2022/06/26 のログ
ご案内:「ル・リエーの水遊場」にマキノさんが現れました。
マキノ > マキノは水が好きだ。
汗を流すのも好きだし、水泳も好きだ。だがそれにも増して『水』そのものが好きだ。
なぜなら、大量の水は――ときには極少量の水でさえも――人を容易に苦しめ、死なせうるからだ。

人は、いや魚以外の多くの生物は外気を取り入れずに命を永らえさせることはできない。
水は空気と人とをいとも容易く隔絶する。
そして悪辣なことに、空気を絶たれることによる死は多大な苦悶を伴うものとなる。
さらに凶悪なことに、水というものはヒトの身の回りに大量に存在しており、あまつさえ生存に必須な元素ですらある。

「……ふふ。だからこうして『水に慣れる』設備が必要なわけだよねー。合理的ったらないね♪」

当然ながら、魔術と技術の粋を集めて作られた『水遊場』において、上述のような危険は限りなく低められている。
もちろんそれでも水由来の死傷者が現れる確率は0ではないが、川や海で泳ぐよりは遥かに安全であろう。
浄化された適温の水場にて、人々は安心して水泳を学び、楽しみ、泳ぎを二の次に別の享楽に興じることさえできる。

マキノは在野の拷問吏である。だが今日はオフであり、純粋に水泳を楽しむために水遊場に来訪した。
レンタルのブーメランパンツは子供用、男の子の丸い膨らみがぴっちり強調されているが、それを気にする様子はない。
水泳帽の中には持参の綿を詰め、不自然に膨らんでいる。側頭部の角を隠すためである。
エスニックな褐色肌(掌と足の裏は肌色)は目立つ見た目ではあろうが、多種族入り乱れるマグメールでは珍しくはないだろう。
若々しい肌をシャワーで清めると、マキノは人の少なそうな場所を探し、やがてスタンダードな25mプールへと向かっていく。

マキノは残酷趣味である。仕事でなくても、気の向いた相手がいれば挨拶感覚でいじめる。
だが無差別ではない、TPOはきちんと見極める。衆目下で無為に人を害すれば十中八九自分が罰される。
そして繁忙期に入りつつある水遊場で公然とそれを行う狂人でもない。
やるとしてもせいぜい、いじめ甲斐のありそうなカモを見つけて顔を覚えておく程度のことだ。

――だが。たとえ法やTPOが許さなくても、衆目下でいじめて咎められない相手が1人だけいる。
それは、自分自身。

マキノ > 準備運動もそこそこに、マキノは水泳用のプールへと身を委ねる。
温泉ほどに熱くはなく、この時期の川の水よりは明らかに温かいが、他の水槽のそれよりは若干冷たい。
この冷たさが泳ぐものに運動を促す効果があるのだろう。周囲の人々はリラックスよりも運動に専念する者が多い様子。
そしてマキノも周囲に混ざるように、まずは4往復、200mほど平泳ぎで身体を温めて。

「ふぅ、やっぱり泳ぐのは楽し♪ ……さて、身体もほぐれてきたところで……ふふふ」

ウォーミングアップを終え、身体が有酸素運動モードに変わったことを認識すると、マキノは水泳コースを外れる。
遊泳用の領域に移ると、すうぅぅ……っ、とひときわ大きく息を吸い込み、潜水した。
1.4mの水深の底まで深く身を沈めると、ざらざらの床に背を触れさせるように仰向けになる。
そしてそのまま静止した。

「…………………………………」

こぽこぽ、こぽ。断続的に口から息を吐きながら、じっと水面を見上げ、ヒラメのように横たわる。
20秒、30秒、40秒。
しっかり息を吸い込んでからの潜水なのでこのくらいは問題ないが、それでも徐々に『苦しさ』がこみ上げてくる。

「………………………」

外耳にも水が入り、周囲の音がこもり、遠くに聞こえる。
まるで別世界の光景をもや越しに見聞きしているよう。自分が現世を離れ、どこか別の世界に転移し始めているような心地。
だがその夢心地を、酸素欠乏の苦しさが上書きする。死とは往々にしてこういうもの、苦痛を伴うものだ。

60秒、70秒、80秒………。

水底に横たわったまま動かない、褐色肌の少年。肺に溜めた空気も尽き、口からは泡も出てこない。
その不審なほどの静かさに気づく者はいるだろうか。

ご案内:「ル・リエーの水遊場」にミンティさんが現れました。
ミンティ > 連日の暑さに負けて、休みの日くらい涼しい場所ですごしたいと思った。公園の木陰で涼んだり、冷たいものを食べにいったりという考えも頭に浮かんだけれど、それだといつもと変わらない。
そんなわけで思いつきのまま馬車に乗り、あまり足を運んだ事もない場所へ。
冬の温泉宿にはよくお世話になっていたものの、こちらはまだ見るものすべて新しく感じられるものばかり。
のろのろと歩いて施設を見て回りながら、せっかく来たのだから楽しもうと思いはする。水着でもレンタルしようかと考えてはみるものの、人前で肌をさらすのにも抵抗があって。
せめて足だけでも冷水に浸せるような場所はないかと探して、ふらりとやってきたのは遊泳用のプール。
さすがにここで、ふちの部分に腰かけていたりしたら邪魔になるだろうかと小首をかしげた。同時に、びくっと肩を跳ねさせる。

「…っ?!」

水底に子どもが沈んでいるのが見えた。
遊んでいるのだろうかと考えもしたけれど、静かに目をつぶっている表情は、嫌な想像を誘う。
あわてて周囲を見回すけれど、声をかけられる距離に助けを求められそうな人も見当たらない。
自分がどうにかしなくては、そう認識すると同時に、サンダルを脱ぎ散らかして、プールに飛びこんでいた。

「…………っ」

泳ぎは得意ではないけれど、幸い、水深はそこまで深くない。長いスカートが水を巻きこんで動きづらいけれど、少年の身体に手を伸ばす。触れられたなら、腕を掴み、引き上げようとするけれど。

マキノ > 90秒……100秒…………2分。
きちんと脳内で1秒ずつカウントしていたつもりだが、1分半を過ぎた辺りから明確に体感時間が鈍化したのを感じた。
そしてマキノは知っている。無慈悲に増していく酸素欠乏の苦悶が、ある秒数を境に大きく変貌することを。

―――それが、来た。
胸を締め付け、全身を軋ませ、脳を掴まれるような地獄の苦しみが、まるでまやかしだったように消え去る。
水の中に身を委ねているにもかかわらず、さらに身体が軽くなり、ふわりと浮上するような感覚が沸き起こる。
重力の軛からも、そして肉体の軛からも放たれ、苦痛も悩みもない世界へと『引き上げられる』。
多幸感が魂を駆け抜けて震わせる。行けるなら今すぐにでも行きたい、そしてこの感覚を永遠のものとしたい欲求が襲い来る。

だが、マキノはやはり知っている。この感覚の始まりこそが、引き返し不能点の一歩手前。
この感覚を1秒でも長く味わおうとしたならば、それでおしまい。行き着く先は極楽でも地獄でもなく、無。
一瞬でも味わえれば満足。一旦酸素を取り戻し、また2分ほどかけて楽しめば良い。
そう思って水底を蹴ろうとした刹那……。

「!?」

頭上に人影。スレンダーなシルエットだが、衣服や髪型から女性であることは明らか。
着の身着のまま飛び込んでくるということは、自分のことが怪しまれたか……あるいは心配されたか。
まずい、と思いマキノは全力で脚を蹴り、褐色の身体を浮上させる。
女性から伸ばされた手を掴むが、それを引っ張ったら女性のほうが溺れる危険もある。着衣水泳は慣れてないと危険だ。
ミンティの手をつかんだまま、マキノは自力で水面まで達する。

「…………………ぷはあああっ!!」

大きく息を吸う。多幸感は消え失せ、酸欠の苦痛が再び全身に舞い戻るが、呼吸を続ければそれもすぐ収まっていく。
どき、どき、どき。全身に失われた酸素を再供給しようと、心臓が早鐘を打つ。この鼓動こそが生の証。
そしてマキノは実感する。まだ自分は死にたくないのだな、と。
それでいて、今のように『死の一歩手前』に触れるスリルを求めてしまうのは、果たして何故なのか。

「……………だ、大丈夫ですか、お姉さん?」

とはいえ、そんなオナニーじみた臨死体験に他者を巻き込むのは本意ではない。
着衣のまま飛び込んだ女性を支えるように水面に引き上げようとする。自力でもできるかもしれないが。
そしてマキノは相手を思いやる言葉を発する。表情はいささかも悪びれず、張り付いたような笑みだけれど。

ミンティ > 衣服を身に着けたまま、眼鏡をしたまま、とても水に潜るような姿ではない。けれど服を脱ぐ暇もないかもしれない。眼鏡を外せば、そもそも自分がまともに行動できなくなってしまう。
すこしの遅れが出るとしても、人を呼べばよかったのかもしれないけれど、とっさに大声を出すのが苦手なタイプ。
少年が本当におぼれて沈んでいるのだとしたら、救出役が自分になる事そのものが不運だっただろう。
とにかくどうにかしなくては、彼を引き上げなくては、その一心でろくな考えもなく飛びこんでいたから、空気の塊を吐いて、苦しそうに眉を寄せるはめになる。
自分の身長より深くはない水なのに、底の方まで潜るのが予想外に難しい。両腕で必死に水を掻こうとしても、長袖が纏わりついてきて動きづらい。

「…?!」

あえなく二人まとめて溺れる事になってしまうのかと最悪の事態も頭をよぎったけれど、それでも、少年を揺り動かすだけでもできたら。
そんな思考で手を伸ばしたら、助けるつもりだった相手が急に動きはじめて、目を見開いた。
溺れているものとばかり思っていたから、逆に手を掴まれたのは、幽霊にでも出会ったような気分。
水面まで引き上げられる間、想定外の事態に身を縮こまらせている事しかできず。

「くぅっ、ぁ、は…っ、は…ぁぁッ、……け、ほっ、だ、だいじょう…ぶっ?」

気づかう言葉を発したのは、ほぼ同時だったかもしれない。
水底に立ち、顔を天に向けて、どうにか呼吸できる状態を取ろうとする。それも、少年に支えられていなければ難しかったかもしれないけれど。
咳きこみ、呼吸を落ち着けようとしながら、事態が飲みこめないなりに彼の様子を窺って。

「……っ、は、っ…ふ、…ふぅ…、は…っ……、……っ、
 …………あ、の、…もしかして、…あの、すみません……」

少年の顔を見て、もしかして、危機的な状況ではなかったのか。そんな理解がじわじわと進む。
だとしたら、いきなり飛びこんできて、自分の方が溺れそうになり、助けられるなんて、いい迷惑だろう。
まだ息を乱しながらも、とたんに恥ずかしくなり、目のやり場にも困ってしまい。

マキノ > 競泳用のプールは、150cm台のマキノでもミンティでも立ってぎりぎり口が水面に出るか出ないかくらい。
落ち着いて立ち泳ぎしたり顔を上に向ければ問題はないが、パニックに陥れば溺れる危険性は十分にある。
そして、誰よりも……というのは過言だろうが水の危険は承知しているマキノ。
支え合う姿勢で浮力を共有し合うのが安全だろうと、臆面もなく初対面の女性の腕に腕を絡めて。

「あは。………あは、ははは。その………ごめんねぇ。あははは」

気遣いの声すら衝突してしまった状況に、マキノは乾いた笑いを小さく奏でる。
戸惑い気味、恐縮気味のミンティとは対照的にマキノはいたって能天気だ。いや少しは恐縮してもいるが。
視線を泳がせるミンティに対し、青の瞳をまじまじとその美貌に向けながら。

「うん……。溺れてる、って思わせちゃったんだよね、きっと。
 さっきのはただの、ボクの遊びだったの。どのくらい長く息を止めてられるかな、っていうね。
 それでお姉さんを心配させちゃったのは、本当に申し訳なく思うよ。うん。ごめん……」

自分が他人の立場でも、水底に2分近く静止している人影を見つけたなら、最悪の事態を想定して助けようと試みるだろう。
ほどよい人混みがあるゆえに見過ごされるかと思って凶行に及んだが、やはり見ている人は見ているようで。
ちゃぽちゃぽと水をゆっくり蹴りながらプールの縁に2人の身を寄せつつ、再びマキノは謝罪の言葉を吐く。
相変わらず迫真さのない、ふざけたニヤケ顔のままだけれど。
申し訳無さを感じているのも事実だが、自らの悪ふざけに人を巻き込んた独善的な満足感を覚えているのも事実。

「………お姉さんも息止め、やってみる? ふふふ」

ミンティ > 慣れない人との接触にはぎくしゃくしてしまう事も多いけれど、さすがにこの状況にあっては、素直に身を任せ。
少年に支えられながら、どうにか呼吸を落ち着かせる事ができた。本来の想定なら自分が彼を運ぶ立場になるはずだったのに、まったくの真逆。
勘違いしたうえに介助されている状況が、情けなく恥ずかしい。頬をうっすら赤く染めながら、ばつが悪そうに瞳を泳がせる。

「…い、いえ、わたしこそ、本当に…早とちり、してしまって…」

少年の方があまり悪びれない態度を取っているから、ますます気まずい思いになった。
ぽたぽたと水滴を垂らす前髪を掻き分けて、ずれた眼鏡の位置を戻しながら、しどろもどろに謝罪を繰り返し。
よほど滑稽だったかもしれないと考えると、まじまじと注がれる視線に肩をすくめて、ぅぅ、と口の中で低く呻いて。

「そういう、遊び…なんですね。…ぅん、…あの、溺れてるんじゃなくて…よかった、けど。
 あの、苦しくなった時、動けなかったりしたら…危ない、と思うから…」

沈んでいる少年を発見してから飛びこむまで、おそらく十数秒。今回に限っては本当に自分の早とちりだった。もちろん、それでも紛らわしい事をするなと叱る人もいたりするのかもしれないけれど。
恥ずかしさばかり募って相手を責めるような思考にはならず。プールサイドまで運ばれながら、万一の事があるといけないからと、か細い声で心配をして。

「…え?…ええ、と。…あの、見ました、よね。
 わたしみたいに、どんくさいの…本当に溺れてしまいますよ」

思いがけない提案に、ぱちぱちとまばたき。
子どもらしく遊びのお誘いだろうかと思って返答に迷ったものの、少年を助ける時に見せた情けなさを振り返ると、自分には難しいだろう。そう考えて首を振り。

マキノ > 「お姉さんはなんも悪くないよ? 危なそうなことしてる人を助けようとするのって、とても良いことだもん。
 ……どんくさい、かどうかはボクには分からないけどね。なんせ初対面だものね、あはは……」

本当に彼女が言う通りにどんくさいならば、水際で躊躇してしまい、飛び込むことすらできないだろう。
それができただけでも十分彼女は勇敢であると言える。
もっとも、心理面でなく身体面でどんくさいのならば、最も危険な場面ではただの二次被害者にもなりかねないところではあるが。

「ボクのやってたことが危ないのは認めるけど……まぁ、そこは訓練次第だよね。
 着衣のまま泳ぐのも、溺れそうになったときにパニックにならないのも、危険な状況で冷静に水面まで上がるのもね。
 ボクのさっきの行為も訓練の1つってことで、お目溢しお願いします……なんてね。
 ……ふふ。お姉さん。プールサイドまで来て水着にもならないなんて、もったいないと思うよ?」

見た目よりも遥かに長い時を生きている魔族マキノ。
とはいえその時間の8割は孤独の中で、2割は拷問吏としてひたすら人を虚仮にする、そんな人生だけれど。
だからこうして、他人に助けられ、あまつさえ恐縮されるという経験はほとんどなくて。
こちらもバツのわるそうな声色にて、でも表情のレパートリーは少ないから薄ら笑いのままで。
相手の恐縮を取り払うような軽薄な言葉で受け答えをする。

「びしょびしょだね、お姉さんの服。そのままでここで泳ぐわけにも、出歩くわけにもいかないし。
 一旦上にあがるとして……どうしよっか? 水着、見繕う? それともどこかで休む?」

水に濡れてあられもない姿になっているであろう彼女の普段着を、マキノは不躾な目でまじまじと見つめる。
そして先にプールサイドにひらりと上り、今度はこちらから少女を引き上げようと手を伸ばす。

ミンティ > 【移動します】
ご案内:「ル・リエーの水遊場」からミンティさんが去りました。
ご案内:「ル・リエーの水遊場」からマキノさんが去りました。
ご案内:「ル・リエーの水遊場」にネメシスさんが現れました。
ネメシス > 今日もとてつもない暑さだったので仕事を早めに切り上げ、午後から水遊場での一時を楽しんでいる。
広い施設なのでそれとなくお供はいる物の、今は一人。
水の中を思いきり泳いだり、水の流れる滑り台を滑ったりとおおはしゃぎ。

いい加減はしゃぎつかれたので、日陰に置かれたデッキチェアの上で今は休憩中。

「はぁ~~、やっぱり泳ぐと疲れちゃうわね。」

体中で水だらけの状態で、肩で呼吸をしている。
ちなみにネメシスは一般的な泳法は大抵こなせる。
水練も立派な訓練だからだ。

ご案内:「ル・リエーの水遊場」からネメシスさんが去りました。