2017/05/10 のログ
■リン > 「まあ、適切な時期というのがあるのさ何事も。
ずっと親元で暮らしてたら、そのうちきちんと教えてもらえてたかもね。
おっと。そこから説明しなければならないか……」
魔族というのはすごく悪い連中なのだよ、などと掻い摘んだ説明を加えながら、話を続ける。
芸を嗜む人間らしく、語り口は気取っていて流暢だ。
「お褒めいただきありがとう。
まあ、ぼくも普段は控えるようにはしているよ、演奏は。
しょっちゅうあんなことになっても、大変だからね。お互いに」
ばつが悪そうに苦笑する。
強い、というシトリの評に。まばたきを何回か。
「ふうん。それはそれは――興味深い考えだ。
でもねえ、大したことないとぼくは思うよ。
奏者を志す連中っていうのは、どいつもこいつも、どんな破滅が降りかかろうとも、
楽器を手に取らずにはいられない――弱いキリギリス(アクリス)なんだ」
そう、まるで他人事のように、自分自身をせせら笑う。
自分に興味を持たれることが珍しいからか、妙に饒舌になっていた。
■シトリ > 肌の白い人間がいることすら、《まれびとの国》に来るまで知らなかったシトリ。
ミレー族と人間との確執は先日学んだが、それとは別にやっかいな種族……魔族なんてのがいることは初耳。
リンの説明を、こくこくとうなずきながら聴き続ける。
「悪い連中……たしかに、《アクリス》みたいなおかしな楽器を作るんだもの、よくない奴らだね。
王都にも潜んでいるのなら、気をつけるようにするよ。できるだけ、ね……」
ミレー族とは違い、定まった外見的特徴をもたない魔族。
シトリが事前に見分けられるかどうかはわからないが、まぁ、全く知らなかった状況よりはマシであろう。
そして、自分があまり考えずに述べた、「リンは強い人」という言葉への彼の応答。芸術家、演奏家という生き方。
故郷にも楽器を弾く人々はいたが、それはあくまで余興、余暇として。
故郷の人々は皆、今日1日を生き、オアシスを維持し、共同体を護ることに躍起になっていた。
「……リンは、そんなに音楽が好きなんだね。すごいや。オレにはそこまで熱を出せるコトが……まだ、ないから。
剣の練習はするけど、それは身を守るため。冒険者の真似事もするけど、それはお金を稼ぐため。
それでいいと思っていままでやってきたし、この国に来てからも、それは変わらなくて。
だから、リンは少なくともオレよりはずっと強い人だと思うよ。自分の意思とかこだわりで、自分の道を決めてるんだから」
澄んだ空色の瞳で、目の前の少年をじっと見つめるシトリ。はにかみの笑顔を作り、
「……ま、それは年の差ってのもあるかもしれねーけどな。オレだって、すぐにそういう趣味、見つけるかもしれないし!」
■リン > 「…………」
黙してシトリの言葉に耳を傾ける。
そのさなか、痛みを堪えるように、目を伏せた。
しかしそれも、見逃してしまうような数瞬のこと。
「シトリはよくできた子だなぁ!
まったく、襲いたくなっちゃうよ、本当に」
破顔して、はにかむ相手に両腕で抱きついて、大雑把に撫でようとする。
出会ったばかりの子供に話すような内容でもなかったな、と密かに反省をした。
「……にしてもこんなにいい子のきみは、どうしてマグメールで冒険者に?
好奇心かい? それとも、やむにやまれぬ事情が?」
シトリのような年少の冒険者はいないというわけではないが、
それほどありふれている存在でもない、というのがリンの認識だ。
■シトリ > 「やっ……な、なになに、リンっ…!
襲うとか……だめ、だめっ! ここはお外だよっ、見られるよ!」
襲うという言葉とともに抱きついてくる少年。
その襲うというのが野盗的な意味でなく、昨日の酒場の時のような意味合いであることを察すれば、シトリの頬がほのかに染まる。
しかし、ただ抱きついただけでそれ以上の行為に及ばず、撫でられるだけであれば、抵抗はしない。
「そんな、オレは大したことないヤツだよ。小さな村の出身だし、街の子供たちほど勉強もしてねぇし。
……そうだな、オレの話もすこし聴いてくれると嬉しい」
一応は剣を100回近く振ったあとの身、汗臭さは気になる。やんわりとリンの抱擁を押しのけながら、シトリは語る。
「……実はオレ、この国によくわからないうちに来ちまったんだ。流れ着いた、って言うべきかな。
ここに来るまでは砂漠の中、オアシスの集落に住んでたんだけど。ここから見てどっちにあるかも、今はわからない。
親ともはぐれちまって、知ってる奴もいない。でも屋根のあるとこで寝るにはお金が必要。
……で、オレにあるのは村で習った剣術と、あとは……この身体くらいだから。冒険者になるしかねぇよ」
故郷のことを思い出したからか、自分の身の上と不甲斐なさを改めて自覚したからか。その表情がにわかに陰る。
目を伏せ、腰に下げた安物のシミターを睨む。
「……なぁリン。いろいろ聴いてばっかりですまないんだけどよ。
オレ……他の生き方、あると思うか?」
■リン > 「なんだよ、見られてなきゃいいのかい」
からかうように言いつつも、やんわりと拒まれれば、それほど執着も見せず身体を離す。
座るのにも飽きたのかそのあたりに寝そべって、再び耳を傾ける体勢に。
そよそよと、長い青髪が風に揺れる。
「砂漠から流れ着いた? 奇妙な話もあったものだね。
で、とりあえずここで生きるために、手に職が必要、と……」
そうして聞かされたのはなんとも不思議な話だった。
説明は不足しているが、嘘を言っているわけでもないだろう。
彼の生き方の選択肢を考える。難しい問いだ。
売春窟。奴隷市場。……いい働き口がある、という口車に乗った子供の行き先のうち、“マシな方”。
「そうだなあ、“自分の力で”っていう条件なら、それが最適かも。
どこかの商家で丁稚奉公……は、コネがないと難しいね。
ぼくが世間的な信頼の厚い大人だったら、力になれたかもしれないけど」
残念そうにゆるく首を振る。所詮自分はただの浮草だ。
■シトリ > 奇妙な話。たしかにそうだ。砂漠の真ん中から異邦の地に流れ着くなんて。
川や海に面した場所に住んでいたなら『流れ着いた』という言い方は(それでも多少無茶はあるけど)適切である。
……しかし、事実そうなのだ。とはいえ『ウンディーネとくっついた』なんて話は突拍子もなさすぎて、すぐには切り出せない。
こうまで仲良くし、いろいろ教えてくれたリンに対して隠し事をするのは気が引けるけれど。
気の迷いは表情にも現れ、陰りが増す。
「うん。『自分の力』以外に、頼れるものはないから。コネとか頼るべくもないし。
……んー、気にしないで、リン。世の中そううまく行くもんじゃないってのは、ここ数ヶ月暮らしててよく知ってるからさ。
まぁなんだかんだで冒険者の真似事で今まで生きていけてるし。しばらくは大丈夫だよ」
寝転がって首を振るリンの仕草に、シトリは苦々しい笑みを浮かべる。
そして、野原でくつろぎ始めるリンを尻目に、シトリは静かに立ち上がった。
「それじゃリン、オレは王都に戻るね。そろそろ酒場に今日の依頼が出始める頃だし。
オレには街の人の厄介事を解決するくらいしかすることないから、そのくらいは真面目に頑張らないと、ね」
ぽんぽんと自らのお尻を叩き、ズボンに付いた土や草を払う。むっちりと大きいお尻だ。
そして街道の方へ歩き始めるが、一度止まって、何かを思い出したようにリンの方を振り向く。
「……オレも、誰かを頼ってるばかりじゃダメだし。その……オレ、そろそろオトナになり始めてるから。
だからリン、オレみたいな冒険者に頼れることがあったら、いつでも頼ってくれよな。その……オレでよければ」
■リン > 「そうか。きみも何もわからない子供というわけではなかった。
きっとなるようになるさ。世界は案外いい加減にできている」
頼もしい冒険者とはお世辞にも言えないシトリの風貌だが、
案外、今後もこの国に張り巡らされた罠を乗り越えて
なんとか生きていくことができるのではないか、と思う。
根拠などはないけれど。
シトリがこちらに向けた、いやらしい肉付きの臀部をガン見していたところで振り返られる。
「きみに頼らなきゃいけない事態って、よっぽど抜き差しならない状況だろうな。
そのときはせいぜいこき使ってあげるよ」
ニヤと笑い、意地悪な言い方で返事をする。
そのまま立ち去るというのなら、黙って見送るだろう。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からシトリさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からリンさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にクロエさんが現れました。
■クロエ > 「よっと、これで一丁上がりだよっ!」
声と共に振るわれる左腕。同時、出現した赤い光が横薙ぎに、魔物の胴を切り裂いた。
一閃は、しかし血飛沫を生まない。炎熱の魔力が込められた刃は、魔物の血液を一瞬で蒸発させ、傷口を焼き塞ぐ。
どう、と重い音を立てて崩れ落ちるのは、猪型の魔物だ。近くの野山から迷い出てきたのか、行商人を待ち伏せていたのかはわからない。
どちらにせよ、人に危害を加える可能性のある魔物を放っておく訳にもいかず、対峙し、命脈を絶ったのがつい今しがただ。
「……ふぅ、これで、とりあえず街道を塞ぐ魔物は倒した訳だけど……」
他に何もいないよね、と独り言ちながら周囲を確認。左手の赤い長剣――レーヴァテインは握ったままで。
冴え冴えとした月影を破るかのように、煌々と明るく光る赤い刀身は、さながら太陽のようだった。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にオーソンさんが現れました。
■オーソン > 定期的に行う冒険者として仕事を受け街中、町の外の様子を伺う恒例の行い。
これといった仕事ではないが噂で聞いた街道に出るという魔物がどれほどの物かと確認をしておく為に街道へと遅い時間へと繰り出す。
もう少しで噂の魔物が出るという場所が見えてくるという所、進む先に煌々と明るく光る長い物が見え歩く速度を落とす。
噂とは違い炎を扱う魔物だったのかと僅かに警戒を持ちその場へと近づていき。
「これは驚いたな。君が討伐をしたのか?」
近くにまで近づけば倒れる魔物と光の元である、恐らくは魔剣を持つ少女を目にし軽く拍手をしながら声をかけていく。
■クロエ > 明るい赤光を周囲に散らし、気配を探ること少し。
近づいてくる何者かを感じ取ると、向き合うように体を回す。
目の前、現れるのは一人の男――体躯や装備を見る限り、冒険者か或いは騎士の類だろう。
掛けられた声には、にぃっ、と人懐っこい笑みを浮かべながら。
「ん、手が空いてたから、どんな相手かなと思ってきたのだけど、どうにか倒せたって感じかな」
周囲に他の気配が無さそうなのを確認すると、魔剣を軽く一振り。赤い光が霧散する。
後は刃を腰の鞘に納めると、戦いで使った筋肉を解すかのように伸びをして。
「っと、止めはちゃんと入ってるみたいだけど……もしかして獲物取っちゃった?
だとすると、こう、ごめんなさいって感じなのだけど……」
まずったかな、と苦笑しながら、少女は首をかしげて見せた。
■オーソン > こちらの気配に気が付いたのか声を掛ける前に振り替える姿にそれなりな腕はあるのだろうと眺める。
初めて会う相手にも関わらずに人懐っこい笑みを見せる姿には何か面白い物を見るような眼を一瞬だけして。
「なるほどな。手すきで見てみようと思った訳か。それで倒せるのならが大したものだ」
少女の一振りに剣の赤い光が消える様子に魔法ではなく魔剣の類と確信を持つ。
「見た感じでは死んでいるようだな。こいつがいなくなればこの道もしばらくは安全になるだろうな。
ふむ……もしそうだと言ったらどうするつもりだ?」
自分も少女と同じようにどんな相手なのか見に来たのだが。
討伐に来た冒険者と勘違いをしている様子に少しの悪戯心でそうだとしたら?
と反応を見るために問いかけてみる。
■クロエ > 幼い頃より男子の中に混じって剣を振るい、育ってきた経歴が少女の腕を培っている。
どうやら相手は自分を襲いに来たような輩じゃないらしい。そうなら毒気を抜いてやろうと思ったのに。
「ん、ボクもまさか、一人で倒せるとは思わなかったんだけど、見つかっちゃってさ。
しょうがないからどうにかって感じだね。疲れちゃったよ、全く」
突進をよけるのが大変だったよ、と嘆息しながらも、少女に疲弊した様子は見えない。
装備の加護と日々の鍛錬のおかげなのだろう。まじめでよかった、と内心独りごちる。
「んー……そうだなぁ、獲物をとっちゃったなら、素直に謝りつつ、証拠の牙を進呈するかな。
ボクは騎士だから、魔物を倒しても特別に報酬が出るってわけじゃないし、冒険者さんはギルドからいい感じに出るでしょ?」
どうかな、と悪戯っぽく笑む少女は、中々に打算的だった。
■オーソン > これが太々しい態度の一つでも取るのであれば暇つぶしの目的を奪われた代価でも払わせるつもりではあった。
だがそうでもなく見た目通りの騎士故か礼儀の正しさにその考えをなくし。
「あえれば御の字と来て遭遇したという事か。
疲れたと言っているがそうは見えんぞ?まだまだ余裕がありそうだ」
猪に似たこの魔物ならば突撃はそうとな物と見当はつき、少女の言葉に嘘はないだろうと。
嘘はないだろうが疲弊した様子もない事に感心をして。
「謙虚だな。報酬は出ないだろうが上官に報告をすれば何かしらの褒美は出るのではないか?
ギルドでは確かにこのクラスならいい金になるだろうな。
ならばその牙は俺が貰い、代わりに酒でもご馳走しよう、どうだ?」
悪戯っぽく笑いながらも打算的な一面も見せる少女。
中々に面白いと感じればこの少女が一夜でも欲しくなり誘いをかけてみる。
■クロエ > 彼の指摘には首肯し、次いで苦笑を浮かべる。
余力を残していることを一瞬で見抜かれてしまった辺り、彼もまた実力者なのだろう。
これは、本格的に自分の出る幕じゃなかったなぁ、と反省しつつ。
「ん、本当は討伐しに来る冒険者さんが来るか、誰かが危ない目に合うまで見張ってるつもりだったんだ。
もしかしたらこの子が自分から森に帰るってことも有り得た訳だし。そうならなかったけども。
いやぁ、そこまでさっくりばれちゃってるか。お兄さんなら、この子一人で倒せたよね、うん」
猪の突進は凄まじかったが、少女は火力を魔剣に頼りつつ、速度を武器に戦うスタイルだ。
横に素早く躱して、猪の残身を狙って、間隙を縫う様に刃を叩き込む――パターンに持ち込めたのが勝因だろう。
「ん、上官のご褒美は、ギルドの討伐報酬ほど美味しくないし、月の給金があれば十分だから。
騎士団は、ご褒美こそ出しても魔物は倒して当たり前って感じだからね。だから、冒険者さんが持って行った方がいいかなって。
それに、ほら、こうしてお零れに預かれるかもしれないし――あ、お酒は飲めないからミルクでもいい?」
それで良ければ、この後は非番だからお付き合いするよ、と誘いに応じる。
偶然の出会いだから、まさか自分の体が目当てなんてことはないだろう、と警戒心は緩めだった。
■オーソン > 話を聞いていれば本当に真面目な騎士なのだろうと判り。
少女の勘違いだけは訂正しておこうと決めて。
「俺がここに見に来たのは噂の確認だ。残念ながらギルドへの討伐依頼はまだだったな。
この手の魔物は一度味をしめれば戻って来る。今始末して正解だ。
息も乱れてないうえに付かれたもの特有の動きもないのでな。このクラスは流石に判らんな。
それを思えば君がこれを初見で倒せたことは凄い事だ」
突撃のタイミングを見誤れば流石に危険かと一度魔物を眺め。
初見だろうが魔物の動きを見抜き対処出来た少女に素直に称賛を送る。
「それは仕方がない事だ。多くの褒美を出せば魔物討伐に騎士が出払ってしまうからな。月だけで十分か…。
その当たり前をできない団員も多いのが現状だ、それを思えば君のような騎士にこそ褒美は必要だろうな。
なるほど…確かにおこぼれはあったな。それでも構わんぞ」
この少女のような騎士がもう少し居ればと…冒険者ではなく騎士団の上官の一人としての考えでは頭痛の種で。
誘いに少女が乗ったことに僅かに笑みを浮かべ。
「名乗っていなかったな、俺はオーソンだ。よろしく頼むぞ」
ほんの僅かに魅了の魔眼に魔力米少女の目を見据え名の名乗る。
■クロエ > 彼の言葉を聞くと、やっぱりか、と少女は肩を落とす。
「あはは、自分でも甘いよなぁって分かってるんだけどね。
魔物も生きてるから、出来れば、森に帰ってくれればいいなぁって思っちゃう。
ん、ありがと。前に普通の猪と遭遇したことがあったから、経験の勝利ってやつだね。
その時は、勝手に木に突っ込んで死んじゃったから、美味しく頂いちゃったけども」
如何に魔物とはいえ、元にした生物の生態を変えることはできない。
猪型であれば突進してくるのは必然で、そのリカバリーができる個体かどうかが重要になる。
隙を埋める触腕でも生えていたら危なかったかもしれないが、そうでなかったのが幸運だった。
「ん、だよねぇ。これ倒しても、冒険者の報酬の半分にも満たないよー、うん。
ボクは魔剣使いだから、魔力を注げば勝手に武器が整うけど、他の騎士さんは武器のメンテナンスとか大変だろうしねぇ。
ん、狙った訳じゃないけど、こういうお誘いは断らない主義だからね。伝手は多い方がいい」
少女は経済的に豊かな分、余裕があるから騎士らしさを追求できている。
しかし、他の騎士達が皆、少女と同じ様に余裕があるわけではない。
人によっては賄賂や横領、役人や貴族と結託して後ろ暗い事をしている者も居るのだろう。
そのような相手に遭遇したことはまだないが、出会いたくないなぁ、と思う。
何せ、出会ったら見過ごせそうにないからだ。絶対に面倒事になるのが分かっている。
少女は、案外正義感が強いのである。
「っと、ボクはクロエ。姓はあるけど、余り名乗りたくはないかな。
――んっ、ボクの目を見つめて、どうかしたかな?何かついてるとか?」
身に纏っていた聖なる銀が、男の魅了を僅かに減衰し、好意的な感情を抱く程度に留まる。
しかし、魅了の術式を看破するほど魔法に詳しい訳でもなく、単に見つめられているだけか、と首を傾げた。
とはいえ、男に対してマイナスの感情を抱けなくなった、という点では確かに魅了されていた。
■オーソン > 「ただ非情に始末するよりは甘さがある方が俺が好意が持てるな。
人に害を出さないのであれば魔物も無意味に殺す事には同意できんよ。
森で静かに暮らすならむやみに突く真似もするつもりはない。
なるほど、普通の猪と経験があったのか、経験が生きたな。
中々に逞しいものだ」
少女の言葉に納得できたというように腕を組んで頷き。
見た感じイノシシがそのまま魔物になったようなタイプで特殊な器官や攻撃法も載っていなかったのだろうと。
「そこまで安いのか?規定では冒険者と同額だったはずだが…。
魔剣と言っても様々だ。メンテナンスがこまめに必要なものがあったりもする。
伝手か、確かにそれは言えているな。俺も君の伝手の一人となったわけか」
少女の言葉に配下の騎士の経済状況を一度調査する必要がる事を実感し。
ほんの気まぐれに近い魔物確認だったが、そのおかげで少女と出会えこうして騎士の褒美や経済面の一面を知る事が出来たのは大きな結果で。
今のところ部下が賄賂や横領に関わっているという話は聞かないがあれにはならないと…。
それを思えば正義感が強い少女に好印象を持つのは当然で。
「姓を名乗れないのはお互い様だ。クロエか、いい名前だ。
いや、綺麗な瞳だと思ってな。それに強い意志の光も感じてな。
それでは行くか。酒以外にも出すいい店があるんだ」
少女の耐魔力なのか装備の成果は判らないが魅了の魔術は効きが良くない様子。
だが嫌悪感は抱かれていないだろうと思えば馴れ馴れしいという姿を装い少女の肩に腕を回していき。
■クロエ > 「そう言ってくれると有り難いかな。お陰でいつまで経っても半人前扱いだけど。
魔物にだって営みがあるから、住み分けられるならそれが一番だと思うんだ。
だけど、皆の中ではやっぱり魔物は倒すべき物で、不安だって気持ちもわかるから、しょうがないのかもしれない。
ん、野宿は結構スリリングで好きなんだ。野営とかで料理するのワクワクするじゃない?
お陰で、全然女の子っぽくないよねって言われるけどさ。ふふ、逞しいよ、うん!」
ところで、魔物の猪って食べられるのかしら、なんて考えているあたり、色気より食い気である。
ただ、瘴気等が宿って自然の猪が魔物化したのであろう遺体から、とりあえず牙を二本折る。
それを紐で一括りにすると、男の方に差し出した。そして、赤の魔剣を抜き放つと。
「ん、これで証拠は採ったから、あとは丁寧に弔うだけだね」
切っ先を魔物の遺体に向けると、小さな火種が飛んでいき、遺体に燃え移る。
周囲の全てを焦がさず、焼かず、しかし遺体だけを確かに灰にすると、風葬のように吹き散らした。
「んぅ、規定では同額のはずだけど、騎士団も最近は緊縮らしいんだ。方便かは知らないけどね。
ボクの剣は、ボクの魔力を食べる代わりに、勝手に刃毀れとかが治る感じだから、助かってるよ。
知ってる人が多ければ、困った時に助かるし、相手が困った時に何かできるかもしれないからね!」
元々貴族の生まれ故、ノブレスオブリージュの精神は深く根付いている。
また、偶々父が厳格な性分だったため、道義に反することに対する反感が強いのだ。
結果として、少女の正義感は後ろ暗い者にとっては目の上のたん瘤になるくらい、ウザったいものになっている。
それがどう転がり、どんな実を結ぶかは今後の運命次第だが――。
「ん、そかそか。ふふ、ボクの目ってそんなに綺麗なのかなぁ?
鏡でも毎朝毎晩見てるから代わり映えはしないんだけど――っとと、了解!
それじゃ、案内役は任せたよっ!――って、もう、近いってば!」
くすくす、と笑いながらも、このくらいならばスキンシップの範疇。
肩に腕を回された程度では、男所帯に育った少女は恥ずかしがらない。
とはいえ、少女の方が背丈は小さいものだから、腕を回し返せないのだけが残念だった。
■オーソン > 「そうか?むしろクロエのような考えほど一人前ではないか?
それが出来ればいいが…難しいだろうな。それをできなくしているのは人間だ。
討伐も必要ではあるが魔物が必要になる場合もあるから殺し過ぎる事もできんぞ?
野営か…それも悪くはないがどうしても料理の味が単調になるのが問題だな。
逞しくはあるがこう話せば女の子だぞ、安心するといい」
この討伐された魔物が苗床となり新たな魔物が生まれはしないかと心配し。
少女が討伐の証拠となる牙を折り差し出すのを受け取る。
そして剣を抜き放つのをどうするのかと見守れば魔剣から飛ぶ火種が遺体へと燃え移り遺体だけを焼き尽くす器用さに関心をする。
「どうやら一部が横領をしている可能性の方が高いだろうな。
魔力を食い自然に損傷を治す剣か、それは凄いな。
お互い持ちつ持たれるか、そういう考えは嫌いではない。
ではクロエが困ったときは俺が力になろう」
騎士道精神あふれる態度に恐らくはそれなりな家督のある貴族の令嬢かと見当がつき。
だがそれを態々突くようなことはせず、少女の正義感とも合わさり騎士団内でも探すのが容易だろうと。
「今までで会った中では一番きれいだろうな、見ていても飽きないな。
普段見ているからこそ気が付かない美しさもあるという事だ。
案内は任せるといい、王都にさえつけばすぐだ。この程度はスキンシップだろう?」
笑う少女にスキンシップだと頷き笑い返し。
この程度では恥ずかしがらない姿を恥ずかしがらせてみたいという欲望が沸き起こる。
身長差で一方的に肩を回しているようになるのは仕方ないと、それは残念だと思いながら足は王都、行きつけの店にと向くわけで。
■クロエ > 「ん、敵に甘さを見せるのは半人前の証拠、なんだってさ。確かに、心を許して不意打ちされたりもするからね。
ん、人間は少しずつ住む場所を広げていくから、どうしてもかち合っちゃうんのかな。
ん、そうだね。折り合いをつけて、可能な限り共生していければいいと思うけど。
あはは、塩と胡椒が中心になっちゃうもんね。干し肉とかあればお出汁とれるけど。
……こう、褒められると、ちょっと面映ゆいというか、むずむずするね」
苦笑しながらの火葬は、煌々と空を赤く照らした。
それを弔いとして、一節の祈りとともに魔物を天に返し、残骸は風と共に自然に任せる。
少女の魔剣が放つ炎は、燃やしたい物だけを燃やす魔術の炎。お陰で、森でも考えなしに使える一品だ。
「ん、横領かぁ……それは、うん、あんまりよろしくないよねぇ。
ボクの目の前でやられてたら、注意しちゃうかもしれない。面倒だって分かっててもね。
ん、ボクの魔力を食べるから、使いすぎたり、それこそ折れちゃったりすると大変なんだけどね。
魔力をごっそり持ってかれちゃうから、少しの間寝たきりになっちゃうし。
それじゃ、お互い持ちつ持たれつ、助け合いの精神で頑張ろう、ってことで!」
少女の身分は、騎士団の上役ともなれば、探るのは容易いことだろう。
その先にあるのは、それなりに名のある貴族――それも、代々騎士を輩出する家系だ。
これを明かした瞬間に、掌を返したようにおべっかを使う者達がいるから、あまり名乗りたくないのである。
無論、目の前の男なら大丈夫だろう、という信頼がすでに芽生えているから、問われれば素直に名乗るつもりだが。
「うぐ、ほ、褒めても何も出ないってば!というか、その、ボクなんか見てて飽きないとか物好きだよ!
皆、男女!とかお前には女の魅力とか全然ない!とか言ってくるし、だから、その、うぅ。
ほ、ほら!早く行かないとお店しまっちゃうから!ね?おいしいミルクとお酒が待ってるよ!」
一生懸命に話を誤魔化し、わざと足早に王都まで。
褒められると恥ずかしがる程度に、少女は女扱いに慣れていない。
そもそも男子として育てられた生い立ちもあるのだが、何より急に少女らしさを見せつけられたような気がして恥ずかしくなるのだ。
だから、男に真っ赤な顔を見られないように、一生懸命に歩く。
その足取りは、案外軽いものだった――。