2017/08/18 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にリーユエさんが現れました。
■リーユエ > まだ日も高い昼下がりの貧民地区に少女の姿は在った。
残り数人と為った列を作る人々の先、其処で久し振りの健康診断を行っている。
「え、っと…はい、特に異常は無いみたいですので御安心下さい。
一日二日は無理を為さらなければ、痛みも引くでしょう」
診断を終えた男性の方に結果を伝え小さく微笑む。
頭を下げて次の方に場所を譲る男性、後ろで順番待ちをしていた次の男性の方が席に座れば、其の方の話に先ずは耳を傾ける。
其の話から診断内容を判断し、丁寧に其の方の身体を診ていって。
■リーユエ > 「少しばかり胃腸が弱っているみたいですね。
でしたら此れを食後に飲む様にして下さい、朝と夕の二回です」
次の方の診断結果を伝え乍、傍に置いた鞄を開き小さな袋に錠剤を数個入れて男性の方に差し出す。
此処は貧民地区で在って男性は此処の住人、男性は少女に薬の代金を心配そうに尋ねる。
其の言葉に少女は変わらぬ笑顔を浮かべて唇を開いた。
「いいえ、其れは必要御座いません。
此の薬も九頭龍山脈で私が採取し作った物ですから、その…私を信用して頂ける為らば、ですが」
自分は此処で医者として働いている訳では無い。
自らの知識と腕で製作した薬なのだから、自分としては金銭を取る訳にもいかずで。
だが正しい製法で製作したし効果も実証済み、売りに出されている商品とほぼ変わらない代物ではあるのだ。
以前、少女は此の貧民地区でこうして無償で診断や応急処置を行っている。
其の実績がある為か、男性は嫌な顔を一つせずに受け取った。
勿論信用するとも、との言葉を添えて。
「はい…有り難う御座います」
少女は小さく頭を下げて礼を言うも、逆に其れを男性が困った表情で見る。
世話に為ったのは自分なのに礼を言われれば確かに困ってしまうものだろう。
こうして次の方の診断も終えれば、後に並ぶ人の姿は途切れたみたいで。
少女は小さく吐息を吐いて一旦休憩と椅子に深く座り込んだ。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」に砕華さんが現れました。
■砕華 > 時刻は、おそらく昼真っ盛り、というところだろうか。
この貧民地区では、あまり活気がいいとは、お世辞には言えない。
だが、それでも、人が笑って過ごせる場所であるならば、そこに活気は生まれるというもの、なのだろうか。
まるで、滑るように女は歩く。
この地方では、あまり見ることのない衣装、シェンヤンの片田舎では、これが民族衣装。
その衣装を、身にまとった女は、巾着袋を手首に下げて、仕事から開けるところであった。
近頃、この女の店は、珍しさのかけらもなくなっていた。
それもそのはず、もう開店してずいぶんと、長い時を薬屋としてやってきた。
季節が一巡り、否二巡りくらいだろうか。
すっかりと、この町での顔となった女は、今日も仕事を請け、薬を配達していた。
この地区に、足を踏み入れるのも、もはや慣れたもの。
女は、滑るように歩き、開いているのかいないのか、わからないような瞳をまっすぐに向けていた。
「………おや?」
その視線の先に、この辺りでは珍しい、炉端の医者だろうか。
診療所を開かない、そしてこの貧民地区で開業している。
その二つは、女の興味を、強く抱かせるのに十分であった。
女も、以前は露店で店を開いていた。
だが、その露店は、今や平民地区でも噂の薬屋『紅一朝』に化けた。
その懐かしさと、その顔立ちに、どこか故郷を思わせる。
前述の2つを合わせ、女がその娘に近寄る、その理由には十分だった。
「……『こんにちわ』?」
その言葉は、あえて投げかけるものであった。
シェンヤンで使われている、その言葉。
誰もいないと、思われるからこそ、女はあえてその言葉で、娘に声を掛けた。
■リーユエ > 椅子に腰を下ろし壁に背を預け乍、僅かな雲が漂う快晴とも呼べる空を見上げる。
今の時期からすればどちらかと言えば少しばかり心配に為る様な程の快晴。
熱中症に為らなければ良いのだけれども、とつい考えてしまう。
目を閉じて前の通りを行き交う人々の足音へと静かに耳を傾ける。
そこでふと気掛かりな足音を聞き取った、此方へと真っ直ぐに近付いているのだ。
そして続けて聞こえた言葉は……馴染みの在る祖国の挨拶の言葉だった。
「あ…その……『こんにちは』…」
言葉に一瞬詰まる。
仕方の無い事だろう、今の少女は祖国から其の身を離してしまっている立場なのだから。
だけれども、其れを知っている為らばこんな風に話し掛けてきたりなんてしないだろう。
そう思ったからこそ、何とか絞り出す様に言葉を返した。
何とか表情を崩さないだけ十分か、然し、何時もの笑顔を浮かべる事が出来ない。
■砕華 > 「……………。」
女はまっすぐに、娘を見る。
いや、見ているのかどうなのか、その開いているのかわからない瞳では、推し量ることも、できないだろう。
暑い、というよりも、熱いと思えるほどの、照り付け。
遮るものといえば、崩落しかかっている、この瓦礫くらいか。
そして、親しんだ祖国の、シェンヤンでの言葉を、耳にした女は、うっすらとその瞳を、開いた。
「どうしたのですか?
久しぶりの、祖国の言葉を、聞いたから驚いたのでしょうか?」
女は、その微笑みを崩さなかった。
うっすらと開いたその視線を、娘を突き刺すように。
「珍しいですね、こんな場所で、炉端のお医者さんなどと…。
とても、いい心がけですが…危うくはありませんか?」
この辺りは、治安が、とても悪い場所。
女は長く、この町に住むようになり、どこが危ないのかを完全に、把握するようになった。
そして、どの地区が、どのような薬を欲するのか。
其れすらも、女は熟知するようになった。
ゆえに、訪ねる。
この場所で商売をして、身に危険が、迫ったりしないのか、と。
■リーユエ > 少女は声を掛けた女性を真っ直ぐに見詰める事は出来ない。
今の立場からの不安が其れをさせてはくれないのだけれども、言葉の調子から人見知りが激しいと取られるか如何かが微妙な処で。
「あ、はい…えっと……そう、ですね、あんまりにも唐突でしたので…」
其れだけの理由では無いのだけれども、そう答えるしかない。
嘘を付いたりする事がそもそも苦手なだけに余計な事は言えないだろう。
貫く様に向けられる視線に如何しても此方からは視線を向けれない。
「その…はい…心を通わせてみれば、皆様はとても良い人ばかり、ですので…
余程の危険は日が落ちてからだと…一応は身を守る術も在りますから、大丈夫ですかと…思います」
少女がこうして動くのは日が高い時ばかりの事も在り、そして、運が良いのか今の処は何事も起きてはいない。
否、一度だけ魔族の方と出会った事もあったが事無きを得ている。
なので、まだ女性に向かってはそう伝えれるのだ。
尤も、其の目の前の女性がそういった立場の者となる可能性も否定が出来ないのだが。
■砕華 > 「久しぶりに、祖国の顔を見たもので、つい声を掛けてしまったのです。」
女は、懐かしそうに、笑みを浮かべながら娘を見る。
先ほどまで開いていた眼は、また閉じている。
開いているのかいないのか、わからないような視線は、娘を捕らえて、離さなかった。
ずいぶんと、しどろもどろな、回答だった。
視線を合わせようとはしない娘に、女は肩を震わせて、嗤う。
人見知りというより、緊張しているという印象を、女は受け取っていた。
「心を、通わせれば…ですか。
私は、この国は悪意に満ちていると、そう思います。
そう、この国には太陽がない。」
女は、ゆっくりと背を屈める。
キモノを、気慣れているのだろう、裾を少し折り曲げて。
その開いているのかわからない瞳、それで娘の顔をのぞき込む。
そして、言葉の続きを、紡ぐのだ。
「太陽がないからこそ、この国の人たちは、皆夜になると獣と化すのです。
そう、太陽がないのですよ。」
女が、再び視線を開く。
その冷たい視線は、娘を射抜きそのまなざしを、向ける。
太陽がないからこそ、この国は腐った。
水だけでは、生き物は生きていけないのだ。
そう、光が、光がほしいのだ。
■リーユエ > 「そうでしたか…えっと…確かに、祖国の方々はあんまり目にしませんね。
王都ですし、仕方が無いと言えば仕方が無い気は致しますが…」
王国と帝国は時折争いを起こす関係でもある為に気軽に王国に来れるものでは無い。
言葉ではそう女性に伝えるのだけれども、和平を望む少女の心の内では矢張り辛い処では在る。
そうしてくれれば、もっと気軽に国間を行き来出来るのに、と。
「……其れは…」
人で在る限り、誰しもそう為る可能性は抱いている。
何時何処で誰が悪意に染まるのか…例え祖国で在ろうとも。
然し、其れは此の女性に言ってはいけない、何故かそう思ってしまい言葉を又詰まらせてしまう。
「そう…なのでしょうか…?」
続く女性の言葉には其れだけしか返せない。
そうでは無い、此の国の方だって太陽に照らされる方達は存在する。
心の中ではそう反論をしているのに、実際の少女は言葉無く静かに女性を見詰めるだけだった。
■砕華 > 祖国から、王都へ。
その際には必ず、何かしら理由があることだろう。
女にも、娘にも、何かしらの理由がある。
女は、ただ言葉少なく、静かに見つめてくる娘に、そっと手を伸ばした。
頬に触れ、撫でるその仕草は、何かを探っているようにも、見える。
ようやく視線を、合わせてくれたと女は嗤う。
開いているのかいないのか、わからないような視線を絡めて、女は言葉少なく、返す娘に首をかしげた。
「私は、そう思っています。
この国を、照らしてくれる太陽があれば、この国の悪意は…。
そう、統治されるべきなのですよ、この国は。」
―――誰に?
女は、その言葉の先を紡がなかった。
誰に、統治されるべきなのか、その答えを祖国の人間は知っている。
そして、その瞳が薄く開かれた時、まるで氷のような冷たさを宿す瞳。
それを、娘に突き刺し、射貫く。
「………そうは、思わない?」
そして、言葉の続きを紡ぐ。
女は、キモノの裾に手を伸ばし、その中へと手を入れた。
■リーユエ > 祖国から王都へ、王都から祖国へ。
思い出してみれば王国の人間を祖国で見る事は殆ど無かった。
其れは、其の侭この王国でも言える事だった。
ふと女性の手が伸びて頬に触れる。
視線が其の探る様な動きを見せる手に向けられるも、変に動いてはいけないと大人しくしていた。
そして視線を合わせる事に嗤う女性、返した言葉に首を傾げるのが見えれば、何かを間違えたかと不安が過ぎる。
「国を照らす、太陽…ですか…」
女性が言いたい事は解っている、其れに近い考えが以前の少女にも在ったのだから。
だけれども、此の国での出会いが少女の考え方を変えた。
国と国では無い、種族と種族の間を何とかし様としている者達の姿。
なのに、同じ人間同士がいがみ合うなんて滑稽なのだと。
「わ、私は……」
言えない、祖国こそが世界を統治すべきだなんて。
其れは心を通わせた想い人を言葉で在れ裏切るものだから。
視線の中で女性の手が裾へと伸びて行くのが見える。
ゆっくりと…少女の手は座っている椅子の脚に立ててある鞄へと伸びて。
■砕華 > 「……………ふふ。」
女は、息を吐くように笑った。
言葉が少なく、ただおとなしく、頬を撫でられるその仕草に、女は嗤った。
そして、うっすらと開いているその瞳が再び閉じ、裾の中に入った手が、そっと抜き出された。
その手には―――真っ黒な、コンペイトウが一つ。
この国では、あまり見られない、高価なお菓子。
それを、娘の手にそっと乗せた。
「何かしら、悩んでいるようですね。
…お食べなさい、それを食べれば、素直になれます。
甘い、甘いお菓子ですよ。」
笑みを浮かべたまま、女はゆっくりと、立ち上がった。
太陽の下、その明かりを塗しそうに、手で遮りながら、微笑む。
こんな風に、照らされるのが、どれだけ心地いいだろう。
この国の人間は、この熱いほどの太陽を、どんな気持ちで浴びているのだろう。
娘の思うことは、女は知る由はない。
だが、その心に、太陽がさしていないことを、女はついに見透かした。
「………貴女にも、太陽が、必要のようですね…?」
■リーユエ > 大人しくしている自分に嗤う女性、本来為らば其の侭で居るべきであった、そう痛感する。
袖に伸びた女性の手から取り出された物は、黒い黒い金平糖。
其れを只手の平の上に乗せただけだった。
手痛い早合点、少女の頭の中に浮かんだ言葉。
最早、女性の言葉に返すべき言葉が浮かばなかった。
女性の仕草を余裕を持って見る事も出来なかった。
仕掛けられると踏み、逃げを打とうとした動きが仇になる。
「貴女の仰る事が、解らなかった訳では…在りません。
然し、私が照らされるべきは何なのか…其れを知ってしまった今は…!」
自身の立場が見透かされた、今更嘘を付く事は出来はしない。
素早く身を引けば足元の鞄を手に、地面を蹴って大きく距離を取ろうとする。
■砕華 > 「…………。」
大きく、娘は大地を蹴り、跳躍して距離を取った。
女は、それを見やりつつ、ただ何もせずにそれを見つめた。
娘に、太陽は宿っていなかった。
この地で、新たな太陽を見つけた、だからこの地に留まっている。
何か別の目的があった、そしてそれは祖国に、利益をもたらすものだったはず。
それを、この娘は、裏切った。
「……愚か。皇帝様の後光を、貴女は蹴ってしまったのですね…?
裏切者には、天誅を…。」
女は、目を開いて娘を―――見る。
その瞳に移るは、ただ狂気のみ。
皇帝様への忠誠、そして祖国への愛国心。
それらすべてが凶器となり、この女を突き動かしている。
そして、祖国を裏切ったこの娘を、のこのこと逃がすつもりはない。
女の顔から笑みが消えて、少しだけ屈んで…女もまた、距離を詰めんと跳躍する。
■リーユエ > 「何が正しいのか、何が正しくないのか。
良く周りを見て、全てに思いを馳せて考えれば解る筈です。
本当に王国に照らすべき太陽は在りませんか?
本当にそうなのだと言い切れますか?…私はそうは思いません…!」
自身の力は良く分かっている、きっと此の女性には正面から当たれば敵わない。
月映ゆる夜にこそ真価を発揮する力が日の昇る今では使い様が無いのだ。
為らば手は逃げの一つのみ。
「其れに、今私は自身を投げ出す覚悟は持っていません。
無事に戻る事、其れがどれだけ大切な事か分かっているから…」
だから、其の為ならば手段は選べない。
更に地面を蹴って身を舞わせれば鞄から一度手を離す。
両手で印を素早く組めば力在る言葉と共に術を発動させる。
周りに揺らぐ風を感じられれば、其れが一瞬だけ暴風となって荒れ狂う。
其れは地面の砂を舞い上げ周囲を覆う砂塵と化し、御互いの姿を完全に隠してしまう。
姿を見失わせるのは一瞬だけで良い、術の発動と同時に落下しかける鞄を手に取って地面に着地。
其の侭薄暗い路地裏へと身を舞い踊らせ、全力で其の場を後に駆けて行くのだった。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」から砕華さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からリーユエさんが去りました。