2018/02/03 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にヤシュタさんが現れました。
■ヤシュタ > 暗闇立ち籠めた路地裏に、ざりざりと薄汚れた砂を踏む音が響き、遠離る。
今宵の“客”を見送る視線と共に佇んでいた娘が、マントのフードを深く被り直した。
白灰の褪せた印象抱かせる傷んだ髪色と、日に焼けた膚。
目鼻立ちはくっきりと、襤褸のマントの影を被って尚、豊かな陰翳を刻んだ。
薄い唇は薄く乾き、皹割れている。視線を軽く狭い空へと投げて。
「……。」
姦しく軌道も疎らに飛ぶ蝙蝠の姿があった。本能的に、心が狩りの欲求に疼く。
本来の自分であれば弓の一本。否、ほんの跳躍と爪のひと薙ぎで捕まえられよう。
――――つきん、と頭の片隅が痛んだ。其れ以上の欲求を阻むように。
途端に、仄かに芽生えた欲望は霧散する。
興味が失せた様に視線を背け、得たばかりの金子を腰袋に仕舞った。
「……かえらないと。」
そう、主の待つ屋敷に帰らないといけない。思い出したように呟けば、
重く際立つ鉄輪の嵌まった両足を歩かせて。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にブレイドさんが現れました。
■ブレイド > 「はあ…」
今日何度目かのため息。その息も白く夜闇に溶けていく。
何気なく散歩に出たはいいものの、思った以上に疲れているようだった。
ここのところは鍛錬と勉強、小遣い稼ぎの小さな依頼ばかりにかまけていて、息抜きもできないままであったから。
今日くらいはと羽根を伸ばそうとしたはいいものの、酒場で飲み食いするくらいしか思い浮かばない自分の発想力のなさに嫌気が差す。
娼婦を買う気もないし、かといってマントやフードを外さなければならないようなサロンやカジノなどに行くわけにもいかない。
そんなわけでフラフラと散歩を続けているのだが…
「ん?」
ふと、空を飛ぶ蝙蝠の姿が目に入る。
こんな時期に珍しい…一瞬意識がそちらに向いた。
ゆえに、襤褸をまとった少女とぶつかりそうになるのも気づかない。
■ヤシュタ > 目深に被ったフードに視野は狭く。ついでに気も、若干霞んだように散漫だった。
ただ、帰らなければと脳裡に湧く一点に従い、足を歩かせる。そんな最中だったから。
「―――― ぁ 」
翳った内側で眸が不意に丸くなる。ぶつかる、と思ったと同時に、軽い衝撃があった。
反動に、蹌踉けるようにして後ろに跳び下がる―程度の瞬発力は、辛うじて残った種族柄。
咄嗟の動きに、ややズレて浅被りになった襤褸布から、こぼれ落ちる白灰色の頭髪と。
吃驚したよな、表情と。
「ごめんな、さい」
謝罪は手短に告げられた。言葉にしながら、相手を窺うより先に、再度フードを深く手繰る。
ひょこと覗き掛けた耳の先端を覆うように辛気臭く、引き下げて。
■ブレイド > 注意がそれて、少女の姿に気づいたときにはもう目前。
ぶつかった、と思いきや衝撃は軽いもの。
自分は気づけなかったため、配慮できなかったことを考えれば、少女の身のこなしによるものか。
現に正面からぶつかったにしても尻餅をつく様子もない。
「お、っと…こっちこそわりぃ、余所見してた」
フードの少女の言葉にひらりと片手を手を振り応える。
驚かせてしまったか。無理もない。
表情を見ると少しバツが悪そうに笑う。
「ま、こっちがわりぃんだから気にすんなって」
こちらも少しズレたフードを被り直して。
最近は受け入れてもらえる人間と付き合うことが多くはなったが
それでも自分がミレー族であることはかわらない。気をつけねば。
■ヤシュタ > マントの襤褸布の裾が、風ではためくでも無くふらりと揺れたのは、
咄嗟の身のこなしに舵取りを担った隠れた尾の動きだ。
片手がフードを目深に直して、其処で漸く―…答えの代わりに、
「 ――…。 」
向けるのは、訝しげな視線。少し頚を傾げる仕草とともに、
自分の腰元に視線を落として、手が腰袋の位置を探るような動きをして。
「なんだ。本当に、」
余所見してただけなんだな、とでも言いたげに。
少しばかり拍子抜けでもしたように、声を落とした。
てっきり――――当たり屋或いはスリの類かと。
少しばかり寒空に白い呼気をふわりと解いて。
■ブレイド > 少女の仕草、そして訝しげな視線に少し首をかしげるが
得心いったという表情で頷く。
まぁ、このような格好で、このような場所でぶつかったともなれば怪しむのも当然か。
「あー…」
少女がそうではないという保証もないが
自ら腰のものを確かめているあたり、その可能性も低いだろう。
そもそもぶつかったのは自分の不注意なわけなのだから。
「なんも盗っちゃいねぇよ。それほど器用でもねぇしな」
ひらひらと手を振り潔白を主張する。
貧民地区ではよくあることなので、いちいち気を悪くする様子も見せない。
■ヤシュタ > 声も、フードに隠れた姿も、恐らく未だ年若そうな印象を受ける相手だ。
物盗りの子供にしては、そして貧民街棲まう者にしては、受け答えは明瞭に澱まず耳に届く。
マントの奥で漸く、娘の双眸が視線が相手の身なりを映し込み、
「そう、か? とても器用だったと思う。…ぶつかるのが。」
薄暗いとはいえ斯様な路。堂々とぶつかってくる手合いに出逢うなんて思わなかった、と。
口許が少しの揶揄と冗談を含めて、笑いの形になった。
「わたしも、だけど。 つい、何も考えてなかったから。」
そして―…うっかり器用なのは、己も同罪だとでもいいたげに、肩を竦めてみせて。
「――…この先に、用が?」
■ブレイド > 少女なりの冗談か、それとも責められているのかは定かではなかったが
フードの奥の口元が、少し笑みの形を見せているのに気づけば、カリカリと自身の頭をフードの上から掻いて言い訳をする。
本気で怒っていないならこちらも気が楽だ。
「ちょっと余所見しててな。蝙蝠…いや、もういねぇけど
そっちに目が行っちまってて。ほんと、悪かったな」
肩をすくめる少女の姿には、少し声を上げて笑ってみせて
「ははっ、んじゃお互い様だ。怪我もなかったみてーだし、それで良しにしようぜ。
っと、この先…?いや、別に用事はねぇけど…そうだな、散歩の最中だってだけだな」
用事と言える用事があってフラフラしているわけでもない。
今日は特に。
ただの息抜きの散歩というだけなのだ。
■ヤシュタ > 向いた言葉に少女の乾いた唇が、ああ。と、僅かに声とも付かぬ小さな音をたてて動いた。
空を見るような動きをして空を仰ぐ。暗がりにじ、と目を眇めて。…もう、何も見えない。
「そういえば――… 、うん。いた。蝙蝠。
わたしも、見てた。蝙蝠の動きは、―… 難しそうだな、って。」
何が、とは謂わない。狩るのが、という事なのだけども。
向けられる笑いにつられるように黒翳の見えない夜空を諦めて視線を戻し乍ら、
顎でしゃくるのは己が背を向けた方角。
示すのは、己が仕事で立った路地端より、更に――…奥。
「其処の路地の、先。ニオイ。多分、だれか腐ってる。
散歩なら、きっと…、あまり楽しくない、と思う」
路地裏の貧困の日常を無感動に述べるのは、ぶつかり掛けた誼の親切心か。
オススメしない理由をざっくばらんに述べて、少し相手の表情を窺い。
■ブレイド > 難しい?何がだろうか?
すこし首をかしげるが、少女も同じものを見ていたということはわかったのでよしとする。
そして、少女の忠告を受ければ、視線を路地の奥へと一瞬移す。
「そりゃ、面白くなさそうだな…引き返すことにするぜ
犬も食わねぇもんなんざ見たくもねぇ」
そこまでの状況なら、得られるものも殆ど無いだろう。
貧民地区の路地裏…人が死ぬことなどは多々あるが、好んでそれを見たいとは思わない。
少女に視線を戻したときにようやく気づく。
その姿、まとった襤褸に似つかわしくもない鉄の足輪。
思い起こさせるイメージに、少し眉をしかめる。
■ヤシュタ > 向く視線の先。街灯も光を灯す慈悲を拒んだ、ひた昏さが立ち籠めていた。
貧民街の、路一本を入ればこんなものだ、と。少女が軽く肩を竦めて、
「犬はいなかったけど、鼠はたくさん。
この辺の鼠はとても太ってる。でも、食べる気にはならない。」
それは即ち、そういうことだと。
人の死も杜撰なればこそ、鼠に得るものもあるのだろう、等と。
引き返すなら途中迄の道行きは一緒だろうと、少女が歩みを再開する。
――足取りの踏み出す一歩に付き従う鉄輪。鎖こそ視認できないものの、
アクセサリにしては随分と、悪趣味なもので。
「冒険者?」
相手の表情知らぬ侭に、投げ問う声は矢張り、言葉足らずだ。
■ブレイド > 「同感だな。食えたとしてもうまくはなさそうだし
手間ばっかかかりそうだしな」
人の味を覚えた鼠など、狩るのも苦労しそうだ。
噛まれて病気にでもなったら大変だろうし、そこまでするメリットがあるわけでもない。
第一、雑食の生き物はまずいと聞いた覚えがある。
少女を真似るように肩をすくめ、並んで歩き出す。
「ん?オレか?そうだな、冒険者だ。
アンタは……ん、いや。言いづらけりゃいわなくてもいいけどさ」
少女の問には頷いて答える。
対して少女は…冒険者にも見えず、まとった襤褸に悪趣味な足輪。そして、あのような場所にいたことを考えれば
気持ちの良い答えが返ってくるようには思えない。
■ヤシュタ > 「山の鼠はすきよ。木の実のニオイがする。
でも、此処の鼠は毛皮から臭い。つかえない。」
捕らえるだけ損だ、とばかりに鼻白む声が、少し頚を横に振った。
思うことは相手と同様。噛まれるだけ無駄だとばかりに――… 歩く道行きに、脇を鼠が走った。
少しばかり、娘の視線が反射的に目敏くそれを追い掛けて… 直ぐに、やめた。
「女を買いに?それとも安酒を?
わたしは、ただの、物売り。たのまれたものを、売っている。」
向けられる声に、返す声色は無味乾燥な淡泊なもの。
それでも、語るより明らかなものはあるだろう。…貧民街の区画を熟知している足取りに澱みは無く。
■ブレイド > 「山育ちか?山の鼠ってのも食いではねぇけど…ま、可愛げはあるか。
王都ってのは、人も鼠も……いや、そりゃどうでもいいか」
鼠の足音に目を向けることもなくあるき続ける。
薄暗い路地だが、このような場所であっても会話ができるというのは貴重だ。
ただフラフラと一人で散歩していては、こうもいかない。
「安酒…ってか、まぁこの辺に住んでるんだけどな。
息抜き程度の散歩がてら、何もなかったら行きつけの酒場にでもって思ってたくらいか。
物売り、ね。あんなとこに客なんて来るのか?」
まぁ、そういう客ならば来るのだろう。
堂々と売れるものではないことは、状況から理解できた。
■ヤシュタ > 「そう、山の。 此処よりずっと静かで退屈で、自由なところだった、と思う。
山の鼠は、たぶん、もうすこし、可愛げがあったような、…気がする。」
己が故郷を語る声は何処か漠然と表現をぼかす。離れて長い証左だとでもいうように。
一定の速度を保った侭、路地を歩む道行き相手の声を聴く。
向く言葉に少しだけ娘が相手の面差しを眺め見るような視線を投げ遣り。
「ああ、…そう。 このへんの。
あんなところだから、客がくる、のよ?だって、――そういうものを売ってる、のだもの」
見遣った相手の顔は、此の界隈で、見知ったものでは無かった。
当然だ。普段は視線すら、襤褸布に裡側に隠しているのだから。
ぴしゃりと濁った水溜まりを一度、サンダルが踏み抜いて。少し…人通りが、増えてきた。
フードを再度、深めに引いて、被り直し。
■ブレイド > 「オレも山里育ちでよ、静かで退屈…でも、自由…ではなかったかな?
この国にいる限りはそういうもんかもしれねぇけど。
ここに来たのはそれが嫌だったからってのもあるけど…ま、これもどうでもいいか」
下手をすれば耳ざとい連中に目をつけられそうな発言。
言葉を濁しつつも、少女の視線に気づきそちらを見やる。
「ま、そうだよな…この辺のああいう場所だしな。
咎める気もねぇけど、気をつけろよ?身のこなしはいいかもしんねぇけど」
人が増えてきた。少女と同じく少しフードを深く被る。
先程見た少女の顔、少し乾いた唇が気になった。
「んー、なんか飲むか?せっかくだし、ぶつかっちまった詫びってことでさ」
■ヤシュタ > 「この国にいるうちは、 …そう、ね。
この狭い街を出ることすら――…侭ならない、のだもの。」
声にささやかに諦念が雑じる。
俄に賑やかくなる空気と、酒の匂いと、雑音。
少女が鼻先を一度すんと鳴らして――香しい露店の肉の匂いに反応する。
別段、貌まで向ける事はなかったけども。
「有り難う。でも、此処よりさっきの場所のほうが―…落ち着いてしまうの。
人が多いのは、きらいだわ。残念だけど、…酒場もそう。背中のあたりが、ざわざわする」
何よりも、此の身なり、身分で。店に連れ添うのが気が引けた。
戯けて見えればいいと、少しだけ唇の乾いた口許を傾ぐ。
ぎこちなく、少しだけ琥珀色の眸を細めさせて。
「詫びは、お互い様だと言ったでしょう? そろそろ、もどらないと。」