2022/11/19 のログ
ヴァン > ヒーラーといえば後衛だ。狂犬とはいえ命を奪ったことにショックを受けているのか。
あるいは先程の仔猫が特別な存在だったか。男にはわからない。
己の手を見ていた少女に首を傾げる。痛み止めのない治療法だからか、一般的な受けは良くない。
少女が使う魔法の方が多くの人にとって歓迎されるものだろう。

「今の魔法は自分用ってことで教わったんだ。痛いから、自然と傷を避ける戦い方になる」

すっかり以前会った時の調子に戻った様子の少女に笑いかける。弔う、と聞くと頷いた。

「まぁ……忙しくはないな。とはいえ、このあたりには詳しくないんだ。弔えるような場所にあてはあるのかい?
……その仔猫のために狂犬と戦ったのか?」

自分のことを棚にあげ、お人よしだなぁ、と内心思う。ゆっくりと立ち上がり、少女の後をついていく意思を伝える。

ティアフェル >  単純に疲れていたのだろうか、と傷を癒してもらった今、こきこき、と首や腰を回して鳴らしながら自問し。
 自答は、やっぱよく、分かんないな、と答えは出ないまま帰結し。

 塞がれた咬み傷は痕も残らないだろう。たまには人様に治してもらうのもいい。
 重たかった足が、軽くなったようだ。

「――なるほど、そんなには冒険者向きじゃないわね。
 わたしらのは戦闘中にも施術するから苦痛の除去が回復と同列で重要だから」

 どんな傷を負っても対峙した敵を倒さなければいけない。痛みを誤魔化してでも前線に叩き出さねばやられるのだ。

「そっか……良かった。信じる神のいないわたしひとりよりも、きっといいでしょう。
 ―――ぁ……わたしも、当てはないや。どうしよ」

 立ち上がって歩き出しかけたはいいが、埋葬場所に当てはなくぴた、と止まって背後の彼を振り返り。

「………や……ぅーん……別に……ただ……死ねばいいのに、て思っただけ……」

 仔猫の為、もあったかも知れないが根本はただ、それだったのかも知れない。
 横たわる、頭の潰れかけた狂犬の骸をちら、と見やってから顔はすぐ抱いた仔猫に戻し。

ヴァン > 「あぁ、冒険者というか……兵士に近いかな」

己の出自を伝えるのは憚られたか、軽く誤魔化す。
良かった、との言葉には不思議そうな顔をする。神殿関係者とは話したし、回復魔法も見せた。そのせいか、と。

「空き地か、公園か……。あるいは教会か。土が露出している所で少し深く埋めた方がいいだろう。
安全に弔うのなら平民地区まで足を運ぶのも手かもしれない」

振り返られると肩をすくめてみせる。路地にも土の露出している所はあるが、そこに埋めるのも不憫といえる。
近くに廃教会があり、その周辺は土の地面だったことを思い出して口にする。問われれば道筋を伝え。
少女から紡がれた過激な言葉には右の眉をあげてみせた。

「犬が嫌いなのか? 無力な者に対する暴力への嫌悪感?……なんにせよ、通りまで聞こえたのは驚いたよ」

傷を負わせた相手だから狂犬は放置することに不思議はないが、仔猫との差はどこから来るのかと首を傾げた。
どちらにも関わらず無関心を決め込む者がこの地区には――否、この街には多い。

ティアフェル > 「はは、兵士でも痛いならダメじゃんそれじゃ……いや、訓練された兵士ならアドレナリンでカバーしちゃうかしら」

 こちらは痛みで攻撃精度が鈍るのを避けるために苦痛を取り払う方針だが、それぞれやりように相違はあろう。
 ふうん、と肯いて流すに留め。

「そうね……掘り起こされてまた咬まれたら……可哀そうだもんね……ま、死んじゃったら一緒なんだけどさ。
 平民地区ではわたし、これじゃ目立ち過ぎちゃうかもだから……」

 なにせ血まみれで仔猫の死体つきだ。何事かと思うだろう。
 貧民地区の荒くれどもだって、ちょっと近づきたくないかも知れないのに。
 微苦笑しつつ、廃教会を教えてくれる言葉に「あなたが通りかかってくれて良かった」と名案を聞いたような顔でそこへ至る順路を聞いて歩き出し。

「犬は怖いし……犬もわたしが嫌いなのよ。やー……恥ずいな。そんなに響いちゃってた? 必死で……全然周りのことなんて頭になかったわ。
 あの時は……とにかく、わたしを襲ってきて猫を殺したあれが憎かった。滅茶苦茶……滅多打ちにするくらいは」

 それしか頭になかった、一瞬で沸いた憎悪の理由は、理屈は、説明できない。
 防衛本能、闘争本能、何かを引用して適当に解説することもできるが。しっくりこなくてただ、その時去来していた感情のみを伝えては。

「そっちは、こんなところでどうしたのよ。司書さんは神出鬼没なんですねえ?」

ヴァン > 「まずいと思ったら少し引いて、それで回復するのさ。多対多だからね。どちらが良い悪いではなくて、戦いの分野が違う」

回復を過信しない、ということは口にしなかった。少女が抱える仔猫もそうだが、死ぬときはあっさり死ぬ。
怪我を負わないことを意識づけるための、痛みを伴う回復魔法。奇妙な存在に聞こえるかもしれない。

「鴉や野犬が掘り返すこともあるからな。しっかりと埋めないと。
……あぁ。倒れてるのが人間の男とかじゃなくてよかったよ」

冗談めかして言う。少女に出会ったのが自分だったことは、少女にとっても幸いだったかもしれない。
平民地区だけでなく貧民地区でも目立つ姿だ。どこかで着替えるなり、風呂に入るなりした方が良いだろう。
あるいは街の暗がりから暗がりを辿るように移動して自分の家に戻るか。あまりいい案は浮かばない。

廃教会にたどり着くと庭だった場所らしき所へと向かう。腰からダガーを抜いたのは、それで土を掘り返すのだろう。
どのあたりに埋葬するか、視線で尋ねる。

「本の配達さ。ちょっと行った所に大学があるんだが、彼等はものぐさでね。必要な物を運んで、配達料をもらっている。
別にふらふらと遊び歩いている訳じゃあないぜ?」

貧民地区にある主教関係の大学を少女は知っているだろうか。比較的変わり者が多い場所では困窮した人達の治療も行っている。

ティアフェル >  ふむふむ、と兵士の流儀を伺っては得心したように相槌を打ち。
 彼らはそう語るだろうが、また別の兵士は別の戦い方を口にするかも知れない。
 戦闘なんて勝てば正義。やりようなどその時の状況も含め千差万別であろうと納得して。

「それも食物連鎖という奴だけど。せっかく埋めたのに掘り返されたんじゃ甲斐がないからね……この仔は気にしないかもだけど。
 なんでー? おっちゃんなら放置なの? 博愛でいこうよ博愛でー」

 などと軽く笑い交じりに云う己も博愛主義など掲げてはいないのだが。
 まだ猫を埋葬するまでは汚れるだろうし、血みどろの方が暴漢と目が合ったとて嫌煙されるかも知れないから帰路に就くまではこのまま。
 帰路に就く頃には白衣を脱いで血を拭って適当に夜道を誤魔化すだろう。

「――その樹の下がいいな。養分になるだろうし花や実が生ればいつか通りかかったとき思い出すかも知れない」

 廃教会の庭に到着すると、目線を受けて指さしたのは庭の片隅に根を張るアカシアの木。
 ウェストバッグをひっくり返して使えそうなものをまさぐったが、地面を掘り返せそうなものが見当たらなかったので、やむなく細長く先の尖った石を探して拾った。
 
「こんな時間にご苦労様ねえ……あなたはわたしが思う司書という奴よりもやっぱり大分アクティブだわ。
 お陰で助かった訳だから、拝んでおこう。アウトドア司書様~」

 大学とやらはぴんとこないが。変な綽名をつけて、仔猫を一度そっと脇へ横たえると、アカシアの樹の根元付近を石でがつがつと掘り返し始めた。
 仔猫の面積は小さいけれど、掘り返されないように深めに。

ヴァン > 「人同士のトラブルには嘴を突っ込みたくはないんだ。片方が喋れないとなったら尚更だ」

言葉に促されるように、樹の下に視線をやる。根が張っていないだろう部分を探し、あたりをつけた。
ダガーの先端を地面に押し当て、柄側を叩いて深く突き刺す。梃子の要領で土を掘り返し……を繰り返していく。

「ま、仕事だからね……こんな、力仕事をすることになるとは、思わなかったが。
俺みたいなインドア派に重労働させるとは……高くつくぜ?」

時々言葉を止めるのは、掘り返す作業を続ける中で力を入れるからか。
つけられたあだ名を定着させないよう、インドア派ということを強めに主張する。
本当のインドア派はダガーで地面を掘り起こしたりなどできないだろうが、それはそれ。

深めの穴が完成すると息をついて、懐から出した紙でダガーについた土を拭うと鞘に収めた。
数歩離れて廃教会の壁に背中を預け、少女が埋葬するのを見届ける。

「さて……これで無事完了、後は帰るだけ……かな?」

自分は何の問題もないが、目の前の少女は帰るのに少々苦労するか。夜も更け、人通りが少なくなってくれば問題にはならないだろう。

ティアフェル > 「なんだそりゃ。じゃあ動物のトラブルには突っ込んでいくの?」

 そんな訳もないだろうが。適当な軽口を叩くと屈みこんで一緒になって地面を掘り返していくが、こちらはただの石っころなのであんまり戦力にならない。
 ほとんど墓穴掘りはやってもらいながら。

「どこら辺がインドアなのか。アウトドアでしかお目にかかったことのないワタクシには分かりませぬな。
 ――あ、もう掘れた? ありがとう」

 ざく、ざく、と土を掘り返していく音はやがてやんだ。
 後はその穴にすっかり硬直して、小さな身体を一層縮ませたその仔猫の骸をそっと納めて。
 土を被せていく。真夜中に小さな命を弔って。それはただの自己満足なのだろうが、やり遂げると、すとん、と傾いていた心が平行になる感覚。
 ぱんぱん、と立ち上がって手と裾を払って白衣を脱ぎ。どうせもう血が沁みついてしまったからと割り切ってそれで血を拭い、腕にかけると。
 
「……ん。どうもありがとう。前回と云い引き続きお世話になりました。
 ――あ、その恰好だったらあんまりだから上着を貸してくれるって?いやあ。悪いわねえ。寒いのに。どうもどうもご厚意感謝」

 誰も一言もそんなことは云ってやしないのに、にこにこと満面の笑顔でお強請りという名の恐喝をカマす。
 手を出して駄目元な厚かましい交渉。ダメならダメでそのまま「けちんぼ」なんて難癖のたまい諦めるだろうが。

ヴァン > 「図書館に来てくれたらしっかり司書だってことを伝えられるんだがなぁ。
……よし。これだけ掘れば大丈夫だろう」

我ながら何をやっているのか、と思いつつ。
少女が仔猫を弔う姿は厳粛さを感じさせる。それが終わり、立ち上がるのを待って近づいた。

「いや、それはない。確かにその格好はあんまりだとは思うが。
……もうちょっとスマートに殺れないもんかなぁ。ヒーラーは後衛職で肉弾戦はあまりしないから仕方ない……のか?
あ、そうそう。九頭龍の水浴び場ってあるだろ?風呂に入っている間、一時間ぐらいで服を洗濯してくれるサービスがあるぞ。
俺もしばらく前に雨に降られた時に世話になった。一緒に行くなら風呂代くらい出すぜ?」

一瞬真顔になると手をぱたぱたと横に振り、ざっくりと切り捨てる。成り行きで助けたが、そこまでする義理はないとばかりに。
思い出したことを伝え、軽口を叩く。温泉は時々混浴になることもあるので、下心がありそうなように振る舞う。
少女が恥じらったり、逆にからかってきたり、何らかの反応を愉しむぐらいは許されるだろうと思っての発言。
どちらにせよ、貧民地区に長居は無用か。平民地区へと向かって歩き出す。

ティアフェル > 「ぁー……ごめんごめん、そういやぜーんぜん行ってないや。今度行く……多分。
 お疲れ様。……これでよく眠れるわ」

 猫も今夜の自分も。
 命の火が消えてしまったらそれで終わりに過ぎないが、生きている自分には意味のあることだ。埋葬を終えて黙祷も済ませると。

「うん。やっぱりね。そこまでの紳士性は期待してなかったよけちんぼ。
 頭に血が上った人間のしでかすことなんてこんなもんよ。
 ……いくらなんでも今からそこまで行くなら家にダッシュで帰った方がなんぼも早いっすわ。
 なんだと、出資するだと。それなら話は別だな。
 男湯と女湯に分かれるんなら考えてやろうじゃないのよ。なお、覗くと狂犬対応になり血の雨が降ることでしょう」

 上着は借りれなかった。予想はついていた。どうせダメ元肩を竦めていたが。
 そんな提案には別湯ならば可。金だけ出させるアコギな案を提示。
 利己的な要求に乗るとも思えなかったから、ノーならば、じゃーねーお世話様ーとそこら辺でダッシュで帰宅するのである。

ヴァン > 「期待しないで待ってるよ。……お疲れさん。ゆっくり休むといい」

けちんぼと言われると苦笑を浮かべる。

「そんなもんか……。あぁ、家が近いなら何よりだ。引き留めて悪かった。
……あそこ、脈絡もなく混浴になったりするからなぁ。覗く気はなくても……」

己だけではどうにもならないこと。入ってる最中に混浴に変わることすらある所だ。
人通りも減り、無事に家までたどり着けるだろう空気を感じ取ると、両手を振って背中を見送った。

ティアフェル > 「混浴なんぞ御免被る! 死んでも行かん!
 それじゃーね。お疲れ様。おやすみなさーい」

 冗談じゃない、と九龍を個人的魔境と位置付けて未踏の地と決めた。
 手を振り別れると、夜回りの衛兵などに見つかって足止め喰らわないように一気に家まで突っ走るのであった。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からティアフェルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からヴァンさんが去りました。