2022/08/05 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にティアフェルさんが現れました。
■ティアフェル > 天頂を過ぎ緩やかに傾き始めた太陽が没するまでは、まだ数刻といった頃合いに……
「いやああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!」
まるで、断末魔もかくやというような悲鳴が木々の枝葉を揺らし、枯れかけた茂みを震わせ木霊した――
街をつなぎ、大地を割るように平地を走る交易路は森の方へ一本分岐していて、枝葉を擦り合わせるようにして立ち並ぶ常緑樹林を別つように旅人を導いて通っていた。
その道に入ったのが、不幸の始まりだとも知らずに数刻前足早に分け入り、日が暮れる前にこの先の宿場に着かなければと懸命に歩を進めていた。
この、大型の馬車は通れないほど幅が狭い森林の道は、交易路の途中にある宿場町までの近道となっており、身軽な旅人や冒険者御用達となっている。
そんな道の途中で出くわしたのは、魔犬・ヘルハウンド。よりによってコレだ。相性最悪苦手中の苦手。
大の犬嫌い、総じてイヌ科の魔物も同等に無理。
他の魔物ならいざ知らず、これと遭遇してしまっては完全に戦意を喪失して泣きわめきながら逃げる、という情けない行動一択となってしまう。
そこらの町娘と大差ない様子でがたがたと震え怯え、絶叫の尾を引きながら裸足で逃げ出す冒険者。
「いや! いや! いや! いやああぁぁー!! いやだぁあぁぁ!! やめてやめてやめてこないでえぇぇぇ!!」
背後に迫る燃えるように真っ赤な双眸をギラつかせた魔獣から全速力で逃げ惑いながら、悲鳴を上げ、泣きじゃくるみっともない女が、周囲の静寂を薙ぎ払っていた。
■ティアフェル > 「――ッ…!! きゃあああぁぁー!!」
全力で街道を駆け抜けるその足が不意にもつれ。
ど…と前のめりに転倒した瞬間。隙を見逃す訳もなく一足飛びに跳躍すると魔獣は獲物へと覆いかぶさるように襲い掛かった。
ひと際鋭い悲鳴が一帯を劈き。
揉み合う音、唸り声、肉に喰らいつく咬み音、引き絞られるような悲鳴。
「っ、っく、あ、あぁ゛!!」
喉元を狙った顎を回避したが肩口にばっくりと食いつかれ血飛沫が散り、痛みに塗れた苦悶が迸る。
「ぅ゛っく、ん゛ー…!!」
どうにか揉み合って食らいつく顎を引き離すが右肩が思うように動かない。
武器でもないスタッフをがんがんと何度か振り下ろすが大したダメージを負わせているとも思えず。
「いや! やめてやめてやめて…!! きゃあぁ!!」
恐怖と痛みの余り冷静に打撃を加えられず我武者羅にスタッフを振り回し、たまたまそれに食いつく形になった魔獣と不利な力比べ状態となり。
ぐぐぐ…と迫る押し合い。
「っ、ぅ……もぅ……だめ……」
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にチャルヌイさんが現れました。
■チャルヌイ >
ヤルダバオートから王都への帰路に就いた使節団の中で、チャルヌイはしんがりにいた。
時刻は日の入りまで数刻あったが、鬱蒼とした森の中では陽の光はほとんどが遮られていて、
彼の護衛の一人はこの道を通るのは危険だと忠言した。魔物や夜盗の急襲を恐れるためであった。
「とはいえ、日の入りまでに宿場町につかねば、それこそ危険だろう」
チャルヌイと二人の護衛はそういうわけで近道の獣道に入り、川沿いに道を下っていた。
異変に真っ先に気付いたのはチャルヌイだった。彼はどこからか不快な叫喚を聞いて、
騎乗した馬の手綱を引っ張り音の方向へと駆けた。
「あれは……まずい、矢を!」
襲われているティアフェルの視界に入ったチャルヌイは護衛の二人に対し、魔犬に矢を放つよう指示した。
『どうなさるんです!?』
「あの女子を救わねば!」
チャルヌイは悪路も気にせず、馬を目いっぱい駆けさせた。
残された護衛達は顔を見合わせ、それから矢筒から祝福された鋼鉄の矢を取り出し、ヘルハウンドの頭めがけてそれを放った。
怖ろしいほど熟達した弓の精鋭による遠距離からの不意の一撃は、魔犬に傷を負わせるのには十分だろう。
そしてチャルヌイは、魔犬の気が逸れたところ、死角から突然現れ、
ティアフェルの左腕を強引に引っ張って馬上に乗せて連れ去ろうとする。
■ティアフェル > 力では叶う訳もない魔犬との勝負。
勝敗を決したのは始まって間もない頃で、圧し掛かるような姿勢で食いつかれたスタッフ諸とも押し切られかけた、その時――、
「っ、?! な、ぁ……!?」
助けなどおよそ期待できない街道上での惨事。
通りかかるものがいたとて巻き添えを喰らうことを忌避し見ぬふりにてやり過ごすのが定石であったが。
唐突に入る横槍、ならぬ横矢が狙い違わぬ精度で獲物へと食いつこうとする魔犬へと掠め。
さすが恐るべき身体能力と云うべきか突き立つ直前で命中を避けたが耳を貫通して悲鳴と鮮血が生々しく飛び散り、それに気を取られる合間。
「えっ!? え?! あっ……の…!?」
一瞬何が起こったか解らずに目を見開いていると、突如視界から外れた方面から男性。
何が何だか分からないがとにかくこのヘルハウンドから逃れられるならなんでもいいような気がして。
足がもつれそうになりながらも馬上へと押し上げられて縋りつくようにつかまり。
手負いの魔犬が追いすがるも敵わず、その場を脱すれば、
「ふ、ふぅぅ~……助かったぁ……」
疲労に塗れ酷く脱力した声が零れた。