2020/11/29 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にソーニャさんが現れました。
ソーニャ > ゴトゴト、ゴトゴト、のどかな昼下がりの街道を進む一台の幌馬車。
二頭立ての馬を操る御者役の男は、いかにも小悪党といった風貌で、
幌は下までぴったりと閉じられ、容易く中を窺えないようにされている。

その中に、ぎっしりと詰め込まれた商品たち。
商品、といっても、それらは皆、生きた娘たちだった。
目隠しと猿轡を施され、荒縄で後ろ手に縛られた彼女たちは、
薬や暴力によって意識を摘み取られ、怯え泣き叫ぶことも無ければ、
逃げ出そうと暴れることも無い。
そして馬車の中には、催淫効果があると知られている、甘い香の煙が満ちていた。

幼いミレーの娘や、エルフの女などと一緒に、無様に捕えられ転がされている、
魔族とは名ばかりの無力な小娘もまた、後ろ手に縄打たれ、薄汚れた馬車の床に転がされていたが、
幸か不幸か、未だ意識を完全には失っていなかった。

半ば朦朧とした頭の片隅に、先刻、垣間見た一幕が蘇る。
騎士だか兵士だか知らないが、張りのある男の声と、御者役の男。
何かのトラブルで馬車を停められたのだろう、幌が引き上げられて、
ふたつの人影がこちらを覗き込み―――そして一人の娘が、
恐らくは口止め料として、その男に引き渡された。

正式な通行手形など無くとも、貴族の領地だろうが検問だろうが、
その手を使って自由に往来出来てしまう、それが紛れも無い現実だった。
このまま運ばれた先で待つ未来も、途中下車させられた場合の未来も、
さして変わらないのだろうと思えば、抗う意思の欠片すら、刈り取られてしまいそうだ。
未だ、諦めるのは早い、とは、思おうとしているけれど―――。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にラボラスさんが現れました。
ラボラス > (暫く――再び馬車が進んだ後に
とある名も無き森の傍を、掠める様な道に差し掛かる
其の道の傍に、佇む人影が一つ――黒いローブに身を包み
待ち構えていたかの様に、馬車へと向けて片腕を翳せば、止まるようにと促す

森の傍、当然ながらその姿を見た御者が取るべき行動は一つ
――盗賊や魔物の類を疑い、速度を速めることだ
制止を求めたローブ姿を無視して通り過ぎ、再び馬車は道を行く
もう暫く走り続ければ目的の領地へと入れるのだろう
御者の男は、商人であるのか、其れとも只の配達人でしか無いのか
何れにせよ仕事は後少しで終わる、その筈であったろう。

――その道の先に、再び、ローブの人影と
複数の、武装した者達が立ち塞がらなければ。)

「――――――……此処は戦場では無い。
戦士でも無い、貴様の命までは取らぬ。
惜しければ…荷を置いて行け。」

(響いた声は低く、所詮小悪党でしかない只の人間にとっては過ぎる圧
そして何よりも、立ち塞がる者たちの、其のいでたちは
盗賊と呼ぶには余りにも、其の装備が整い過ぎていた)。

ソーニャ > 幌で覆われた荷台に転がる小娘が、外の様子を知る術は無い。
ただ、不意に馬車が速度を上げて―――さほど時を措かず唐突に停まった、
その不規則な揺れを、寝転んだまま感じるのが精一杯。
転がり押し寄せられた端に位置していた少女が、苦しげに喘ぐ声。
けれど己はと言えば、声を発するのも、唇を動かすのも億劫で。

「――――――― ?」

外から、男の声が聞こえた。
それは先刻聞いた御者の声とは、似ても似つかぬ低く落ち着いた声だ。
荒々しさは無い、特段大きくも無い、が、しかし。

ぞくり、背筋がざわめいた。
人ならざる存在、甘やかされ守られて育った身にも、生まれつき備わった本能の警告。

逃ゲナクテハ―――――今直グ、ココカラ離レナケレバ。

明らかに気圧され、本来の仕事も何も忘れて手綱を放り出し、
御者台から転がり落ち、這いずるように逃走を決め込む御者の男が洩らす、
醜いしわがれ声が次第に遠ざかってゆくのを聞きながら、
暗がりの中、金色の一対は何とかして、己一人、この場から逃れる術を探していた。

冗談じゃない、と、無意識に呟いてしまう。
だってあの声は、―――――まさか、とは、思うけれども。
初めて聞く声では、ない、気がしたのだ。

ラボラス > (金と、命――何れを選ぶか
少なくとも慌ててこの場を逃げ去って行く御者の男にとって
今、自らが真に命を天秤に掛けられて居るのだと
そう感じ取れたのだろう事は、言うまでも無かったか

追う者は居ない。 人の領地で在る以上、逃げ帰る事は容易いだろう
其の姿が遠くへ消えて行くのを見送りながら、馬車へと向けて歩み
其の、幌へを手を掛け、中の様子を覗き込んだ。)

「―――――……随分と詰め込んだな。
"令嬢"以外は各々で運べ、馬車は置いて行く。
此処は人の領だ、長居するな。 遅れた者は置いて行くと思え。」

(幌の中、充満した独特の香気によって女達が酩酊して居るのは直ぐに判る
雑多に放り込まれた玩具箱の如き様相、その中から、一人一人運び出させれば
次第に減って行く幌の中、人非ざる娘の姿が最後に残るだろう。

そうして――最後に幌を開き、姿を覗かせたのは、ローブの姿
深く被った其のフードを、娘の眼前にて、ゆっくりと外せば
――金の双眸が、其の身を見下ろした。)

「――――久方ぶりの再会が、こんな形とは。
御転婆さは、今も昔と変わって居ない様だな――ソーニャ・ヴォルストラヴァ。」

ソーニャ > 何の力も持たない、脆弱な人間であれば。
墓場まで持ち込める訳ではない金より、自らの命を選ぶのが道理。
勿論、金を選んで身を滅ぼす者も居るであろうし、
命を選んだ筈が、どちらも摘み取られる結末だってあるだろう。
しかし少なくとも今、この場において、男の血が流されることは無かった。

そうして始まるのは、略奪と呼ぶにはあまりにも整然とした、
けれども迅速な、魔族による簒奪行為。
幌を上げて中を覗き込んだ男の姿を、薄くけぶる視界に捉えるより早く、
次々に現れた兵たちが、無力な玩具たる女たちを担ぎ出して行く。
無様に転がっていた己が、苦心して上体を引き起こそうとする間にも、
折り重なるように倒れ伏していた女たちは一人残らず運び出され――――
代わりに、黒衣の男が一人、荷台へ上がり込んでいた。
その容貌を半ばほども覆い隠していたフードが上げられ、金色の双眸が露わになる。
未だ起き上がれない己を、真っ直ぐに射貫く眼差しの色。
その唇が紡ぐのは、少なくとも人間風情が知る筈の無い名前。

「―――――気安く、呼んでくれるじゃないの」

肌が総毛立っているのが解る、背筋の震えが止まらない。
絞り出した声がみっともなく掠れていても、せめて見返す眼差しだけは、
斬り込む鋭さを宿している、と信じたかったが。

「……そっちは、随分堕ちたわね。
 これは、なに、……山賊の真似事かしら?」

しばしば街道に現れて馬車を襲う、下衆な悪党の真似事か、などと。
揶揄には欠かせぬ薄笑みを、巧く形作ることには失敗していた。

ラボラス > 「―――……その、負けん気の強さも変わって居ない様だな。」

(――ふ、と、口元に描く弧。
己に対して、言葉だけでも戯言めいて返す威勢が在るのなら
良い事だ、と呟きながら、片腕を伸ばし、其の身を引き寄せる
縄を解かぬのは、恐らく娘の性格を考慮しての事だろう
其れこそ、この場でも構わず暴れ出しかねない、と
適ったならば、其の身を抱え上げ、幌より降りて。)

「――――戻って来れたのでな、出迎えに来た。
山賊であったなら、随分と『御優しい』対応だった筈だが。」

(其の儘、向かうは森の中。
他の者たちも各々、娘達を担いで後に続き、森へと消えて行く
そして、然程経たぬ内に、境界線を一歩踏み越えたかの如く景色が変わり
拓けた視界の先に、巨大な城砦が現れる

――ナベルス城砦、神出鬼没に其の居場所を変える、移動する要塞
この城塞を、或いは娘も見た覚えが在るだろう
其の時は、当然こんな場所には在りはしない筈だ、が
これが何時か、魔族領にて娘が不法侵入を果たした
彼の城で在る、と。)

「――――城内で人員を確認しろ、数が揃い次第、領へと戻す。
他の娘は、一度治療させろ。 其の後は、好きにするが良い。」

(開かれる扉、一度も止まる事無く進む歩みが、城内へと踏み入り
デーモン、オーガ、サキュバス…様々な種族が闊歩する中を進む

こんな物が、当然ながら人間の領内に出現していい筈が無い
だが、其れでもこの一時、其れは確かに存在した
その理由が――まさか、この娘を出迎える為、其れだけだとは
きっと、此処に居る者達以外は、誰もが思わぬだろうが)。

ソーニャ > ―――――また新たな震えが、ぞくりと背筋を駆け抜ける。

あるいは人間たちならば、常の真顔にこそ威圧感を覚えるのかも知れないが。
己としては、どちらかというと―――ほんの微かであれ、笑みの気配らしきものを認めた、
今、この瞬間の方がずっと不気味に思える。

「放っといてちょうだい、―――― ちょ、ちょっと…!」

自力では起き上がれぬ身体を、抱き起こされるのは予測していたが、
後ろ手に拘束された腕を解いて貰えぬまま、抱き抱えられるのは想定外だった。
大きく目を瞠り、羞恥に、というより屈辱に、頬を鮮やかに紅く染めて。

「迎えに来い、なんて、頼んだ憶え、無いわよ、
 大体、優しい、って言うなら、……手、解きなさいよ!ちょっと!」

四肢の自由さえ戻れば、勿論、全力で男の腕から逃れ出ようとする筈だ。
たとえ体勢悪く地面に転がり落ちることになっても、という覚悟だったのだから、
拘束を解かない、という彼の判断は、とても正しかった、と言えるだろう。
足をばたつかせ、身をくねらせる程度の抵抗は試みるが、男の膂力には敵うべくも無い。

馬車の外へ出れば、そこにはやはり整然と、当たり前のように戦利品たる女を担いだ兵たちの姿。
己は彼女たちほど絶望していない、諦めてもいない、けれどもある意味では、
彼女たちよりも余程、己を待ち受ける運命の方が過酷かも知れない。
何故なら――――――

「―――――――――― ぁ、」

鬱蒼と生い茂る木々の奥、唐突に現れた漆黒の城塞。
見覚えがあるどころか、ごくごく最近、不法侵入の禁を犯したその城が、
今はあっさりと大きく扉を開き、己を――――否、己を抱えた魔族の男を迎え入れていた。
恭しく頭を垂れ、お帰りなさいませ、と口々に告げる者たち。
最も年嵩と見える男が、己の顔をちらりと見遣り、僅かに片眉を上げた。

『―――――公に、使いを出しますか』

公、という称号が誰を指すのか、聞くまでもない。
瞬きも忘れた金色を、己をここまで運んで来た男に向けて、震える唇で問う。

「―――――どういう、つもり、なの、
 ……あなた、まさか」

信じたくなかったけれど、まさか本当に。
父から持ち出された縁談の相手、噂の人物、己が決して、捕まってはならなかった男。
それが目の前のこの男だとしたら―――――この状況は間違いなく、己にとっては最悪だ。

ラボラス > 「御転婆が過ぎて、またいずこかに捕らわれても困る。
それと、迎えに来たのは俺の独断だ。」

(誰に頼まれた訳でもない、当然それは、娘の父たる存在にも。
娘の存在を感知し、追い、向かえたのは他でもない己が独断
其の為に軍も城も動かした――だが、其れだけの理由は存在する

腕の中で藻掻き暴れる娘は、けれど、其の力を震えるような状態ではない
何よりも、あの幌の中へとどれだけの間囚われ続けていたのか
例え幌を抜け出した今とて、其の身を蝕み続けた香が
そう易々と抜け去る筈もあるまい。)

「――――……様子を見る。
気になる事も在るが、何より"令嬢"の都合も聞いて置かねばな。
向こうから知らせが来たなら、其の時は返答して置け。」

(娘の所在を、父親たるあの者に伝えるか否か。
本来ならば早急に伝達すべき事なのだろう、だが
様子を見ろと指示を出しては、後の事は部下へと任せ
己は廊下を進み、娘と共に、部屋の一つへと入り込んだ

恐らくは――私室だろう、部屋。
大きな寝台に近づき、其の上に娘の身を降ろせば
漸く、自らが纏って居たローブを脱ぎ落す
――一瞬見えた鎧姿は、されどすぐに霧散して
肌着の上から、掛けてあった部屋着を羽織り。)

「―――――……公から話は聞いているだろう。
……俺に娘の縁談なぞ持ち掛けて来るとは、奇特な男だ。」

(振り返り、改めて告げる、事実。
其れが、娘にとって最悪の事実である事は、きっと今
此処に確かとなったに違いない

――魔族軍において、軍団長の座に君臨する存在
戦闘狂とも称され、蛮族の如く戦いに明け暮れる将
其れが――娘の前に、今佇む男の、正体なのだから)。

ソーニャ > 囚われの姫君と、救いに来た王子様―――――とは、似ても似つかぬ構図。

そんなありふれた憧れを抱いたことなど無いが、それにしても、だ。

「ワケ、解んないわよ、……何それ、感謝しろとでも言うの?
 だったらせめて、縄、解きなさいってば!」

助けてくれて有り難う、なんて殊勝な台詞とは、もとから無縁である。
もっとも、目の前の男がそんな台詞を、己の口から聞きたがるとも思えないけれど。

ともあれ、―――――抱えて歩くうちにも、男に伝わることはある。
大人しくする気は無い、じたばた足掻いてはいるが、明らかに四肢の動きが鈍い。
着衣と素肌が擦れるだけで、ぞくぞくと肌を粟立たせていることも、
体温が高めであることも、息が上がり易くなっていることも。
――――面と向かって指摘されたなら、全力で否定するだろうが。

『――――畏まりました。
 その時は、失礼の無きように』

主の言葉を聞き、再び慇懃に頭を下げた男は、きっと、
己の父親から使いが来たとしても、『失礼の無いように』誤魔化して帰らせてしまうのだろう。
この時点では己にとっても、その方が有り難い、と言えなくもないのだが、

「かっ、…勝手に、決め、な、―――――ちょっと、どこに連れて行く気!?
 好い加減降ろしなさいよ、ねえ、ねえってば!」

もう、暴れるのも辛くなってきていた。
息が続かない、やけに疲労が溜まり易くなっている。
魔族として、自らを守る術をほとんど持たないこの身は、他の女たち同様に無力で、
―――――けれどもしもいま、首に巻かれたリボンが外れてしまったら。
荒れ狂う膨大な魔力の暴発は、周囲のことごとくを灰燼に帰してしまうかも知れない。
ある種の爆弾めいた小娘を、平然と私室へ担ぎ込む豪胆さには己も舌を巻くが、
しかし、男の部屋で、寝台に運ばれるというのは――――落ち着かない、尻がもぞもぞする。
大体、いつになったらこの拘束は解いて貰えるのだろうか。
纏まりの無い思考に揺れ動く眼差しを、隠し切れずに男へと向けたまま。

「――――――― 聞いたけど、直ぐ忘れたわ。
 あたしは、誰のところへも、お嫁に行く気なんか無いもの」

結婚する、しない、の問題では無い。
あの家を出て、嫁に行く、というのが気に入らないのだ。
しかも、その相手が―――――、

「……あなた、まさか、受けるつもりじゃないわよね?」

目の前の男が、戦場以外の場所に。
血腥い戦以外のものに、その中で勝ち得たもの以外に、
関心や興味を抱くことなど、あるとは思えなかったので。
探るような問い掛けは、勿論断る、というひと言を、あからさまに期待したものだった。

ラボラス > (降ろせと喚く娘の願いは程無くして果たされる
ただ、其の縄が解かれないのは相変わらずであったが
魔族として、人間の其れよりは多少なりと高くても不思議は無い
薬物、或いは魔術への耐性も、娘の場合は怪しい所
其の身を蝕む変調もまた、腕に抱いて居た短い時間で知れる程度には
顕著な物であったと言えた。)

「――――……そうだろうな、御前の同意を得たとは欠片も思わん。
御前が望んで誰かに嫁ぐ、なぞあり得たのなら、いっそ弱みでも握られたのかと疑うだろうな。」

(嫁入り、ということ自体あり得ぬ話ではないとしても
あの父親が、この娘に同意を勝ち取ったとは思えぬのだ。
娘の姿を見下ろしながら、カーテンを開いて外を覗く
先刻同行していた兵全員が、既に帰還して居る事を示す印が
旗として城の入り口に掛けられて居るのを見れば

――刹那、膨大な魔力が溢れる。
城が、ゆっくりと浮き上がるような浮遊感を内部の者へ与えた後
窓から覗く外の景色が、一瞬で薄暗く変わる

――空気が、娘にとっても慣れた物に、変わるだろう
魔族領の、独特の気配へ、と。)

「――――……俺個人にとっては、如何でも良い話だ。
戦場にて奪い、勝ち取り、貪り尽くす。 ……そんな事を続けて来た男に縁談とはな。
初めて話を寄越された時は、思わず鼻で笑ったが…冗談ではなかった様だ。」

(――其の言葉から、縁談を持ち掛けられたのは、一度では無い事が判るだろうか。
何を考え、或いは何を目的として、あの男が娘を遣ろうとしたのかまでは知らぬ
だが、其れが冗句ではないらしい事は、此処最近になって漸く理解した

――其れまで娘が、己と顔を合わせることが無かったのは、そんな事情からだろう
当然、冗談と思っていた縁談相手にかまける位ならば、戦場を優先するのだから

だが――)

「……火炎公…あの男は、王国との戦争にも口を挟む程度には名が知れている。
他の歯牙にも掛けぬ連中とは違い、無下に突っぱねは出来んのだ、億劫だがな。
返事は保留した儘だ。――…如何するかは、決めても居ないがな。
だが、俺に寄越される位だ、俺自身が見極めても問題はあるまい?」

(――娘の推測は凡そ当たっている。
だが、今回当てが外れているとすれば唯一つ
火炎公が立場を持って居る事により、娘を寄越す其の行為が
己にとって"褒章"足り得るということ、だ。

見方を変えれば其れは、己が勝ち得たモノと言えなくも無い
それ故に、回答を保留しているのだ
寄越される娘が、果たしてどんな女であるのかを
改めて己が目で、見定める為に。

ゆる、と片掌が伸ばされ、娘の顎先を上向かせる
己が金の双眸で、娘の、己とは又異なる色合いの金色を覗き込み。
告げるのだ―――『初めから傅く様な、女は面白くない』なぞと)。

ソーニャ > 緊張や警戒心、そういった諸々の力を借りて、辛うじて意識を保っているものの、
実のところ、無力な人間の娘と変わらぬ耐性しか持たぬ身は、ひどく蝕まれ、消耗していた。
ぴんと背筋を伸ばし、真っ直ぐに相対する男を見つめ返す姿勢さえ、
意識していなければ崩れてしまいそうなほどに。

「当たり前でしょ、何故あたしが、家名を捨てて嫁がなきゃいけないの、
 ……どんな弱みを握られたって、絶対に御免だわ。
 あたしは、父様の娘なのよ……たった一人の、―――――」

今は未だ、たった一人の後継者なのだ。

それだけが、己を支える支柱である、という、自らの土台の脆弱さに、
気づいていない、というより、気づかないふりをしていたい。

男が窓辺に佇み、カーテンを開いて外へ目を遣った。
―――――不意に、空気の色が変わる。
慣れ親しんだ魔族の領域の、けれどもこの男に属する領域であるがゆえに、
王都よりもある意味、緊張を強いられる空間に。
一瞬だけ息を詰まらせ、そっと一度、きつく目を瞑って、深呼吸をしてから再び目を開けた。

「父様は、最近側女に迎えた、金髪の阿婆擦れに夢中なのよ。
 あの女が孕んだって知った途端、おかしくなってしまわれたんだわ。
 ……あたしを、この、あたしを、遠ざけようなんて―――――」

あるいは実家の内情など、洩らすべきではないのかも知れない。
しかしあまりのことに、もう、父の面子などどうでも良いとさえ思い始めていた。
たとえ実の父親からであっても、軽んじられるなど許せない――――
他人からは、父親の関心を引きたがる、ただの小娘のワガママとしか思われないだろうけれど。

けれど、己の矜持は本物だ。
幼くとも、土台が危うく脆かろうとも、―――――なればこそ。

男がこちらへ手を伸ばし、まるでつい先刻、戦場で拾った女にでもするような気軽さで、
頤に触れ、くいと上向かせてみせるなら。
己は傲然と、燃え立つ焔にも似た黄金色の双眸で、男を睨めつけてやるのだ。
呼吸の乱れも、肉体の消耗も、変調も、何もかもを押し隠して。

「―――――父様の機嫌を、損ねるのが怖いの?
 それなら、傅くのはあたしじゃなくて、あなたのほうじゃないかしら」

態とらしい愛らしさでもって、小首を傾げて微笑む。

「もう一度だけ言うわよ、………縄を、解きなさい。
 それから、そうね、―――――この場で跪いて、あたしに愛を乞うてみたら?」

可憐に弧を描く唇は、しかし媚びるどころか、身の程知らずな毒を紡ぐ。

ラボラス > 「――――……確かに、嫁がなければ御前が正当な後継か。
だが、そうか――公も最近、随分と"弱火"になったと噂を聞くが
成程、そういう事情か。」

(娘が告げた家中の事情は、決して己にとって何某かの利益を齎す様なモノではない
政争になぞ一行に関わらぬが故、他者の痴情になぞ興味も持たぬが
成程、と納得できるものも、全くない訳では無い
本来、苛烈なる炎の使い手として名を馳せたが故の『火炎公』
だが、最早今では、其の勇猛さを戦場で聞く事は殆ど無い
隠居したのでは、なぞと嘯かれる其の実情が、なるほど、女が原因だと言うのなら

其の煽りを食らったのやも知れぬ此の娘もまた、憐れな物だ。
貴様は己が獲物足る――戦場にて攫った女に対し、向ける金の双眸はそう意味を持つ
されど、其れを見返し、決して傅いて遣る物かと毒を紡ぐ其の唇に

また、唇が弧を描く。 そうでなければな、と。)

「―――――……今、俺の敵は王国だ、同胞ではない。
あの男の様な、過去とは言え名を馳せた男に、刃を向けられぬのは惜しい事だがな。
……だが、今は其の方が都合が良い。 既に耄碌した男よりも余程
御前の方が、苛烈な炎の様だからな。」

(――告げて――指先が、滑る。
女の言う通りに、縄を解く――其の、筈も無く
其のドレスに指を掛け、胸元を、そして、其の下腹を撫でる様に滑り下ろした後

――女の目前、肌着もが霧散し行き、晒される肉体と
其の眼前に露わとされる、巨躯に相応しき雄の楔
香に蝕まれ、理性によって抑えつけている熱情の波を
圧倒し、威圧し、何よりも暴き揺るがさんとする『雄』を
其の唇へと、口付けさせでもするかに、突き付けた)。

ソーニャ > 「……『れば』って、気に入らないわ」

己にとって、生まれ落ちたその時から、定められていた筈のこと。
それを脅かすどころか、覆す存在など――――到底受容出来ない。
ここで、この男を前に主張しても詮無きことではあるが。

けれど、己の中には未だ、父親への情がある。
だから男が乳を『弱火』だなどと評すれば、それはそれで解り易く、眉を寄せて見せるのだ。

「………勘違い、しないで。
 父様は、今、熱に浮かされているだけなのよ。
 正気に戻られれば、人間どもの暮らす街のひとつやふたつ、
 直ぐにでも、―――――――」

声が俄かに震え、唇が強張ってしまったのは、男の指の動きゆえ。
決して気圧された訳では無い、けれどもこの身に、今、男の体温が宿る指先は、
どうにも、刺激が強過ぎていけない。
喉からドレスの胸元へ、後ろ手に縛られているから庇うことも出来ない腹部へ、
滑り降りてゆくだけでも、反射的に『奥』が疼いてしまう。

眼前で、男の肉体を覆っていたものすべてが、幻のように霧散して消える。
歴戦の猛将に相応しく、無駄なもの一切を削ぎ落し鍛え抜かれた肢体。
浅黒い肌に刻まれた、幾つもの古傷さえ誇らしげに―――――そして。
何よりも如実に、男の、雄としての強靭さを示す肉の楔が、己の鼻先に。
僅かでも身動げば、唇を掠めてしまいそうな至近に。

―――――瞬きも忘れ、瞠目したのはほんの一瞬。
唇に改めて、念入りに三日月の弧を描き、己は自ら、男のそこへ口づけんばかりに顔を寄せて。

「―――――小娘だと思って、馬鹿に、してるのかしら。
 今直ぐ、これ、食い千切ってあげても構わないのよ?」

少しばかり声が掠れてしまった以外は、完璧に、装えたと思っている。
男にはそんな虚勢、見抜かれてしまうかも知れないが―――――。

ラボラス > 「―――だが、事実だろう。
お前にとって、家を継ぎ、あの男の後継として認められるには、最早血筋を誇る外に無い
そうでなくば、気に入らぬなら奪えば良いだけの事。
力尽くで、己が地位を守り通せば良いだけの事だ。」

(だが――そうせぬのは、其れが出来ぬからでは無いのか
力も、或いは――父への反抗も、恐れて居るのは何よりも他ならぬ娘自身なのでは、と
父親を卑下する表現に対して、露骨に表情顰めて見せる娘に
そんな物言いで問いかけて見るのだ。 ――奪えぬから、しがみ付くのだろう、と。

――娘の眼前に突き付けた熱塊へと、其の唇が触れそうなほど寄せられるなら
反して紡がれる不穏な台詞へと、怖気ずく気配なぞ微塵も無く。)

「―――なら、食い千切って見せろ。
其の豪胆さが在るなら、在る意味では俺と添い遂げるに相応しい…かも知れん。」

(己にとって、今この場において、娘がどんな反応を、抵抗を見せたとて、得でしか無い
苛烈さを見せれども、或いは――淫蕩さ、従順さを見せつけようとも、だ
己からはそれ以上押し付ける事無く、見据える金色が娘の金色を見下ろし
娘の頭へと、緩やかに片掌を載せて、黒の髪色をくしゃりと掴んで見せれば。)

「――――――……口付けろ。
そうすれば、御前の胎が耐え切れなくなる前に、抱いて遣る。
何処ぞの馬の骨に食われるか、其の儘の胎で父親と女の前に戻されるか
……好きな方を選べ。」

ソーニャ > ―――――どきり、とした。

手が自由であったなら、反射的に首許へ触れていただろう。
そこを彩る漆黒は、己が未だ父親の庇護の下にある証。
――――そして、己が未だ、父親に施された枷を、捨て切れない証。

男を見つめる眼差しに、また、窺うような色が深く滲む。
この男は己の父親について、あるいは己自身について、どこまで知っているのだろう。
そして今、相対している間に、どれだけのことを察知したのだろう。
―――――弱く脆い小娘の、心身ともに摩耗した現状では、何ひとつ見通せない。
だから、代わりに口を開くより無かった。

「……出来ない、と思ってる、のね……?
 あたしに、は、………奪うことも、食い千切ることも、出来やしない、って。
 ―――――― 後悔、する、わよ」

震えてしまう、男は髪を、頭を、緩く掴んだだけなのに。
胎の奥深く、最も脆く陥落し易い箇所が、雄に犯されたくて疼いている。
けれど、だからこそ――――微笑って、僅かに覗かせた紅い舌先で、柔らかな下唇を舐めて。
上目に見つめる眼差しを逸らさず、吐息で雄を淡く嬲りながら、

「あたしに、命令なんか、させない、わ……?
 あなたこそ、選んだらどう、―――――― あたし、か、父様、か、
 ―――――― あたしを、選ぶなら、……抱かせて、あげても、良い、わ」

たった今、この男を前にして、己は気づいてしまったのだ。
この男ならばあるいは、本当に、父を斃してしまうかも知れない、と。
今ならば、父の血を引く赤子が生まれる前、ならば―――――

ぞく、と、新たな疼きが胸の奥に、胎の底に。

視線を男の顔から、その金色から離さぬまま、唇を雄の先端へ寄せる。
ちろり、尖らせた舌先をくびれ辺りで遊ばせてから、熱い湿り気を孕んだ唇を触れさせる。
啄むように一度、それから、ねっとりと押し宛てるように、と。

ラボラス > 「――――其れは如何だろうな。
御前が其れを出来るのなら、俺は御前を見直すだろうが。」

(――だが、其の勇気も根性も無いからこそ
今は、此処に居るのではないか、と。
――其処までを言葉にはせぬ、が

魔族とは、力こそが全てだ。
血筋による継承も、時に力がとって代わり
それ故に立場を持つ者は、自らの力を軽視せぬ
娘と、父と、愛妾と、その子と。
争いの火種ばかりが見て取れる其の状況でもし
あの男が何も手を打たず本当に熱へ浮かされて居るのだとしたら
最早、其れは燃え尽きた炭にでも等しい、残りカスだ。

熱塊へと、漸く自ら唇を触れさせた娘の言葉は
されど相変わらず、戯言めいて強情なままだ
自分を選べ、なぞと、己に対して言ってのけるのは
若さ故の勇気か、無知ゆえの愚かしさかは、判らぬが。)

「――――……立場が分かって居ない様だ、ソーニャ・ヴォルストラヴァ
選ぶのは俺ではなく、御前だと言う事を理解しろ。
……俺を、貴様の道具として利用しようとする強かさは
認めてやるがな。」

(だが――決して、己を傅かせようとする事は、許さぬ
声音は変わらず、だが、其の言葉に不意、重圧が載せられる事だろう
戦場を駆け巡り、闘いの只中に今も生きる者と
城へ籠り、過去の名声と共に生きる者と――果たして、何方を選ぶのか
ゆっくりと、考えて決めれば良い、と――結論は急がせぬ

娘が舌を這わせる度、其れまでよりも一層固く、膨れ上がる雄の形を伝えながら
髪糸を乱していた指先が、滑り落ちて、其の首根を掴む
もし、力を籠めれば其れだけで、花を手折る様に潰れて仕舞う其処を
柔らかく、擽る様に、愛でるのだ)。

ソーニャ > ―――――令嬢に相応しからぬ、鋭い舌打ちの音。

どこまでも癇に障る男、もしも父の言うまま嫁いだとしても、
きっと生涯、夫として愛することなど出来ないであろう男。
しかし――――気づいてしまった可能性から、目を背けることもまた、出来そうにない。

僅か、舌先を添わせただけで、鼻腔を、咥内を支配する、濃厚な雄の香り。
脈打ちながら硬く、熱く血を集めて、ますます雄々しくそそり立つ男の象徴に、
ひたりと触れさせた唇を開けば、皓歯ををそこへ突き立てるぐらい、
勿論、容易く果たせる筈だ。
けれど、己の頭は気づいてしまったその先へ、更に思考を巡らせている。
家族としての情愛を、あるいは裏返された憎悪を、どこまでも煮詰めたような破滅的思考、を。

「選ぶ、権利が……ある、のは、あたし、………それなら、やっぱり、
 あなたの、これは―――――― んぁ、ふ、…… あたしの、道具、
 ………いえ、あたし、の、武器、だわ………?」

はふ、と、蕩けそうに熱い吐息で、雄の先端を甘く濡らす。
鈴口の窪みを狙って、舌先で辿り、擽り、湿らせたそこへ軽く吸いついて。
己の細首ひとつ、今直ぐにでも圧し折れる筈の、けれども依然として緩く、
黒髪の狭間から覗く柔肌を、そこに巻きつく漆黒を、擽るばかりの指先の持ち主へ、
じわりと潤み始めた金色を撓ませながら。

「――――― あなたを、選ぶわ、ラボラス。
 ……そう、言ったら……あなた、あたしのため、に、父様を、――――――」

唇の動きが、その先の言葉を、彼の雄へと刻みつける。

『あたしを、父様から、自由に、してくれる?』―――――と。