………だから、人が良いと言うんだ、御前は。」

(――仮にも、自らを組み敷き、犯し続けた相手に対して
この期になって、感謝の言葉すら響かせるのなら
……相手に届いたか否か、そんな言葉を胸に、泉へ沈む。
焚き火の明かりに、もし火をくべて貰えたならば有難いが
寝袋へと閉じこもった女が、漸く温かさを取り戻すなら
己の事なぞ、気に留めずに居ても、其れは其れで居のかも知れぬ

――――女が目を空けている間。 雄が戻って来る気配は無い。
或いは――女が、僅かに一寝入りした、後でも
もしも、途中で再び泉まで戻って来る事が無くば
ずっと、ずっと――日が昇るまで)。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林地帯」からシンディ・オーネさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林地帯」からノウブルさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯/魔物が棲む森」にアムネジアさんが現れました。
アムネジア > 薄っすらと霧のような雨が降る夜のことだった。
暗い暗い森の中。
例えば、近隣の村の住人が「あそこには魔物が棲んでいる」と噂するような森。
子供達の肝試しの場所になったり、希少な植物採取に冒険者が入ってきたり
あるいは、人には言えない密会や、死体を捨てに来るような者が踏み込む場所。
鬱蒼とした木々、狭間の獣道を辿っていけば――そこに辿り着く。

ぽっかりと、開けたような場所。
そこだけ円形に木々が朽ちて、倒れている場所。
幾本もの倒木。横たわるその一本に、その女は腰を下ろしていた。

「嗚呼――とても佳い夜だね。」

まるでそういう言葉を口にすることが台本に定められているように
紅を刷いたような唇が言葉を紡ぎ出して、奏でる。
片膝を伸ばして、片膝を曲げて、ゆる、と両手で膝を抱いた座り方。
どれくらいそうしていたのだろうか、夜の霧雨は遠慮なくその身体を濡らしていた。
白いシャツはしっとりと肌に張り付いて、その奥の肢体を浮かび上がらせ
濡れた髪の毛が一筋はらりと零れ落ちて頬に触れる。
水滴が滴り落ちそうな睫毛の下の蒼い瞳。虹彩に紅の混じった瞳。
視線は、どこを見るでもなく、雨に濡れていく森の中を茫洋と、眺めていて。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯/魔物が棲む森」にティアさんが現れました。
ティア > 「はぁ、さいあく。こんな森を抜けて帰らなきゃいけないだなんて、店主も頭おかしいんじゃないの……」

夜に染った深い森の中を、一人の少女が歩いていた。
今日の仕事は王都の浮遊地区での出張営業で、いつもの如く下衆な貴族たちに弄ばれた少女の体は既にクタクタだった。

ボロ雑巾のような布切れ一枚で、奴隷都市バフートヘ帰るにはこの森を抜けるのが一番早かった。
しかし、齢12歳の少女が一人で出歩くには危険な時間帯。ましてや、こんな格好をしていればまるで「誰か襲ってください」と言っているようなもので。

「うわっ、垂れてきた……もう、ほんと……さいあく」

股の奥から垂れてくる液体に、不満そうな表情を浮かべながら、森の中を満ちていく霧の群れに眉根を顰める。

「……お化けとか、出てこないよね」

奴隷として生きていても、中身はまだ子供。そういった、オカルト的存在にはとても敏感で、立派な恐怖心を抱く年頃でもあるわけで。

そんなものは存在しないと、自分に言い聞かせながら歩いていると、開けた場所へと抜けた。
木々が朽ち、何本もの倒木が連なったその場所に、一人の人影を見つけてしまう。

「ひっ……」

思わず声を上げた少女はその場に尻もちを着き、その人影へと怯えるような表情を向けた。

アムネジア > 怯えた様なその顔を、蒼い瞳が見下ろす。
霧雨に霞む中で見えたその姿は――人ならざる者に見えたか。
その通りだ、と唇が柔らかく弧を描いてみせよう。

「今晩は。可愛らしいお嬢さん。」

そこから零れ落ちるのは、そんなまろやかな声。
まるで値踏みするように、瞳を細めてみせて。
するり、と流れるような仕草で――倒木から飛び降りる。

じっとりと女の靴と少女の尻を湿らせる水を含んだ下生え
躊躇うことなく踏みながら滑らかな仕草で近付いていく。

「こんな時間に、こんな場所で、何をしているのかな――?」

歩く仕草に混じるのはそんな問いかけ。
それと共に、右手をゆっくりと伸ばす。
傷ひとつない細い指。けれど、充分な栄養を取っているのだろう色艶の良い指先が、霧の雨にぬれていた。

ティア > 気付かれてしまったと、口を塞いだ時には既に遅かった。
鼓膜へと届く心地のいい声色が、少女の体を縛りを付ける。
まるで、腰から地面へ根を張るように、少女はその場から一歩も動くことができなかった。

魔族でもなければ、それに類ずる存在でもない、ただの人間である少女ですら、目の前に立っているのが自分と同じ人ではないと、気づけてしまうくらい、目の前の"それ”は美しかったのだ。

「……私は、家に帰る途中で、何をしに来た訳でもなくて、だから……」

見逃してくれと懇願するように、少女の瞳は涙で潤っていく。
魔族と遭遇することなんて、滅多にない少女にとって、この未知の邂逅は恐怖以外の何者でもなかった。

腕を伸ばされ、彼女の傷一つ無い指先が此方へと向けられたならば、少女は硬直した体を無理矢理にでも立ち上がらせるだろう。
そして、決して叶うことのない逃亡の選択を選ぶだろう。

アムネジア > 必死で言い募られる言葉。
それを聞いた蒼い瞳に宿るのは笑み。
頬を笑みの容にすれば、紅の微笑がより濃く、よりはっきりと少女にも見えるだろう。
穏やかなそれは、さながら獲物を目の前にした肉食の獣が浮かべる艶に似て。

「ああ――わかった。
 つまり、君は一人で此処に来た訳だ。」

だから…の後に続く言葉を追いかけるでもなく
彼女の言葉を反芻するように頷いていく。
そして、伸ばした手指から逃れるように立ち上がる幼い身体
―――その手を、容易く女の手指が捕えてしまうだろう。

「僕は、アムネジア。
 ねぇ――?君のことをもっと、教えてくれない?」

“そうすれば、酷いことはしないよ”そう聞こえたのは彼女の願望が生み出す幻か。
空いた手が伸びれば、まるで薄紙のように濡れた少女の衣服を破り去ってしまおう。
まるで、拾った小動物の身体を確かめるように裸身を、曝け出そうとして。

ティア > 彼女の言葉を聞く限り、どうやら見逃してくれはしないようで、少女がそれに気づいた時にはもう、その綺麗な指先が、少女の腕を掴み取っていた。

「……いやっ、やだ、離してよ
私、帰らないと……っ、帰らないと、いけないのに……」

自分のことを教えて欲しいと、そういったアムネジアの言葉の裏に、聞こえていないはずの声が隠れているような気がした。
恐怖のあまりに固まってしまった少女の体から、服と呼ぶにはあまりにもお粗末な布切れが、いとも容易く剥ぎ取られてしまう。

そうして顕になった少女の体。
脂肪もなく、筋肉もなく。骨が浮き上がり、胸の膨らみも粗末なもので、奴隷のオークションに掛けられたとしても大して値のつかない貧相な身体付き。

下着も着けていないから、上も下も丸裸で、腕を掴まれているせいで隠すこともできない。

「……服、返してよ……っ、これじゃ、帰れない……」

霧に濡れ、その冷たさに身を震わせながら、少女はアムネジアの手を振りほどこうと、腕に力を込める。しかし、はたして少女に彼女の手を振り解けるほどの力があるのだろうか。

アムネジア > まるで当然のように少女の衣服が襤褸布としての意義を思い出し
容易くその身を隠す役目を放棄してしまったよう。
露わにされてしまった肢体。それを蒼い瞳が映し出して、瞳の中の紅が瞬く。
そんな自分の腕を振りほどこうとするのは当然だろう。
けれど、女の指先は大して力を込めているとも見えないのに小動もしないまま。

「帰る?面白いことを言うね?
 そこは、君の本当に帰る場所かい…?
 そもそも、帰る場所はまだ残っているのかい…奴隷のお嬢ちゃん。」

柔らかな言葉が、彼女の境遇を言い当てて問いかける。
特別な力を使った訳ではない。彼女は名前も、何も知らない少女の侭だ。
けれど、身体を衣服を行動を見ればわかるだろう。
だから、艶やかな笑み刻んだ侭、女は問いかける。答えを求めない問いかけを。
そして、そのまま手を握っていない方の指が、少女の顎を持ち上げる。

「まァ――良いさ。安心して。殺しはしないから。」

―――それ以外の全ては覚悟してもらうけれども。
甘く、囁きかけるような声音に含まれた彩が、少女にもわかるだろう。
そのまま、滑り落ちる唇は口付けになって少女の唇に触れる。
女の唇は雨にぬれても暖かく、艶を帯びて感じるか。
そして適えばそのまま、ぬるりと伸びる舌先が唇の袷を割り開こうとしていく。


同時に、無数の倒木が蠢いた気がした。
まるで、生命のそれであるかのようにびく、ひく、と。
少女がそれに気づいたかどうか―――。