2021/05/18 のログ
エルヴァル >  
 不意に雨音に混ざった人の声。
 どこか間の抜けたような、気の抜けたような男のものだ。
 不可視状態の犬耳がピンと跳ねて音源へ向き、遅れて顔もそちらへ捻る。
 年頃はこちらよりも少し年上だろうか。
 整った相貌は廃屋には場違いなようにも感じられる。

「ああ……あんたも同じみたいだな。よくこんなところを知ってたもんだ」

 盗賊のようには見えない。仲間の気配もない。
 軽薄、という印象も感じる。
 警戒はするものの、男同士、という意識で相手に応えた。

「あんたもいまから王都に帰るのか?」

 相手もここで一緒に夜を明かすことになるなら、人柄を探っておこうと。

エレイ > 「あれま、意外とボーイッシュなコだこと。──俺様暇な時に結構あちこちブラついてるからよ、
野宿とか雨宿りに使えそうな場所は時すでにマーク済み」

目の前の少女の口から放たれた男っぽい口調に、またもぱちくりと瞬き一つ。
よくこんなところを、という言葉には、何故かドヤ顔をしながらそんな返答を。

「そうだなあ、そのつもりだったんだが如何せんこの雨だしココで一晩明かすのもアリかと
思っていたんだが……おっとと、とりあえずこいつを貸してやろう。頭だけでも拭いておくべきそうすべき」

続く問にはふむ、と顎に手を当て軽く唸りながらそう答え。
それからふと思い出したように、自分のバッグからタオルを取り出すと己が濡れているにも関わらず
笑顔で少女に向けて差し出した。

エルヴァル >  
 男が返してきた反応は、思った以上に軽い調子のものだった。
 ともすれば役者めいたその仕草と口調にこちらは苦笑を向ける。

「ボーイッシュってなんだよ、変なやつだな。
 ブラついて、ねえ……旅芸人でもやってるのか?」

 身なりからすれば同業の冒険者だろうか、とは考えるものの。
 そのおかしな言葉遣いをからかうつもりでわざとそう聞いてやった。
 一方であまりの人当たりの良さに内心では、相手が盗賊の類だという警戒心は強めておく。

「誰も考えることは同じだな……。
 ま、王都に帰るのも時既に時間切れだしな。と、いいのか?」

 びしょ濡れの男から手渡された乾いたタオルに今度はこちらがぱちくりと瞬きを。
 魔法の品でありなんらかの罠、というにも馬鹿げている。
 思わずジト目でその男のドヤ顔を眺めるが、躊躇って風邪をひいてもつまらない。

「んじゃ、ありがたく。悪いな。
 ……で、おまえは拭かないのか?」

 受け取ったタオルで髪の水滴を拭いながら、一応は聞いておいた。

エレイ > 「俺がどうやって芸人だって証拠だよ? 旅はしているが芸はしていないという意見。
今はどちかと言うとこの国にとどまって冒険者をやってはいるがな」

旅芸人、などと言われればさも心外とばかりに不満げな渋面を作って反論。
その表情の変え方も大仰なので、芸人扱いもやむなしかもしれない。
フンス、と鼻を鳴らしつつ自身が冒険者をやっているということも明かして。

「じゃあキミもココで泊まるつもりであるか。──いいですとも、女の子は
あまり体を冷やすものではないからな。その程度の大きさじゃあんまり拭けないが、
少しはマシになるでしょう」

瞬きする彼女に笑顔のまま大きく頷き、そう告げる。
彼女の手に渡った白いタオルは特に何か仕掛けがある訳でもなく、拭けば
普通に彼女の髪の水気を吸い取ってくれるだろう。

「俺の体は丈夫なので雨で濡れたぐらいでは風邪もひかない。ああちなみに俺は
謙虚な旅人で冒険者のエレイというんだが呼ぶ時は気軽にさん付けで良い。
キミはお名前なんと言うのかね?」

拭かないのか、と問われればまたドヤ顔で自分をビシ、と親指で指差し。
それからまたふと思い出し、珍妙な自己紹介を繰り出して。それから相手の名前も問いかけてみる。

エルヴァル >  
 やはり冒険者らしい。が、冒険者といえど野盗同然の者も居る。警戒は続けるべきだろう。
 心中では油断なく考えを巡らせるものの、しかし彼の大仰に不満そうな顔には。

「ぷっ、はははっ、冗談だよ、冗談。
 こんな時間にひとりでこんなところをうろつくのは、ろくでなしか冒険者くらいだろうしな。
 ん、いやなんだって、女の子? あーいやまあ、女は女なんだが……男というか……」

 妙に親切な男だと思えばそういうことかと、ようやく納得する。
 確かに少女がひとりでこんなところに居れば、善良な人間ならば気を遣うだろう。
 借りたタオルですっかり髪を拭き終わりながら、どうしたものかと思案する。

「おまえそれでいいのか? 風邪ひかないってのは馬……いや。
 どう見てもそのままだと風邪ひくのは火を見るより確定的というか、明らかなんだが」

 なんとかは風邪をひかない、という言葉はさすがに怒らせるかと飲み込み。

「謙虚さはあまり感じないが、エレイ、ね。まあ一晩よろしく。
 オレか? オレは……エルヴァルだ。
 わけあってこう見えて女の子じゃあないが、礼は言っておく。あんたも拭いとけよ」

 少々迷ったが名を名乗って害もあるまいと、正直に。
 タオルを絞っておいてから、彼へと投げ返しておいた。
 エレイ、という名に同業として聞き覚えがあるかどうか、ふと視線を逸らして考えながら。

エレイ > 「その理屈だとキミもその2つのどっちかということになるが……ロクでなしには見えないので
ひょっとして同業者であるか? ……ンン?」

女の子と言われて何やらつぶやいている様子にはて、と首を傾げつつ、そういえば
目の前の少女の素性はなんなのだろう、と今になって気になり、問いかけてみて。

「おいィ、今何を言いかけたんですかねぇ? まああ俺は心が広大だから
気にはしないが……まああ心配してくれるのはサンキューと礼を言っておくます」

何かを言いかけて飲み込んだ彼女に、今度は此方がジト目を向ける番。
もっとも、すぐに笑顔に戻ると一応は心配をしてくれていると受け取り礼など述べたりして。
ここらへんの対応が大人の醍醐味、などと余計な一言も付け足して。

「エルヴァルちゃんね……って、女の子じゃない? はて、俺の目にはどう見ても女の子が映っているのだが……
ぺったんならまだしも、やたらご立派なモノぶら下げてるしそのナリで男というのは無理があるような……
一体どんなワケがあるのか興味があります」

投げ返されたタオルを受け取り、自分も軽く髪を拭きながら、自己紹介を返されると
その名を咀嚼するように復唱し。しかし女の子じゃない、との言葉にはは? と
不思議そうな顔をして。
改めてジロジロとその姿を上から下まで眺め、豊満に実った胸元を注視しながら
一体どういったわけか、と首を傾げて問う。
尚、男は大きなものから小さなものまであれこれ依頼をこなして実績を積み重ねているので、
それなりにいい意味で名は知れている方の冒険者ではある。
依頼の受け方が気まぐれで、なおかつこんな人柄ゆえ、変人という評判も大いにあるが。

エルヴァル >  
「さてね、ろくでなしの方かもな?
 はは、まあ、オレも冒険者ってことだよ」

 口端を引いてニヤリと笑ってみせる。
 その表情が、少女となった自分の容姿に不似合いであることには気付かない。
 本来ならば人里離れて男と二人きりなど、盗賊相手とはまた別の理由で用心すべきだ。
 しかし、現在の身体に対する自覚が乏しいせいで徐々に警戒心は緩んできていた。

「いや、別になにも……オレの記憶にはなにもないな。
 ……なんでもいいが、ちゃん付けはやめろ。エルヴァルでいい。
 胸のことも言わなくていい! はあ……そうか、エレイか。聞き覚えはあるな」

 不本意ながらやたらと大きな胸に遠慮のない視線を向けられれば、さすがに羞恥を覚える。
 両胸を腕で隠そうとするものの隠しきれず、濡れたタンクトップ越しに膨らみを潰すだけ。
 仕方がないので背中を向けることで相手の目から胸と、少し赤く染まった頬を遮っておく。

「女になった理由は……つまらん話だよ。稀に……よくあるだろこういうのは。
 とにかくオレは女じゃないし、元はあんたと同じくらいでかい男だったんだ。
 女の子だなんて思ってると損するぞ」

 身体の変化について興味を持たれてしまったのも面倒で、適当にあしらって。
 彼の名は、実績のある変わり者として噂程度ならば聞いたことはあり、そのせいで警戒心は解けていたが。

エレイ > 「やはりそうだった。まああ冒険者稼業がロクデナシ、と言ってしまえばそれまででもあるがな」

ニヤリと笑う彼女にふ、と笑みを返して軽く肩をすくめ。

「えー、見た目的にどうしてもちゃんをつけたくなってしまうんだが……まあ善処はしよう、
エルちゃん……もといエルヴァル。ヨロシクだぜ」

ちゃん付けを拒否されてブーたれつつも、とりあえず希望に沿うよう努めてみようとする。
早速あだ名めいたものを口にしかけたりもしつつ、羞恥を感じて胸を隠し背を向ける仕草を、ニマニマとしながら眺め。

「まあ……そういう奴に会うのは実際初めてではないのだが、本当に稀なので
経験豊富な俺でもちょっと疑ってしまうのは仕方のないことだった。
……やっぱり元には戻りたいかね?」

男の方も無理に聞き出すつもりはないのか、理由を喋らないことに文句は言わなかった。
未だ背を向け続ける彼女におもむろに歩み寄ると、ポンと肩に手を置きながらそんな問いかけを。

エルヴァル >  
「いま、また妙な呼び方しなかったか?
 まったく、最初から思ってたが、馴れ馴れしい奴だな、あんたは」

 不愉快さを表現するように眉を寄せてみせるが、馴れ馴れしい冒険者は珍しくない。
 また、それを本気で不快に思うほど人付き合いが嫌いなわけでもなく。
 ただ、彼の大仰さを見習ってこれ見よがしにため息をついてみせた。
 やたらと好色そうな笑みを向けられるのは気になったが。

「へえ、なんの経験が生きたのかは知らないが、やっぱり稀によくあるんだな。
 オレとしちゃその、前に会ったそういう奴の話を聞いてみたいが……。
 うっ、そりゃあ……元には戻りたいさ、当たり前だろ?」

 肩に触れられれば体格差に怯んでびくりと身を震わせてしまい、距離を取っておく。
 ジャケットを両腕で閉じるように胸を隠して振り向き、こちらも肩をすくめてみせた。

エレイ > 「それほどでもない。謙虚だから褒められても自慢はしない。──馴れ馴れしいのはキライかね?」

馴れ馴れしい、と言われれば何故かまたドヤ顔で、褒められても居ないのにそんな事をのたまい。
相手も本当に嫌がって居ないのは男も察しているので、楽しげに笑いながらそんな事を訊いて。

「ンン……それは聞かないほうがいいかもしれんなぁ。
──まあそりゃそうか……ほむ、元男というのは本当のようだったな。
んー……エルヴァルよ。俺様少し特殊な能力を持ち手でな……それを使えば、
あるいはキミを元に戻すこともできるかもしれん」

話を聞いてみたい、という言にはなぜか微妙そうな反応。
肩に触れた途端に距離を取られても気にした様子もなく、彼女をじっと見つめて
なにか確信でも得たかのように呟き。
それから少し悩んだ後、少々歯切れが悪いながらも彼女の希望になるような言葉を口にした。

エレイ > 果たして、男の提案に彼女がどういう反応を示したのか。そもそもこの男の言うことを信じたのか──
その後の事は、未だ降り続く雨音の中に秘されて……。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からエルヴァルさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からエレイさんが去りました。