2022/08/06 のログ
■チャルヌイ >
ティアフェルとチャルヌイを乗せた馬はその場から一目散に離れ駆け、
護衛達はもう一斉射してからチャルヌイとは別の方に向かって駆ける。
「……撒いたか」
森の最も暗く深い場所を抜け、陽の光の当たるところに出てはじめて、
馬は常歩になり、近くの河川敷まで下りた。
「お嬢さん、動かないで。魔犬に噛まれたままその部分を放っておくと、
瘴気で噛まれた部分が腐り始める。幸いにして、私はその方面について少し知識がある」
チャルヌイはティアフェルを抱えたまま馬上から飛び降りると、馬に掛けておいた御座を敷いて、
その上にティアフェルを横たえた。
「少し痛いかもしれないが、我慢して」
彼は川から水を汲み、その水をティアフェルの傷に掛けた後、今度は持ち合わせていた蒸留酒で傷口を清め、
そして魔犬に噛まれた傷口を直接、間に薬草を挟ませた包帯で強く巻いた。
「幸運だぞお嬢さん、深手ではない。死なずに済む。このまま宿まで運びましょう」
そう言って彼は、ティフェルを抱え上げて再び馬に飛び乗ろうとする。
■ティアフェル > 馬上でその場から離脱する背中に、放たれた矢が突き立ったのか、ぎゃん、とただの犬のような啼き声が聞こえた。
ちらりと視線を流してみると、真っ黒な体躯に刺さった矢に悶える姿が映る。
それもすぐに流れる景色とともに遠く離れてゆくと。
やがて川のせせらぎが耳に響く頃馬足が緩み。
「え、ぁ、あの……神父様……かしら……?
助かりました、ありが……、えっと……あの、わたし……」
右肩から灼けつくような痛みとだくだくと流れる鉄錆臭い緋色。
気遣っていただく声に、回復魔法を会得しているヒーラーなのだと云いそびれるままに、馬上から茣蓙の上に横たえられて。
「――っぅ! ん゛ん…ッ」
手際よく患部を水で洗いさらに酒で清められ、沁みる痛みにびくんと痙攣するように震え。その上で薬草と清潔な包帯で処置を完了されると。
正確な処置に感心して、それから紳士的な対応にぱたぱたと瞬きをすると。
「あ、あの、お世話になります……っ、で、も、ちょっと、ストップ、たんまで……。
ぃたた…あの、実はわたし、ヒーラー…でして…っ」
痛みに呻きつつも回復魔法が使えるのだ、と握っていたスタッフを軽く掲げ。
手当をしていただいたお陰で集中が利きそうだ。
ちょっと回復させてくださいとまたしても抱えあげられて、ちょい待ちと訴えた。
■チャルヌイ >
「ヒーラー? ……ああ、そうでしたか、これはとんだ失礼を」
ティアフェルを一人の女性として見ていなかったチャルヌイは、
言われて漸く彼女が治癒術師であるのに気付く。
「つい、気が動転していて気付きませんでした。どうかご容赦を」
チャルヌイは少しばかり顔を赤らめて恥じ、
あくまで丁寧に、紳士的な態度でもって目の前のけが人に接する。
「はい、私はチャルヌイと言います、お嬢さん。
もしよろしければ、貴女の名を聞かせていただいても?」
と、ティアフェルの、神父かという問いに首肯して答える。
■ティアフェル > 「あ、いえいえとんでもない。とても迅速かつ的確な処置で非常に助かりましたので…!」
ふるふるふる、と首を左右に振り。そして、助けていただいたことについて深々と頭を下げ。
「容赦だなんて。わたしの為にしていただいたのに滅相もない。あまりに速やかなご厚情で、あー、神に仕える人はやっぱ違うなとしみじみ感銘」
親切丁寧安心なご対応に深く感謝しながら。取り敢えず失礼、と包帯で保護された上から、詠唱を紡ぎ出して生み出した淡い暖色の光を翳し。
治癒の光で咬み傷を塞ぎ痛みを取り去ると、ふう、と一息吐き出し。
「チャルヌイ…さん? 珍しいお名前ですね。
わたしはティアフェル、です。ティアって呼ばれてますかね」
名乗りを返しては改めて魔犬から救っていただいた礼をと深々頭を下げて。
そしてついでに手を取ってぶんぶん振ろうとする勢いを見せながら。
「ほんっとーに助かりました…! もうマジで死ぬかと、死んだかと…!
あー怖かった~、あー助かった…!! 本当に心底最大級にありがとうございましたー…!!」
犬、しかもヘルハウンドから救出していただいたなんていっそ神に等しい。拝み倒さん勢いで頭を下げた。
■チャルヌイ >
「チャルヌイというのは、私の生まれた地方で『黒』という意味でして。
本名はパヴェヴ・ラジヴィウといいます」
と言って、自分の黒髪を指さし。
「お嬢さん、頭をお上げください。私はただ私にできることをしたまでです。
それにしても、あなたが大事に至らなくて本当によかった」
チャルヌイはティアフェルに手を取られてぶんぶん振られながら、
慌てて彼女のの頭を上げようとする。
「とにかく、まずはここを離れましょう。またあの種の魔物が襲ってこないとも限らない。
そうでなくとも、そろそろ夜です。暗闇の中で森を突っ切るのは危険すぎる。
さあ、馬に乗って」
馬上を示しながら、一方で疑問を呈する。
「そういえば、あなたは歩きですか? 徒歩でこのような森の獣道を突っ切ろうとするのは、
個人的にあまりいい考えにも思えませんが」
■ティアフェル > 「黒……? なるほど……?
あだ名って訳ですか? パヴェヴ……さん? どっちでお呼びすれば?」
示された黒髪を見やって得心したように首肯し。
それから悩むように小首を傾げると。
「や、優しい~……神職らしい~……嬉しい、ありがたい~……。
無償での助け心底神々しい……。
世の中もうちょっとこんな感じの人が増えれば生きやすい……」
感銘を受けた様子でやはりしみじみと感想。無理のある希望を抱きつつも、促されると頭を上げて。
「ぅ゛っ…まったくもってお説ごもっとも。また襲われたら今度こそ死ぬる……。
ではお言葉に甘えて便乗させていただきます…!
なんというか、神職の方に助けてもらえると安心感半端ない……」
無理な返礼を要求したりはまあなさそうだ。せいぜい勧誘くらうくらいだろうが。
そんなことしそうにも見えない。安心安全感を抱きつつ。
乗せてもらう馬の頬を叩いて、ごめんね、よろしくねと声をかけて同乗させていただこうか。
「一応これでも冒険者でして。この道は近道なんですよね。
冒険者は大体ここを分け入って宿場へ行くんですよ。
そう云えば、矢を射かけてくださった方は……?」
イヌ科でなければ多少の魔物とも渡り合えるという特攻型ヒーラー。
今回は完全に不運の展開であったが。普段ならどうにかこうにか乗り切れるのであり。
ふと、魔犬に突き立った矢を思い出し、彼が武具の類を所持していなさそうだと見れば他にいたであろう弓手を気にして。きょろきょろと辺りを見回し。
■チャルヌイ >
「お好きな方でどうぞ、ティアフェルさん。
呼びかけにくいようならば"チャルヌイ"とお呼びください」
ティアフェルの言葉に恐縮しつつ。
最近は堕落した聖職者も多いのだ。
「この子は力がありますからね、女性の方一人ぐらいなら大丈夫ですよ」
そう言いながら、チャルヌイは馬の首筋を撫でる。
栗色の毛並みは艶やかで、好ましい環境で飼育されていることが伺えるだろう。
「ユーラスと言います、この子の名」
その名は春の東風という意味だ。
「なるほど、冒険者の方でしたか。
しかしそれでも、一人でこのような場所に立ち入るのは危ないのではありませんか?
……いえ、責めているわけではないのですよ?」
その言葉は単にティアフェルを心配しているだけだ。
「――ああ、魔犬に弓を射かけたのは私の護衛です。私は戦いは得意ではないのでね。
今頃魔犬を遠くに引き離しているか、さもなくば討伐しているでしょう。
なに、心配には及びません。優秀な方達ですし、私が宿場に向かうことも知っていますから、
向こうで落ち合えるでしょう」
■ティアフェル > 「じゃあ……チャルヌイ、さん。ふふ、なんだか面白い発音」
面白いだなんて表現は少し失礼だったかも知れないが。
少し変わった名前に無意識に口を衝いてしまっていて。
「へえ、立派な子だー。
ユーラス。良い名前もらったねー。
よろしくねユーラス。もし重かったらごめんよー」
よく手入れされて賢そうな騎乗馬で名前を伺って親し気に呼びかければ。
犬以外の動物は基本好きなのかかわいい、とガラス玉のような瞳を覗き込んでにこにこと笑いかけ。
「冒険者は危険を冒すのが商売であります。
正しく仕事するとこうなります。
――とはいえ、お気遣い感謝します。確かに今回情報をもっと拾っとくべきでした……ヘルハウンドが……あいつが出やがるとは…! 我ながらぬかった……!」
口惜し気に唸ると今度はこんなへまはしないと心に誓ってこぶしを握り。
「そうなんですね、護衛さん……その方々には改めてお礼を云わねば。
それにしてもわたしが引き離してしまったようで……。
なるほど、よし、こうなったらわたしが護衛しましょう…! ただし犬科を除く!」
ヘルハウンドは無理。狼も無理。野犬も無理。ゴブリンいける。コボルトも何とかなる。
熊は自信ない。
そんな頼りなさだったが、冒険者の端くれ。後衛の癖に前に出て雑魚をボコり叱咤される、その手腕を今発揮しようではないかと気合を入れて云いだした。
■チャルヌイ >
「面白いでしょう、私も面白い発音だと思いますよ」
チャルヌイが本当にそう思っているかは定かではない。
だがティアフェルのついつい口をついて出ただろう言葉に、
彼女が自らを恥じてしまうことのないよう、フォローしたのかもしれない。
ティアフェルの呼びかけにユーラスはリラックスした様子で、
瞳を閉じ、耳もわずかに垂れ両側を向いていた。
「なんにせよ、今回は無事に済んでよかったですとも」
元より冒険者は彼の生業ではない。彼女に説教する気ははなからないのだ。
「では、宿場に参りましょうか」
鐙も使わず、チャルヌイはその巨体に見合わぬ軽業でユーラスの鞍に飛び乗り、
ティアフェルの方に向かってさあ、と手を伸ばした。
「なに、護衛してもらう間もなくすぐ着きますよ。
飛ばしましょう、捕まっていてくださいね」
彼女を後ろに乗せれば、馬を発進させ、
ユーラスは勇んで一気に川べりを駆け上がり、小道を駆けてゆく。
■ティアフェル > 「なかなかこっちでは聞きなれない発音で……チャルさんって呼んでもいいですか?」
愛称をさらに縮めてしまうという。
基本的に神対応なので無意識に甘えがち。
これがイケおじというやつか。などと密かに感想を抱き。
言葉がなんとなく分かっているような。ニュアンスで察するのか。
騎乗馬の穏やかな様子に癒されたように目を細め。
「お陰様で…! ちょっと軽率だった点については猛省」
ヘルハウンド情報の取りこぼしさえなければどうにかなっていたものをと悔やみはするも。
取り敢えずことなきを得て一旦の安堵。
差し出された手をお借りして、軽やかに騎乗した彼に続いて後ろに乗せていただくと一気に視界が高くなる。
騎乗は運動神経よりリズム感だという。馬の呼吸を感じながら背に揺られ。
「は、はいっ……、わ、きゃっ……
早ーい……! きゃー」
舌を噛まないように注意しながら早馬の瞬足に歓声を上げ。
びゅんびゅんと一瞬で流れて移り変わっていく夕暮れの森閑たる景色を眺め。
疾走感に楽し気に目を輝かせ。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からチャルヌイさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からティアフェルさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にヴェルソートさんが現れました。
■ヴェルソート > 長く続く街道、石畳の上を歩く隻腕の男はこつりこつり…石畳を踏む音すら韻を踏んでしまうのは職業病か。
「まさか、乗り合い馬車が一杯で乗り損ねるとはなぁ……まぁ、たまにはいいか。」
どうせ急ぐような生活をしているわけでもない、ダイラスからマグメールにつながるこの道をのんびり歩くのも悪くはないだろう。
嘘、実はちょっと…少し…かなり悔しい。おじさんだって楽はしたいのである。
だって、これで旅程が数日伸びるのは確定なんですもの。
「あー…だめだな、まともに考えると凹むわ、歌でも歌うかね。……~♪」
そう言って、そっとリズムに乗せて鼻歌を響かせる。
甘く響くテノールの…歌姫【ディーヴァ】の肩書に恥じぬ、鼻歌というのは華美な、魅了の魔力がうっすら混じった旋律で。
■ヴェルソート > 「さて…日が落ちるまでどこまで歩けるかねぇ。まぁ街道だから日が落ちてもしばらくはいけるか…?…~♪」
歩くだけなら問題ないが、野営するなら明るいうちに、なぞと考えてしまう、暗い中で野営の準備とかめんどくさい事この上ない。
歩いていけば、街道沿いの野営スペースがどこかしらにあるだろう、そこまでは歩いてしまおうと、タン、タンタン、タンッと鼻歌に合わせて石畳をたどる足でリズムをとりながら、鼻歌は続く。
ハミングだけの鼻歌でも、心を引き寄せる魔力のこもったそれを、無秩序に垂れ流しながら…どうせ鳥や動物くらいしか聞いてないだろうと、ちょっとした心の慰みだ。
■ヴェルソート > そうしているうちに、すっかり日が暮れてしまった街道は世闇に包まれ、ぶらぶらとうろついていた男は困ったように眉根を寄せる。
「あー、ちょーっとぶらつき過ぎたか……こうなったら、野営スペース探して歩くしかねぇな。」
街道のところどころ、馬車を止めて行商人や旅人が野営できるように整えられたスペースなら、明かりも人も居るだろう。
一人で今から野営するよりはずっとマシだと、日もとっぷりと暮れた街道を一人、ぽつぽつと歩く。
流石にもう、鼻歌交じりに街道を歩くような気力は消え失せたらしい。