2021/05/02 のログ
ヴィクトール > 「……まぁな、俺は馬鹿率いて暴れるぐらいしか出来ねぇから、ちょうどいい仕事だな」

少しだけ言葉が遅れたのは、小さい割にはしっかりしているなというのが少し感じられたからで。
先程まで眠りそうになっていたのもあって、子供扱いしていたが、教育はしっかりされているのだろう。
実際、同じぐらい小さくて、同じぐらいしっかりしているが子供っぽさが抜けない存在をよくみっている分によく分かる。
腰に手を回すと、見た目とは裏腹に集落にいる少女達と似たような感触が伝わる。
見た目と格好、仕草から噛み合わぬ情報が二度も来ると思わず眉がぴくりと小さく跳ねた。

「そう緊張すんな、いきなり取って食ったりしねぇからよ。嬢ちゃんも似たような仕事でもしてるのか? 体がうちん所の奴らみてぇにしっかりしてるからよ」

すっと腰から手を引いていくと、改めて頭の上へと掌を重ねていった。
集落にいるミレーの少女達と同じような、正面から殴り合う鍛え方とは違うしなやかな感触。
体に必要最低限の力を蓄えるような筋の張り巡りを、腰へのタッチから感じ取っていく。
逆に……その割には妙に抜けているところがある危うさが脳内で矛盾して、不思議そうに琥珀色の瞳を覗き込んだ。

フェリーチェ・メランドリ > とって食うと言われて少女の脳裏に浮かぶのは、弄ばれた一夜の記憶。
最終的には不利益だけではない出来事であったとはいえ、気軽に異性とスキンシップできるほど心が癒えるにはまだ時間が掛かりそうだと、少女自身も今更ながらに気づく。
未熟さ故に起こした事故のような経験は、まだまだ少女自身の思考と十分に統合されていないようで、浮かべる瞬間の表情は無邪気なくせに維持するには固くこわばらせることしかできない。
もっとも、情事の有無で大人の仲間入りは少女にとって不本意であり、その幼い印象を覆そうとしっかりした行動で目指すのは変わらない。

寝癖が出来ていないかと軽く髪に触れれば、撫でられて乱れた部分の方が余程に気になって手櫛する。
そうやって手遊びのように髪を弄りつつ、気にしてないことを示すために身体の事に関して問い返す。

「お兄さんと似たような仕事はしたことありません、いえ、出来ないと言うべきですね。
 うちのというと……えっと傭兵さんって私くらい小さい人が多いんですか?もっと大きくて頑丈な方が良いような……」

首をコテンと露骨に傾げ、そんなことは無いと思いながらも聞かずには居られない話だった。
少ない経験ながらも自分が見てきた傭兵がよっぽどイレギュラーならば、考えも改めなければならないのだから。

ヴィクトール > 冗談めかした言葉に、彼女の感情が揺れるのが瞳に映る。
それは自身が食らった魔族の力で、オーラの様に揺れる光となって己の目にだけ映る。
不安、畏怖、そういった気配によく似た色合いが映り込むと、彼女になにか起きたことだけは分かる。
だが詳細まではその目に映すことは出来ず、あとは彼女から聞き出すほかない。
無邪気な少女を装おうとして、偽りきれずに強ばる辺りは、まだまだ幼く見えて目を細める。

「そうか、でも出来ないってのは妙な話だな?」

やったことがない、する気はない、そんな言葉は出てくると思うが出来ないというのを訂正に使うのは妙な言い回しに聞こえる。
訝しげに眉を跳ね上がらせながら問いを重ねていくも、撫でて乱れてしまった髪を直そうとするのが見えれば、少々名残惜しいが手を引っ込めていく。
重なる問には、そうだというように小さく頷くと自身の上着に刺繍された紋を見せようと、肩を彼女へと向けていった。
ちぎられ、破壊される首輪と鎖の印。
それはこの国に蔓延る隷従という仕組みを否定するような、不思議な形状とも言えようか。

「正確には傭兵っていうか、民間軍事組合っていったか。九頭竜山脈の麓でミレー族の娘ばっかで構成されててな、嬢ちゃんよりちょっと年上の娘ばっかりだ。組合長代理なんか16歳の娘だぜ?」

そんな説明をしつつ、ポーチから小さな水晶を取り出すと、それに魔力を注ぎ込む。
黒い闇の気配を水晶に伝えていけば、青白い光がふわりと浮かび上がり、その上へ映像が浮かび上がる。
動画を収められるほどのサイズではないので、静画ではあるが集合写真のようなものが見えるだろう。
年端も行かぬ無数のミレーの少女達と自身が映っているが、この国のミレー族にしては色々と珍しい様子が収められていた。
ケープコートにブラウスとコルセットスカート状の戦装束に、耳を隠すベレー帽。
それも色合いも各々が選んだ好きな組み合わせであり、その手や背中には小銃状の装備もある。
なにより珍しいのは一様に笑っていたり、はしゃいでいるというところか。
その結果、年の離れた兄を玩具にするように腕や首にしがみついたり、髪や裾を引っ張られるわ、まるで締まりのない映像となっている。

フェリーチェ・メランドリ > 「だって、こんな手で剣なんて振れると思えません」

相手側の腕を振り上げて拳を握り、袖が落ちてまくれるように軽く揺すってみる。
まっさらに傷もない白い細腕をバンドより先の肘付近まで露出させ、拳に一層の力を込めて見せるも筋繊維が浮かび上がる様子もなし。
パッと開いた掌さえもその白さが手の甲と似たもので、強く握りしめるような力仕事に慣れていない事まで証明する。

「代表者ということですよね。それはまた随分と大変そうな……ミレー族?
 ……あ、あのぉ、この国には来たばかりで失礼な物言いかも知れませんけど、ミレー族という方々に関してあまり良いお話を、その、伺わなくて……」

集合写真を見ながら何気ない返事をしようとして、記憶に引っかかるものが出てくる。
遠慮ではなく宣言通りに大したことは知らないものの、些か信じがたい差別が罷り通っているのは噂だけでも察するのは難しくない。
それに、湾港都市で過ごしたのだから、"色々と"目にすることも無かったというと嘘になる。
声をできるだけ潜めて周囲にも目配せし、相手の立ち位置をその写真からも汲み取ろうと目を近づける。
視線をゆるく走らせてから服装と賑わいのちぐはぐさにクリクリと瞳を動かし、元から差のある下からの視線を更に、伺い見るように疑問を浮かべて上目遣いにする。

ヴィクトール > 「あぁ、そういうことか。流石に嬢ちゃんが前で暴れるとは思ってねぇよ。うちの奴らみてぇに魔法で戦えるのかとおもってな。触ったときの筋肉の感じが近かったからよ?」

小さな拳が振り上げられると、袖の下から覗ける白磁の肌がよく見えた。
ほっそりとした、子供の腕と言ったところだが、傷一つ無く小さな掌も相成って可愛らしいの一言に尽きる。
たしかにこれなら殴り合いには適さないのは誰が見ても納得だが、腰に触れたときに感じた柔らかい以外の感触は、遅筋が詰まったような感覚を覚えた。
苦笑いを浮かべながらそんな補足を重ねると、彼女へ集合写真を見せていく。

「あぁ、もともと秘書やってたんだけどよ。組合長……俺の兄貴な、それが忙しくて代理しなきゃいけなくなったんだ。ちなみに兄貴は王族だ、養子縁組でだけどな」

それで忙しくなって組織を任せるに至ったと簡単に説明を重ねていく。
ふと声を潜めながら辺りの様子をうかがう彼女に、なんだろうかと目が追いかける。
小さな瞳が子供っぽく動き、上目遣いに覗き込む仕草は幼子そのものでもあるが、元の愛らしさもあって魅力すら感じさせられた。
クツクツと悪い笑みを浮かべながら手を伸ばし、頭を撫でようとして……髪を気にしたのを思い出すと、代わりに頬を撫でるだろう。
ざらりとした浅黒い肌が、真っ白な肌の感触を楽しむように。

「兄貴が救いてぇって手を伸ばした。んで、俺と一緒に二人でティルヒアいって戦争して、わざと王国と戦って手痛い目に合わせて、雇わねぇと大変だぜって脅してよ?」

二人だぜ二人とおかしそうに笑いながら、その時のことを思い出す。
今でこそ王国の統治下に置かれているティルヒアだが、数年前にはこの国と派手な戦争をした国でもある。
命を落とす可能性と少女達の安住の地を築く足がかり、それを天秤にかけて尚戦ったのだ。
第7師団には色々世話になっただの、終わる頃には俺は何もすることがなかっただの、懐かしむ様に語っていた。
そして続く話はこれまでと違い、少しだけ声を潜めながら彼女の耳元に唇をよせようと屈んで囁きかける。

「んで第9師団の私有地手に入れて、そこではそいつ以外全員平等、奴隷扱い禁止。貴族にちょっかい出されねぇためにも王族になったってこった」

その場所の名をドラゴンフィートという。
地図を取り出すと、指差したのは王都からダイラス、砦までを繋ぐ分岐路の傍だ。
奴隷を扱う輩からすれば、面倒な場所、癪に障る場所だのと言われるところでもある。
だが、商人からは安全な航路の確保、交差地点での店並びが商品流通の役に立つ。
理を与えて立場を確立する結果が今に至るとかいつまんで説明すると、だから取って食うことは出来ねぇと改めて囁いた。
兄に恥じぬ振る舞いを心がけているからだ。

フェリーチェ・メランドリ > 相手の立場が分からずに迂闊なことが言えないのは老若男女で変わらない。
そして、分かったからといって、迂闊な物言いが出来るようになるかは別の話である。

「お、おお……おぉ」

作った笑顔がそのまま凍る。
これから権力方面に媚を売りに行く少女にとって、その目標もままならないうちに武力方面へ喧嘩を売りたいわけがない。
どれほどかと推測できる要素こそ足りないが、王族となれば権力構造に食い込んでる恐れもある。
「う〜ん」と喉奥で小さな唸りを漏らし、まだまだ未熟な商売人の頭を一生懸命に働かせる。
ついでに言えば、他人の目と耳がある所で偏った意見表明というもの自体、多少目を引く容貌だと心得ている事もあり非常に怖いものだった。

ーーだからーー

「大変なお仕事をされてらっしゃるんですね、お怪我が無いように頑張ってください」

言葉の上は非常に当たり障りなく、先の返事と合わせて無言の回答を出す。
下げて袖を直した腕を荷物の上に置き直して、何もこれといってジェスチャーをしていないことを周囲に知らしめる。
少女の視線はあくまでも上目遣いに相手の顔に固定し、それでいて、出された地図の上に現れる青白い小さな火花。
その火花を起点に広がった三点から、這い出た蔦の絡まるリースのような模様が一瞬で完成し、全部がつながって複雑な紋様となったところで水滴が飛び散った。
そこまでして出したものが無差別なものである筈はなく、ささやかな雨音のように地図に垂れた水滴は指し示された部分にハートマークを描いて、しかもアルコールのように跡を残さず霧散する。

少女はその間、ただにっこりと笑っていた。

ヴィクトール > 何やら悩んでるのだけは彼女の様子から見える。
戦争の話やらは師団から城下町へと普通に流れていった話でもあったので、あまり気にしていないのだが彼女は気にするらしい。
何をそんなに気にしているのだろうかと思うも、当たり障りないというよりは、唐突な他人行儀に疑問符が浮かぶ。
しかし、視線を向けたまま地図に浮かぶのは魔法のような現象。
草木の蔦じみたものが伸びて、最後に示したのはハートの文様であり、集落の地点に対してだ。
表向きと本音が違う、それが自身の力以外でも感じ取れると、深く息を吸う。
ゆらりと体から溢れる魔力の気配は、人間やミレーが発するものではなく、魔族が発する真っ黒な瘴気。
それは刃にはならず、低く響き渡る男の声となって発露する。

「俺と嬢ちゃんを忘れろ、関わるな」

それが当然であり、当たり前であり、普遍たる法であるかのように周囲に言い聞かせる。
その瞬間、周りの客達の雰囲気が変わるのが分かるだろうか。
なにか喋っているなとこちらをちらちらと見ていた客達は、まるで自分達がいなかったかのようにこちらを見なくなる。
それは外で馬の手綱を握る操手にまで及んでおり、それの証明と指先に小石ほどの魔力の結晶を作り出す。
黒水晶のようなそれをビシッと人差し指で弾き飛ばすと、向かいにいた客の額に当たるのだが、まるで反応する様子がない。
完全に二人が認識されていないという証拠を見せた後、改めて彼女へと視線を戻す。

「そいつら、もう俺と嬢ちゃんに気づけねぇから、遠慮なく喋っていいぜ。なんで隠してんのかはしらねぇけどな? そいや名前聞いてなかったな、俺はヴィクトールだ、嬢ちゃんは?」

これなら遠慮なく喋れるだろうと言いたげに、にんまりと悪い笑みを浮かべながら問いかける。
そろそろ、可愛らしい少女の名前で呼びたいと思えば、こちらから彼女へと踏み込む番だ。

フェリーチェ・メランドリ > 先の威圧とも違う言葉と周囲の様子の変化に、少女は何が起こったか分からず目を白黒される。
ただ結果だけは客の反応の無さから明白だった。
一瞬息を忘れて生唾を飲み込み、時間が引き伸ばされたかの如くゆっくりと瞬きを繰り返して、異常な光景が確かに自分の見ているものだと納得していく。
それから作った笑みよりもよっぽど下手な、言い換えれば微妙さをそのまま表に出してしまった子供の笑みを浮かべる。

「わたし、わたくしはフェリーチェ・メランドリと申します。クルーニ連邦の産まれです」

開かれた地図を指差して湾港都市から西へ、そのまま北西の端まで伝って外へ。
さらに先へ進ませるように指を中空で滑らせてから荷物を両手で掴み、しがみつくような格好で話を続ける。

「国交が無いものですから、ご存じないかも知れません。
 母国では貴族は精霊の力を"預かる"とされ、平民でもその……話し合いをして、つまり、対話によって力を借りるものが居ます。
 はっきりと交渉が出来る者たちは才覚あるものとして重用されてるはずです。
 ミレー族は噂によると……」

言葉を途中で濁しながらもチラリと相手の顔に目配せし、交流がなくて知りようもなかった自国民との共通点を……少女の価値観ではむしろエリートたちがなぜか虐げられているという異常事象について、ぽつぽつと話す。

ヴィクトール > 絶対的な自信が為せる意志を強制する力。
戦人同士であれば互いに互いを殺すという強い意志があるので、ここまで強烈には作用しないが常人には防ぎようがないだろう。
故にこの場を完全に掌握して二人だけの空間へと変えていけば、驚ききった様子をみせる少女に凄いだろと言いたげな悪人面の微笑みを見せた。

「フェリーチェか……クルーニ連邦?」

何処だろうかと思っていると、彼女の指が更に補足に場所を示唆する。
西へ西へ、それも遠くの北西へと向かっていけば指先は空をなぞっていた。
とても遠いことだけはわかったが、今になって小さな後悔をしていく。
成程、だから少しは世界情勢の知識をつけろと兄が助言するのかと。
世界の広さを目の前で感じ取りながらも、荷物を抱き込む彼女を見つめる。

「いや、俺も勉強不足なもんで知らなくてわりぃ。精霊の力を預かる……?」

申し訳ないというように軽く頭を振ると、続く言葉に耳を傾ける。
それはある意味で自分達の組織、それこそ兄や少数の少女達が力を借りる眷属達との繋がりを彷彿とさせる。
故にイメージはすんなりと頭の中に入っていく。
彼女の国の情勢からすれば、たしかにミレー族は国を動かす中枢の存在と言えようか。
それがここでは消費される性の道具であったり、暴力の的にされたりとありえない扱いだ。
そんな彼女の説明を神妙な面立ちで聞き届けていくと、再度わりぃと一言告げて頭の上へ掌を重ねた。
どうしてもこうやって撫でたくなるほど、彼女の最大限の気遣いが小さな体で頑張っているように見えて、なんとも言えぬ心地になって我慢が効かなかった。

「こんなクソみてぇな国でゴメンな。それと、色々気遣わせちまったみたいで悪かった。ホント、ちっこいのにしっかりしてて良い子だな、フェリーチェは」

国を代表するような存在ではないが、彼女の価値観とまるで噛み合わぬ世界を詫びると、くしゃくしゃと頭をなでていく。
一人でこんな馬車に乗って、いろんな心の摩擦と戦っていたのかと思えば子供扱いかもしれないがこうして労いたくなる。
自分よりも思慮深い彼女を一人前と認めつつ、手の動きは幼子を褒めるようになるのはやはり小ささ故か。
けれど、表情は先程までの苦笑いと違い、少し真剣味が混じったもの。

フェリーチェ・メランドリ > 「入ってこない知識を知らないのは、勉強不足でも何でも無いです」

癖っ毛のせいで本当にふさふさの尻尾みたいになったポニーテールが肩を叩くほどに首を振り、無理難題について謝る相手の様子を否定する。
モヤモヤする価値観の違いは、別段ここに限った話でもない。
異なる文化圏に突然飛び込めばそうなるのは必然で、それが人の尊厳とかなんだとか、少々小難しいところに被っていたせいで余計に気持ちが悪いというだけ。
むしろ先程の話からすればヴィクトールの一党こそが、その気持ち悪さを緩和してくれる組織の一つと言っても過言ではない。

「ヴィクトールさんが作った国なら謝ってください。そうでないなら、謝る人は別に居るはずです」

せっかく整えた髪をまた崩された事で不満げに頬をむくれさせながら、自分の倍はあろうかと思える分厚い男の手の甲を人差し指で突っつく。
冗談めかして始まった会話の中に真剣味が混ざったのを感じ取れたのかどうか、未熟な新米商人は自覚的に考えることなく、しかし何となく真摯に受け止められる言葉として胸に留めることにする。

外を見ると人の賑わいが見えてきて、そろそろ王都の圏内に入るだろう頃合い。
減速した馬車からほどよい宿を見繕って降車する人に続き、少女もまた荷物を担ぎ直して軽く会釈する。

「わたしもこの辺です。さようならと、それから……国の価値観が変わるくらい、がんばっっってください!」

思い切り感情を乗せて、最後に手を振った。

ヴィクトール > 「あぁ……まぁそうなの、か?」

その定義のラインすらよくわからなく、苦笑いを浮かべれば頭を振る力強さが可愛らしくて表情が緩む。
ただ、外の世界からすればここが異質というのが知れたのも、大きな一歩な気がした。
続く言葉もまた、年端も行かぬ少女の言葉とは思えないほどにしっかりとしている。
崩した手を窘めるように突かれ、それぐらいで掌が退けられるものではないが、とこどころにみせる幼さが可愛らしく映る。
そんな会話をしていれば、次第に王都へと近づいてきたのだろう。
馬車が足を止めれば、こちらも立ち上がり、彼女に続いて馬車を降りていく。

「あぁ、またな。それと、何か困ったことがあったら遠慮なく頼ってくれ。フェリーチェの手助けしてやりてぇからよ。チェーンブレイカーのヴィクトールって言えば、ここらなら居場所だのなんだの、教えてくれるだろうからよ」

自分の名前が、そこらに蔓延るチンピラ程度を追い払うお守り程度にはなるだろう。
そして続く言葉には、可愛いもんだと思えばニッと口角を上げながら親指を突き立てていった。

「任せとけ! 次あった時はもっと可愛がってやるから楽しみにしとけよ」

手をふる彼女へ、いつもの調子で答えていきながら微笑むとその足は城の方面へと向かう。
面倒な報告をしに戻ると憂鬱な気分だったが、可愛らしい賛同者の土産話を兄に出来るとあれば、そんな気持ちもあっという間に払拭しつつ夜闇の向こうへと消えていった。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からフェリーチェ・メランドリさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からヴィクトールさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にジェイクさんが現れました。
ジェイク > 王都から離れる事、半日。昼下がりの近隣の村落に通じる街道。
普段から人の往来が多い、その道を遮るように柵が設けられ、
道の脇には幾つかの天幕が建てられ、簡易的な陣営の趣きを為していた。
街路に立ち、通行する馬車や通行人を差し止め、積み荷や身分の検査を行なっているのは、王都の兵士達。
曰く、此処最近、山賊や盗賊の類が近隣に出没するために検問を敷いているという名目であるが、
実際の所は隊商からは通行税をせしめ、見目の良い女がいれば取り調べの名を借りて、
天幕でしっぽりとお楽しみという不良兵士達の憂さ晴らしと私腹を肥やすための手段に他ならなかった。

「――――よし。次の奴、こっちに来い。」

でっぷりと肥った商人から受け取った賄賂を懐に入れて、彼の率いる隊商を通せば、
列をなしている次の通行人に声を掛けて近寄るように告げるのは一人の兵士。
何よりも厄介なのは、彼らが紛れもない王国の兵士であり、市井の民が逆らえない事だ。
そして、その事を理解している兵士達は、御国の為ではなく利己的に国民を食い物にしている最低最悪な屑揃いであった。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からジェイクさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にフォティアさんが現れました。
フォティア > 小さく、ごとごとと低く揺れる音を響かせながら、夜の街道を馬車が往く。
大きな馬車ではないのだが、その低い軋みは重量のある荷物を運んでいるのだと、見るものが見れば知れるだろう。
幌のかかった荷台は木の枠でしっかりと囲われて、中を伺うことはできないが子供の好きそうな装飾と色彩に彩られている。
王都から離れた村々の人々にも手が届くようにと、ささやかに厳選した絵本や物語を運ぶ『移動貸本屋』である。
ランタンで灯した御者台には黒いワンピースの娘が一人。深緑のショールを身に纏い、自ら手綱を操ってできるだけ平坦な道を選んでいる様子。

「──………護衛を雇うべきだった、かも。 それとも、村で一泊させてもらうべきだった…? 」

呟きとともに、ふわ、と吐き出した溜息が大気に溶ける。
昼のうちに王都を出たのだから、夜になる前に帰れるかと思ったのだが──本を選ぶ子供たちが夢中になっていたのだから、それを中断させるのは野暮だ。。
昼間のうちには感じなかった心細さを抱きつつ、遠く獣の遠吠えや、緑を騒がせる風の音に僅かに神経をぴりつかせる。
巡回の警護隊の袖の下に入れる小銭にも心もとなく、出来ればトラブルは避けたいところだ。

ランタンの頼りない光を供に、緩やかにうねる街道を栗毛の馬の首を時折軽く叩いて宥め乍ら、帰途を急いだ。

フォティア > 馬車はそのまま、王都を目指す──
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からフォティアさんが去りました。