2020/03/25 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 荒地」にアルヴィンさんが現れました。
■アルヴィン > 春の夜は、もうとっぷりと暮れ果てた。街道から外れた草深い荒地を、月影だけが照らしている。幸いにして、冒険者ギルドでの依頼を受けることができ、騎士はこうして夜道に軍馬を征かせたのだった。
主戦場から王都へと至る街道にここのところ、戦死者達が不死者となって現れるという。
動く死体…ゾンビと呼ばれる不死者となって。
さすがに日中から出没するということは滅多にないが、夜ともなると王都近くでも目撃されることがあるという。
この討伐が、依頼であった。
ゾンビの出現の原因が突き止められればよし。でなくとも、一定数以上、討伐をしても依頼達成であるという。
首でも持ち帰るのかと問えば、依頼達成報告時に、魔道具にて審査するので、虚偽の報告はまかり通らぬとか。
それは便利だと、むしろそちらに興味をひかれる騎士の呑気な様に、ギルドの職員には随分と胡乱気な顔をさせてしまったが、騎士はこうして街道を進み来たり、目撃が多いという場所に至って街道を外れ、ゆっくりと草深い荒地に馬を踏み入らせたのであった…。
■アルヴィン > 軍馬が、不機嫌そうに鼻を鳴らす。臭い。腐臭がする、とでも言いたげな、なんとも言えぬその様子は、利口さゆえにかずいぶんと人くさい。苦笑しつつ、軍馬の鬣を騎士の掌が撫でている。
「まあ、我慢をしてくれ。これが終わったら、人参、林檎、ああ、それに小麦もたっぷりの贅沢な餌を食わしてやるから」
勘弁してくれぬかなあ、と。宥める様子は人と馬のやりとりというにはどうにも長閑であった。特に、夜も更けた死体の動き回る荒地の中、という状況下では。
周囲に漂い始めた腐臭めいた瘴気を、騎士自身も気づいている。が、長閑な気配を崩すにはどうやら至らぬらしい。
下馬する気配も見せぬまま、ゆったりと長閑に軍馬を征かせるのみ…。
■アルヴィン > ぴくりと、軍馬の耳が動いた。騎士もまた、同時に気づいている。
…いる。
前方、まだ独特の低い呻きは聞こえてはこない。が、気配を殺すという知恵すら失った死者達の、その蠢動が生む空気の乱れを、騎士も軍馬も察していた。
ゆっくりと、鎧を鳴らして騎士は愛馬の背を降りた。
左の腰間に佩いた剣は、抜かぬままだ。
今宵騎士が武器として選んだのは、フランジと呼ばれる突起が設えられた鎚鉾…メイスと呼ばれる武器だった。
盾は、丸盾。手首から肘までを覆うほどの広さしかないが、それで十分と騎士は見極めをつけている。
動きの遅い死者達との戦闘において、絶対的に守らねばならぬこと。
それは、一撃で不死者を葬る的確な一撃と、決して周囲を囲まれぬ位置取りを保ち続けることに他ならない。
軍馬もまた、利口というだけでなく、随分とこういった場面に慣れているらしい。怯えた気配を微塵も見せず、一定の距離を保ってかっぽかっぽと蹄を鳴らして主の後に付き従う。
万一、後ろから現れる不死者でもいたならば、その強烈な後脚にて、それこそ腐った身体が粉砕するような蹴りをお見舞いされるに違いない。
背後の守りとして、頼もしいことこの上ないと、騎士もまた戦いを前にしてゆったりと口許に笑みを刷く。
■アルヴィン > おめきとも、呻きともつかぬ低い低い声が届いてくる。草が倒れ、擦れる気配ももう、遠くない。金属質の音が時折混じるのは、死者達が身に着けていた軍装が、未だに腐った身体を鎧っているためなのだろう。
そして…腐臭はもう、まごうことなく騎士と軍馬の許へと届いていた。
灯を、騎士は燈してはいなかった。
暗闇にて、明かりに頼らずに闘うことを、この騎士は徹底的に仕込まれていもいた。寡勢を以って大敵に挑まねばならぬことの多い聖騎士にこそ、闇は味方にせねばならぬもの、というのが、柔軟極まりないこの騎士の師の教えであったからだ。
この朽ち寂びた戦場を照らしているのは、月影のみ。青い青い月影だけを戴いて、騎士は右手のメイスをゆっくりと、そしてしっかりと握り直す。
柄尻から伸びた輪になった革紐。そこに右手をしっかりと遠し、鎚鉾の柄は柔く握る。力を、今から入れておく必要はない。柔と剛とを、瞬息の機と間合いとで切り替える。それこそが、騎士が仕込まれた雲耀の剣の極意に他ならぬ…。
■アルヴィン > 生者の気配を、匂いを、何より命の灯の熱を感じ取ったものだろう。不死者どもはやがて、明確に騎士と軍馬とを目指してそのおぞましい歩みを進め始めた。
呑気に待つつもりはないと、騎士は鎧を鳴らし歩を進め、そして…蠢く影をみとめるや、一気に低く地を蹴った。
低く鋭く、騎士の左脚が間を殺す。一気に不死者のその懐へと踏み込んでゆく。
「…シっ!」
鋭い呼気が引き結ばれていた唇を衝いた。同時に、騎士の右腕が、迅る。
雲耀の剣にて鍛えられたその一撃は、武器がメイスになっていたとて変わりはせぬ。不死者の首から上を、フリンジの備えた鉄塊が薙ぎ払う。飛び散る腐肉と腐汁とは、しかし騎士の白い鎧を汚すことは能わなかった。それが飛び散り降りかかる頃には、騎士の姿はそこにはない。
薙いだ一撃のための踏み込みが、そのまま次の一撃のための運足になる。
一撃一撃を、一打必倒、一刀必殺の剣と成せ。
それが、騎士の師の教え。
そのまま、騎士は不死者の群れへと颶風と化して斬り込んでゆく…。