2019/03/22 のログ
ぼたん > 「…アレ?」

伺った向こうには、のんびりと草を食む馬がいるのみ。
墨色の瞳を何度も瞬かせて

(…夢でも見ちまったかしら)

それにしては、いやに大音量ではあったけど…
そうして差し掛かる影。
月に厚い雲でも掛かったかと思わず振り仰げば――

「!?…わ」

此方に向かって飛び掛かろうとする影であることに「わ」の口のまま後ろへごろんと一回転。
そのまま腰が抜けたらしく、べちゃっとへっぴり腰でうつ伏せにへたり込んだ。
くるりと器用に着地して、呑気に挨拶する男に、草まみれの顔をゆらっと上げて

「………ひさしぶり」

何度か瞬いて、男の事を思い出す。
思い出したけど…草まみれのへっぴり腰の女は、さほど嬉しそうでもない。

「何、してンの…こんなとこで…」

先ほどまで踊り狂っていた自分の事は棚に上げて、闊達な男にぶっきらぼうに問うた。

フォーク > 何をしているのか、と訊かれた男は人差し指を天に向ける。そしてにこやかに微笑んだ。

「こんないい月の夜に家で寝ている暇なんてないでしょう」

男はへたり込む女の正面にどっかりと腰を下ろすと女の姿をまじまじと眺める。
上はシャツ一枚だが、下は黒い下着だけだ。実にそそる。妙に心が浮き立った。
月の夜は開放的な気分になる人もいるらしいが、女もそのようなタイプなのかなと考えた。

男は女の顔から落ちた草を手にとると口に運び

「お、これはなかなか……」

悪くない、と満足げにうなずくのであった。

「ぼたんさんこそ何故こんなところに?」

ぼたん > 「……まァ、そいつは同感だけどね…」

月夜に心が浮き立つのは『狸』の本性だと思っていたけど…人間も多少はその心があるのか、と少し首を傾げてから、不承不承、頷いた。
自分の顔から落ちた草を食んで、満更でもなさそうな男。
女は眉をちぐはぐな方向に向けてそれを眺めてから、問いかけに気を取り直したように首を傾げた。

「…アタシも、月夜だから。
花もたくさん咲いてきてたし…あと、誰もいないと思って」

ぐいーと、伸びをするように腕で上体を持ち上げる…腰がまだついてこない様で、それに少し顔をしかめた。
それでもその尻の厚ぼったい尻尾は、月の光にゆらゆらと上機嫌に揺らされている。

「にィさんは歴としたヒトなんだから、昼間に花見に来てよ……」

夜は獣に譲ってほしい…そんな思いを込めて、上目で恨み言を零した。

フォーク > 「昼間にみる花もいいけど、俺はどちらかというと夜の花の方が好きでね」

男は花が咲いている草原のほうに体を向けた。
昼の花は美しいが、夜の花はその美しさの中に僅かな淫靡さを孕む。男はそれが好きだった。
そしてふと、自分が本当にヒトなのかどうかと考えてもみた。自分は人間として随分と欠落している気がする。
女に続いて男も軽く首を傾けるのである。

「ぼたんさんは昼間……は忙しいのか店が」

女が酒場を営んでいるのは聞いている。昼間から夜にかけては店を切り盛りしないといけないのだろう。
真夜中の休息のひとときを楽しんでいるところを邪魔してしまったのかもな、と微かに考える男である。

ぼたん > ふぅん…と納得しかねる、というよりは、不満だけども好みというなら仕方がない、というように頷く。

男に吊られるように草原の花を見る。
草叢の間に咲く小さな花たち。
香りこそ放たないが、その色どりは月明りの下でも明らかで、それに思わず目を細めて、耳をひこひこと動かした。

「ん?あァ…店ね」

男に問われると曖昧な笑みを零す。
どうやら腰は立たないのを諦めた様子で、寝そべった格好で地面に頬杖をついた。

「…この時期アタシ、ぼーっとして商売ンなんないから、森に籠ってお休みしてんの…」

男に詳しく言う気はないが…獣に取って恋の季節だ。
女のほうはその気がなくても、身体からはそれが香るようで滅多やたらと雄の動物が集まる様になるのである。
ヒトにはどうやら影響がないのが、唯一の救いだ…

「にィさんは、夜のが暇…だよね」

当たり前か、頬杖のままとけらっと笑う。

フォーク > (体は正直ってやつかねえ)

女には人間にはない獣の耳と尻尾がついている。耳も尻尾も実に活発に動いていた。
口調はどこかぶっきらぼうではあるが、口ぶりほど気分はアンニュイではないようである。

「春の陽気ってのはどうにもぼーっとさせるよな……ぼーっと」

女が寝そべって頬杖をつく。隣で胡座をかいて座っている男はぐい、と上半身を後ろに反らした。
尻尾が生えている女の下半身を堪能するためである。

「昼も暇かねえ。今日なんかやることがねえからずっと街をぶらぶらしていたぜ。
 面白そうなもんが通りかかったら飽きるまでそれについていったりしてな」

仕事がない傭兵はとことん暇なのである。しかしいくら暇でも部屋に閉じこもっているような男ではない。
天井の節穴の数よりも街路樹の本数を調べるほうを選ぶ奴なのだ。

「で、ついていってたらあっという間に夜よ」

鍛えまくった背筋で上半身を支えながら堪能しようとする男の声は少し震えていた。

ぼたん > 尻の尻尾は黒い下着から起用にはみ出させている…ちゃんと穴があけてあってそこから出しているので、覗いても尻そのものは見えないだろう。
とはいえ、柔らかそうな白い太腿は、季節柄か…月光の中すこし艶がかっている…
なんて自分の後ろ事情を女は知る由もなく。
昼も暇だという男にくすくすと笑って、半身を後ろに反らす男を少し、目で追った。

(腰でも痛いのかなあ……)
震える声を聴けば、ぱたん、と両腕の頬杖を止めて頬を地面に着けた。
草と土のにおいがする…

「…んで、美人局にでも引っ掛かったんだろ?」

男が『付いていく』類なら、どうせそんなところだろうと。
…そういえば、男が連れていた馬…雄じゃないよね…と内心思いやったりして。

フォーク > 「そんな艶っぽい話だったらいいんだけどねえ」

女が顔を地面に伏せたなら、男は体を横に倒してそっと女の下半身に顔を近づけるのである。
動物の雄を誘う女の身体は、動物のみならずこの男も惹かれたようだ。

「いやあちょっとしたパレードさ。変な帽子と仮面をつけた変な笛吹きが子供たちを連れて街を行進してたんだよ。
 こりゃ面白いってんで子供たちの先頭を歩いて街まで出たんだけど調子に乗って跳ねてたら俺、川に落っこちたんだ。
 そしたら子供たち急にみんな逃げ出しちゃって」

不思議なことに行進してる時のことは覚えていなかった。気がついたら行進に参加していたのだ。

「で、川から顔を出したら橋の上から笛吹きが俺をじっと見下ろしていてよ『もう少しだったのに』って呟くと去っていったんだ
 何がもう少しだったんだろうな?」

ははは、と笑いながら男は女の下肢を眺めていた。
ちなみにビッグマネー号は去勢をしていない雄馬である。もし女が獣を引き寄せる匂いを発しているなら反応をするだろう。

ぼたん > 自分の尻の方から喋る男。
何だか目で追うのが面倒で、女は寝そべったまま両手の指を組んで、顎を載せて男の話を聞いていた。
…何だか聞いたことがある話のような。

「…その最後の言葉、よく怪談話であるやつじゃないのさ……」

男の話の、違和感を突き止めようと考え込む、女の尻尾がぱたん、ぱたんと大きく振られれば、男の顔に降りかかったりするかもしれない。

「…もしかしたらにィさん、危ないとこで命拾いしたのかも、ね……」

考え込みながらそう、呟く女の上に暗い影。
振り仰げば……男の馬が大層興奮した様子で、鼻息荒く女を見下ろしている。

「………」
(どおしよ…)

腰が抜けている女は、馬を見上げたまま思考停止。

フォーク > 「なに?ぼたんさん幽霊とか信じちゃうタイプなの?そんなのいないって!
 俺戦場でいっぱい死体を作ってきたけど、一度も祟られたことねえもん」

一度冗談で霊媒師に診てもらいに行ったが、顔をあわせるなり泡吹いて卒倒したので結果はわからなかった。
だけどわからないのなら多分、存在しないのだろう。男は楽観的に考えていた。死ねば、無だ。

「もし幽霊がいるならそいつら集めてサイン会が開けるぜ」

そうケラケラ笑う男の声が途中で止まったのは、尻尾で顔面を叩かれたからである。

「命拾いは傭兵の特技みたいなもんさ……も、ちょっと」

尻尾の動きに注意しながら、また下半身鑑賞に熱中するのであった。

さて一方、ビッグマネー号。女の放つフェロモンにすっかりと魅惑され、女の前に立ち塞がった。
腹を叩かんばかりに反り返ったペニスは先走りで濡れそぼっており、その下に揺れる睾丸はいかにも精をたっぷりと蓄えてそうだった。

ぼたん > 「信じちゃう、ッてえ言ったって……アタシがその類だしねえ…」

ぼやっとそう零して、またばたん、と尻尾で男の顔面を叩いた。
今度はもうちょっと、強く。
その当の女の眼は、立ち塞がった立派な雄…ビッグマネー号を上から下まで見て、目を白黒させて……

「……わわわ」

腰が抜けたまま後退さろうとして。男の顔に尻をどすんとぶつけそうになる。

「ごごごごめ……」

一応律儀に謝ろうとしながら、前門の馬、後門の男の間で上半身だけがあたふたと、意味のない動きでわたわたと宙を掻いた。

(……狸と馬の合いの子
………とっても可愛くなさそうな…
うん?よく考えれば可愛いかも?…じゃなくって)

フォーク > 「ぼたんさんは違うでしょ……幽霊がこんないいケツしてるもんかよ」

男の基準では妖怪と幽霊は違う存在のようだ。妖怪から死の匂いを男は感じないのであろう。
女からは健康的な生の気が立ち上っていた。

「わわわ?」

女の下半身に熱中していた男。女が驚いた様子なので顔を上げた所を尻尾付きの尻がガツン!と顔面にぶつかってきた。
慌てた女の謝罪を男は聞いていなかった。油断してるところに一撃食らって気絶してしまったのである。

一方、ビッグマネー号。巨大な顔を女に近づけるとスンスンと匂いを嗅いだ。ビッグマネー号からも雄の獣臭がするだろう。
女が牝と理解したビッグマネー号は分厚い舌で女の顔を舐めようとする。そしてペニスを近づけて牝を威圧しようとする。

ぼたん > 「そォ?いいお尻してる幽霊だって居そうなモンだけど…」

律儀に返答を返す。
その相手、もしかしたら助けになったかもしれない男を自分の尻で見事に一撃でノックアウトする女。
男を本当の意味で尻の下に敷きながら、鼻腔はビッグマネー号の発する雄の匂いを嗅ぎ取った…背筋にぞくりと何かが這う。

「ちょッ……まッ……」

待ったらいいという訳でもない。
そう思いなおしてどう説得しようかとぐるぐると考え込んでいると、べろんと顔が分厚い舌に舐められる。

「…ほんと、アタシ……」

恐怖に驚きに、色々な感情が混ざり合って混乱し始めた、女は頬を紅潮させて、ぼろぼろと涙を零し始める。

「狸同士でもした事ないンだって……」

それなのに…どうしろというのだろう?

「きっとへたっぴだから…見逃してよ…」

顔を覆って、ぎゅっと丸くなってしまった。
……男を尻に敷いたまま。

フォーク > ビッグマネー号は、フォーク・ルースが無茶苦茶な理屈を振りかざして藁一本から物々交換をして最終的に手に入れた雄馬である。
ずば抜けた名馬ではないが、戦場を駆けた距離では同じ年の馬で勝てるものはいないだろう。

牝の香りに惹かれた馬は、牝を服従させようとした。
だが、牝は目には涙が流れていた。獣だって辛い時や哀しい時は泣くのである。

『フラれたな、俺は』

ビッグマネー号は小さく嘶いた。
そして最後に顔を隠す女の首をぺろりと舐めると、そっと身体を反転させてその場を後にする。
相棒を置いて。

ビッグマネー号は紳士である。

ぼたん > 固まった身体に、首筋を舐める感触が這ってびくりと震えた。
その優しげな感触に恐る恐る、顔を上げれば……そっと去っていく、ビッグマネー号の後ろ姿。
それは霞みがかった月の光に柔らかく照らされて、森林の暗い影の方へと歩み去っていく……
そよと風が吹いて、噴雪花が少し散って白く舞った。

「………」
(名前、直接、聞けばよかった……)

震える半身を両手で支えて起こして、『彼』を見送る…女の眼には妙な熱が籠っていた、かもしれない。

(…せつない……ッて何か違うけど…)
たぶん。

女が見送る、『彼』の主であるはずの男はすっかり女の敷物の一部だ…

フォーク > 月下のロマンスをよそに、男は女の尻の下に居た。
気が抜けた所に一発お見舞いされて昏倒はしたが、この男の生命力は生半可ではない。
丘に来る前に少し酒を入れていたこともあり、柔らかな女の尻の下ですっかり熟睡してしまっている。
今夜はもう目覚めることはないだろう。

以下は男が目覚めてからである。

「あれ?ビッグマネー号。ビーッグ…ビッグちゃーん……くそ、あいつ先に帰りやがったな。
 相棒を置いてくような奴は屋敷と交換しちまうぞ! でもなんで寝ちゃったんだろ。すごくいい夢をみたような」

どこで男が目覚めたかは不明である。

ぼたん > 女は『彼』の姿が見えなくなるまで見送ってから、ゆらりと立ち上がった。
いつの間にか抜けた腰は戻っていたらしい。

「……かえろ」

霞む月を見上げて、耳をひこひこと動かして、厚ぼったい尻尾を一振り。
そうして尻の敷物化していた男を思い出したように見下ろして。

「……風邪引いちゃ、敵わないからね」

多分そんなことは、あり得ないと女自身も解っていながら。
当初男が食んだ苦い草を適当にむしって、こんもりと振りかけておく。
苦い匂いに、薬効とかそんなのが、あるかもしれない。

「…ほんと、良い夜」

そうして跳ねる足取りで草原を去る女の頬は、すこし桜色だったかもしれない……

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 月夜の丘 」からぼたんさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 月夜の丘 」からフォークさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > 深い森の中で、男が一人剣を構えている。
相手は居ない。剣を振るでもない。
それだけだというのに、男の顔は、まるで焼き鏝でも当てられているかのように、苦痛に歪んでいる。
その表情の前に、葉が一枚、落ちてきた。

「――っ!」

もし、此処に男の他に誰かが居れば、男の剣が"ブレた"様に見えただろう。
そして、そのブレが終わった瞬間、葉がぷつりと二つに切れる。
一秒にも満たぬ時間の内に、剣で葉を切ったのだ。
神業とも言えるが、

「っ、あ、ったあああ……」

その神業を成した男はと言えば、切ったと同時に尻もちをついていた。
青い顔で浅い呼吸を幾度も繰り返す。
全身に嫌な汗を掻いているその姿は、剣士と言うよりは病人の様であった。

「クッソ、前はこんなの楽々出来たのにな……」

悔しそうな色を滲ませ呟く。
過度な集中は、精神に強い負荷を与える。
男の先程の神業は、その負荷を代償にして行う修行だ。
実家での訓練では、これを数時間程続けなければならないが――男が耐えられたのは、ほんの数分。

「せめて、十分は物にしないと……」

とはいえ、今は動けない。呼吸を整えながら、やむなく休憩することにした。

クレス・ローベルク > また立ち上がり、再び剣を構える。
意識が感じる感覚から、土の湿った匂いと、微かに吹き抜ける風が消える。
視界は最初は澄んで、しかし次第にぼやけていく。視覚から入る情報が脳の中で急速に取捨選択が行われ、必要ない情報が意識から消えていくからだ。

「……っ」

精神のすべてが、全てが"落ちてくる葉を断つ"という結果を生むために最適化されていく。
次は何秒この世界に居られるか。
男の修行は続く――

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」からクレス・ローベルクさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林地帯」にナナカマドさんが現れました。
ナナカマド > 王都の冒険者ギルドで依頼された薬草ときのこや木の実を取りに喜びヶ原の森林地帯までやってきたナナカマド。
大きな籠を持って、森の中を歩く姿はさすがエルフと言えるだろうか。
いや、少々危なっかしい足取りで、しかし木々に囲まれていることはとても清々しいのか
その表情は安らいだものである。

この場にも獣や魔物が潜んでいるかもしれないのに無防備なのは否めない。
だというのに依頼の薬草取りに夢中になってピクニック気分で草を分け入っている。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林地帯」にセイン=ディバンさんが現れました。
セイン=ディバン > 「ふむ。こんな感じか」

喜びヶ原、森林地帯。そこで一人の男が、植物を手にとっては何かを記録している。
本日のお仕事は、森林地帯の生態系調査。
最近、見慣れぬ植物などが増えてきたということで。
その調査依頼をギルドから請け負ったところだ。

「ボチボチこんなもんでいいかな。
 さて、帰ると……」

ある程度の調査を終えた男は王都に戻ろうと考えるが。
視界の端、人影が見えた気がした。
音をたてずに近づけば、エルフの少女が随分と無防備に歩いていた。
男はその姿を見ながら頭を掻くが。

「……お~い、お嬢ちゃん。
 こんなところで一人だと危ないぞ?」

距離は近づかぬまま、声をかけてみる。
男から見れば、エルフ少女はあまりにも無防備だし、危機管理がなっていない気がしたのだ。

ナナカマド > のんきに依頼のきのこや木の実を採取しては、籠に入れ、
木々に誘われるように奥へ奥へと進んでいってしまう軽やかな足取り。
そんな折に、物音を立てず後ろから突然声をかけられてしまえば
びっくりしたのかその場で飛び上がって悲鳴を上げた。

「きゃあっ! ど、どなたですか!!!?」

恐る恐る振り向くと、中年の男性冒険者らしき人物が一人こちらを見ている。
とりあえず魔物のたぐいではなかったことにホッとして、
ドキドキと跳ねる心臓を落ち着けて返事をした。

「だ、大丈夫です! この森には何度か入ったことがありますし
 道を間違えたりはいたしません。
 それに、……わたくし、お嬢ちゃんじゃありません。ナナカマドと申します」

自分から名乗りを上げて、それから相手の男を見定める。
バトラーコート、という名前は知らないが、どうも相手の出で立ちのほうが
黒尽くめで自然地帯で動くには不便そうに見える。
ただ、野党の類には見えなかったのでそこは安心した。
のこのことセインに近寄って、会釈する。

セイン=ディバン > 男にしてみればこの森林地帯など、危険の欠片もないが。
このエリアにも魔物や野生動物はいるし、盗賊などもいるかもしれない。
そんな中実に穏やかな様子でキノコや木の実を採取している少女ははっきりいって放っておけない存在だった。

「あー、すまん。驚かせたな。
 俺はセイン。冒険者のセイン=ディバンだ。
 ここに、動植物の調査依頼で来た」

距離は保ったまま、相手に名乗る男。
遠目に見えるかどうかは分からないが、冒険者免許を開いて見せ。
相手に自身が危険な存在でないと証明する。

「いや、そういう意味じゃなくてだな。エルフなら森に関しては問題ないんだろうが。
 魔物や悪者に絡まれちゃうぞ、という心配をしているんだよ。
 おや、そりゃあすまなかったね、お嬢ちゃん」

相手の言葉に、自身が心配している部分について告げ。
男はゆっくりと相手に近づく。互いに近づけば、すぐに距離は埋まるだろうが。
そこで男は相手の名前に引っかかりを覚え。

「ん……ナナカマドちゃん?
 ……あっ……。
 も、もしかしてなんだけど。以前、水浴び場でメイド二人にイタズラされなかったか?
 その、イヌとネコって言うんだが」

突如汗をかき始める男。もしも人違いでないのならば。
この少女は、男が雇ったメイドが迷惑をかけた相手だ。

ナナカマド > 「セイン=ディバン……セイン様ですね。
 ご丁寧にありがとうございます。
 同じ冒険者のようにお見受けしましたがやはりそうなのですね、安心しました」

エルフの目は弓矢を扱う手前、割と視力は良い方だ。
相手の開いた冒険者免許を見て取って、きっと良い人なのだろうと思う。

「んん、確かに魔物や悪者が現れたらわたくしでは到底敵わないですから
 逃げちゃいますけれど……。大丈夫!
 こう見えても逃げ足は里に居た頃とても早いほうだと褒められました!」

すぐに埋まった距離に、自分を逞しく見せるためか力こぶなど作ってみせるが
細腕にはこぶの一つも出来やしない。
セインが名前に引っかかりを覚えて、尋ねるとぽかんと呆けたように記憶を探り、
みるみるうちに顔が真っ赤に染まって耳先まで赤くなる。

「イヌさまとネコさまっ……!
 い、いたずらなんて……あの、その……っ!
 わ、わたくし、変なことなんてされていませんのでっ!」

ばっちり嘘だとわかる慌てぶりで否定するも、急にもじもじしだして
俯いてしまう。

セイン=ディバン > 「あぁうん。とりあえずの自己紹介ができてよかった。
 といっても、冒険者にも悪人はいるから。
 オレが安全な人間である保障にはならないんだけどね」

苦笑いしつつ言う男。というか、この男を表する場合、善人というのは当てはまらない。
小物、外道、小悪党。そういった評価が正しいのだが。
最近はめっきり大人しくなってしまっているのでなんとも言いがたい。

「そうか。ナナカマドちゃんも冒険者だし、余分な心配だったかな。
 エルフが本気で森で逃げれば、下手なやつは追いつけもしないだろうし」

やれやれ、歳のせいか。過保護が過ぎたかな、と頭を掻く男であったが。
続いての問いへの反応については、男は大きくため息を吐き。

「……いやぁ、すまない。ウチのバカメイドどもが……。
 その、あいつらも悪気はないんだ。だが……。
 そう。特にネコのバカタレが。なんというか……。
 いや、なんにしても本当に申し訳ない。雇用主であるオレの不徳だ」

流石にその反応なら、メイド二人の言葉に嘘は無かったと気付き。
男はぺこぺこと頭を下げる。
もしも相手が何らかの補填を求めれば、当然それに応える所存であった。

ナナカマド > 苦笑いしつつ注意を促してくれるセインに、

「自分で自分のことを悪人と言う悪人はおりません。
 セイン様は優しい方なのでしょうね、少なくとも悪い人とは思えません」

幸いなことにナナカマドにはセインの悪い噂は流れてないらしい。
ニッコリと笑って受け答えする。

「わたくしのことを心配してくださったのですね。ありがとうございます。
 日が暮れる前には王都に戻ろうと思っていました。
 エルフでも夜の森は危ないですから」

また、深々と頭を下げて、背中に背負っていた籠からポロポロと薬草やきのこがこぼれ落ちる。
と、急に相手がかしこまってペコペコしだすものだから、目を丸くして驚いて
何故かこちらも頭を下げ始めた。

「そ、そんな……!面を上げてください、セイン様っ!
 元はと言えば世間知らずのわたくしのせいなのですから
 セイン様が謝る道理ではありませんっ!
 それに、わたくし、そんなに気にしていませんし……、ええと、
 とにかく、そのように殿方が謝らないでくださいまし……」

大の大人が下手に出るものだから、びっくりしてこちらも謝り合戦になってしまっている。
これではお互い埒が明かないだろう。
補填と言われても何も思いつかないナナカマドは、なんとか考えを巡らせて手を打った。

「そ、それなら今から王都に行って、お夕飯をごちそうしていただけたら結構ですので……。
 セイン様もそれで水に流してくださいますか?」

セイン=ディバン > 「自分で自分のことを善人という善人がいないように、ね。
 いやぁ……どこまでいっても中途半端な小物ってだけだよ」

相手の笑顔に、男もまたニヤリ、と笑う。
少なくとも警戒されないのは助かるな、と思いつつも。

「まぁ、流石にそんな装備らしい装備も持ってない子を見たら……。
 心配にもなるよ。と言っても、余計なお世話だったみたいだけど」

こちらこそ、でしゃばってすまない、と男も頭を下げるのだが。
目の前で相手のカゴから薬草やらキノコやらがこぼれたので、それを拾い、相手のカゴに入れてあげる。

「いや、そう言われてもだ。っていうかそれならなおタチが悪い。
 世間知らずのお嬢様を騙して、その……ぱくっ、と食べちゃうなんて。
 その、もしもキミがして欲しいことがあったらなんでも遠慮なく言って欲しい。
 それこそ、今のナナカマドちゃんの仕事のお手伝いでもなんでも。
 俺にできることならなんでもするからさ」

相手と一緒に謝り続ける男であったが。
こうなっては埒が明かない、とばかりに。自身の胸をドン、と叩き。
手伝いでもなんでもする、なんてことを口走ってしまう。
もちろん本気。迷惑をかけた相手にはしっかりと償いをするつもりなのだ。

ナナカマド > 零れ落ちた薬草やきのこを拾ってもらって、さらに籠に入れてもらったのだから
お礼の挨拶は何度も繰り返してしまう。
どこか抜けているエルフは、ようやくぽろぽろ溢れる理由を思いついて
一旦籠を置いて、深々と頭を下げた。

「ううーん……でもイヌ様もネコ様も、それ以上はわたくしに害をなそうとはしませんでした。
 本当に悪い人ならその後きっと、捕まえて売られてしまうところだったかもしれません。
 だからわたくし、本当に気にしていませんので……」

困ったようにセインに事情を話すものの、やはり大人のメンツ故に
謝ったのなら引き下がれないものがあるのだろうか。
なんでもするなどと言われてしまうと、余計に困ってしまう。

「ええと、それでは……セイン様、薬草取りが終わるまでわたくしの護衛をしてくださいますか?
 それなら危ない目にも合わないですし、心配もかけません」

いかがでしょうか?などと相手の顔を窺う。

セイン=ディバン > こうして会話をしていれば、この少女が純真で、心優しい子だというのが分かった。
だからこそ、男としては償いをしなくてはならないと考えているのだが。
相手の口から出たのは、なんとも寛大な言葉で。

「それはそうかもしれないけれども。
 だからって、キミみたいな子を勢いで騙してエッチしちゃうのは。
 許されることじゃあないだろ?」

それに、もしもそんな事までしてたらオレがぶっ殺してるところだ、とちょっとイラだったような様子を見せる男。
そこで、相手から提案をされれば、男は笑顔で大きく頷き。

「もちろん。お安い御用さ。
 ちなみに、あとどれくらい採取するんだい?」

カゴをちら、と見ながら尋ねる男。
採取、伐採、収穫系の依頼の場合、納品する分量を決められているのが普通だからだ。

ナナカマド > 「そのぅ、確かにそうかもしれませんけど……
 えっちだけで、済んで、良かったと言うか……
 わたくしには、大事な人がおりますから、何をされても心だけは守れるのです。
 もう、わたくしが許すと言っているのですから大丈夫ですよ!
 セイン様もそれ以上、謝ったりなさらないでください……!」

少し気恥ずかしいが、そう告げると少しむくれてこの話題を打ち切ろうとする。
これ以上殿方に、恥をさらさせるわけには行かないと決めたらしい。
快く護衛を引き受けてくれたセインに、よろしくお願いしますと頭を下げて、籠を背負い直す。

「そうですね、籠が半分くらい埋まるぐらいでちょうどいいと思います。
 あまり取りすぎても、次の採取までに植物が育たないこともありえますから」

籠の分量はもう少しで半分埋まるくらい取ってあった。
二人がかりなら、あと2,3時間採取すればちょうど集まるぐらいだろう。

セイン=ディバン > 「……んがっ……!
 そ、それこそダメだろ!? あんのバカ共……!
 ……わかった。今度あの二人にキツく言っておく」

大事な人がいるのに。そんな人間に手を出すなど、言語道断。
こりゃあキツいお仕置きが必要だな、と男は指をバキボキと鳴らすが。
相手の言葉に、渋々ながらも納得し。男は、この会話を切り上げる。

「そっか。よし、じゃあ俺も手伝うし、ちゃっちゃと終らせちゃおうか」

最終の目標を聞き、男は頷くと、相手の手伝いを開始する。
途中、魔物や野生動物の気配を感知すれば、近づかれる前に追い払い。
安全な状況であれば、少女の採取の手伝いをする。
そうして、およそ3時間ほどで、目標量を達成することができれば。

「ふぅっ。こんなものかな?
 ……しかし、ナナカマドちゃん。あの二人から聞いてたんだけど……。
 ……その、生えてるの?」

仕事が終った気の緩みからか、とんでもないことを聞いてしまう男。
傍から見れば、少女に変態な質問をする中年ジジィだ。

ナナカマド > 「あ、あの……イヌ様もネコ様もあまり怒らないであげてください。
 きっとちょっとした気の迷いからいたずらしたかっただけでしょうし……」

あんまりに真剣にセインが怒るものだから、ちょっと二人を案じて釘を刺す。
そんなにキツく叱られないといいのだけれど……。

護衛を引き受けてからのセインの手際はさすが熟練の冒険者と言えただろう。
おかげで呑気者のナナカマドが悠々と採取できるだけ、仕事は早く進んだ。
戦いなどはさっぱりのナナカマドだが、さすがエルフというか森のめぐみを見つけるのは早い方だった。
お互い役割分担が出来ていたのが功を奏したのだろう。
あっという間に目標量を達成するとナナカマドは喜んでセインにお礼を言った。

「ありがとうございます、セイン様のおかげで早く片付けられました!」

少し一休みしましょうかと、開けた平原で持ってきた水筒からお茶を注ぐと
セインに渡そうとした所で急にセクハラまがいの質問を受けて面食らう。
またしても真っ赤になって俯いてもじもじしてしまうが、
小さな声で肯定の意を返した。

「ええと、……はい……。わたくし、未熟な、性別なので……。
 その、どちらもと言えない性として、生まれてしまって……」

セイン=ディバン > 「気の迷いでイタズラ、ってのを二度も三度もされちゃあ雇用主の面目丸つぶれなんだけどね……」

実は問題のメイド二人は、この少女以外にも似たようなことをしているわけで。
そうなると男としては一度くらいは本当にしかりつけねばなるまい、と考えるのは当然のことである。

そうして、二人で採取の仕事を進めていけば、随分とスムーズに仕事は進んでいった。
男も鉱石や薬草の採取の仕事をしたことはあるが。
それでも、相手の目利きには全く及ばない。これはやはり、さすがエルフ、という所だろう。

「いやいや、オレは大したことはしてないよ」

相手の真っ直ぐな礼に、男は苦笑しつつ答え、休憩に入る。
その間も警戒モードの男ではあったが。
相手の赤面と言葉に、しまった、と後悔。
しかし、そこで男は疑問を抱く。

「そうなのか……って、呪われた、とかでなくて?
 最初から両性具有ってことなのか?
 ……そんなこともあるのか……」

ほへぇ、と息を吐きつつ、知的好奇心に身をゆだね質問を重ねていく男。
頭の中では、様々な情報と思考が高速回転していた。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林地帯」からセイン=ディバンさんが去りました。
ナナカマド > 【後日継続です】
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林地帯」からナナカマドさんが去りました。